甲社では、8月20日から28日まで「夏休み」として社員一斉に休暇を取らせることにした。20日(土)21日(日)27日(土)28日(日)の4日間は公休、22日(月)から26日(金)までの平日5日間は年次有給休暇(以下「有休」)を充てるという。
しかし、それに反対したのが同社の製造課に勤務するB山さん(30歳、仮名=以下同)。趣味のキャンプや釣りのために、5月末には有休を使い果たしていたからだ。
有休が1日も残っていないB山さんは、夏休みを欠勤扱いにするしかないのか? 社会保険労務士の木村政美氏が解説する。
B山さんの夏休みの行方について述べる前に、会社の休みについて基本的なことを説明しよう。
「休日」と「休暇」は、労働者にとっては両方とも会社を休んでいることになるが、制度上はその意味に違いがある。
休日は労働者が労働義務を負わない日のことで、労働基準法で定めた1週1日もしくは4週4日の休日を「法定休日」、法定休日に加えて、企業が任意に定めた休日を「所定休日」という。例えば土・日が休日の場合、日曜日を法定休日に定めると土曜日が所定休日になる。
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休暇は労働者が本来労働する義務がある日に、企業がその義務を免除することにより休むことができる日をいい、休暇には「法定休暇」と「特別休暇」の2つがある。・休暇の種類法定休暇は、法律の定めにより一定基準を満たした労働者に対して付与する義務がある休暇のことをいい、有休のほかに産前産後休暇、育児休業、介護休業などが該当する。特別休暇は法定外休暇ともいい、法律によるものではなく企業が独自で付与している休暇のことで慶弔休暇(特に忌引き休暇)や傷病休暇などがある。特別休暇を設定する法的な義務はないので、そもそも制度がない企業もあるし、制度がある場合でも、休暇の種類や取得できる従業員の条件、それぞれの休暇を有給にするか無給にするかは企業が自由に決めることができる。一斉休業は工場以外でも・事業場の一斉休業一斉休業とは企業や事業場の事業活動を停止し、一斉に全従業員を休ませることをいう。代表的なのが年末年始で、この時期は日数の違いはあるが一斉に会社や事業所を休業することが多い。夏休み(夏季休暇)の場合は年末年始に比べると一斉に休業する企業は少ないが、お盆の時期を中心に設定することもあるし、その他GWや企業などが定めた期日で運用しているケースもある。業種別でみると、工場などの製造部門では作業工程を全部ストップすることが可能なので一斉休業の対象になりやすい。また、一斉休業の対象になりにくいとされてきたサービス業においても、国が掲げる働き方改革の推進や新型コロナ感染による生活環境の変化などの要因で、本来定休日がない事業所や店舗でも定休日を設けたり、不定期に1日もしくは2日間一斉休業の扱いをするケースが出てくるようになった。 ・一斉休業中の扱い一斉休業中の従業員は公休日を除いて休暇扱いになる。休暇は就業規則の定めによって(1)(2)のいずれかで運用される。(1)特別休暇にする場合一斉休業日を有給での特別休暇にする場合は、従業員に付与された有休は減少しない。(2)有休にする場合一斉休業日を有休扱いにする場合は、計画的付与を行うことになるが詳細は次で説明する。有休の計画的付与制度の注意点・有休の計画的付与有休の計画的付与制度とは、企業が計画的に従業員の有休取得日を決定することができる制度のことをいう(労働基準法39条)。計画的付与の方法は、甲社のように企業・事業場全体の休業による一斉付与のほかに、班・グループごとに交代で付与する、企業で付与計画表を作成しその計画に基づいて個人ごとに付与するなどがある。特に夏季休暇の場合、例えば7月から9月の間などと、企業が予め休暇が取得できる期間を決めておき、その中で従業員が交代で休暇を取得する方法を取ることも多い。 企業が夏季休暇などに有休の計画的付与制度を導入する場合は、次のことに注意したい。(1)計画的付与の対象になるのは、有休の付与日数のうち、5日を超える部分である。例えば年に20日の有休を付与されている従業員が計画的付与の対象になる有休は20日-5日=15日。5日は個人が自由に取得できる有休として必ず残しておく必要がある。(2)計画的付与制度を導入する場合は、就業規則にその旨明記することと、書面による労使協定を締結することの両方が必要である。ただし、労使協定は労働基準監督署へ届け出る義務はない。(3)対象となる有休を持たない従業員の扱いはどうするか新規に採用した場合や、パート・アルバイトなどで5日を超える有休を付与されない従業員に対しての扱いについては労使協定の定めによる。具体的に言うと企業、事業場全体で一斉に休業する場合、休業は会社の都合で行うため休業手当を支払う(休業手当の額は、就業規則等で定めている場合はその額、定めがない場合は、労働基準法第26条の規定により平均賃金の100分の60以上の額を支給する)、有給の特別休暇にするなどの扱いが必要である。また、B山さんのように計画的付与がされる前に有休の残日数が不足するケースの扱いについても定めておく必要があるだろう(ただし、企業が社員の有休残日数の管理を徹底すれば、B山さんのようなケースは起こりにくい)。*参考:厚生労働省 年次有給休暇の計画的付与と取得について「有給休暇ハンドブック」・年5日取得義務の有休を計画的付与で取得させることは可能か労働基準法の改正により2019年4月から、企業は法定の有休が年10日以上付与される従業員に対して、最低年5日の有休を取得させることが義務化された。年5日の有休には当然計画的付与制度で取得した有休もカウントされるので、甲社のように有休消化率が低い会社では、従業員が躊躇なく有休を取得できる制度として上手に活用したい。*参考:厚生労働省 年5日の年次有給休暇の確実な取得わかりやすい解説・夏季休暇、年末年始休暇制度がないのは合法か夏季休暇や年末年始休暇について、法律上制度を導入する義務はない。実際、夏季休暇やGW休暇などの設定がない企業もあるが合法である。ただし制度が無くても従業員自らが夏休みや年末年始の時季に、自分の公休と有休を組み合わせて連休にすることは可能であり、企業に有休取得の申し出があった場合、原則として認めなければならない。B山さんは欠勤扱いになるのか甲社が全社員に新たに有休の一斉付与制度を導入することを全社員に周知したのが7月上旬。その時点でB山さんはすでに自分の有休を全部消化済みだった。A田総務課長は、B山さんが夏休み休暇を取得した場合、欠勤扱いになるというのだが……。結論から言うと、B山さんの例では、今年度については8月22日から26日までの5日間について有給の特別休暇扱いにすることが妥当である。その理由は、甲社が夏休み制度の導入を全社員に周知したのは7月上旬であり、B山さんが有休を全部消化したのが5月末だからである。この場合、周知されてもB山さんには夏休み分として有休を取っておくことができない。逆に甲社がもっと早い時期に計画を立て、社員に周知していたらこのようなケースは起きなかったであろう。もし欠勤扱いで賃金をカットすれば争いに進展する可能性もあり、その場合、会社には分が悪い。それに欠勤とは労働日に仕事を休むことを指し、休暇中は労働を免除されているのだから欠勤にはあたらない。 ただし来年度以降も甲社が計画的付与制度を継続する場合、B山さんは予め夏休み休暇分の有休を残しておく必要がある。もしそれより有休の残日数が少ない場合、就業規則、労使協定などの内容によっては、有休を全部消化した翌日から公休日を除いた一斉休業日について無給扱いになり、給与から無給日分の賃金を控除されるので注意したい。*参考:年次有給休暇の計画的付与について【労働基準法第39条関係】厚生労働省B山さんがC川社長に猛抗議をした後、社長はA田課長を呼び話し合った。A田課長は、B山さんの処遇について「休業期間中は働かないので平日分は無給で良いのでは」と主張したが、C川社長は、就業規則の明記と労使協定の締結、全社員への周知が7月上旬に行われたことを理由に今年度に限り、有給での特別休暇扱いにすることを決めた。「コラッ、リールを引っ張るな。散歩のコースはこっちだよ」夏休みの前日。C川社長夫妻が急きょ実家に帰省することになり、留守番を頼まれたB山さん。休み中は何も予定がなかったので即答で引き受けた。1日2回、朝と夕方に3匹いる中型犬の散歩をさせ、昼間の時間は愛犬達の世話と広い庭の草取りをしてバイト代を稼いだ。「10月にはまた有休が取れるようになるから、早速ラフティングツアーに申し込もう」張り切ってツアーの軍資金稼ぎに余念がないB山さんだった。
休暇は労働者が本来労働する義務がある日に、企業がその義務を免除することにより休むことができる日をいい、休暇には「法定休暇」と「特別休暇」の2つがある。
法定休暇は、法律の定めにより一定基準を満たした労働者に対して付与する義務がある休暇のことをいい、有休のほかに産前産後休暇、育児休業、介護休業などが該当する。
特別休暇は法定外休暇ともいい、法律によるものではなく企業が独自で付与している休暇のことで慶弔休暇(特に忌引き休暇)や傷病休暇などがある。
特別休暇を設定する法的な義務はないので、そもそも制度がない企業もあるし、制度がある場合でも、休暇の種類や取得できる従業員の条件、それぞれの休暇を有給にするか無給にするかは企業が自由に決めることができる。
一斉休業とは企業や事業場の事業活動を停止し、一斉に全従業員を休ませることをいう。
代表的なのが年末年始で、この時期は日数の違いはあるが一斉に会社や事業所を休業することが多い。
夏休み(夏季休暇)の場合は年末年始に比べると一斉に休業する企業は少ないが、お盆の時期を中心に設定することもあるし、その他GWや企業などが定めた期日で運用しているケースもある。
業種別でみると、工場などの製造部門では作業工程を全部ストップすることが可能なので一斉休業の対象になりやすい。
また、一斉休業の対象になりにくいとされてきたサービス業においても、国が掲げる働き方改革の推進や新型コロナ感染による生活環境の変化などの要因で、本来定休日がない事業所や店舗でも定休日を設けたり、不定期に1日もしくは2日間一斉休業の扱いをするケースが出てくるようになった。
・一斉休業中の扱い一斉休業中の従業員は公休日を除いて休暇扱いになる。休暇は就業規則の定めによって(1)(2)のいずれかで運用される。(1)特別休暇にする場合一斉休業日を有給での特別休暇にする場合は、従業員に付与された有休は減少しない。(2)有休にする場合一斉休業日を有休扱いにする場合は、計画的付与を行うことになるが詳細は次で説明する。有休の計画的付与制度の注意点・有休の計画的付与有休の計画的付与制度とは、企業が計画的に従業員の有休取得日を決定することができる制度のことをいう(労働基準法39条)。計画的付与の方法は、甲社のように企業・事業場全体の休業による一斉付与のほかに、班・グループごとに交代で付与する、企業で付与計画表を作成しその計画に基づいて個人ごとに付与するなどがある。特に夏季休暇の場合、例えば7月から9月の間などと、企業が予め休暇が取得できる期間を決めておき、その中で従業員が交代で休暇を取得する方法を取ることも多い。 企業が夏季休暇などに有休の計画的付与制度を導入する場合は、次のことに注意したい。(1)計画的付与の対象になるのは、有休の付与日数のうち、5日を超える部分である。例えば年に20日の有休を付与されている従業員が計画的付与の対象になる有休は20日-5日=15日。5日は個人が自由に取得できる有休として必ず残しておく必要がある。(2)計画的付与制度を導入する場合は、就業規則にその旨明記することと、書面による労使協定を締結することの両方が必要である。ただし、労使協定は労働基準監督署へ届け出る義務はない。(3)対象となる有休を持たない従業員の扱いはどうするか新規に採用した場合や、パート・アルバイトなどで5日を超える有休を付与されない従業員に対しての扱いについては労使協定の定めによる。具体的に言うと企業、事業場全体で一斉に休業する場合、休業は会社の都合で行うため休業手当を支払う(休業手当の額は、就業規則等で定めている場合はその額、定めがない場合は、労働基準法第26条の規定により平均賃金の100分の60以上の額を支給する)、有給の特別休暇にするなどの扱いが必要である。また、B山さんのように計画的付与がされる前に有休の残日数が不足するケースの扱いについても定めておく必要があるだろう(ただし、企業が社員の有休残日数の管理を徹底すれば、B山さんのようなケースは起こりにくい)。*参考:厚生労働省 年次有給休暇の計画的付与と取得について「有給休暇ハンドブック」・年5日取得義務の有休を計画的付与で取得させることは可能か労働基準法の改正により2019年4月から、企業は法定の有休が年10日以上付与される従業員に対して、最低年5日の有休を取得させることが義務化された。年5日の有休には当然計画的付与制度で取得した有休もカウントされるので、甲社のように有休消化率が低い会社では、従業員が躊躇なく有休を取得できる制度として上手に活用したい。*参考:厚生労働省 年5日の年次有給休暇の確実な取得わかりやすい解説・夏季休暇、年末年始休暇制度がないのは合法か夏季休暇や年末年始休暇について、法律上制度を導入する義務はない。実際、夏季休暇やGW休暇などの設定がない企業もあるが合法である。ただし制度が無くても従業員自らが夏休みや年末年始の時季に、自分の公休と有休を組み合わせて連休にすることは可能であり、企業に有休取得の申し出があった場合、原則として認めなければならない。B山さんは欠勤扱いになるのか甲社が全社員に新たに有休の一斉付与制度を導入することを全社員に周知したのが7月上旬。その時点でB山さんはすでに自分の有休を全部消化済みだった。A田総務課長は、B山さんが夏休み休暇を取得した場合、欠勤扱いになるというのだが……。結論から言うと、B山さんの例では、今年度については8月22日から26日までの5日間について有給の特別休暇扱いにすることが妥当である。その理由は、甲社が夏休み制度の導入を全社員に周知したのは7月上旬であり、B山さんが有休を全部消化したのが5月末だからである。この場合、周知されてもB山さんには夏休み分として有休を取っておくことができない。逆に甲社がもっと早い時期に計画を立て、社員に周知していたらこのようなケースは起きなかったであろう。もし欠勤扱いで賃金をカットすれば争いに進展する可能性もあり、その場合、会社には分が悪い。それに欠勤とは労働日に仕事を休むことを指し、休暇中は労働を免除されているのだから欠勤にはあたらない。 ただし来年度以降も甲社が計画的付与制度を継続する場合、B山さんは予め夏休み休暇分の有休を残しておく必要がある。もしそれより有休の残日数が少ない場合、就業規則、労使協定などの内容によっては、有休を全部消化した翌日から公休日を除いた一斉休業日について無給扱いになり、給与から無給日分の賃金を控除されるので注意したい。*参考:年次有給休暇の計画的付与について【労働基準法第39条関係】厚生労働省B山さんがC川社長に猛抗議をした後、社長はA田課長を呼び話し合った。A田課長は、B山さんの処遇について「休業期間中は働かないので平日分は無給で良いのでは」と主張したが、C川社長は、就業規則の明記と労使協定の締結、全社員への周知が7月上旬に行われたことを理由に今年度に限り、有給での特別休暇扱いにすることを決めた。「コラッ、リールを引っ張るな。散歩のコースはこっちだよ」夏休みの前日。C川社長夫妻が急きょ実家に帰省することになり、留守番を頼まれたB山さん。休み中は何も予定がなかったので即答で引き受けた。1日2回、朝と夕方に3匹いる中型犬の散歩をさせ、昼間の時間は愛犬達の世話と広い庭の草取りをしてバイト代を稼いだ。「10月にはまた有休が取れるようになるから、早速ラフティングツアーに申し込もう」張り切ってツアーの軍資金稼ぎに余念がないB山さんだった。
一斉休業中の従業員は公休日を除いて休暇扱いになる。休暇は就業規則の定めによって(1)(2)のいずれかで運用される。
(1)特別休暇にする場合一斉休業日を有給での特別休暇にする場合は、従業員に付与された有休は減少しない。
(2)有休にする場合一斉休業日を有休扱いにする場合は、計画的付与を行うことになるが詳細は次で説明する。
有休の計画的付与制度とは、企業が計画的に従業員の有休取得日を決定することができる制度のことをいう(労働基準法39条)。
計画的付与の方法は、甲社のように企業・事業場全体の休業による一斉付与のほかに、班・グループごとに交代で付与する、企業で付与計画表を作成しその計画に基づいて個人ごとに付与するなどがある。特に夏季休暇の場合、例えば7月から9月の間などと、企業が予め休暇が取得できる期間を決めておき、その中で従業員が交代で休暇を取得する方法を取ることも多い。
企業が夏季休暇などに有休の計画的付与制度を導入する場合は、次のことに注意したい。(1)計画的付与の対象になるのは、有休の付与日数のうち、5日を超える部分である。例えば年に20日の有休を付与されている従業員が計画的付与の対象になる有休は20日-5日=15日。5日は個人が自由に取得できる有休として必ず残しておく必要がある。(2)計画的付与制度を導入する場合は、就業規則にその旨明記することと、書面による労使協定を締結することの両方が必要である。ただし、労使協定は労働基準監督署へ届け出る義務はない。(3)対象となる有休を持たない従業員の扱いはどうするか新規に採用した場合や、パート・アルバイトなどで5日を超える有休を付与されない従業員に対しての扱いについては労使協定の定めによる。具体的に言うと企業、事業場全体で一斉に休業する場合、休業は会社の都合で行うため休業手当を支払う(休業手当の額は、就業規則等で定めている場合はその額、定めがない場合は、労働基準法第26条の規定により平均賃金の100分の60以上の額を支給する)、有給の特別休暇にするなどの扱いが必要である。また、B山さんのように計画的付与がされる前に有休の残日数が不足するケースの扱いについても定めておく必要があるだろう(ただし、企業が社員の有休残日数の管理を徹底すれば、B山さんのようなケースは起こりにくい)。*参考:厚生労働省 年次有給休暇の計画的付与と取得について「有給休暇ハンドブック」・年5日取得義務の有休を計画的付与で取得させることは可能か労働基準法の改正により2019年4月から、企業は法定の有休が年10日以上付与される従業員に対して、最低年5日の有休を取得させることが義務化された。年5日の有休には当然計画的付与制度で取得した有休もカウントされるので、甲社のように有休消化率が低い会社では、従業員が躊躇なく有休を取得できる制度として上手に活用したい。*参考:厚生労働省 年5日の年次有給休暇の確実な取得わかりやすい解説・夏季休暇、年末年始休暇制度がないのは合法か夏季休暇や年末年始休暇について、法律上制度を導入する義務はない。実際、夏季休暇やGW休暇などの設定がない企業もあるが合法である。ただし制度が無くても従業員自らが夏休みや年末年始の時季に、自分の公休と有休を組み合わせて連休にすることは可能であり、企業に有休取得の申し出があった場合、原則として認めなければならない。B山さんは欠勤扱いになるのか甲社が全社員に新たに有休の一斉付与制度を導入することを全社員に周知したのが7月上旬。その時点でB山さんはすでに自分の有休を全部消化済みだった。A田総務課長は、B山さんが夏休み休暇を取得した場合、欠勤扱いになるというのだが……。結論から言うと、B山さんの例では、今年度については8月22日から26日までの5日間について有給の特別休暇扱いにすることが妥当である。その理由は、甲社が夏休み制度の導入を全社員に周知したのは7月上旬であり、B山さんが有休を全部消化したのが5月末だからである。この場合、周知されてもB山さんには夏休み分として有休を取っておくことができない。逆に甲社がもっと早い時期に計画を立て、社員に周知していたらこのようなケースは起きなかったであろう。もし欠勤扱いで賃金をカットすれば争いに進展する可能性もあり、その場合、会社には分が悪い。それに欠勤とは労働日に仕事を休むことを指し、休暇中は労働を免除されているのだから欠勤にはあたらない。 ただし来年度以降も甲社が計画的付与制度を継続する場合、B山さんは予め夏休み休暇分の有休を残しておく必要がある。もしそれより有休の残日数が少ない場合、就業規則、労使協定などの内容によっては、有休を全部消化した翌日から公休日を除いた一斉休業日について無給扱いになり、給与から無給日分の賃金を控除されるので注意したい。*参考:年次有給休暇の計画的付与について【労働基準法第39条関係】厚生労働省B山さんがC川社長に猛抗議をした後、社長はA田課長を呼び話し合った。A田課長は、B山さんの処遇について「休業期間中は働かないので平日分は無給で良いのでは」と主張したが、C川社長は、就業規則の明記と労使協定の締結、全社員への周知が7月上旬に行われたことを理由に今年度に限り、有給での特別休暇扱いにすることを決めた。「コラッ、リールを引っ張るな。散歩のコースはこっちだよ」夏休みの前日。C川社長夫妻が急きょ実家に帰省することになり、留守番を頼まれたB山さん。休み中は何も予定がなかったので即答で引き受けた。1日2回、朝と夕方に3匹いる中型犬の散歩をさせ、昼間の時間は愛犬達の世話と広い庭の草取りをしてバイト代を稼いだ。「10月にはまた有休が取れるようになるから、早速ラフティングツアーに申し込もう」張り切ってツアーの軍資金稼ぎに余念がないB山さんだった。
企業が夏季休暇などに有休の計画的付与制度を導入する場合は、次のことに注意したい。
(1)計画的付与の対象になるのは、有休の付与日数のうち、5日を超える部分である。
例えば年に20日の有休を付与されている従業員が計画的付与の対象になる有休は20日-5日=15日。5日は個人が自由に取得できる有休として必ず残しておく必要がある。
(2)計画的付与制度を導入する場合は、就業規則にその旨明記することと、書面による労使協定を締結することの両方が必要である。ただし、労使協定は労働基準監督署へ届け出る義務はない。
(3)対象となる有休を持たない従業員の扱いはどうするか
新規に採用した場合や、パート・アルバイトなどで5日を超える有休を付与されない従業員に対しての扱いについては労使協定の定めによる。
具体的に言うと企業、事業場全体で一斉に休業する場合、休業は会社の都合で行うため休業手当を支払う(休業手当の額は、就業規則等で定めている場合はその額、定めがない場合は、労働基準法第26条の規定により平均賃金の100分の60以上の額を支給する)、有給の特別休暇にするなどの扱いが必要である。
また、B山さんのように計画的付与がされる前に有休の残日数が不足するケースの扱いについても定めておく必要があるだろう(ただし、企業が社員の有休残日数の管理を徹底すれば、B山さんのようなケースは起こりにくい)。*参考:厚生労働省 年次有給休暇の計画的付与と取得について「有給休暇ハンドブック」
労働基準法の改正により2019年4月から、企業は法定の有休が年10日以上付与される従業員に対して、最低年5日の有休を取得させることが義務化された。
年5日の有休には当然計画的付与制度で取得した有休もカウントされるので、甲社のように有休消化率が低い会社では、従業員が躊躇なく有休を取得できる制度として上手に活用したい。*参考:厚生労働省 年5日の年次有給休暇の確実な取得わかりやすい解説
夏季休暇や年末年始休暇について、法律上制度を導入する義務はない。実際、夏季休暇やGW休暇などの設定がない企業もあるが合法である。ただし制度が無くても従業員自らが夏休みや年末年始の時季に、自分の公休と有休を組み合わせて連休にすることは可能であり、企業に有休取得の申し出があった場合、原則として認めなければならない。
甲社が全社員に新たに有休の一斉付与制度を導入することを全社員に周知したのが7月上旬。その時点でB山さんはすでに自分の有休を全部消化済みだった。A田総務課長は、B山さんが夏休み休暇を取得した場合、欠勤扱いになるというのだが……。
結論から言うと、B山さんの例では、今年度については8月22日から26日までの5日間について有給の特別休暇扱いにすることが妥当である。その理由は、甲社が夏休み制度の導入を全社員に周知したのは7月上旬であり、B山さんが有休を全部消化したのが5月末だからである。
この場合、周知されてもB山さんには夏休み分として有休を取っておくことができない。逆に甲社がもっと早い時期に計画を立て、社員に周知していたらこのようなケースは起きなかったであろう。
もし欠勤扱いで賃金をカットすれば争いに進展する可能性もあり、その場合、会社には分が悪い。それに欠勤とは労働日に仕事を休むことを指し、休暇中は労働を免除されているのだから欠勤にはあたらない。
ただし来年度以降も甲社が計画的付与制度を継続する場合、B山さんは予め夏休み休暇分の有休を残しておく必要がある。もしそれより有休の残日数が少ない場合、就業規則、労使協定などの内容によっては、有休を全部消化した翌日から公休日を除いた一斉休業日について無給扱いになり、給与から無給日分の賃金を控除されるので注意したい。*参考:年次有給休暇の計画的付与について【労働基準法第39条関係】厚生労働省B山さんがC川社長に猛抗議をした後、社長はA田課長を呼び話し合った。A田課長は、B山さんの処遇について「休業期間中は働かないので平日分は無給で良いのでは」と主張したが、C川社長は、就業規則の明記と労使協定の締結、全社員への周知が7月上旬に行われたことを理由に今年度に限り、有給での特別休暇扱いにすることを決めた。「コラッ、リールを引っ張るな。散歩のコースはこっちだよ」夏休みの前日。C川社長夫妻が急きょ実家に帰省することになり、留守番を頼まれたB山さん。休み中は何も予定がなかったので即答で引き受けた。1日2回、朝と夕方に3匹いる中型犬の散歩をさせ、昼間の時間は愛犬達の世話と広い庭の草取りをしてバイト代を稼いだ。「10月にはまた有休が取れるようになるから、早速ラフティングツアーに申し込もう」張り切ってツアーの軍資金稼ぎに余念がないB山さんだった。
ただし来年度以降も甲社が計画的付与制度を継続する場合、B山さんは予め夏休み休暇分の有休を残しておく必要がある。もしそれより有休の残日数が少ない場合、就業規則、労使協定などの内容によっては、有休を全部消化した翌日から公休日を除いた一斉休業日について無給扱いになり、給与から無給日分の賃金を控除されるので注意したい。*参考:年次有給休暇の計画的付与について【労働基準法第39条関係】厚生労働省
B山さんがC川社長に猛抗議をした後、社長はA田課長を呼び話し合った。A田課長は、B山さんの処遇について「休業期間中は働かないので平日分は無給で良いのでは」と主張したが、C川社長は、就業規則の明記と労使協定の締結、全社員への周知が7月上旬に行われたことを理由に今年度に限り、有給での特別休暇扱いにすることを決めた。
「コラッ、リールを引っ張るな。散歩のコースはこっちだよ」
夏休みの前日。C川社長夫妻が急きょ実家に帰省することになり、留守番を頼まれたB山さん。休み中は何も予定がなかったので即答で引き受けた。1日2回、朝と夕方に3匹いる中型犬の散歩をさせ、昼間の時間は愛犬達の世話と広い庭の草取りをしてバイト代を稼いだ。
「10月にはまた有休が取れるようになるから、早速ラフティングツアーに申し込もう」
張り切ってツアーの軍資金稼ぎに余念がないB山さんだった。