寄付された食料を生活困窮者に提供する「フードバンク」の活動が、セーフティーネットとしての存在感を増す中、支援要請に対応できないケースが生じている。
新型コロナウイルス禍に伴う雇用環境の悪化や物価高騰などの影響で、困窮者支援としての需要が拡大しているためだ。多くの支援団体は公的な助成金などに頼って運営しているのが実情で、専門家は「支援団体側の活動を後押しする仕組みが必要」と話している。
資金と人手不足が深刻化
「毎月必ず提供してくれる食品や食材が、活動の生命線になっている」
大阪市住吉区で子供食堂を運営する社会福祉士の藤本真帆さん(34)は支援を受けるNPO法人「ふーどばんくOSAKA」の活動の重要性を強調する。
同団体は平成25年4月に発足した。当初は児童養護施設や子供食堂など数カ所に食料を提供していたが、契約施設はコロナ禍に入って急増。今年2月時点で計約540施設に上る。
運営資金は行政や民間の助成金だけでは十分ではないだけに、職員は非常勤を含め6人と少なく、食料の回収や配送の人手が足りていない。扱う食料品の量は当初、年間約40トンだったが、昨年は約240トンまで増えた。契約する食料倉庫は約50トンまでしか保管できず限界が近付いている。
森本範人(のりひと)事務局長は「人手や設備を増強しようにも予算的に難しく、『食べ物を届けてほしい』と言われても、対応できなくなりつつある」と焦りを見せる。
支援強化も追いつかず
コロナ禍前からフードバンクの需要は高まり続けてきた。
農林水産省の調査によると、平成12年から国内でフードバンク活動を行う団体が発足し始め、19年度までは10団体未満で推移したが、20年のリーマンショックを機に急増。30年度には107団体となり、令和4年10月時点では215団体に上る。
国はコロナ禍以降、存在感を増すフードバンクへの支援を強化。同省は元年度補正予算で、小中学校の休校措置で余った給食用の食料の回収費用や、倉庫の賃料を助成する事業を始めた。また、食料の寄付を希望する企業とフードバンクのマッチング支援を行い、今後もこうした支援事業は継続する方針だ。
自治体でも支援の動きがあり、大阪市では2年4月から一部の区役所やスーパーなど74カ所に、家庭で余った食品の寄付を受け付ける窓口を設置。市から連絡を受けたフードバンクが回収する「フードドライブ」の仕組みを整えた。
「さらに踏み込んだ支援を」
こうした支援もコロナ禍に伴う雇用環境の悪化には追い付いていない。
厚生労働省の調査によると、生活困窮者が各自治体の「自立相談支援機関」で行った新規の相談件数は、2年度は前年比3・2倍の78万6195件(速報値)に上った。
フードバンクに詳しい日本女子大の小林富雄教授(フードシステム論)によると、米国では災害などの有事に国が飲食店から食料を買い上げ、フードバンクを通して無償で国民に提供する制度があり、コロナ禍で活用されたという。
小林氏は「国や自治体がフードバンクに社会的なセーフティーネットとしての役割を期待するのであれば、経済環境の悪化に応じて、資金面や運営面でさらに踏み込んだ支援をする必要がある」と話している。(土屋宏剛)