超高齢社会の昨今、自宅で診察や治療が受けられる「在宅医療」のニーズは高まるばかりです。しかし、需要が高まるなかでもなかなか普及しない背景にはワケがあると、ねりま西クリニックの大城堅一院長は指摘します。日本の医療業界が抱える複雑な事情をみていきましょう。
医師同士や多職種との連携の難しさ在宅医療における関係機関との連携の難しさは大きな課題です。在宅医療では病院から退院時に在宅に移行する、あるいは在宅で療養していて急変したときに入院病床を確保するなど、地域の医療機関との連携が欠かせません。
また在宅患者に24時間対応をするには複数の医師が連携する必要がありますし、診療について専門の異なる医師にアドバイスを求めることもあります。こうした医師同士の連携も非常に重要です。さらに高齢者の大半は、要介護認定を受けている介護保険サービスの利用者でもあります。在宅での生活を支援する訪問看護師や介護士、ケアマネジャーといった看護・介護分野の専門職との連携も不可欠です。こうしたさまざまな関係機関・関係者との連携がなければ、生活の場で高齢者を支える切れ目のない支援は実現しません。地域の関係機関が手を組んでチーム一体となって高齢者を支えるのが、地域包括ケアシステムの基本的な考え方です。しかし現実には、こうした地域の連携・ネットワークが必ずしもうまく機能しているわけではありません。行政も地域包括ケアシステムや在宅医療に関するセミナーを開催するなどして、地域の関係者が連携するための下地づくりをしています。しかしながら実体は、それぞれの在宅医療クリニックが個別に動いて病院や介護保険事業所と関係づくりをしているため、連携先や連携体制は、クリニックによって量的・質的に差が生じています。地域により病院の後方支援体制は異なる在宅患者に緊急時のベッドを提供する病院は「在宅療養後方支援病院」と呼ばれます。設置基準としては、以下のような要件があります。・許可病床200床以上・在宅医療を提供する医療機関と連携し、24時間連絡を受ける体制を確保・連携医療機関の求めに応じて入院希望患者の診療が24時間可能な体制を確保(病床の確保を含む)・連携医療機関との間で、3カ月に1回以上、患者の診療情報の交換を行い、入院希望患者の一覧表を作成ただし在宅患者の緊急の入院受け入れをしている病院の数は、地域によって異なります。東京都では地域の在宅医からの入院要請に応える病院として「地域医療支援病院」の認定があります。この認定を受けている病院は、二次医療圏(地域医療計画の基本単位)ごとに1~6病院程度です。私のクリニックのある練馬区で見ると、豊島区、北区、板橋区、練馬区という4区のエリア内に5つの病院があります(2022年3月時点)。都のなかでも病院数・病床数は多いほうになります。一方、都内でも少ないところは3区で2病院の地域もありますし、多摩地域では8市町に対して病院が1つのところもあります。厚生労働省の委託事業で、2018年に株式会社日本能率協会総合研究所が「在宅医療連携モデル構築のための実態調査」を行っています[図表]。対象は在宅医療連携の取り組みを先進的に行っている地域の380診療所、5病院(有効回答124)です。[図表]診療所のある地域での在宅医療における課題(複数回答)そこで「診療所のある地域での在宅医療における課題」を複数回答で尋ねたところ、最も多かったのが「在宅医療に携わる医療従事者(マンパワー)の確保(72件)」でした。それに次いで多かったのが、「急変時等に対応するための後方支援体制の整備(64件)」です。この調査の対象となった在宅医療連携の先進的な地域ですら、後方支援体制の整備が十分とはいえないわけですから、その他の地域はさらに困難な状況にあることが想像されます。病院の後方支援が十分であれば、高度医療が必要な人や急変のリスクが高い患者も在宅医療をできる可能性が高くなりますが、そうでない場合は、「在宅では責任をもてないから、受け入れられない」となってしまうのです。大城 堅一医療法人社団星の砂 理事長ねりま西クリニック 院長
在宅医療における関係機関との連携の難しさは大きな課題です。
在宅医療では病院から退院時に在宅に移行する、あるいは在宅で療養していて急変したときに入院病床を確保するなど、地域の医療機関との連携が欠かせません。
また在宅患者に24時間対応をするには複数の医師が連携する必要がありますし、診療について専門の異なる医師にアドバイスを求めることもあります。こうした医師同士の連携も非常に重要です。
さらに高齢者の大半は、要介護認定を受けている介護保険サービスの利用者でもあります。在宅での生活を支援する訪問看護師や介護士、ケアマネジャーといった看護・介護分野の専門職との連携も不可欠です。
こうしたさまざまな関係機関・関係者との連携がなければ、生活の場で高齢者を支える切れ目のない支援は実現しません。地域の関係機関が手を組んでチーム一体となって高齢者を支えるのが、地域包括ケアシステムの基本的な考え方です。
しかし現実には、こうした地域の連携・ネットワークが必ずしもうまく機能しているわけではありません。
行政も地域包括ケアシステムや在宅医療に関するセミナーを開催するなどして、地域の関係者が連携するための下地づくりをしています。しかしながら実体は、それぞれの在宅医療クリニックが個別に動いて病院や介護保険事業所と関係づくりをしているため、連携先や連携体制は、クリニックによって量的・質的に差が生じています。
地域により病院の後方支援体制は異なる在宅患者に緊急時のベッドを提供する病院は「在宅療養後方支援病院」と呼ばれます。設置基準としては、以下のような要件があります。・許可病床200床以上・在宅医療を提供する医療機関と連携し、24時間連絡を受ける体制を確保・連携医療機関の求めに応じて入院希望患者の診療が24時間可能な体制を確保(病床の確保を含む)・連携医療機関との間で、3カ月に1回以上、患者の診療情報の交換を行い、入院希望患者の一覧表を作成ただし在宅患者の緊急の入院受け入れをしている病院の数は、地域によって異なります。東京都では地域の在宅医からの入院要請に応える病院として「地域医療支援病院」の認定があります。この認定を受けている病院は、二次医療圏(地域医療計画の基本単位)ごとに1~6病院程度です。私のクリニックのある練馬区で見ると、豊島区、北区、板橋区、練馬区という4区のエリア内に5つの病院があります(2022年3月時点)。都のなかでも病院数・病床数は多いほうになります。一方、都内でも少ないところは3区で2病院の地域もありますし、多摩地域では8市町に対して病院が1つのところもあります。厚生労働省の委託事業で、2018年に株式会社日本能率協会総合研究所が「在宅医療連携モデル構築のための実態調査」を行っています[図表]。対象は在宅医療連携の取り組みを先進的に行っている地域の380診療所、5病院(有効回答124)です。[図表]診療所のある地域での在宅医療における課題(複数回答)そこで「診療所のある地域での在宅医療における課題」を複数回答で尋ねたところ、最も多かったのが「在宅医療に携わる医療従事者(マンパワー)の確保(72件)」でした。それに次いで多かったのが、「急変時等に対応するための後方支援体制の整備(64件)」です。この調査の対象となった在宅医療連携の先進的な地域ですら、後方支援体制の整備が十分とはいえないわけですから、その他の地域はさらに困難な状況にあることが想像されます。病院の後方支援が十分であれば、高度医療が必要な人や急変のリスクが高い患者も在宅医療をできる可能性が高くなりますが、そうでない場合は、「在宅では責任をもてないから、受け入れられない」となってしまうのです。大城 堅一医療法人社団星の砂 理事長ねりま西クリニック 院長
地域により病院の後方支援体制は異なる在宅患者に緊急時のベッドを提供する病院は「在宅療養後方支援病院」と呼ばれます。設置基準としては、以下のような要件があります。・許可病床200床以上・在宅医療を提供する医療機関と連携し、24時間連絡を受ける体制を確保・連携医療機関の求めに応じて入院希望患者の診療が24時間可能な体制を確保(病床の確保を含む)・連携医療機関との間で、3カ月に1回以上、患者の診療情報の交換を行い、入院希望患者の一覧表を作成ただし在宅患者の緊急の入院受け入れをしている病院の数は、地域によって異なります。東京都では地域の在宅医からの入院要請に応える病院として「地域医療支援病院」の認定があります。この認定を受けている病院は、二次医療圏(地域医療計画の基本単位)ごとに1~6病院程度です。私のクリニックのある練馬区で見ると、豊島区、北区、板橋区、練馬区という4区のエリア内に5つの病院があります(2022年3月時点)。都のなかでも病院数・病床数は多いほうになります。一方、都内でも少ないところは3区で2病院の地域もありますし、多摩地域では8市町に対して病院が1つのところもあります。厚生労働省の委託事業で、2018年に株式会社日本能率協会総合研究所が「在宅医療連携モデル構築のための実態調査」を行っています[図表]。対象は在宅医療連携の取り組みを先進的に行っている地域の380診療所、5病院(有効回答124)です。[図表]診療所のある地域での在宅医療における課題(複数回答)そこで「診療所のある地域での在宅医療における課題」を複数回答で尋ねたところ、最も多かったのが「在宅医療に携わる医療従事者(マンパワー)の確保(72件)」でした。それに次いで多かったのが、「急変時等に対応するための後方支援体制の整備(64件)」です。この調査の対象となった在宅医療連携の先進的な地域ですら、後方支援体制の整備が十分とはいえないわけですから、その他の地域はさらに困難な状況にあることが想像されます。病院の後方支援が十分であれば、高度医療が必要な人や急変のリスクが高い患者も在宅医療をできる可能性が高くなりますが、そうでない場合は、「在宅では責任をもてないから、受け入れられない」となってしまうのです。大城 堅一医療法人社団星の砂 理事長ねりま西クリニック 院長
在宅患者に緊急時のベッドを提供する病院は「在宅療養後方支援病院」と呼ばれます。設置基準としては、以下のような要件があります。
・許可病床200床以上・在宅医療を提供する医療機関と連携し、24時間連絡を受ける体制を確保・連携医療機関の求めに応じて入院希望患者の診療が24時間可能な体制を確保(病床の確保を含む)・連携医療機関との間で、3カ月に1回以上、患者の診療情報の交換を行い、入院希望患者の一覧表を作成ただし在宅患者の緊急の入院受け入れをしている病院の数は、地域によって異なります。東京都では地域の在宅医からの入院要請に応える病院として「地域医療支援病院」の認定があります。この認定を受けている病院は、二次医療圏(地域医療計画の基本単位)ごとに1~6病院程度です。私のクリニックのある練馬区で見ると、豊島区、北区、板橋区、練馬区という4区のエリア内に5つの病院があります(2022年3月時点)。都のなかでも病院数・病床数は多いほうになります。一方、都内でも少ないところは3区で2病院の地域もありますし、多摩地域では8市町に対して病院が1つのところもあります。厚生労働省の委託事業で、2018年に株式会社日本能率協会総合研究所が「在宅医療連携モデル構築のための実態調査」を行っています[図表]。対象は在宅医療連携の取り組みを先進的に行っている地域の380診療所、5病院(有効回答124)です。[図表]診療所のある地域での在宅医療における課題(複数回答)そこで「診療所のある地域での在宅医療における課題」を複数回答で尋ねたところ、最も多かったのが「在宅医療に携わる医療従事者(マンパワー)の確保(72件)」でした。それに次いで多かったのが、「急変時等に対応するための後方支援体制の整備(64件)」です。この調査の対象となった在宅医療連携の先進的な地域ですら、後方支援体制の整備が十分とはいえないわけですから、その他の地域はさらに困難な状況にあることが想像されます。病院の後方支援が十分であれば、高度医療が必要な人や急変のリスクが高い患者も在宅医療をできる可能性が高くなりますが、そうでない場合は、「在宅では責任をもてないから、受け入れられない」となってしまうのです。大城 堅一医療法人社団星の砂 理事長ねりま西クリニック 院長
・許可病床200床以上
・在宅医療を提供する医療機関と連携し、24時間連絡を受ける体制を確保
・連携医療機関の求めに応じて入院希望患者の診療が24時間可能な体制を確保(病床の確保を含む)
・連携医療機関との間で、3カ月に1回以上、患者の診療情報の交換を行い、入院希望患者の一覧表を作成
ただし在宅患者の緊急の入院受け入れをしている病院の数は、地域によって異なります。
東京都では地域の在宅医からの入院要請に応える病院として「地域医療支援病院」の認定があります。この認定を受けている病院は、二次医療圏(地域医療計画の基本単位)ごとに1~6病院程度です。
私のクリニックのある練馬区で見ると、豊島区、北区、板橋区、練馬区という4区のエリア内に5つの病院があります(2022年3月時点)。都のなかでも病院数・病床数は多いほうになります。
一方、都内でも少ないところは3区で2病院の地域もありますし、多摩地域では8市町に対して病院が1つのところもあります。
厚生労働省の委託事業で、2018年に株式会社日本能率協会総合研究所が「在宅医療連携モデル構築のための実態調査」を行っています[図表]。対象は在宅医療連携の取り組みを先進的に行っている地域の380診療所、5病院(有効回答124)です。
[図表]診療所のある地域での在宅医療における課題(複数回答)
そこで「診療所のある地域での在宅医療における課題」を複数回答で尋ねたところ、最も多かったのが「在宅医療に携わる医療従事者(マンパワー)の確保(72件)」でした。それに次いで多かったのが、「急変時等に対応するための後方支援体制の整備(64件)」です。
この調査の対象となった在宅医療連携の先進的な地域ですら、後方支援体制の整備が十分とはいえないわけですから、その他の地域はさらに困難な状況にあることが想像されます。
病院の後方支援が十分であれば、高度医療が必要な人や急変のリスクが高い患者も在宅医療をできる可能性が高くなりますが、そうでない場合は、「在宅では責任をもてないから、受け入れられない」となってしまうのです。
大城 堅一
医療法人社団星の砂 理事長
ねりま西クリニック 院長