妻が働き、家計は好転。老後資金もできそうですが……皆さんから寄せられた家計の悩みにお答えする、その名も「マネープランクリニック」。
今回の相談者は、妻が家計管理に協力をしてくれないということで悩み、老後資金が足りるかどうかを教えてほしいという42歳の男性会社員の方。ファイナンシャル・プランナーの深野康彦さんがアドバイスします。
▼相談者ひろしりがさん(仮名)男性/会社員/42歳関東/持ち家・一戸建て
▼家族構成妻(40代/パート)、子ども2人(中1・小1)
▼相談内容そもそも、教育費や老後資金に不安を感じるようになった大きな要因は、妻が家計に危機を感じず、子どもの教育費(習い事など)にお金を使う状況を常につくってしまうことでした。妻は、私からの意見には真剣に取り合わず、そのことで妻とはずっと喧嘩してきました。
これまで、夫婦それぞれの両親からは、かなりの補助をしてもらい、ようやくなんとか生活をしている状況なのです。家の購入資金3700万円のうち、1200万円を出してもらいました。また、習い事の発表会のお金も、クルマの購入費用もともに100万円くらい援助してもらいました。
ただし、家計の危機感を何度も妻に伝えて、妻はようやく昨年から働くようになりました。その結果、家計は好転しているようです。実際、妻は頑張って働いてくれています。
そこで、ご相談ですが、自分なりにライフプランを立て、試算してみましたところ、現状の収支を維持できれば、80歳で1000万円程度の貯金が残せるのでは思っています。しかし、この試算が本当に合っているのか、合っていてもそれが老後資金として妥当かどうか見ていただきたく思います。どうぞよろしくお願いいたします。
▼家計収支データひろしりがさんの家計収支データは図表のとおりです。
▼家計収支データ補足(1)加入保険の内訳1. 相談者/医療保険(終身保障、60歳払い込み終了、入院6000円、手術手当6万円、先進医療特約付)=毎月の保険料4895円
2. 妻/医療保険(終身保障、60歳払い込み終了、入院5000円、手術手当6万円、先進医療特約付)=毎月の保険料4524円
3. 相談者/勤務先の保険に3本加入・死亡共済1(死亡保障4000万円)=毎月の保険料8083円・死亡共済2(死亡保障1100万円)=毎月の保険料1953円・特定疾病保障付き死亡共済(死亡保障300万円、特定疾病保険金300万円、がん保険金30万円)=毎月の保険料1764円(※今後、保険料の合計を5000円に見直し予定。死亡保障を合計2000万円のものに変更する予定)
4. 妻/保険(死亡保障100万円、入院日額5000円+女性特定病気入院3000円)=毎月の保険料2140円
5. 上の子ども/学資保険(18歳満期160万円)=毎月の保険料1万3500円
6. 下の子ども/学資保険(18歳満期260万円)=毎月の保険料1万円
(2)住宅ローンについて・新築一戸建て・物件価格/3600万円・諸費用/200万円・頭金/1200万円(すべて親から)・借入額/2600万円・返済期間/35年・金利/固定1.41%
(3)食費の内訳家族の食費6万5000円、相談者昼食代+ビール1万8000円、外食1万円
(4)教育費の内訳上の子ども=学校1万1000円、習い事1万4000円、塾2万4000円下の子ども=学校7000円、習い事(英語、運動)1万2000円、塾1万3000円
(5)ボーナスの使いみち▼冬のボーナス・住宅ローンのボーナス支払い分/24万円・自動車税/4万円・車検代/5万円(車検代20万円の半年分として)・自動車保険/7万円・タイヤ交換(前輪のみ)/2万2000円・地震保険/1万円(保険期間5年で保険料7万円)・相談者交際費=1万5000円・クリスマス費用/1万円・正月費用/8万5000円(正月のすき焼き代1万5000円、子どもの遊興費1万5000円、正月福袋3万円、外食4回分2万円、年賀状印刷のインク代5000円)・浄化槽代/2万5000円・楽器の調律/1万6000円・町内費/7000円・妻誕生日費/1万円・下の子どもの通信教材年払い/4万円・職務の会費/3万6000円
▼夏のボーナス・住宅ローン/24万円・車検費用/5万円・地震保険/1万円・車整備・消耗品費/5万円・浄水器代年額/1万4000円・家族旅行代/13万5000円・下の子ども遊興費/1万5000円・上の子ども遊興費/2万6000円・家族遊興費/2万5000円
小計=56万5000円残り貯蓄予定/11万1000円
(6)今後、実家からの学費の借り入れの可能性「すでに十分にした」とのことで、今後の支援は難しい。職場の教育資金貸付制度があり、その利用も考えている。奨学金よりは低利なので。修業年限1年につき180万円借りられ、返済も卒業後から。「最悪、子どもが就職したら子どもに返済させるのもありかと」とのこと。
(7)相談者の収入と退職金退職金は2000万円(住宅ローンの繰上返済に800万円を考えている)。収入は60歳の定年までは毎年微増予定で、51歳でボーナスも月割りにして月の手取り収入47万円ほど。その後60歳まで手取り48万~49万円で推移するとのこと。定年後は再雇用で65歳まで、額面で給与28万円、ボーナスは2カ月分。
(8)妻の収入現在手取りで月10万円、しかし無理をさせないために5年後からは月8万円程度に仕事量を減らす。65歳まで働く予定。
(9)公的年金額公的年金額が月額23万円、65歳以降の生活費は月25万円を想定。
(10)妻が節約できない理由相談者コメント「実家が裕福だったせいで、無意識に〈お金はどこかからかもらえるもの〉という意識が抜けないのだと思います。あとは〈現実を見たくない〉意識も働いていると思います。私が数字を見てくれと言っても、ほとんど見ようとしないので」
▼FP深野康彦の3つのアドバイスアドバイス1:80歳で「貯蓄1000万円」は安心できる範囲アドバイス2:リスクへの対策は貯蓄ペースのアップアドバイス3:倹約、貯蓄の意識は家族全員に必要
アドバイス1:80歳で「貯蓄1000万円」は安心できる範囲このままの家計管理で老後資金は大丈夫なのか、というご相談ですが、実際にご自身が試算されたキャッシュフロー表も拝見しました。
まず、その試算がほぼ正確で、ご相談者80歳のとき、結果どおり貯蓄が1000万円あった場合、老後資金としては十分がどうか。
あくまで、毎月の生活費が想定された月25万円で、公的年金の手取額が23万円(ただし、もしも額面が23万円だと、税金や社会保険料を差し引かれ、手取額は月20万円ほどですから、この試算そのものが誤りとなります)ならば、毎月の赤字は2万円。年間24万円ですから、ともにその後10年間生きたとして240万円。
残りの760万円を80歳以降の老後生活の予備費と考えれば、「絶対足ります」とは断言できませんが、一般的な長生きリスクや想定される突発的な支出への備えにはなっていると思います。では、この試算に訂正すべき箇所があるとしたら、どのあたりでしょうか。
気になる点として、まず、収入は微増ながらアップしていきますが、支出が同額で推移していること。
とくに、食費や水道光熱費などは、物価上昇の可能性が当然あります。お子さんが成長するにしたがって、食べる量も増えるはず。また、部活動の費用など、お子さんにかかる費用が何かと増えていくのが一般的な世帯の支出傾向でもあります。
さらに、老後生活になって、65歳以降は「旅費20万円」が削られています。もちろん、老後資金を減らさないために、ときに「生活を楽しむ」部分を削ることも必要でしょう。しかし、おそらく平均以上の支出してきた世帯が、いきなり質素倹約の生活に切り替えられるかどうか。そのあたりの不安はあります。
加えて、80歳までに病気や介護になった場合のコストも考慮しておくことも、試算としては追加しておきたい要素です。
アドバイス2:リスクへの対策は貯蓄ペースのアップ試算はあくまで試算です。80歳のときに1000万円貯蓄があるという結果となったとのことですが、もっと額が増えている可能性もあります。同時に、試算内容を見る限り、支出増により、もっと減ってしまう可能性も否定できません。
さらに、奥様が65歳まで途切れることなく収入を得られるか。相談文を見る限り、そういった不安もあります。
では、老後資金の不足というリスクの対策として、ご相談者のケースでは何ができるか。世帯収入は十分高いのですから、貯蓄ペースをもっと高める。これがもっとも現実的かつ効果的。逆に言えば、普段からもっと貯蓄できる家計であるということです。
奥様のパート収入10万円が加算されても、現在の貯蓄ペースが毎月1万円。学資保険で月2万35000円、保険料を支払っているのですから、実質貯蓄は3万3500円となりますが、さらに毎月の家計から2万~3万円は、その気になれば苦もなく貯蓄できる範囲だと思います。
ボーナスも同様。手取額138万円に対して、貯蓄額が11万円。少なくとも年間50万円は貯蓄に回したいところです。これで少なくとも年間70万~80万円ほど貯蓄が増えることになります。10年間で700万~800万円。これだけの貯蓄の上積みは、決して小さくありません。
アドバイス3:倹約、貯蓄の意識は家族全員に必要そもそも、最初にご相談者が感じた「使い過ぎている」という観点に戻って、再度見直してはどうでしょう。それについては、奥様と意見が食い違い、これまで実践できなかったわけですが、見方を変えれば可能という気がします。
「教育費に妻は資金を掛けすぎる」とあります。確かに多いとは思いますが、教育が最優先事項なら、他を削ればいいということです。家計支出の内容から、多いのは教育費だけではありません。おしなべて、すべての支出費目が高めという印象です。
ドラスティックに何かを削る、例えば、一時的に旅行を中止する、クルマを軽自動車に切り替えるといったことができれば、それは十分即効性があります。
しかし、それが難しいなら、旅行の予算を3分の2にする。あるいは、ビールを飲む回数を半分に減らす、お正月の福袋購入をあきらめる、そういうことの積み重ねだと思います。
さらに言えば、住宅についてもクルマについても、自分たちの自己資金の範囲内で購入できたかもしれません。しかし、プロセスはどうであれ、結果的に親御さんからの資金援助という恩恵を「受けた」という結果が、奥様だけでなく、世帯として「使い過ぎ」の環境、習慣を生んでいるとも思えます。
その意味で、お子さんも含めて、家族全員に倹約や貯蓄の意識が必要になってくるはずです。
先述しましたが、現状のままでも、言い換えれば、貯蓄を意識しなくても教育費も老後資金も準備できる可能性はあります。それは世帯収入が高いからです。
しかし、リスクが払拭されないなら、備えはしておく必要があります。例えば、教育費についても、仮に不足してもお子さんに返済を背負わせることは、避けるべきです。したがって、今後、貯蓄ペースを上げていく努力をしていくことが賢明だと考えます。
相談者「ひろしりが」さんから寄せられた感想「すべての支出費目が高い」ということ、「世帯年収が高め」ということに、驚いております。
昨年に、妻が働き始めるまでの10年以上は、本当に毎日の食費にも困るような状況がありました。現在のように旅行や子どもの長期休みの遊興費なども、とてもではないですが出せる状況にありませんでした。
総じて支出費目が高いのは、余裕を持っておきたい気持ちが強いためです。高めに設定してあるので、少しずつ資金があまり、書いたよりももう少し貯金に回せている状況があります。
何はともあれプロの方に見ていただき、とりあえず健康に過ごしてさえすれば、子どもの教育も老後もなんとかなるということで、一安心です。ありがとうございました。
教えてくれたのは……深野 康彦さん
マネープランクリニックでもおなじみのベテランFPの1人。さまざまなメディアを通じて、家計管理の方法や投資の啓蒙などお金周り全般に関する情報を発信しています。