東京23区に潜む“限界集落” 「5年、10年先は何もなくなる」住民の危機感と、就職した子どもが団地を出ざるを得ない現状

都内のある団地。敷地内を歩いてみるが、昼間にもかかわらずめったに人とすれ違わない。ここ、大田区東糀谷6丁目は、人口の50%以上を65歳以上の高齢者が占める「限界集落」だ。
【映像】限界集落「大田区東糀谷6丁目」を取材 限界集落といえば、田舎にあり、インフラ維持の難しさ、災害リスクの高さなどの問題点が指摘されているが、“東京23区の限界集落”の暮らしとは。 「(住んで)46年ぐらい」と話す中村景子さん(80、仮名)。4年前に夫を亡くし、3DKに1人暮らし。昔は家族4人暮らしだったため、寂しさと感じることもあるという。

「心がけているのは、外に出た時には声をかける。自分がそうしてもらえたら嬉しいっていうのがあるので、必ず『元気?足元気をつけてね』とか」(中村さん) 誰かと話をしたい時に決まって利用するのが、団地内にある飲食店「めんきち」だ。メニューは約50種類。材料さえあれば、食べたいものを作ってくれるという。店内での食事はもちろんのこと、お弁当やお惣菜も低価格で販売している。 昔は団地内にパン屋や精肉店などの店が10店舗近くあったそうだが、今は酒屋とこの飲食店の2店舗のみ。都内の限界集落でも生活インフラという問題点が表面化している。 「夜、救急車が多いからやっぱり心配。(お年寄りばかりだと)災害とか起きた時に助ける人があまりいないから、若い人がいた方がいい」(14歳の住民) 団地が作られたのは高度経済成長期である1970年代初頭。当時は若い世帯も多く、150人ほどの子どもがいたという。それから約50年、月日の経過とともに当然、住民も高齢化。 「子どもの声がしないっていうのは本当に寂しい」と話すのは、自治会会長の今野奏平さん(84)。今も精力的に活動を続けており、「『重いものを出せないから、粗大ごみをお願いします』と言われたら、出かけていく。みんな困っているからお互い様だと思ってやる」。 とはいうものの、運営メンバーの平均年齢も80歳に迫っている。「自分にできることというと、限界を感じてきた。住んでいる人だけじゃなくて、東京都も含めて考えないと限界はくる。近い将来」。 年々、加速する限界集落問題。どんな対策をとるべきなのか。「めんきち」店主かつ団地住民でもある斎藤光正さん(72)は「活性化するには若い人にいてもらわなきゃどうにもならない。若い世代に刺激されてこっちも元気が出てくる。年寄りと付き合うのは大好きだ。こういう場所にいるので、(ここで料理を作ることを)1つの使命として考えていかなくちゃいけないと思っている」と語った。■就職した子どもが団地を出ざるを得ない現状 専門家「親族をいられるかたちに」 7日の『ABEMA Prime』では、東京23区で10カ所以上存在するという限界集落の問題について、斎藤さんと専門家を交え議論した。 1996年の公営住宅法改正で、子どもが社会人となり世帯収入が上がると同居できなくなり、団地外に独立することが増えたことで若者が減っていった。斎藤さんは、「私の親友もそういうふうになっていて、痛いほど感じている。(子どもが)出て行ったと思ったら、お母さんが倒れちゃったとかもある」と話す。 早稲田大学文化構想学部教授の石田光規氏は「就職した若者は出ざるを得なくなるので、例えば家賃を“この収入の人はこれくらい”と残していけるような仕組みを考えるとか。あと、都営団地でやるのは難しいかもしれないが、最近、無印良品がリノベーションできれいにするということもやっている。そういった試みが必要だと思う」との見方を示す。 都営団地は現在、老朽化による建て替え工事を約2000戸で実施し、今年3月から都内5つの大学と協定を結び、地域活動への参加を条件に空き部屋に学生の入居を呼びかける取り組みを開始、約10人の学生が入居している。 斎藤さんは「1人でも多くの若者に入居してもらい、昔の活気を取り戻したい」「5年先、10年先ぐらいを考えると、何もなくなってしまう」と危機感をあらわにする。逆に若者がいるような街に移住をするかというと、「ここで落ち着いていたい、最期を締めたい、という人がほとんど」だという。 石田氏は「山村へ調査に行くと、自分の住んでいる場所から離れたくないという人がほとんどだ。しかし、高齢の方が一人暮らしをしていると、厳しくなる瞬間がある時点で訪れる。ある程度人口を循環させていかないと長期的な持続は難しくなってしまうので、知恵を絞って若い世代が入ってくるようにする工夫は必要だ」と指摘。 NPO法人「あなたのいばしょ」理事長の大空幸星氏は「同年代で近い価値観の人同士が何十年も集まっている同一性があるところで、異質性が入ることによって個人のウェルビーイング(幸福)が一瞬下がることは考えられる。本人の幸せを考えると、急に若い人が入ってきて環境が変化するのはあまり好ましくないよねと。ただ、社会としては若い人を入れて仕組みとして持続させないといけない。このあたりの折り合いはどうつけていけばいいのか」と疑問を呈する。 石田氏は「そこが本当に難しい。結局、地方の限界集落の方が都心に住めばいいのかというとそういうわけでもないし、若い人を送り込めばいいのかというと、地域のバランスが崩れることにつながったりする。これはもう徐々に変えていくしかない。あるいは、親族に関しては“こういう家賃で住める”として団地にいられるかたちに変えていかないと難しいのではないか」との見方を示した。(『ABEMA Prime』より)
限界集落といえば、田舎にあり、インフラ維持の難しさ、災害リスクの高さなどの問題点が指摘されているが、“東京23区の限界集落”の暮らしとは。
「(住んで)46年ぐらい」と話す中村景子さん(80、仮名)。4年前に夫を亡くし、3DKに1人暮らし。昔は家族4人暮らしだったため、寂しさと感じることもあるという。
「心がけているのは、外に出た時には声をかける。自分がそうしてもらえたら嬉しいっていうのがあるので、必ず『元気?足元気をつけてね』とか」(中村さん)
誰かと話をしたい時に決まって利用するのが、団地内にある飲食店「めんきち」だ。メニューは約50種類。材料さえあれば、食べたいものを作ってくれるという。店内での食事はもちろんのこと、お弁当やお惣菜も低価格で販売している。
昔は団地内にパン屋や精肉店などの店が10店舗近くあったそうだが、今は酒屋とこの飲食店の2店舗のみ。都内の限界集落でも生活インフラという問題点が表面化している。
「夜、救急車が多いからやっぱり心配。(お年寄りばかりだと)災害とか起きた時に助ける人があまりいないから、若い人がいた方がいい」(14歳の住民)
団地が作られたのは高度経済成長期である1970年代初頭。当時は若い世帯も多く、150人ほどの子どもがいたという。それから約50年、月日の経過とともに当然、住民も高齢化。
「子どもの声がしないっていうのは本当に寂しい」と話すのは、自治会会長の今野奏平さん(84)。今も精力的に活動を続けており、「『重いものを出せないから、粗大ごみをお願いします』と言われたら、出かけていく。みんな困っているからお互い様だと思ってやる」。
とはいうものの、運営メンバーの平均年齢も80歳に迫っている。「自分にできることというと、限界を感じてきた。住んでいる人だけじゃなくて、東京都も含めて考えないと限界はくる。近い将来」。
年々、加速する限界集落問題。どんな対策をとるべきなのか。「めんきち」店主かつ団地住民でもある斎藤光正さん(72)は「活性化するには若い人にいてもらわなきゃどうにもならない。若い世代に刺激されてこっちも元気が出てくる。年寄りと付き合うのは大好きだ。こういう場所にいるので、(ここで料理を作ることを)1つの使命として考えていかなくちゃいけないと思っている」と語った。
■就職した子どもが団地を出ざるを得ない現状 専門家「親族をいられるかたちに」
7日の『ABEMA Prime』では、東京23区で10カ所以上存在するという限界集落の問題について、斎藤さんと専門家を交え議論した。
1996年の公営住宅法改正で、子どもが社会人となり世帯収入が上がると同居できなくなり、団地外に独立することが増えたことで若者が減っていった。斎藤さんは、「私の親友もそういうふうになっていて、痛いほど感じている。(子どもが)出て行ったと思ったら、お母さんが倒れちゃったとかもある」と話す。
早稲田大学文化構想学部教授の石田光規氏は「就職した若者は出ざるを得なくなるので、例えば家賃を“この収入の人はこれくらい”と残していけるような仕組みを考えるとか。あと、都営団地でやるのは難しいかもしれないが、最近、無印良品がリノベーションできれいにするということもやっている。そういった試みが必要だと思う」との見方を示す。
都営団地は現在、老朽化による建て替え工事を約2000戸で実施し、今年3月から都内5つの大学と協定を結び、地域活動への参加を条件に空き部屋に学生の入居を呼びかける取り組みを開始、約10人の学生が入居している。
斎藤さんは「1人でも多くの若者に入居してもらい、昔の活気を取り戻したい」「5年先、10年先ぐらいを考えると、何もなくなってしまう」と危機感をあらわにする。逆に若者がいるような街に移住をするかというと、「ここで落ち着いていたい、最期を締めたい、という人がほとんど」だという。
石田氏は「山村へ調査に行くと、自分の住んでいる場所から離れたくないという人がほとんどだ。しかし、高齢の方が一人暮らしをしていると、厳しくなる瞬間がある時点で訪れる。ある程度人口を循環させていかないと長期的な持続は難しくなってしまうので、知恵を絞って若い世代が入ってくるようにする工夫は必要だ」と指摘。
NPO法人「あなたのいばしょ」理事長の大空幸星氏は「同年代で近い価値観の人同士が何十年も集まっている同一性があるところで、異質性が入ることによって個人のウェルビーイング(幸福)が一瞬下がることは考えられる。本人の幸せを考えると、急に若い人が入ってきて環境が変化するのはあまり好ましくないよねと。ただ、社会としては若い人を入れて仕組みとして持続させないといけない。このあたりの折り合いはどうつけていけばいいのか」と疑問を呈する。
石田氏は「そこが本当に難しい。結局、地方の限界集落の方が都心に住めばいいのかというとそういうわけでもないし、若い人を送り込めばいいのかというと、地域のバランスが崩れることにつながったりする。これはもう徐々に変えていくしかない。あるいは、親族に関しては“こういう家賃で住める”として団地にいられるかたちに変えていかないと難しいのではないか」との見方を示した。(『ABEMA Prime』より)