骨折が40年前の2倍!「しゃがめない・バンザイできない・まっすぐ走れない」子どもが増加、背景にある生活の変化、専門家が提案する改善策

「しゃがめない」「バンザイできない」「まっすぐ走れない」できない子どもが増えている。
【写真】運動器健診で指摘が多かった3項目猫背・あご出し・骨盤後傾姿勢不良の子どもたち 実は今、かかとを床につけたまましゃがめない子どもたちが増えているという。「かかとを上げないとバランスが取れず、後ろに転びそうになるのは、骨盤が後傾して後ろ重心になっているため」と教えてくれたのは、アスリートの指導も行うプロトレーナーの高林孝光さん。 ほかにも高林さんはバンザイができない、まっすぐ走れない、体育座りができない、片足立ちができないといった子どもを目にしてきた。

実際、基本的な動作ができない子どもは増加傾向にあり、2016年度から学校の健康診断に「しゃがみ込むことができない」「両腕とも痛みなく、完全に上まで上げられない」「身体を前屈、後屈できない」などのチェック項目が追加された。まるで高齢者の健康診断だ。「昔と遊び方や生活様式が変わり、日常の中で身体を使う機会がめっきり減ったことが大きな要因です。でも、やり慣れておらず、上手に身体や筋肉を使えてないだけなので、すぐにできるようになります」(高林さん、以下同) 文部科学省が1964年から行っている「体力・運動能力調査」では、1985年ごろから低下傾向が続く。「昔は木登りやかけっこ、めんこ遊びなど、身体をめいっぱい使う遊びが中心で、その中で筋肉が発達し、身体の使い方を自然に習得しました。 一方で現代っ子は、外遊びを含めて運動の機会が昔よりも格段に少ないため、身体の使い方を体得することが難しく、筋肉の発達が不十分になりがち。日常的に運動している子どもたちの能力は、現代でもやはり高いのです」 ゲームやパソコンが普及し、それに割く時間が増えたこと、子どもにとって大切な外遊びやスポーツが軽視された影響も大きい。「『私の運動能力が子どもに遺伝した』とおっしゃる親御さんもいますが、遺伝するのは身体の特徴などの身体能力。運動能力は筋力を使う体験によって身につくもの。 今、使われていない筋肉を子どもに合わせた筋トレで目覚めさせれば、運動能力はどんどん高まります。その妨げになるのが、子どもたちの姿勢です」 子どもの3大不良姿勢と呼ばれるのが「猫背」「あご出し」「骨盤後傾」だ。ゲームやスマホ、勉強をしているとき、前かがみになりやすいため、猫背の子が多いという。「姿勢がよくなるだけで運動能力はグンとアップします。例えば猫背だと、必然的に肩甲骨と連動している骨盤が後傾し、股関節が十分に動かせない。まっすぐ走れない、走ってもすぐ転ぶなどはこういったことが原因だと考えられます」 姿勢がよくなれば肺が圧迫されなくなり、疲れにくくなるという利点も。それに姿勢の悪さは健康面にも影響する。「腰痛はもちろんですが、骨盤が後傾していると、直腸が曲がって圧迫され、便秘になりやすい。ガスもたまりやすく膨満感で食事をきちんととれなくなります。腸の健康が免疫力に大きく関わることは最近知られるようになりましたが、実はそこに姿勢が大きく影響しているというのは、意外と知られていません」 運動をすることは勉強にも相乗効果が見込める。「運動をすると脳に血液が行き渡り、頭がクリアになります。私が筋トレを指導している子どもたちは集中力が続くようになりました。これは姿勢がよくなり、自律神経のバランスが整ったことも影響していると考えています」骨折が40年前の2倍! 骨がもろい現代っ子 学校で骨折する子どもの割合が40年前の2倍以上に増えているというデータもある。「今は外で子どもたちが自由に遊べる場所が少ないですよね。太陽光に当たらないと、骨の健康維持に欠かせないビタミンDが体内で合成されにくくなります」 さらに睡眠不足も骨に悪い影響を与えるという。「睡眠中に分泌される成長ホルモンには、骨を強くする働きがあります。しかし現代っ子は身体を動かさないので眠くならず、夜更かしするせいで成長ホルモンが出にくくなります。 成長ホルモンの分泌のゴールデンタイムは22時からの4時間。でも22時までに熟睡できている小中学生は、結構少ないのでは」 2018年度の文部科学省の調査では、22時以降に就寝する子どもの割合は小学校高学年では半数を占め、中学生や高校生では9割近くになる。「夜更かしをしていれば、朝ギリギリまで起きられず、朝食をしっかりとれない。栄養不足でカルシウムやタンパク質が不足すれば、身体もできあがりません。その結果、骨がもろくなるという負のスパイラルに陥ってしまいます」靴や靴下の生活で浮き指や扁平足も増加 ほかにも現代っ子特有の症状として、土踏まずが平らな「扁平足」や、足指が地面に着かない「浮き指」も多い。「筋肉が未発達な子どもは、靴下や靴を履いていると足指や足裏が十分に使えません。土踏まずのアーチがないと足が着地する際のクッションがないため、ケガのリスクも高まります」 浮き指の主な原因は、靴のサイズが合っていないこと。「実際の足より大きなサイズの靴を子どもに履かせていませんか。靴が大きいと足が前に滑ってしまい、本来曲がるべきところで曲げられず、浮き指になります。これは大人でも同じですね」 指が浮いてしまうのは、足指の筋力が不足しているため。「かかとに重心が移り、バランスを取るために前のめりの猫背になるのです。姿勢が悪ければしゃがんだり、前屈ができなくなる。浮き指だと地面をしっかりと捉えられないため、走るのも遅くなります」 足に合う靴選びのポイントは、履いてみて1cmほど余裕があり、横幅が狭すぎないもの。面ファスナーではなく、ひもで縛るタイプがベストだ。靴底は足指の付け根で曲がるものを選びたい。「あまり知られていませんが、靴を履くときはかかとをしっかりとフィットさせることがとても大事です」 足裏や足指を使えないと、健康面にデメリットが。「ふくらはぎから足裏までつながっている筋肉があるのですが、足裏が使えていない子どもは、ふくらはぎも使えていません。ふくらはぎは下半身の血流を心臓に戻すポンプの役割をしています。この筋肉が使われないと血流が悪くなり、老廃物が排出しにくくなるため、子どもでも冷えや疲れなどの不調が出ることも」 このまま中高年になっても運動不足が続いていけば、メタボリックシンドロームや生活習慣病のリスクが上がる。将来的には寝たきりになる可能性も高いと考えられている。子どもに合った筋トレで身体はすぐに変わる! 身体がうまく使えない子どもに、高林さんが指導するのは、子どもに合った筋トレだ。「昨今のブームから筋トレ=ウエートトレーニングのイメージがありますが、それは正しくない。筋トレにも種類があり、筋肉を刺激して機能を高め、関節の可動域を広げる目的の筋トレもあるんです」 正しい身体の動かし方をすれば、前出のように疲れにくくなり、脳の働きもよくなる。「子どもたちの眠っている筋肉を目覚めさせれば、運動能力は必ずアップします。また、日頃から姿勢をよくするよう、心がけてほしいですね」教えてくれたのは……高林孝光さん●鍼灸師・柔道整復師。プロトレーナー。「アスリートゴリラ鍼灸接骨院」院長。プロのアスリートから学童まで10万人以上を治療。『たった10秒! 子ども筋トレで能力アップ!』(さくら舎)など著書多数。
実は今、かかとを床につけたまましゃがめない子どもたちが増えているという。
「かかとを上げないとバランスが取れず、後ろに転びそうになるのは、骨盤が後傾して後ろ重心になっているため」と教えてくれたのは、アスリートの指導も行うプロトレーナーの高林孝光さん。
ほかにも高林さんはバンザイができない、まっすぐ走れない、体育座りができない、片足立ちができないといった子どもを目にしてきた。
実際、基本的な動作ができない子どもは増加傾向にあり、2016年度から学校の健康診断に「しゃがみ込むことができない」「両腕とも痛みなく、完全に上まで上げられない」「身体を前屈、後屈できない」などのチェック項目が追加された。まるで高齢者の健康診断だ。
「昔と遊び方や生活様式が変わり、日常の中で身体を使う機会がめっきり減ったことが大きな要因です。でも、やり慣れておらず、上手に身体や筋肉を使えてないだけなので、すぐにできるようになります」(高林さん、以下同)
文部科学省が1964年から行っている「体力・運動能力調査」では、1985年ごろから低下傾向が続く。
「昔は木登りやかけっこ、めんこ遊びなど、身体をめいっぱい使う遊びが中心で、その中で筋肉が発達し、身体の使い方を自然に習得しました。
一方で現代っ子は、外遊びを含めて運動の機会が昔よりも格段に少ないため、身体の使い方を体得することが難しく、筋肉の発達が不十分になりがち。日常的に運動している子どもたちの能力は、現代でもやはり高いのです」
ゲームやパソコンが普及し、それに割く時間が増えたこと、子どもにとって大切な外遊びやスポーツが軽視された影響も大きい。
「『私の運動能力が子どもに遺伝した』とおっしゃる親御さんもいますが、遺伝するのは身体の特徴などの身体能力。運動能力は筋力を使う体験によって身につくもの。
今、使われていない筋肉を子どもに合わせた筋トレで目覚めさせれば、運動能力はどんどん高まります。その妨げになるのが、子どもたちの姿勢です」
子どもの3大不良姿勢と呼ばれるのが「猫背」「あご出し」「骨盤後傾」だ。ゲームやスマホ、勉強をしているとき、前かがみになりやすいため、猫背の子が多いという。
「姿勢がよくなるだけで運動能力はグンとアップします。例えば猫背だと、必然的に肩甲骨と連動している骨盤が後傾し、股関節が十分に動かせない。まっすぐ走れない、走ってもすぐ転ぶなどはこういったことが原因だと考えられます」
姿勢がよくなれば肺が圧迫されなくなり、疲れにくくなるという利点も。それに姿勢の悪さは健康面にも影響する。
「腰痛はもちろんですが、骨盤が後傾していると、直腸が曲がって圧迫され、便秘になりやすい。ガスもたまりやすく膨満感で食事をきちんととれなくなります。腸の健康が免疫力に大きく関わることは最近知られるようになりましたが、実はそこに姿勢が大きく影響しているというのは、意外と知られていません」
運動をすることは勉強にも相乗効果が見込める。
「運動をすると脳に血液が行き渡り、頭がクリアになります。私が筋トレを指導している子どもたちは集中力が続くようになりました。これは姿勢がよくなり、自律神経のバランスが整ったことも影響していると考えています」
学校で骨折する子どもの割合が40年前の2倍以上に増えているというデータもある。
「今は外で子どもたちが自由に遊べる場所が少ないですよね。太陽光に当たらないと、骨の健康維持に欠かせないビタミンDが体内で合成されにくくなります」
さらに睡眠不足も骨に悪い影響を与えるという。
「睡眠中に分泌される成長ホルモンには、骨を強くする働きがあります。しかし現代っ子は身体を動かさないので眠くならず、夜更かしするせいで成長ホルモンが出にくくなります。
成長ホルモンの分泌のゴールデンタイムは22時からの4時間。でも22時までに熟睡できている小中学生は、結構少ないのでは」
2018年度の文部科学省の調査では、22時以降に就寝する子どもの割合は小学校高学年では半数を占め、中学生や高校生では9割近くになる。
「夜更かしをしていれば、朝ギリギリまで起きられず、朝食をしっかりとれない。栄養不足でカルシウムやタンパク質が不足すれば、身体もできあがりません。その結果、骨がもろくなるという負のスパイラルに陥ってしまいます」
ほかにも現代っ子特有の症状として、土踏まずが平らな「扁平足」や、足指が地面に着かない「浮き指」も多い。
「筋肉が未発達な子どもは、靴下や靴を履いていると足指や足裏が十分に使えません。土踏まずのアーチがないと足が着地する際のクッションがないため、ケガのリスクも高まります」
浮き指の主な原因は、靴のサイズが合っていないこと。
「実際の足より大きなサイズの靴を子どもに履かせていませんか。靴が大きいと足が前に滑ってしまい、本来曲がるべきところで曲げられず、浮き指になります。これは大人でも同じですね」
指が浮いてしまうのは、足指の筋力が不足しているため。
「かかとに重心が移り、バランスを取るために前のめりの猫背になるのです。姿勢が悪ければしゃがんだり、前屈ができなくなる。浮き指だと地面をしっかりと捉えられないため、走るのも遅くなります」
足に合う靴選びのポイントは、履いてみて1cmほど余裕があり、横幅が狭すぎないもの。面ファスナーではなく、ひもで縛るタイプがベストだ。靴底は足指の付け根で曲がるものを選びたい。
「あまり知られていませんが、靴を履くときはかかとをしっかりとフィットさせることがとても大事です」
足裏や足指を使えないと、健康面にデメリットが。
「ふくらはぎから足裏までつながっている筋肉があるのですが、足裏が使えていない子どもは、ふくらはぎも使えていません。ふくらはぎは下半身の血流を心臓に戻すポンプの役割をしています。この筋肉が使われないと血流が悪くなり、老廃物が排出しにくくなるため、子どもでも冷えや疲れなどの不調が出ることも」
このまま中高年になっても運動不足が続いていけば、メタボリックシンドロームや生活習慣病のリスクが上がる。将来的には寝たきりになる可能性も高いと考えられている。
身体がうまく使えない子どもに、高林さんが指導するのは、子どもに合った筋トレだ。
「昨今のブームから筋トレ=ウエートトレーニングのイメージがありますが、それは正しくない。筋トレにも種類があり、筋肉を刺激して機能を高め、関節の可動域を広げる目的の筋トレもあるんです」
正しい身体の動かし方をすれば、前出のように疲れにくくなり、脳の働きもよくなる。
「子どもたちの眠っている筋肉を目覚めさせれば、運動能力は必ずアップします。また、日頃から姿勢をよくするよう、心がけてほしいですね」