運転中に爪切り、8・8秒脇見…横断歩道の女児をはねた男に求刑超す禁錮5年

「他者の安全を確保するという、運転者の最も基本的な責務に対して無頓着」――。
名古屋市瑞穂区で女児2人が死傷した交通事故で、自動車運転死傷行為処罰法違反(過失運転致死傷)に問われた被告の男(52)は22日、検察側の求刑(禁錮4年6月)を超す禁錮5年の判決を受けた。名古屋地裁の判決は、男の交通ルールへの意識の低さを厳しく批判し、求刑についても、「遺族らの処罰感情が十分に反映されていない」と指摘した。(福益博子)
判決によると、男は3月、赤信号を見逃して交差点に進入し、横断歩道を渡っていた小3と小4の女児をはねて死傷させた。
事故当日、男は交際相手に会うため、自宅から出かけた。途中、停車したタイミングで「15分遅れる」と携帯電話でメールを送り、爪切りで爪を切った。事故現場の交差点にさしかかる際、爪切りの中の爪を車内のゴミ箱に捨てるなどし、約8・8秒脇見。通学路の横断歩道を青信号で渡り帰宅中だった女児をはねた。
普段から車内で爪を切ったり、メールを送信したりしていたという男。これまでに「携帯電話の保持」3件を含む計7件の交通違反歴があり、事故の約4か月前にも、携帯電話の保持で検挙されていた。亡くなった女児の父親は、10月5日の意見陳述で「罰金で許される社会の仕組みに甘えていたと思わざるをえない」と批判し、可能な限り重い実刑を求めた。
山田耕司裁判長は、判決で「これまでに複数回、脇見運転に警鐘を鳴らされていたのに、運転態度を改めることなく事故を起こした」と指摘。「あえて脇見を選択したともいえ、厳しい非難が向けられるべきだ」と述べた。
また、「遺族を含む被害者らに与えた影響や、処罰感情のしゅん烈さを重く捉えると、求刑に十分に反映されているとは評価できない」と述べ、求刑を超える判決を言い渡した。
判決が読み上げられる約10分の間、男は深くうつむき、法廷には遺族らのすすり泣く声が響いた。読み上げ後、男はついたて越しに遺族に深々と一礼し、法廷を後にした。
◇ 判決後、亡くなった女児の父親が代理人を通じてコメントした。要旨は次の通り。
「娘がこの世にいない現実をいまだに受け止められません。『いつか必ず娘が元気に帰ってきてくれる』と自分に言い聞かせないと、日常生活が送れない状況です。せめて、娘のためにやってあげられることを見つけて、丁寧に過ごすことを心がけたいです。被告人が本日の判決を受け入れ、真摯(しんし)に向き合うことを切に願います」