私立一貫校が実名でズバリ回答「志望校にギリギリ合格した子、低偏差値校に合格した子」は入学後どうなるのか

※本稿は、矢野耕平『令和の中学受験2 志望校選びの参考書』(講談社+α新書)の一部を再編集したものです。
この章では「志望校選びで親が悩むこと」と題して、わたしがこれまで中学受験生の保護者からよく受けてきたご相談内容を中心に、「Q&A形式」で回答していきます。また、その質問内容によっては、中高一貫校の先生方のコメントも盛り込んでいます。みなさんのお子さんの志望校選定のヒントになれば幸いです。
それでは最初の質問に回答していきましょう。
A これはよく尋ねられる質問です。一部の学校を除いて、入試得点結果を開示しているところはありませんから、実際にわが子が余裕で合格ラインを超えていたのか、あるいはギリギリで合格したのかは分からないものです。ただし、志望校に補欠で合格したり、繰り上げで合格したりした場合などはギリギリで合格したことが明確です。
入学手続きの期限を過ぎた直後に定員に達していなければ、学校側は「欠員」を充足するために受験生のご家庭に繰り上げ合格の連絡をおこないます。
複数の学校の先生からヒアリングしたのですが、その連絡をとった際に大喜びする保護者がいる一方、反対に不安な様子の保護者がいるそうです。「ギリギリで入学してわが子は御校の勉強についていけるのか」と。
この質問への回答は、わたしがこれまで卒業生を見てきた感覚的なものよりも、各校の先生方に回答いただいたほうが良さそうです。
桐朋で中学部長を務める村野英治先生は言います。
「入試データとその後の追跡は最近おこなっていませんが、10年前くらいに具体的なデータ分析をおこなったことがあります。その結果は『入試の成績と高校卒業時の成績に相関関係はまったくない』というものです」
村野先生は微笑んで、こんなエピソードを教えてくれました。
「桐朋の中学入試で補欠合格だった生徒が東京大学の数学科に進んで、いまはウチの数学教師です。これなども相関関係のなさを如実に表す例ですよね」
聖光学院の中学入試委員長・國嶋応輔先生は相関係数を具体的に示してくれました。
「入試得点とその後の成績の相関関係は『緩く』存在している、という程度です。例外のほうが圧倒的に多い。
データ分析すると、相関係数として0.3程度です。本校は第1回入試(2月2日)と第2回入試(2月4日)がありますが、1回目入試は500番台で不合格だった子が、2回目入試は100番台で合格することだってあります。その問題によって発揮される実力が大きく変動するということでしょう」
なお、相関係数は正と負の方向をマイナス1~プラス1までの強さで示すことで二つのデータ群の関係性を表します。
おおむね0.0以上~0.3未満は「ほぼ無関係」、0.3以上~0.5未満は「非常に弱い相関」、0.5以上~0.7未満は「相関がある」、0.7以上~0.9未満は「強い相関」、0.9以上については「非常に強い相関」があるとされています。
聖光学院の教員たちには、新入生たちの入試順位は一切伝えられないそうです。しかし、最後の最後で本人がその順位を知ることのできる場を用意しているとのこと。
「生徒たちは卒業式の日に自分が中学入試のとき何位で入ったのかを校長に直接聞くことができます。ですから、その日は校長室の前に列ができていますよ。そこで校長が『あなたは○○位』などと伝えています(笑)」
頌栄女子学院(東京都港区・女子校、156ページコラム参照)の広報部長・湯原和則先生は、中学校1年生に限っては入試得点との相関が見られると言います。
「正直、中学校1年生の成績は入試順位とある程度相関関係があります。しかし、不思議なことに1年経つと、ばらばらになっていくのです」
成城の入試広報室長・中島裕幸先生もこう言います。
「本校は追跡データを細かく取っていて、中学入試と定期テストの相関データもその一つです。それを分析すると、中学1年生の夏休みを過ぎたあたりから、入試の結果と定期テストの結果に関係が見られなくなります。入学したあとに学習習慣をどう育んだかが何よりも大切だということですね」
今回、成城からその相関データの一部を見せてもらうことができました(図表1)。入試でトップ合格した子は好成績を維持する傾向はあるものの、それ以外の層は学力分布が散らばっています。
これを見ると、「ギリギリで合格したわが子は大丈夫なのだろうか」という心配を抱く必要のないことが分かります。
A 模試の結果から志望校の合格が厳しい状況なのですね。親子で落胆してしまうそのお気持ちはよく理解できます。
質問からは分かりませんが、志望校合格を目指してお子さんが中学受験勉強を始めたのは3年生からでしょうか? あるいは、4年生からでしょうか? いずれにせよ、塾に通い、長い時間をかけて受験勉強に打ち込んできたものと思われます。
だからこそ、この時期に受験を「ストップ」するのは「なし」です。
お子さんには行きたい学校があるのです。であれば、模擬試験で厳しい判定が出たとしても、第一志望校は必ず受験してほしいと思います。
そのうえで、「安全校」をしっかり確保してもらいたいと、わたしは考えます。
具体的には模擬試験の平均偏差値よりマイナス4以下のラインが「安全校」となる学校です。いまからでも遅くはありません。そのような学校の資料を取り寄せたり、直接見学させてもらったりしましょう。いまは消極的な気持ちかもしれませんが、意外なところに「掘り出し物」があるかもしれません。
「そんなにレベルの低い学校には通わせたくない」
ひょっとするとそう思われるかもしれません。ここであえて極端な例を挙げてみます。
たとえば、近年の中学入試は激戦が繰り広げられているものの、女子校を中心に「定員割れ」状態のところもいくつかあります。
「定員割れの学校に進学する意味があるのか?」と考える保護者も大勢いらっしゃるでしょう。でも、「入試レベル」以外の側面、たとえば、教育方針や校風、行事などに着目すると、わが子にとって「かけがえのない学校」になる可能性だってあるのです。
前著『令和の中学受験 保護者のための参考書』(講談社+α新書)でも紹介しましたが、定員割れを引き起こしていたある私立女子中高一貫校の理事の方からこんな話を聞いたことがあります。
「小学校の卒業アルバムを見て、『あれ? こんな子、同じクラスにいた?』などと言われる物静かで目立たない子がいるでしょう。わが校はそんな子ばかりが集まるのです」
その理事の方はこう続けました。
「だから、わが校では『いるかいないか分からなかった』そんな子たち一人ひとりに対して、中高6年間の中で一度はスポットライトを浴びる機会を作ることを心がけています」「誰だって自分に注目してもらうのは嬉しい。そういう成功体験を味わわせてやりたいのです」
実際、この学校に通っている子の保護者から次のようなことばを頂戴したことがあります。
「まさかあんなに目立たなかった子が学園祭の舞台に立って笑顔を見せるなんて、以前はまったく想像できませんでした。あの学校に引き合わせてくださったことを本当に感謝しています」
偏差値はあくまでも一つの尺度に過ぎないのです。
ただし、「定員割れ」の度合いが酷く、1学年に数人しかいないような学校もわずかながら存在します(このタイプの学校は高校からの入学者を確保して持ちこたえているのです)。そうすると、部活動だって満足にできませんし、極めて限られた人間関係の中で過ごすことになってしまいます。こういう学校は避けるのが無難です。
お子さんは長い間、中学受験勉強を続けてきたはずです。たとえ1校でも合格切符を手にしてもらいたいとわたしは考えます。結果として、その学校に進まず、公立中学校に進学するのも一向に構いません。
でも、「公立中学校しか行くところがなかった」のと「公立中学校を選んだ」のとでは、お子さんの中学生活のスタートを切る際の気持ちがずいぶん違ってくるのではないでしょうか。
———-矢野 耕平(やの・こうへい)中学受験専門塾スタジオキャンパス代表1973年生まれ。大手進学塾で十数年勤めた後にスタジオキャンパスを設立。東京・自由が丘と三田に校舎を展開。学童保育施設ABI-STAの特別顧問も務める。主な著書に『中学受験で子どもを伸ばす親ダメにする親』(ダイヤモンド社)、『13歳からのことば事典』(メイツ出版)、『女子御三家 桜蔭・女子学院・雙葉の秘密』(文春新書)、『LINEで子どもがバカになる「日本語」大崩壊』(講談社+α新書)、『旧名門校vs.新名門校』』(SB新書)など。———-
(中学受験専門塾スタジオキャンパス代表 矢野 耕平)