【全2回(前編/後編)の後編】
高市早苗首相(64)は、思えば先の自民党総裁選の本命ではなかった。が、各国首脳と対面する「外交ウィーク」も表面上は無事乗り切り、内閣支持率は80%に。首相の愛用品まで大人気で、SNSには賛辞が溢れる。「高市現象」とも呼ぶべき、この熱狂の正体とは。
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【写真を見る】10万円超え「早苗バッグ」とは? 外交ウィークで披露した「高市流ファッション」も
前編【トランプ会談は「ホームラン」、支持率は驚異の80%… 「高市現象」の正体とは】では、高市外交の現時点での評価と、不安視される今後について報じた。
支持率は、TBSの調査で驚異の82%を記録。2001年以降の歴代政権発足直後の数字としては、小泉内閣の88%に次いで2番目に高く、石破内閣の52%を大きく引き離している。
政治部記者の話。
「SNSでは高市首相を応援する活動について、いわゆる『推し活』をもじって『サナ活』と呼ぶ動きも出ています。首相が愛用するボールペンやカバンの銘柄が割り出されて注文が殺到し、その現象がまたニュースで話題になるという異例の状況なのです」
高市首相が就任会見で手にしたのは三菱鉛筆の「ジェットストリーム多機能ペン4&1 MSXE5-1000(ライトピンク)」(1100円)とみられる。
同社の広報に尋ねると、
「大切な場面でご使用いただいたようで、弊社内でも大変喜んでいます」
また、首相が愛用するバッグ「グレース ディライトトート」(13万6400円)を扱う濱野皮革工藝の広報もうれしい悲鳴を上げる。
「SNSでの話題をきっかけに注目をいただいている影響だと思うのですが、20代と思われる方などこれまでより幅広い年齢層の女性からご注文をいただいております。1日で約1カ月分の生産量に相当するご注文を受けている状況が続き、10月31日時点では来年6月末出荷分までのご予約を承っております」
服飾史家の中野香織氏が語る。
「高市首相はバッグだけでなく、ジャケットやスーツ、ボールペンに至るまで日本製のものを愛用しています。国内産業を支援するという意志が一貫して見え、バッグは実際にとても良い品なんですよ。皇室御用達のブランドでありながら、価格も決して高過ぎない。海外ブランドで同等の品質なら40万円は下らないでしょう。実用的で、見栄を張らない選択に好感が持てます」
異論を差し挟めないほどの人気。愛用品を人々が買い求めるまでの狂騒――。
ノンフィクション作家の石戸諭氏はこうした「高市現象」について、次のように見ている。
「岸田文雄元首相(68)と石破茂前首相(68)の2代にわたり、政府の物価高対策は十分な成果を上げられませんでした。30~40代の現役世代や子育て世代には不満が蓄積し、自民党離れが進みました。その結果、国民民主党や参政党が支持を伸ばしたのです。こうした状況下で、積極財政路線を掲げる高市首相に期待が集まり、事実上の政権交代が起きたと見ることもできるでしょう」
選挙コンサルタントの大濱崎卓真氏もこう分析する。
「高市首相の支持率が石破首相時代よりも格段に上昇した理由の一つに、保守層が参政党や日本保守党支持から自民党支持に回帰した可能性が挙げられます」
大濱崎氏の調査によると、石破内閣発足直後の支持率は自民党支持層で58%、参政党支持層で16%、日本保守党支持層になると4%にとどまっていた。
しかし、高市内閣発足後は自民党支持層が82%まで回復。参政党支持層は77%、日本保守党支持層も86%といずれも大幅な上昇を記録した。無党派層でも石破内閣では25%にとどまった支持率が、高市内閣では60%まで急上昇している。
「Xなど、現行のSNSのアルゴリズム(ユーザーの興味や行動に合わせて最適な投稿を提示する仕組み)は、保守的な投稿が話題を集めやすい傾向があるといわれます。無党派層で高市政権の支持が伸びた理由は、無党派層自体がネット上の保守的な書き込みに日常的に触れる中で、保守化したという事情もあるのではないでしょうか」(同)
日本大学危機管理学部の西田亮介教授もその点に注目する。
「特にXを見ていると、高市首相の人気ぶりには目を見張ります。支持する投稿の多くは、首相が掲げる外国人政策の見直しなど保守的な主張に共鳴しているようです。今やネットは、そうした保守層の影響力が強い空間になっています。実際、登録者数100万人を超える保守系ユーチューバーも見受けられます」
無論、リベラルな言説を好む人々もSNSは利用しているはずだが、
「保守系の方がSNSへのシフトが早かった。基本的に大手メディアではリベラル系の言説が主流だったため、保守系はネットに活路を見いださざるを得なかったのでしょう。ネット上での“保守人気”が、現実の政治にも影響を及ぼしていると感じます」(西田氏)
元産経新聞台北支局長でジャーナリストの矢板明夫氏はこんな見解だ。
「先の総裁選に際した報道でも、既存メディアが民意と大きく乖離していたのは事実でしょう。旧清和会の政治とカネの問題ばかり取り上げ、高市氏をたたき、一方で外国人問題については正面から取り上げなかった。支持者たちは“自分たちが応援する高市氏が既存メディアと戦い、困難を乗り越えて見事に勝利を手にした”と受け止めています」
石破前首相はどう言うか。本人に聞くと、
「どの政権でもそうでさ、期待値と実績は違う。国民にウケることだけが、必ずしも国のためになるとは限らないのでね……」
とボヤくが、20年以上にわたって高市氏のヘアスタイリングを担当してきた首相のお膝元・奈良の美容室「―LUNEX―」オーナーの新井幸寿氏は、彼女の「意志」に期待を寄せる。
「高市さんの髪形はグラデーションボブがベースです。私が好きだった女優の山咲千里さんにどこか似ていると思って“山咲さんのようなショートにしてみませんか”と提案したのがきっかけでした。彼女は昔から“(英国初の女性首相である)サッチャー元首相を目指している”と言っていて。ただし“鉄の女”というよりは“石の女”です。彼女は鉄ほど冷たくなくて、土を固めて石にしたような温かみを感じますから」
だが実際、政権の先行きは不安視されてもいる。
政治ジャーナリストの青山和弘氏の話。
「高市首相は、安倍政権で首相秘書官を務めた今井尚哉(たかや)内閣官房参与(67)に内政・外交を問わずさまざまな相談をしているようです。今井氏は外交面では現実主義者。特に近隣の中国や韓国とはうまくやらなければならないと考えている。今井氏が仕えた安倍元首相は政権後半には中韓との関係改善に動いたものの、一部の保守層から反発を招き、その対応に苦慮しました。高市首相も、果たしてどこまで現実路線を維持できるのか」
明海大学教授の小谷哲男氏も言う。
「高市首相は安倍元首相のレガシーを活用し、トランプ大統領との最初の顔合わせを成功させたのは良かった。しかし最近、トランプ氏は米中関係を『G2』と評するようになっています。G2が意味するのは“米中二大国が世界の秩序を管理する”という世界観です。これは12年ほど前に中国が提唱した考え方に近いものです」
米国側は安倍政権が打ち出し、高市首相も継承した「自由で開かれたインド太平洋」構想にはほぼ無関心かもしれないと言い、であればこそ、と続ける。
「もはや“安倍外交”を引き継ぐだけでは不十分です。日本に今求められているのは経済面だけでなく、安全保障面でも米国がアジアに関与することの重要性をトランプ大統領に強く訴えていくことなのです」(同)
高支持率という追い風を受けて荒波へとこぎ出した高市政権。かじ取りを誤れば、その風は一気に逆風へと変わりかねないのだが……。
前編【トランプ会談は「ホームラン」、支持率は驚異の80%… 「高市現象」の正体とは】では、高市外交の現時点での評価と、不安視される今後について報じている。
「週刊新潮」2025年11月13日号 掲載