“顔写真なし”やニックネームでの応募もOK?個性重視の選考で採用試験も変化…写真不要とした2社に聞いた就活生の反応

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企業の採用試験に提出するエントリーシートなどで、性別の記入をなくし、顔写真の提出を求めないケースが増えつつあるようだ。中には、ニックネームでの登録もOKだという企業もある。東京海上日動火災保険は、今年の秋採用について、ホームページの応募画面から性別、大学名、ファーストネームの記入欄をなくし、顔写真の提出も不要とした。理由について、人事担当者は「“性別や大学名といった情報と個々人の個性を切り離して考えたい”という私たちの想いを示すため」だと話している。なお、今後については、検討中ということだ。

一方、三菱ケミカルは、2021年の春の採用から、性別の記入欄をなくし、顔写真の提出も不要となった。経験・能力・適性・関心に焦点を当てた公正な採用選考を行うために、こうした情報を取得しないということだ。また、姓名については、ニックネームでもOKだという。人事担当者は、「ご本人が採用選考を通じて窮屈な思いをされることがないよう、ご本人が望むお名前でお呼びすることが大切であると考えています。性自認とは異なる場合など、戸籍姓名がご本人で決定されるものではない点も踏まえております」と話す。今後については、応募者の変容する価値観や環境に応じた採用選考を目指していくという。顔写真なし、性別不要のエントリーを行う企業はまだまだ少ないが、こうした取り組みを行ったことで、学生たちの反応はどうだったのか? また、採用する側は顔や性別がわからないことで苦労したことはなかったのか?まずは、東京海上日動火災保険の人事担当者に詳しく話を聞いてみた。東京海上日動火災保険「価値観や考え方にフォーカス」――まず、エントリーシートの時点で書類選考をするの?エントリーシートには「学生時代に頑張ったこと」といった、各個人オリジナルのエピソードを記載いただいています。こうしたエピソードからはご本人の個性が読み取れますので、提出いただいたエントリーシートはすべて読み、WEBテスト結果を加味して書類選考をさせていただいています。――面接が進んでいくと、顔写真を撮影することはある?選考過程で応募者の写真を撮影したり、写真の提出を求めることはありません。――これまでは性別や顔写真が影響を与えていたと思う?選考に影響していた可能性を完全には否定できないと思います。ただし、顔写真における容姿ではなく、服装や写真の形式が適切かという観点で影響を与えていた可能性があります。――採用試験の登録で、顔写真の添付なし、性別不要にした理由は?秋採用では「個性」を重視するため、顔写真や性別だけでなく、ファーストネーム、大学名などの情報は一切聞きませんでした。性別や大学名といった情報と、個々人の個性を切り離して考えたい、という私たちの想いを示すためです。一人ひとりの価値観や考え方にフォーカスした採用活動をしていくため、学生時代に取り組んだことやその時に考えたことなど、オリジナリティだけで勝負できる選考にしたいと思い実施しました。エントリーした学生「自分という人間で勝負できると思った」――顔写真や性別なしで採用する側として苦労した点は?顔写真がないことや性別が事前に分からないことについて、面接官からやりづらさがあったという報告は特段ありませんでした。大学名については、「在籍している大学による無意識のバイアスが排除されるため、より人物本位の選考につながると思った」といった感想がありました。――面接する側はどんな研修をしている?面接に関する説明会を開催し、面接官には必ず受講してもらうようにしています。特に最近はオンライン面接も増えたため、オンライン面接での注意点等もそこで説明するようにしています。――登録した学生たちの反応は?顔写真や性別に関する感想は特段把握していませんが、大学名を不要としたことについては、「東京海上日動=『東京の大学』の学生の採用実績が多く、自分のような地方大学の学生にはなかなかチャンスがない会社だと思っていたが、大学名を書かないでエントリーできることを知り、自分という人間で勝負できると思いエントリーした」といった声がありました。――最後に、就活生に向けたメッセージをお願いしたいこれから就職活動がさらに本格化してくるかと思います。さらに忙しくなる冬のインターンシップや本選考では、ぜひ皆さんご自身の「個性」を大切にしてください。「他の就活生と比べたら、部活動やアルバイトで誇れる実績がないので、自信がありません」、そんな声を聞くこともあります。部活動やアルバイト、様々な活動の「結果」だけを比較したら、きっと上には上がいて、悩んでしまうかもしれません。一方で、皆さんの「個性」は他の人と比較できるものではなく、一人ひとりのオリジナルなものです。100人中1位を狙うのではなく、100分の1の自分らしさで勝負する、そんな気持ちで就職活動に取り組んでいただけたらと思います。もう1社、ニックネームでの登録もOKの三菱ケミカルの場合はどうなのだろうか? 人事担当者に詳しく話を聞いてみた。三菱ケミカル「選考が終了するまでは顔写真の提供をお願いしない」――エントリーシートの時点で書類選考をする?はい、エントリーシートと適性検査を総合的に判断し、書類選考を実施します。――面接が進んでいくと、顔写真を撮影することはある?いいえ、採用選考が終了するまでは顔写真の提供をお願いしておりません。入社手続きの一環として社員証用のお写真の提供などをお願いしています。――これまでは性別や顔写真が影響を与えていたと思う?はい、アンコンシャスバイアス(無意識の思い込みや偏見)は誰もが持つものであり、影響は否定できないと考えています。――顔写真や性別なしで採用する側として苦労した点は?母体保護法により女性が配置できないポジションのマッチングでは、応募時にスクリーニングをすることが実施できません。性別による配置制約があるポジションであることを漏れなく応募者の方に丁寧に伝えるようにしております。また新卒採用においては一度に大人数の方と面接でお会いすることになるため、以前は顔写真を拝見して選考情報の記憶を呼び起こしているケースもありました。こうした点については記憶に頼るのではなく、きちんと言語化して残していくという、あるべき姿に向かっているようにも思います。ニックネームは「選考中に呼ぶ名前」として登録――ニックネームで提出しても、面接では本名を名乗るのでは?「選考中にお呼びするお名前」としてご登録をいただけます。新卒採用では多くはありませんが、婚姻により戸籍姓が異なる方が、旧姓で名乗られていることがございます。また、外国籍の方については、ミドルネームを含め、必ずしもLegal nameではなく、通称氏名でご登録されていることがあります。――ニックネームで登録している学生に共通点はあった?実際にご入社となった方々に限り、「選考中にお呼びするお名前」と「戸籍姓名/Legal name」が異なるということがわかるため、把握できる数は僅少ではありますが、前述の通り、ご結婚されている方や外国籍の方が「選考中にお呼びするお名前」をご利用されているように見受けられます。――面接する側はどんな研修をしている?採用担当だけでなく選考に関わる社員には、研修やマニュアル、説明会を通じてアンコンシャスバイアスが誰もが持っている点を踏まえ、経験・能力・適性・関心に焦点を当てた公正な視点で選考を行うようトレーニングを実施しています。国籍や性別・宗教・文化・価値観・考え方など、多様なバックグラウンドを持つ方々の応募が今後増えていく中で、採用選考のあるべき姿も変容し続けるものであり、逐次、採用選考の方法や採用市況の情報をアップデートすることを心がけております。学生たちは好意的に受け止めているよう――登録した学生たちの反応は?好意的に受け止めていただいているように感じています。私たちの採用選考に対するこうしたスタンスを、企業価値と捉え志望動機の一つとしていただくケースも一定あり、企業ブランディングにも寄与していると感じています。――最後に、就活生にメッセージをお願いしたい私たちは、属性による多様性(性別や国籍、人種、年齢など)、内なる多様性(個人の考え方や価値観など)を持った方に仲間として加わっていただくことを心から望んでいます。これは、ダイバーシティ&インクルージョンこそがイノベーションの源泉であり、企業競争力の基盤であると考えているからです。応募者の皆様と私たち双方で納得のいくマッチングを実現するためにも、応募者の皆さんが自分らしく、窮屈な思いをされることがないよう最大限の配慮を今後も続けてまいります。こうした私たちの想いに共感いただける皆様と採用選考を通じてお会いできることを心待ちにしております。学生たちにとっては個性で勝負できると好評のようだ。顔写真なし、性別記入なしといった取り組みで、今後は、より個性が重視される公正な採用選考になっていくのかもしれない。
企業の採用試験に提出するエントリーシートなどで、性別の記入をなくし、顔写真の提出を求めないケースが増えつつあるようだ。中には、ニックネームでの登録もOKだという企業もある。
東京海上日動火災保険は、今年の秋採用について、ホームページの応募画面から性別、大学名、ファーストネームの記入欄をなくし、顔写真の提出も不要とした。理由について、人事担当者は「“性別や大学名といった情報と個々人の個性を切り離して考えたい”という私たちの想いを示すため」だと話している。なお、今後については、検討中ということだ。
一方、三菱ケミカルは、2021年の春の採用から、性別の記入欄をなくし、顔写真の提出も不要となった。経験・能力・適性・関心に焦点を当てた公正な採用選考を行うために、こうした情報を取得しないということだ。
また、姓名については、ニックネームでもOKだという。人事担当者は、「ご本人が採用選考を通じて窮屈な思いをされることがないよう、ご本人が望むお名前でお呼びすることが大切であると考えています。性自認とは異なる場合など、戸籍姓名がご本人で決定されるものではない点も踏まえております」と話す。今後については、応募者の変容する価値観や環境に応じた採用選考を目指していくという。
顔写真なし、性別不要のエントリーを行う企業はまだまだ少ないが、こうした取り組みを行ったことで、学生たちの反応はどうだったのか? また、採用する側は顔や性別がわからないことで苦労したことはなかったのか?
まずは、東京海上日動火災保険の人事担当者に詳しく話を聞いてみた。
――まず、エントリーシートの時点で書類選考をするの?
エントリーシートには「学生時代に頑張ったこと」といった、各個人オリジナルのエピソードを記載いただいています。こうしたエピソードからはご本人の個性が読み取れますので、提出いただいたエントリーシートはすべて読み、WEBテスト結果を加味して書類選考をさせていただいています。
――面接が進んでいくと、顔写真を撮影することはある?
選考過程で応募者の写真を撮影したり、写真の提出を求めることはありません。
――これまでは性別や顔写真が影響を与えていたと思う?
選考に影響していた可能性を完全には否定できないと思います。ただし、顔写真における容姿ではなく、服装や写真の形式が適切かという観点で影響を与えていた可能性があります。
――採用試験の登録で、顔写真の添付なし、性別不要にした理由は?
秋採用では「個性」を重視するため、顔写真や性別だけでなく、ファーストネーム、大学名などの情報は一切聞きませんでした。性別や大学名といった情報と、個々人の個性を切り離して考えたい、という私たちの想いを示すためです。
一人ひとりの価値観や考え方にフォーカスした採用活動をしていくため、学生時代に取り組んだことやその時に考えたことなど、オリジナリティだけで勝負できる選考にしたいと思い実施しました。
――顔写真や性別なしで採用する側として苦労した点は?
顔写真がないことや性別が事前に分からないことについて、面接官からやりづらさがあったという報告は特段ありませんでした。大学名については、「在籍している大学による無意識のバイアスが排除されるため、より人物本位の選考につながると思った」といった感想がありました。
――面接する側はどんな研修をしている?
面接に関する説明会を開催し、面接官には必ず受講してもらうようにしています。特に最近はオンライン面接も増えたため、オンライン面接での注意点等もそこで説明するようにしています。
――登録した学生たちの反応は?
顔写真や性別に関する感想は特段把握していませんが、大学名を不要としたことについては、「東京海上日動=『東京の大学』の学生の採用実績が多く、自分のような地方大学の学生にはなかなかチャンスがない会社だと思っていたが、大学名を書かないでエントリーできることを知り、自分という人間で勝負できると思いエントリーした」といった声がありました。
――最後に、就活生に向けたメッセージをお願いしたい
これから就職活動がさらに本格化してくるかと思います。さらに忙しくなる冬のインターンシップや本選考では、ぜひ皆さんご自身の「個性」を大切にしてください。「他の就活生と比べたら、部活動やアルバイトで誇れる実績がないので、自信がありません」、そんな声を聞くこともあります。
部活動やアルバイト、様々な活動の「結果」だけを比較したら、きっと上には上がいて、悩んでしまうかもしれません。一方で、皆さんの「個性」は他の人と比較できるものではなく、一人ひとりのオリジナルなものです。
100人中1位を狙うのではなく、100分の1の自分らしさで勝負する、そんな気持ちで就職活動に取り組んでいただけたらと思います。
もう1社、ニックネームでの登録もOKの三菱ケミカルの場合はどうなのだろうか? 人事担当者に詳しく話を聞いてみた。
――エントリーシートの時点で書類選考をする?
はい、エントリーシートと適性検査を総合的に判断し、書類選考を実施します。
――面接が進んでいくと、顔写真を撮影することはある?
いいえ、採用選考が終了するまでは顔写真の提供をお願いしておりません。入社手続きの一環として社員証用のお写真の提供などをお願いしています。
――これまでは性別や顔写真が影響を与えていたと思う?
はい、アンコンシャスバイアス(無意識の思い込みや偏見)は誰もが持つものであり、影響は否定できないと考えています。
――顔写真や性別なしで採用する側として苦労した点は?
母体保護法により女性が配置できないポジションのマッチングでは、応募時にスクリーニングをすることが実施できません。性別による配置制約があるポジションであることを漏れなく応募者の方に丁寧に伝えるようにしております。また新卒採用においては一度に大人数の方と面接でお会いすることになるため、以前は顔写真を拝見して選考情報の記憶を呼び起こしているケースもありました。こうした点については記憶に頼るのではなく、きちんと言語化して残していくという、あるべき姿に向かっているようにも思います。
――ニックネームで提出しても、面接では本名を名乗るのでは?
「選考中にお呼びするお名前」としてご登録をいただけます。新卒採用では多くはありませんが、婚姻により戸籍姓が異なる方が、旧姓で名乗られていることがございます。また、外国籍の方については、ミドルネームを含め、必ずしもLegal nameではなく、通称氏名でご登録されていることがあります。
――ニックネームで登録している学生に共通点はあった?
実際にご入社となった方々に限り、「選考中にお呼びするお名前」と「戸籍姓名/Legal name」が異なるということがわかるため、把握できる数は僅少ではありますが、前述の通り、ご結婚されている方や外国籍の方が「選考中にお呼びするお名前」をご利用されているように見受けられます。
――面接する側はどんな研修をしている?
採用担当だけでなく選考に関わる社員には、研修やマニュアル、説明会を通じてアンコンシャスバイアスが誰もが持っている点を踏まえ、経験・能力・適性・関心に焦点を当てた公正な視点で選考を行うようトレーニングを実施しています。国籍や性別・宗教・文化・価値観・考え方など、多様なバックグラウンドを持つ方々の応募が今後増えていく中で、採用選考のあるべき姿も変容し続けるものであり、逐次、採用選考の方法や採用市況の情報をアップデートすることを心がけております。
――登録した学生たちの反応は?
好意的に受け止めていただいているように感じています。私たちの採用選考に対するこうしたスタンスを、企業価値と捉え志望動機の一つとしていただくケースも一定あり、企業ブランディングにも寄与していると感じています。
――最後に、就活生にメッセージをお願いしたい
私たちは、属性による多様性(性別や国籍、人種、年齢など)、内なる多様性(個人の考え方や価値観など)を持った方に仲間として加わっていただくことを心から望んでいます。これは、ダイバーシティ&インクルージョンこそがイノベーションの源泉であり、企業競争力の基盤であると考えているからです。
応募者の皆様と私たち双方で納得のいくマッチングを実現するためにも、応募者の皆さんが自分らしく、窮屈な思いをされることがないよう最大限の配慮を今後も続けてまいります。こうした私たちの想いに共感いただける皆様と採用選考を通じてお会いできることを心待ちにしております。
学生たちにとっては個性で勝負できると好評のようだ。顔写真なし、性別記入なしといった取り組みで、今後は、より個性が重視される公正な採用選考になっていくのかもしれない。

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