「髪が薄くなっていませんか?」数箇所しかなかった円形脱毛が10箇所に…死刑執行が近づいた“平成最悪の通り魔・加藤智大”に起きた異変

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〈「早く終わってくれ」相手は7人を殺害した死刑囚…“秋葉原通り魔事件・加藤智大の理髪係”が感じた「異常なプレッシャー」〉から続く
死亡者は7人…2008年、秋葉原で平成最悪の通り魔事件を起こした加藤智大。死刑を言い渡され、それを待つ間に加藤に起きた「目に見える異変」とは? 理髪係として複数回、加藤と相対したガリ氏による初の著書『死刑囚の理髪係』(彩図社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)
【写真を見る】円形脱毛のせいで髪が薄くなった“平成最悪の通り魔”
死刑が近づいてきた加藤智大に起きた異変とは…? 写真はイメージ getty
◆◆◆
出所までの約2年間、私はその後も何度か加藤死刑囚の理髪を担当した。
加藤は2回目の理髪まではマネキン人形状態だったが、3回目以降は多少人間味のあるような行動もとるようになった。いくらかは私のことを信用してくれるようになったのかもしれない。
ある日の理髪作業中、加藤はか細い声で私にこう尋ねてきた。
「髪が薄くなっていませんか?」
加藤は始めと終わりの挨拶以外に余計なことを口にするタイプではなかったので、私は驚きを隠せなかった。
正直言って、少し前から加藤の頭髪が異常をきたしていることには気づいていた。100円玉サイズの円形脱毛が、後頭部に目立つようになっていたのだ。最初は数箇所だった脱毛がみるみる10箇所ほどに増え、頭皮は赤くただれ、何度も掻きむしった痕があった。
その時期にはちょうど、施設内で「そろそろ加藤の死刑が執行されるのでは」という噂が流れていた。加藤は現行犯で逮捕されているため再審もない。また世間的にも大きく認知されている事件なので、見せしめ的な意味合いも込め、早めに執行されるだろうと全員が踏んでいたのだ。
――噂が、加藤本人の耳にも入ったのかもしれない。
私は直感的にそう思った。というか、そう思わざるを得ないほど、加藤の頭皮には苦悩と恐怖が入り混じった極限の精神状態が表れていた。
正直に言おうかとも思ったが、結局私は、「いえ、変わりないですよ」と返事をした。
これ以上彼に精神的な負荷をかけるのは得策ではないと思ったのだ。
「最近の加藤は荒れてるみたいなんで、気をつけてください」と直前にメガネくんに言われていたことも大きかった。
加藤の死刑は、大方の予想から3年ほど遅れて執行された。
私が出所した後の話だ。
また別の日には、加藤の左耳の裏をバリカンで切って出血させてしまったこともあった。
痩せている人や皮膚が薄い人を担当するときは、気をつけていないとバリカンの刃で耳の裏の皮膚を巻き込んで切ってしまうことがある。稀にしか起こらない事故ではあるが、よりによって加藤相手にケアレスミスを犯してしまった。
あっ、と思った瞬間にはもう遅かった。
加藤はびくっと身体をよじり、表情を引き攣らせた。
――ヤバい、終わった。
私は一瞬で覚悟した。
作業でミスをして死刑囚が暴れでもしたら、一発で調査・懲罰に飛ばされてしまう。そして一度でも飛ばされた人間は、基本的にはもう元の作業をさせてもらえることはない。さらに刑期に関しても、最短でシャバに出るという道は閉ざされてしまう。
刈り長先生に訴えるか、この場で直接私に襲いかかってくるか――向こうの出方を見るために身構えたが、意外にも加藤は何のアクションも起こさなかった。
――あれ、見逃してくれたのか?
幸い、垂れてくるほどの出血はなかったため、適宜血を拭き取りながら私は何事もなかったかのように作業を続けた。
この件に関して加藤がなぜ、お咎めなしで済ませてくれたのか?
その真相は結局わからないままだったし、今となってはもう確かめようもない。
「死刑囚が見せた優しさ」なんて変な言い方だし語弊もありそうだが、あながち全く無い話でもないのではないか――どうも私には、そう思えてしまう出来事だった。少ないやり取りの中で、私は一瞬だけ加藤の“人間”の部分を見た気がした。

なぜこの男が通り魔なんか――その疑問が頭から離れず、私は出所後に加藤の生い立ちを調べたことがある。そこで得た情報によると、加藤は幼少期、厳格な両親のもとで異常なまでにシビアな教育を受けていたようだ。
勉強ができないと風呂に沈められたり、わざと床に落とされた食事を「食べろ」と命令されたり、そのような虐待は日常茶飯事だったらしい。そこで溜め込まれた強烈なストレスや苛立ちが、彼の心に渦巻く闇を形作っていたのかもしれない。
(ガリ/Webオリジナル(外部転載))

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