「収入が2倍になるはずだったのに…」会社を「情熱」だけで買ってしまったサラリーマンの残酷すぎる結末

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老後2000万円問題が叫ばれて久しい。しかし、生活水準を落としたくないのであれば「2000万円でも足りない」。政府の経済的支援を当てにすることもできない。現代日本ではサラリーマンであっても資産を形成することが求められている。そんな人は会社を買おう。もしあなたが一般的なサラリーマンならば、既に会社を経営するノウハウを自然と身に着けているのだ。
本連載では、平凡なサラリーマンが会社を購入し成功した例を紹介しながら、具体的に「どうやって資本家として成功するのか」を『いますぐサラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい』(三戸政和著)から一部抜粋して紹介する。
『いますぐサラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい』連載第23回
『「会社を買いたい!」…この“一言”であなたの人生が大きく好転する衝撃の理由』より続く
「好き」、「得意な業界」、「得意な地域」からなる会社選びの重要性をこれまでの連載でお話してきました。
逆に言えば、会社選びの段階で間違えれば、かなりの確率で失敗します。ここまで個人M&Aで成功した事例ばかり紹介してきたので、ここでは「失敗するべくして失敗した」事例を紹介します。
大手メーカーで技術職として50代まで働いてきたTさんは、M&Aマッチングサイト「TRANBI」を利用して、広告代理店が売りに出していたフリーペーパー発行事業を150万円で買収しました。
病院に置かれている入院患者向けのフリーペーパーで、関東版と関西版が発行されており、Tさんはその関西版を買ったのです。毎月発行される48ページのフリーペーパーは、半分以上のページが企業の広告になっており、もともと広告収入で成り立つモデルでした。
しかし、特に関西版のほうで広告収入が減少し、発行元の出版社が関西版の事業を関西の広告代理店に売却。広告代理店がテコ入れしようとしましたが、これもうまくいかず、4ヵ月後にTRANBIに売りに出したところを、Tさんが個人で買収したのです。
Tさんの算段はこうでした。自分が広告営業を頑張って取ることによって、月々400万円くらいは売り上げが立つ可能性がある。フリーペーパーの製作と印刷には1号ごとに250万円程度かかるので、うまくいけば差し引き150万円が手元に残る。そうなれば年間1800万円の収入が得られる–。
それまでのサラリーマン時代の年収は1000万円程度だったので、2倍近い収入になるとTさんは目論見ました。買収金額が150万円と、自己資金で手が届くこともポイントでした。
結果は、会社を買った後、実際に得られた広告収入は毎号50万円程度。1号ごとに200万円の赤字です。4号を発行した時点で、800万円のマイナスとなり、金融機関から借りた運転資金が底をつきそうになったところで休刊。再びTRANBIに売りに出すことになりました。
Tさんはいくつかのミスをしてしまいました。
一つめはまず落ち目の事業を買ったこと。インターネット全盛の時代において、フリーペーパーは、いわゆるオワコン気味になっている状態です。
長年フリーペーパーを発行してきた出版社が、事業をあきらめて広告代理店に売却したのは、その先の事業計画の見通しが悪かったからということかもしれません。そう想像できるかどうかが、目利きのポイントだったのでしょう。
また、フリーペーパー事業の収入はすべて広告収入ですから、広告営業をし続けなければなりません。つまり営業が命の会社です。しかし、Tさんはメーカーの技術職一筋30年、営業をしたことがないのです。実際に電話営業を行っても、ほとんどガチャ切りされ、新規の売り上げを作ることができませんでした。
その事業に知見もなく、これまで培ったスキルをあまり生かせる会社でもない。さらに、会社を選ぶうえでもっとも大事な要素である、「そのビジネスが好きか」という点においても疑わしいものでした。
Tさんはフリーペーパーを普段読むことはほとんどなく、特にフリーペーパー事業に興味を持っていたわけではありません。ただ単純に、会社を買いたいと思ってTRANBIを見ていたら、150万円で買える手頃な会社を見つけたということだったのです。
会社を買うメリットは、すでに利益の出ている会社をそのまま引き継げることや、自分のスキルによってテコ入れをして売り上げアップが見込めることです。
今回で言えば、発行元だった出版社も、事業を買い取った広告代理店も利益を出せずに売却した事業ですから、前者のメリットはありませんでした。後者で言えば、たとえば、広告営業の経験者でスキルに自信があり、またタイアップ企画やイベントなどで既存の広告以外でも収入を生み出せる、といったプランでもない限り、難しいと言わざるを得ません。
また、会社(事業)のことを事前に調べたわけでもありませんでした。TさんがTRANBIでこの案件を見つけたのは2019年1月11日の夜のことでした。22時過ぎにメッセージを送ったら10分後には交渉が始まり、それから一日10回ほどのメールのやり取りをしました。14日には広告代理店の社長と面談。20日にはフリーペーパーの関東版の発行元である出版社社長と面談し、翌日に正式に買い取ることを回答したそうです。わずか10日間の買収劇。これでは会社のことを調べる余裕もありません。そして、23日には勤めている会社に退職の希望を伝えたというのです。
Tさんはいま、そのことを後悔し、「1ヵ月でもいいから、スタッフとしてフリーペーパーの仕事をさせてもらえばよかった」と言っています。
買収の意思決定を早くすることで会社を買うことができる(案件を取れる)というのがM&Aのセオリーではありますが、検討にあたっては、慎重に相手の会社のことを調査・分析しないといけないということも言わずもがなです。会社を買いたいという「情熱」と、この会社を買ってもいいのかという「冷静」の間で意思決定しなければいけません。この両輪の感情をうまく回しながら進めるのがM&Aではとても重要なこととなります。
TさんのM&Aは、会社を選ぶ定性判断のポイントとなる「その事業が好きか」「得意な業界か」「得意な地域か」の三つのファクターをまったく満たしていませんでした。同時に、まともな事業計画も立てていませんでしたが、金額が低かったこともあり、会社を買いたいという情熱が先行しすぎてしまったわけです。
Tさんは、他の人にはこのような失敗をしてほしくないと言います。私も同感です。
『儲けたいなら「経営だけではダメ」…中小企業を買収する前に絶対知っておくべき「リスクヘッジ」の“具体的な方法”を大公開』に続く
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