【宮地 美陽子】「巨大地震」で日本のタワマンは一瞬で崩壊してしまうのか

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

2011年3月11日、戦後最大の自然災害となる東日本大震災が発生した。あれから13年、令和6年能登半島地震をはじめ何度も震災が起きている。
しかしながら、これから起きうる大きな自然災害(首都直下地震、南海トラフ巨大地震、富士山噴火)について本当の意味で防災意識を持っている人はどれほどいるだろうか。
もはや誰もが大地震から逃れられない時代、10刷ベストセラーの話題書『首都防衛』では、知らなかったでは絶対にすまされない「最悪の被害想定」が描かれ、また、防災に必要なデータ・対策が1冊にまとまっている。
(※本記事は宮地美陽子『首都防衛』から抜粋・編集したものです)
「これまで日本が経験していたのは多くが『田舎の地震』。首都直下地震は未曽有の都市型地震となる」
ビルの耐震を研究してきた名古屋大学の福和伸夫名誉教授は、警鐘を鳴らす。
「都市型」と言えば、1995年の阪神・淡路大震災が有名だ。ただ、あれから30年近くが経過し、ビルや商業施設、タワマンをはじめとする高層マンションは大都市を中心に急増している。初めて「新時代の都市型地震」が発生すれば、過去に経験のない被害が生じる可能性があるだろう。
日本で初めて高さ100メートルを超える高層ビルが誕生したのは1968年だ。日本の首都に建設された「霞が関ビルディング」は、当時の最新技術を駆使し、50年以上経っても存在感を放ち続ける。
この高層ビルが建設される前、どのような地面の揺れ方が生じれば建物がいかなる揺れ方をするのかが研究された。物理学で習う「ニュートンの運動の第2法則」にあるように、物体に力が与えられたときに物体がどれだけ加速するのかを分析したのだ。
物体は加速度を持って揺れているときには慣性力が働く。建物を横から押すように働く慣性力に対して、壊れないようにするのが基本になる。建物への横からの力は、「建物の重量×加速度」で計算され、地震によるダメージによってビルが潰れないように設計がなされた。
ただ、建物の流行りは時代とともに変化していく。
福和名誉教授によると、過去は国会議事堂のようながっちりとした造りで、揺れに対して壁の強さで抵抗したが、現代のガラス張りのおしゃれなビルなどは「粘り」で抵抗するという。
揺れが強度を超えても建物がすぐに倒れないよう「柱」で粘る。建物を変形させやすくしているため、ある程度構造的に損傷を受けることを前提としており、空間を確保し、人命を守る。
建物そのものが倒れなくても損傷によって“空間”が守られる「損傷許容型」に不安がないわけではない。新耐震基準の建築も損傷許容型が多く存在するが、地震によるダメージを受けた後にそのまま使い続けることができる保証はない。
補強できるレベルか、解体するレベルか、ビルの構造を知る設計者でなければ、損傷後の安全性を判断できない点も大きな課題だ。
ビルが崩壊すれば、道路は塞がれ、救急車や消防車といった緊急車両の通行を妨げることにつながる。一刻を争う被災時に致命的とも言える問題だ。
首都直下地震への対策を進める東京都は、耐震改修促進法に基づき、「旧耐震」で建てられた特定緊急輸送道路沿道の建築物や避難上配慮が必要な大規模建築物のうち、震度6以上で倒壊・崩壊の危険性がある建物を2018年から公表している(https://www.taishin.metro.tokyo.lg.jp/tokyo/topic06.html)。
ビルには耐震・改修工事に着手しているところも多いが、築50年以上が経過した建物が手を打たずにいれば、思わぬ事態を招くと見る専門家は少なくない。
国交省の「避難路沿道建築物の耐震診断結果の都道府県別公表状況」(2023年3月31日現在)によると、避難路沿道建築物のうち倒壊又は崩壊する危険性が「低い」建築物の割合は、東京都42%、大阪府26%、神奈川県25%、愛知県22%で、危険性が「高い」または「ある」建築物が多く残されていることがわかる。
今から70年以上前に考えられた建築基準法には「建築基準は最低基準」と明記されている。南海トラフ巨大地震や首都直下地震の発生が高確率で予想される中、耐震基準は全国一律のままでよいのか。住み続けられ、使い続けられる建物が望まれる。揺れ方が倍も異なる地盤の特性を踏まえた対策と準備が求められている。
つづく「『まさか死んでないよな…』ある日突然、日本人を襲う大災害『最悪のシミュレーション』」では、日本でかなりの確率で起こり得る「恐怖の大連動」の全容を具体的なケース・シミュレーションで描き出している。
「まさか死んでないよな…」ある日突然、日本人を襲う大災害「最悪のシミュレーション」

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。