【佐藤 喬】「本」を読むのは「少数派」という現実…「地方在住・低学歴・低所得層」では「本がどこで買えるか」も知らない人も

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短い動画が投稿されるSNS「TikTok」で小説の紹介を続けているある男性のところには、本の感想だけでなく、次のような質問が届くことがあるという(※1)。
「本はどこで買えるんですか」
「非常識」な質問である。だが、日本社会の知的資源の格差を念頭に置くと、必ずしもそうは言い切れないことが見えてくる。
まず、そもそも読書は一般的な習慣ではまったくない。読書習慣に関する調査は非学術的なものも含め多いが、中でも信頼できそうな文化庁の大規模調査(「国語に関する世論調査」)によると、日本人のほぼ2人に1人は「月に一冊も」本を読まない。その割合は調査年によって微妙に違うが(読書に関わる質問があったのは平成14・20・25・30年度)、近年はおおむね50%弱で安定しているから、何かの間違いとは言えなさそうである。もちろん、そういう人々も年に数冊くらいは本を読んでいる可能性はあるが、それをもって「読書習慣」といえるだろうか。
要するに、日本人の2人に1人は本をまったく、あるいはほとんどまったく読まない。残りの50%にしても一か月の読書量は1~2冊と答える者が圧倒的に多いので(2018年は37.6%)、毎週のように新しい本を読む熱心な読書家は、人口の1割程度しかいない例外的な存在であることがわかる。
なお、上記調査にはじめて読書量についての質問が表れた2002年のデータでは月に1冊も読まない者の割合は37.6%だったので、短期的には読書離れが起こっている可能性はある。しかし、連載初回で触れたようにそもそも明治時代初頭には大半の日本人は文章を読めなかったのだから、読書や文字を読む習慣が150年かけて、あるいは日本列島に文字が伝来してからの千数百年かけて、徐々に大衆化してきたことは間違いない。
だが、繰り返しになるが、今日でも、日本人の2人に1人は本をまったく、あるいはほとんどまったく読まない。「本を読む」という行為は決して「普通」ではないということだ。
さらに重大な問題は、習慣的に本を読むような変わった人間は社会に均等に散らばっているのではなく、ある場所には多かったり別の場所には少なかったりと偏って存在している点にある。
よく言われるように、収入と読書量には相関があり、収入が高い層ほど本をよく読む傾向がある(※2)。
また、学歴と読書習慣との関係を示すデータも多い。たとえば就業者10000人を対象にした2023年の調査(※3)では、大学院卒の読書率は高校・中卒の人々のそれのほぼ倍だった(32.4%と16.3%。ただし「読書」の具体的な内容は問うていない)。読書については育った環境の影響も大きいようで、20~39歳を対象に「15歳のときに家にあった本の数」と本人の学歴との関係を調べた2015年の調査では、本が10冊以下しかない家で育った人間の68.7%は最終学歴が高校卒業だが、逆に501冊以上本がある家で育ったものは、実に77.4%が大学を卒業している(※4)。
読書という知的習慣が、子どもの学力や将来性に影響している可能性も高い(※5)。不気味なことに、子ども時代の読書量と認知機能(の高さ)との関係を示す研究もある(※6)。知的な格差は、読書などの文化的習慣を介し、世代を超えて引き継がれる。
さらには、書店の分布にも地域による大きな偏りがあり、都市部に多く地方に少ない。大都市では想像しにくいが、実は、日本全国の自治体1741市区町村のおよそ1/4にはそもそも書店が存在しない。2022年時点で書店がある自治体は、「市」では98%に上るが、「町」だと63%、「村」だと11%しかない(※7)。この調査には大手取次を介さない「独立系書店」や古書店は含まれないが、含んでも傾向は変わらないだろう。身の回りに本屋がある環境は決して「普通」ではない。
つまり、日常的に本を読むような少数派の人間は都市部の高学歴・高所得層に偏っているし、その逆も言える。そして結婚相手には同じ階層の人間を選ぶ傾向があるだろうから、「家にほとんど本がなく、両親に読書習慣がなく、書店が近くにない」という環境で育つ者が少なからずいることがわかる。ならば、本の入手先を知らない若者がいても、まったく不思議ではない。
『早稲田、京大、東大…マスコミの新入社員は「偏差値60以上」だらけ!高学歴が集まって「普通の日本人」に向けて情報発信することへの「強烈な違和感」』に続く…
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※1『小説現代』講談社、2021年11月号「TikTokクリエイターけんご 小説紹介インタビュー」
※2「現代人の読書実態調査」「マイナビ2021年調査」など
※3パーソル総合研究所「働く10,000人の就業・成長定点調査」
※4マネーポストWEB『学力が収入に直結する社会 「家の蔵書量が多いほど高学歴」は本当だった』
※5「縦断データを用いた文化資本相続過程の実証的検討」松岡 亮二・中室 牧子・乾 友彦ほか
※6「子どもの頃の読書活動の効果に関する調査研究」国立青少年教育振興機構
※7朝日新聞デジタル「書店ゼロ自治体、全国で26% ネットでの無料配送規制の議論も」
早稲田、京大、東大…マスコミの新入社員は「偏差値60以上」だらけ!高学歴が集まって「普通の日本人」に向けて情報発信することへの「強烈な違和感」

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