「エラい人の気分に」「警察官に憧れて」 スーツ姿で“顔パス”警視庁・外務省・厚労省に侵入男 ニセ議員バッジ事件の動機は?

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国会議員になりすますなどして、霞ヶ関の官庁だけではなく、警視庁庁舎にも出入りしていたとされる男。「エラい人の気分になりたかった」との供述には、あきれてしまうのだが、多くの人は「警備は大丈夫かよ」と思っているのでは・・・。
8月24日夜、警視庁麹町署に、外務省から1本の通報が入った。「不審な男が外務省内に入り込んだ」というものだった。警備員が、スーツ姿でうろつく男に”違和感”を覚えて通報したもので、警察官が到着した時には、すでに男は立ち去った後だった。
そこから、麹町署は、防犯カメラの映像をつなぎあわせて、犯人の足取りを追う”リレー捜査”を開始。あっという間に、男の居所を特定し、6日後には、品川区南大井に住む藤本叶人容疑者・22歳を逮捕した。容疑は建造物侵入だった(逮捕日8月31日)。
藤本容疑者は、インターネットを通じて、ニセの議員バッジを購入したとみられている。ニュース映像などでもお馴染みの、国会議員が胸につけている、あのベージュ色のフサフサした感じバッジだ。
記者の記憶をたどってみても、大臣クラスの国会議員が霞ヶ関の庁舎に出入りする場合は、確かに、「顔パス」で入庁している。警備員が、国会議員の”顔”を見て、入庁を許可しているのか、それとも、胸のバッジを確認しているのかは分からない。
ただ、藤本容疑者は、あのバッジを悪用して、外務省に侵入したのだった。「エラい人の気分になりたかった」「承認欲求を満たしたかった」と動機を語る藤本容疑者。そんな中、事態を重く見た警視庁では、この事件の捜査に、あの「泣く子も黙る」捜査一課を投入。
さらに、防犯カメラの画像解析を進めたところ、翌8月25日に、外務省近くの厚生労働省などが入る中央庁舎5号館にも侵入していたことを突き止めた。この時も、スーツにバッジ姿だった藤本容疑者は、建造物侵入の疑いで再逮捕された(逮捕日9月20日)。
調べに対して藤本容疑者は、「一般人では見られない所に入ってみたかった」と供述しているのだが、ギョッとしたのは、逮捕した側の警視庁だったのではないか。実は、藤本容疑者を家宅捜索したところ、ある”腕章”が出てきたからだ。
事件のニュース映像を見ると、容疑者の連行や家宅捜索の場面で、捜査員が腕章をつけているのを目にする。捜査一課や捜査三課など、それぞれが所属する部署によって、腕章は違うのだが、藤本容疑者宅からは、警視庁「組対二課」の腕章が出てきたのだった。
警視庁では、今年4月に、大規模な組織改編が行われ、「組対二課」から「国際犯罪対策課」に名称が変更されたが、昔も今も、不良外国人を取り締まるプロ集団であることに変わりはない。あの準暴力団「チャイニーズドラゴン」と対峙しているのも彼らだ。
外国人犯罪全盛時は、捜査一課や組対四課(暴力団担当)よりも、激しい”修羅場”をくぐっていたのではないだろうか。そんな「組対二課」の腕章を、藤本容疑者は、警視庁丸の内庁舎に、勝手に入り込んで、持ち出したというのだ。
犯行時期は、今年5月中旬~7月中旬としか特定されていない。議員バッジも着けていない藤本容疑者は、スーツ姿で、丸の内庁舎の入口を素通り。さらに、IDカードでしか開かない国際犯罪対策課の扉も、他の警察官の後ろに”くっついて”入り込んだというのだ。
記者は、国会議事堂や各官公庁などに、取材のために、度々、出入りしたことがあるが、警視庁のセキュリティーレベルは、かなり高いと思っている。その警視庁に、ど正面から、スーッと入り込むとは・・・。今度は、腕章を盗んだ窃盗容疑で、藤本容疑者は再逮捕された(3回目・逮捕日10月6日)。
調べに対しては「子どものころから警察官に憧れていた」と話しているとのこと。ニセ議員バッジを手にした男だ。当然、国会議事堂にも入り込んでいた可能性はある。その辺は、捜査一課が、追及しているところだろう。
この事件のニュースに触れて、多くの人は、「日本の官公庁、警備は大丈夫か?」とあきれているだろう。昨今の民間オフィスビルは、どこもセキュリティー体制は万全だ。そんな中、テロ対策の最前線である警視庁庁舎まで入り込まれていたとは。
ただ、記者としては、どこの官公庁にも、まるで「顔パス」のように入り込む、藤本容疑者の「強心臓」に驚かされる。不法侵入を楽しんでいるかのようだ。この男、何者か?
(フジテレビ報道局・解説委員 平松秀)

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