「願書出し忘れた」と担任から涙の謝罪、女子生徒は第一志望の高校受験できず…「受験生の担当教員に仕事集中」

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福岡市の私立中学校で2月、教員が高校入試の出願期限を誤認して高校に「門前払い」され、生徒が志望校を受験できなくなった。
高校側は後に方針を撤回したものの、受験校の変更を余儀なくされた生徒は心に深い傷を負った。「15の春」を泣かせる事態はなぜ起きたのか。背景を探ると、膨大な入試業務に忙殺される学校現場の姿が浮かんできた。(植田優美、中尾健)
「願書を出すのを忘れ、受験できなくなりました」
私立博多女子中(福岡市東区)に通う女子生徒の保護者は2月16日夕、涙ながらに謝罪する担任の電話に衝撃を受けた。生徒は第1志望の公立古賀竟成館(きょうせいかん)高(福岡県古賀市)への進学を目指し、1週間後の入試本番に向けて猛勉強していた頃だった。事情を知った生徒はふさぎ込んだという。
同高は福岡県の古賀、福津両市と新宮町の3市町で組織する全国でも珍しい「組合立」で、一般入試を行った県立高などの公立高102校で唯一、入試日程が異なっていた。出願期限は他校より4日早い16日正午だったが、気づかないまま約2時間後に3人分の願書を持ち込んだ教員は、「締め切りは過ぎている」と告げられた。救済措置も拒まれ、生徒は県立高を受験することになった。
経緯が報じられると、同情論が広がった。同様のミスは過去にも全国で相次いでいたが、特例として受験を認める事例が多いためだ。
高校側はその後、「生徒に落ち度はなかった」として対応を一転させ、受験の機会を設けた。だが、決定までに約3週間かかり、生徒はすでに県立高を受験した後だった。組合の教育委員会は「前例がなく、協議を続けていた」とするが、生徒の父親は取材に「娘はすでに気持ちを切り替えた後で、県立高の結果も出ていない中での受験は考えられない様子だった」と語る。県立高には合格したものの、父親の胸中は複雑だ。「子どもたちのため、もっと早く判断してほしかった」
博多女子中は「教員間のチェックミスが原因」として保護者説明会でも謝罪。確認の態勢を強化する。
■授業合間、各校に持参
「『ルールはルール』とした高校側の判断もわかる。ただ、同じミスは自分の学校でも起こっていたかもしれない」と語るのは、県内の公立中に勤務するベテランの男性教諭だ。
九州・山口の各県教委によると、公立高への願書提出は各校への持ち込みが原則だ。この教諭によると、中3の生徒を受け持つ教員は授業の合間を縫って対応し、遠方の高校には車で1時間以上かけて出向く。書類に不備があれば修正して再び届けることもある。
受験料の集金や、願書に添付する証紙の購入も教員の仕事で、現金を教員が学校まで持参する県もある。教諭は「『ミスがなくて当たり前』と言われるが、いつ『当たり前』が崩れてもおかしくない」と懸念する。
■負担減へ、ネット出願
授業や部活動に加え、膨大な事務作業を抱え込む教員の過重労働は、これまでも問題視されてきた。負担軽減策の一つがネット上で出願できる仕組みの導入だ。
文部科学省のまとめによると、2023年度には群馬、三重、広島各県などが取り入れている。北九州市立高でも専用サイトを通じて出願できるようにした。市教委によると、中学校では進路面談時の記入補助、高校でも手書きの願書をパソコンで入力し直すといった負担がなくなったという。
熊本市立高では、20年度の入試からクレジットカードなどで受験料を支払った時点で出願が「仮受け付け」され、願書の提出漏れも確認できる。25年度の実施を目指し、新年度予算に約1億円を計上した福岡県教委は、「受験生や学校の負担を減らすのが狙いだが、出願ミスを減らす効果も期待できる」としている。
一方、長崎県では離島の一部で試験的に取り入れているが、全県での導入時期は未定という。システムの運用コストが課題だといい、大分県も「導入の利点や課題を慎重に見極めたい」(高校教育課)としている。
教員の業務負担に詳しい明星大の神林寿幸准教授(教育行政学)の話「受験生の担当教員には仕事が集中しがちだ。学校全体で支える態勢が不可欠で、教育委員会では手続きのオンライン化、地区ごとの一斉受付日の設定などを検討することも必要ではないか」

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