離婚なら多額の財産分与、息子は独立済み…それでも「不倫夫を捨てられない」と50代女性が悩む本当の理由

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私のカウンセリングを受けに来るクライアントさんは悩みや不安を抱えていますから、元気がなかったり、つらそうだったりする人がほとんどです。それでも50代の女性・Aさんが初めてカウンセリングリームに入ってきた時、その美しさと重苦しい表情とのギャップに驚きました。
Aさんは夫と別居したばかりでした。「1人で過ごしていると不安ばかりが押し寄せてきて耐えられない……。この先、1人で生きていく自信もない」。別居から1カ月でこのような状態になっている彼女を心配した友人の勧めで、私のクリニックを受診したそうです。
別居の原因は夫の不倫にありました。夫婦関係は何年も前から悪く、別の女性がいることはずいぶん前から知っていたと言います。夫はその女性との再婚を考えており、離婚を希望していますが、Aさんは受け入れる気がなく、夫が家を出ていく形で別居したそうです。
専業主婦のAさん。離婚を拒否している理由は経済的な不安が大きいのかと思いましたが、息子さんはすでに独立しています。しかも、実家の家業を継いでいる夫にはかなりの資産もあり、離婚の条件として住んでいるマンションのほか、十分すぎる財産分与を申し出てくれているそうです。
「このまま別居を続けるのですか?」と尋ねた私に、「私のような何もできない人間が、1人で生きていけるとは思えないんです。長い老後を1人で過ごす自信もありません」とAさん。
しかし、時間が経ち、カウンセリングの雰囲気に慣れてきたのでしょう。夫や不倫相手の女性への怒りがよみがえってきたようで、彼らを批判する言葉もどんどんきつくなっていきました。そうやってかなりの時間、怒りに任せて話していたAさんでしたが、少し落ち着きを取り戻したところでこう言ったのです。「これまでも不満が溜まりに溜まって、大人げなく怒ってしまうことがありました。こんな私といるのが嫌だから離婚したいのでしょうね……」
カウンセリングでは他者と関わるときの思考や行動のクセ(自我状態)を客観的に理解するために、「エゴグラム」を実施します。これは「交流分析」という心理療法で使われる性格分析の手法で、どのクライアントさんに対しても行います。
Aさんは求める理想像が高く、自分だけでなく相手に対しても厳しい見方をしてしまう「葛藤型」というタイプ。一方で自己肯定感は低く、自分の意見や気持ちを伝えることができずにストレスを溜めてしまう傾向があります。不安を抱えてカウンセリングに来る人の多くがこの「葛藤型」です。
「大人げなく怒ってしまう」のは、いつも感情を抑えているため、それが溜まった時に爆発してしまうからなのでしょう。怒った後に自己嫌悪に陥り、さらに自己肯定感が下がってしまう……というネガティブのループにハマっている状態です。
そして、カウンセリングを続けてみると、感情を出せないのは育った環境が大きく影響していました。Aさんの父は高圧的な人で、母はいつも叱責されていました。母は心に余裕がない状態で、Aさんは「迷惑をかけてはいけない。自分がしっかりして、弟も守らなきゃ」と思っていたといいます。事情を知っている叔母からも「お母さんを助けてあげて。あなただけが頼りだから」と言われており、自分よりも家族のことを優先に考えるようになっていったそうです。
Aさんは心が不安という感情でいっぱいなまま大人になったのでしょう。孤独感や絶望感も強い状態だった彼女にまず必要なのは、安心で満たし、自己肯定感を高めることです。そして、自己肯定感を高めるためには「I’mOK」を出せること。つまり、ありのままの自分を認められることが大前提ですが、長い間、それができていない状態でした。
そこから、時間をかけてさまざまな心理療法を行いました。潜在意識を書き換える本格的なものに加え、不安を軽減する「回転ワーク」、過去の嫌な記憶を追い払う「スイッシュ」、相手の立場に立って考えてみる「リフレーミング」など、たくさんのワークを実践。疲れやすい、不眠なども訴えていたので、同時に自律神経を整えるためのトレーニングも行っていきました。
3カ月ほど経ち、感情も安定して、自分を客観的に見つめられるように。振り返ると夫はAさんの行う家事や子育てにもかなり意見を押し付けてくる人でしたが、理不尽でもずっと我慢してきました。でも、溜まりに溜まった怒りをぶつけてしまうことはあっても、きちんと夫と向き合って自分の気持ちを伝えたことはなかった、ということに気づいたのです。
人は心が満たされていない時、不安や不足感が強い時、それを外から補おうとして自分を愛してほしい、認めてほしいという思いが強くなります。試し行為、試し行動とよばれる、愛情を確認するためにわざと困らせるような行動を無意識にすることもあります。
相手に期待して、それがかなわないと裏切られたと感じて激しく落ち込んだり、怒りを感じたりしてしまいます。これは相手の行動に自分の幸福を完全に依存させてしまっている状態です。Aさんも夫に過度に依存してしまい、過剰な期待をしてしまっていました。「それに応えてもらえなくて、一方的に不満を感じていました。そもそも夫を愛しているとは言えない状態だったのに、なぜ、あんなに夫に執着していたのでしょうね」。
女性が離婚を考えた時に不安を感じることの1つが経済的な面ですが、Aさんはそれとは無縁です。でも、自己肯定感、そして自己効力感が低く、心が安心で満たされていない人は、そもそも新しい環境や生き方を選ぶという決断ができないことが多いのです。
しかし、Aさんはカウンセリングを通じて自分の価値を外側でなく、内側に見出せるようになりました。そして、自分にもできると思えるようになったことで、機嫌よく気持ちよく生きていくためにはどうすればいいかを考えられるようになったのです。
自分に対して「I’mOK」を出し、自身の機嫌をとれるようになると、自分で自分を幸せにできるようになります。そして、不安な感情や思考に振り回されることがなくなり、相手とのほどよい距離感や適切なコミュニケーションをとれるようになります。夫ともよいコミュニケーションがとれるようになっていきました。
ところが、その後、Aさんは意外なほどあっさりと離婚を決めたのです。自信や安心を積み重ねたことも大きいのですが、決断を後押ししたのが「5つの基本的欲求」のテストでした。心理学の理論の1つ「選択理論心理学」では、人には必ず5つの基本的欲求があると考えられています。
【5つの基本的欲求】
生存の欲求食べたり、飲んだり、眠ったりしたい。健康でいたい。
愛、所属の欲求愛し、愛される関係を築きたい。誰かとつながっていたい。他人と親しくなり、関わりを持ちたい。
力の欲求認められたい、勝ちたい、役に立ちたい(貢献、承認、達成、競争などの要素がある)。
自由の欲求自分のやりたいようにしたい。精神面の自由、経済的に自由でいたい。自分らしさを追求したい。
楽しみの欲求新たな知識、笑いを求めたい。教養、ユーモア、好奇心、学習・成長、ユーモアなどを追求する。
「選択理論心理学」は、すべての行動は自らの選択で決まるという考えに基づいています。それぞれの欲求に対する強さやバランスを知ることは、自分を理解することにつながると考えられていて、欲求のレベルはテストで計測できます。カウンセリングで必ず行うわけではありませんが、Aさんは自分がどう生きたいかを知ることが大切だと考え、テストを受けてもらったのです。
その結果、最も強かった欲求は「愛、所属の欲求」。子ども時代からこの欲求が満たされていないことに気づき、今の自分には新しい出会いやつながりを作っていくことのほうが大切だと感じたのです。
カウンセリングから半年。見違えるほど元気になったAさんは、以前から興味のあった資格の勉強も開始。「これからは円満に離婚ができるように、弁護士の先生に相談していきます」とおっしゃり、私のカウンセリングは終了となりました。
離婚問題がきっかけでカウンセリングを受ける人は少なくありません。女性だけでなく、男性のクライアントもいます。
一概には言えませんが、離婚で苦しむ人の傾向として自己肯定感の低さを感じます。自分の価値を相手からの愛情や承認でしかはかれず、そのため依存や束縛につながってしまう。または自分には価値がないという思い込みから、相手の言動をすべて悪いほうに捉えてしまう。
それに息苦しさを感じたパートナーが離れたいと考えるようになる。時には外に癒やしや開放感を求めて不倫してしまうというケースもあります(もちろん、そういう行動に出てしまうパートナーも心の問題を抱えている可能性がありそうです)。
またAさんのようにありのままの自分を出せないために、自分の感情や思いをうまく伝えられない人も少なくありません。夫婦間のコミュニケーション不足が積み重なった結果、離婚という選択を迫られてしまうこともあります。
もし、今、夫婦の問題で悩んでいる場合、まずはやり直したいのか、別れたいのかを決めていくことになります。どんな選択をするにしても、まずは自分の状態を整えましょう。整った状態でない時は、間違った選択をしてしまいがちです。
落ち着いて状況を俯瞰(ふかん)できるようになると、2人にとって何がいちばん必要なのかを判断できるようになります。「5つの基本的欲求」で最も重視していることを知ることで、どうしたらお互いの欲求を満たしてうまくやっていけるかを考えてみるのもおすすめです。
———-柳川 由美子(やながわ・ゆみこ)公認心理師臨床心理士、産業カウンセラー、不安専門カウンセラー。鎌倉女子大学児童学部子ども心理学科卒業。東海大学大学院前期博士課程(文学研究科コミュニケーション学専攻臨床心理学系)修了。義母の末期がんの看病をきっかけにピアノ教師からカウンセラーを志し、自身の不安症の克服経験から、大学院等で「脳は心を解き明かせるか」「脳から見た生涯発達と心の統合」を学ぶ。2005年より大学やメンタルクリニック、企業研修などの活動を開始し、現在は「メディカルスパ西鎌倉」「メディカルスパみなとみらい」でカウンセリングを行う。1万回以上の個人セッション経験を通して相談者の共通パターンを発見。独自メソッドで解決に導いている。著書に『晴れないココロが軽くなる本』(フォレスト出版)、『不安な自分を救う方法』(かんき出版)。———-
(公認心理師 柳川 由美子)

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