世界30ヶ国を旅した筆者が「世界で最もカオスな国」と断言するインド。その地で３年前から家族を守るために粛々と働く34歳・日本人会社員について〈「赴任1週間でもう日本に帰りたかった」世界で最もカオスな国・インドで働く34歳商社マンの「気になる年収」〉で紹介した。本稿では引き続き、同国で働く森川優氏（仮名＝以下同）に話を聞いていく。
聞き手：佐藤大輝（世界30ヶ国を旅したバックパッカー）
ーー海外赴任手当などを加え、森川さんの年収は1200万円。恵まれた経済力でありながら、それでも「日本に帰りたい」と思う理由について詳しく聞かせてください。
いくらでもありますが、まず、大気汚染が酷いです。例えば首都デリーでは100メートル先が見えなくなることもあるくらい、信じられないくらい空気が汚れているんです。生まれたばかりの子供もいるので心配で…。妻と話し合った結果、自宅に空気清浄機を8台設置しました。
ーーその勢いで、異国で働くことの苦労や愚痴についてお願いします。
コミュニケーションの方法にも苦労していますね。言語の壁はもちろんですが、どちらかと言うと文化の違いに苦戦してます。例えばインドでは、日本を含めたアジア圏特有の「情」あるいは「忠義」による考え方と、ヨーロッパ圏で見られる「サービス残業なんて糞くらえ」といった「契約」による考え方、2つの価値観が混在しているんです。自分が困った時は情に訴え、都合の良いときは契約を前面に押し出す社員もおり、頭を抱えています。
それから、宗教が絡んだ問題も厄介ですね。無宗教の国民が大半を占める日本と異なり、インドではヒンドゥー教、イスラム教、仏教などの信者が混在しています。あるとき、社内不倫の姿が職場の防犯カメラに撮影されてました。宗教上、不貞を働いた女性は離婚あるいは再婚の際に著しく不利益が生じるため、これをわかっていて行為に及んだ男性社員はけしからんということで、不貞を働いた男性社員を解雇することが決まりました……。
しかし、解雇に納得できなかった社員は、裁判で白黒させると徹底抗戦の構えを見せたんです。問題を大きくしたくなかったこともあり、給料2ヶ月分で示談。円満退社に成功しましたが、あのときはヒヤヒヤしました。
ーー現地の方とのコミュニケーションは英語で行うのですか？
基本的にはそうです。僕自身、インドで働くまで留学経験はなく、自分の英語力が通用するのか不安でした。けれど習うより慣れろの精神で挑んだところ、日常会話とビジネス会話であれば特に問題なく過ごせるようになりました。
ここ最近はヒンドゥー語の勉強も頑張っています。職場で、僕の悪口をヒンドゥー語で言い合っている社員がいると密告があったんです。その場でキチンと注意できるようにならねばと思い、片言のヒンドゥー語であれば理解できるようになりました。
ーーその他に、海外勤務で困っていることはありますか？
やっぱり文化の違いですかね。お昼休憩の際、とある社員が僕にカレーをおすそ分けしてくれたことがあったんです。断るわけにもいかないので受け取ったのですが、手から手への手渡しだったんですよね…。向こうではスプーンを使わずに手で食べるのが当たり前なので、衛生的に嫌だなと思いながらも、ここは食べるしかないと思って頑張りました。
食事の問題も悩みの一つですね。インド人はカレーばかりを食べていますが、とにかく辛くて辛くて…。とてもじゃないですが僕には食べれたもんじゃありません。
それからマサラと呼ばれる香辛料がインドカレーには使われるのですが、僕の口には合わないので、こっちに来てからカレーはほとんど食べてませんね。
日本食が恋しいですよ。アメリカやヨーロッパと違って、インドでは寿司屋なんて存在しませんから。仮にあったとしても、インドで生魚を食べようとは絶対に思いませんが笑。
ーー食事はどのようにしているのですか？
出産のため妻が日本に帰っている際は、3食すべて外食かデリバリーで済ましてました。インドではなぜかイタリアン料理の店が多くて、小麦粉が美味しいこともあり、ピザ生地を使った料理はお世辞抜きでかなり美味しい。1食あたり1500円から2000円程しますが、食事以外にお金を使うことがないので…。今は妻が作ってくれています。今日の夜ご飯はシチューだと、さっき連絡がありました。
ーーインドの衛生面はどうですか？ お腹を壊したりするのでしょうか？
月に1回は必ずお腹を壊しています。必ずです。妻も同じように苦しんでいます。発熱はありませんが、2日間くらいは下痢が続きますね。それから衛生面ですが、とにかくカオスです。街中に飛んでいる蝿の数がえげつないんですよね。インド人はチャイ（紅茶）を飲む習慣があるんですけど、砂糖が入っているせいか、容器に蝿が集まります。苦手な人は絶対に見ない方がいいでしょうね。
ーー私もインドを訪れた時、街中に落ちている動物の糞をカサカサしていた大量の蝿が、ブーンと飛んできて自分の頬にピタピタくっついた時は悲鳴を上げました。では最後に、この記事を読んてくれているマネー現代の読者の方へ、メッセージをお願いします。
もしも読者様の中に一度も国外に出たことのない方がいるのなら、一回でいいので、ぜひ異国の地を訪れてほしいです。そうすればきっと、日本の素晴らしさを確認できると思います。日本人にとっては当たり前の生活が、僕からすると本当に羨ましい。インドに来る前から厳しい生活になることは予想していましたが、まさかここまでとは思っていませんでした。1日でも早く日本に帰りたいところですが、あと少し任期が残っているので、もしインドへ遊びに来ることがあれば連絡ください。美味しいチャイをご馳走します。
ーーユーモアのあるメッセージを頂きました。本日は貴重なお話をありがとうございました！
2500万で「軽井沢の別荘」を買って大後悔した、元エリート商社マンの悲惨な老後