人気洋菓子店の最後の1日『開店2時間前に300人』並んだ人は「娘が大好き…思い出が詰まっている」「買えなかったら泣く」37年の歴史に幕『なかたに亭』

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大阪・上本町の行列ができる洋菓子店『なかたに亭』。口コミサイトでは「スイーツの名店」選出常連店です。しかし3月17日に大勢のファンから惜しまれながら閉店となりました。最後の1日を定点観測しました。

人生の節目に花を添えて人々の心を満たすケーキ。大阪・上本町の洋菓子店『なかたに亭』には、一番人気のチョコレートケーキ「カライブ」をはじめ、25種類の色とりどりのケーキがショーケースに並びます。

(客)「すっごいファンで、食べられて幸せでした」 (中谷さん)「ありがとうございます」
(客)「おいしいケーキをありがとうございました」 (中谷さん)「こちらこそ長い間ありがとうございました」
そんな地元で愛される店が3月17日に37年の歴史に幕を下ろしました。

その3月17日、まだ日も登らない午前6時。早朝にもかかわらず店の前にすでに人の姿がありました。
(並ぶ客)「今日が最終日なので、どうしても食べたいなと思って」 (並ぶ客)「(Qゲットしたいものは?)やっぱりカライブ。ドキドキですね、買えなかったらたぶん泣くと思います」

午前7時。自転車に乗った男性がやってきました。『なかたに亭』オーナーシェフの中谷哲哉さん(65)です。
(中谷さん)「ちょっとまだ後ろまで見ていないんですけど、けっこう早くから来ていただいていますね」

(中谷さん)「おはよう~」 (パティシエたち)「おはようございます」
厨房では開店に向けてパティシエたちが最後の仕上げ。今日1日で1200個のケーキを作ります。
(中谷さん)「カライブは何個作るんやったっけ? (パティシエ)「430個」 (中谷さん)「430個。頑張りましょう」 (パティシエ)「頑張りましょう」
厨房の忙しさはこの時間がピークです。

中谷さんも忙しい合間を縫って店の外を見に行きます。
(スタッフ)「今300人です」 (中谷さん)「わかりました。もうそろそろいくと思うので」
開店2時間前ですでに300人の列。

実は閉店の発表以降、行列は日に日に長くなり、苦肉の策で8日前から毎朝『入店抽選券』を配っています。入店時間が書かれた紙が引ければ当たりです。

運命の抽選結果は…
(当たった人)「わ!やったー!当たりました」 (当たった人)「良かった!最後に当たった。良かった。これで5回目です。ようやく初めてです。チョコケーキをここで食べたら幸せになれたんやけど、もうやらないんやな。これが悲しいわ」
午前10時。そして…
(中谷さん)「じゃあ今日も頑張るで!オー!」 (スタッフ)「オー!」 (中谷さん)「よろしく~」

『なかたに亭』の最後の1日が始まりました。開店と同時に店内は人でいっぱいです。
5回目のチャレンジで入店できたという男性。
(男性)「ブラウニーと…ノワゼットを小さいやつから4個…」
チョコレートのケーキやお菓子を次々に注文していきます。
(スタッフ)「重いのでお気をつけて」

(男性)「(Qどれくらい買った?)全部で40点くらいかな。今から家に帰って紅茶を入れて食べます」

ホールケーキを購入した女性は…。
(女性)「子どもが幼稚園の卒園があったので、お祝いに最後にと思って注文しました。(Qどのくらい通っている?)6~7年くらいですね。(娘は)ケーキが苦手なんですけど、ここのはすごく大好きで。『なかたに亭のケーキだ』って言って喜んで食べます。(Q魅力は?)何よりもおいしいことと、思い出がたくさん詰まっているので」
(スタッフ)「ご予約ありがとうございました」
大好きなケーキを食べて、娘さんも大喜びだったんだそう。

続いてやってきた家族。これまで親だけで訪れていた『なかたに亭』に初めて娘を連れてきたといいます。
(母)「えーどうしよう…どうしようかな」
お母さん、最後に食べるケーキを悩みに悩みます。
(娘)「カライブが良い。カライブ」 (母)「カライブがいいの?」 (母)「じゃあカライブもう1つ」 (娘)「(Q買いたいケーキは買えた?)うん。(Q何ケーキが好き?)チョコケーキ。早く食べたい」

そして夕方。
(姉妹)「いただきます」「おいしい!」
自分で注文したカライブをお姉ちゃんと仲良く食べたんだって。

午前11時。この時間、中谷さんの姿は再び厨房にありました。
(中谷さん)「今日はみんなのために最後のまかないを僕がつくったので。野菜たっぷりチキンのスパイシーカレーです。セボン(おいしい)です」
3日前から仕込んでいた中谷さん特製の野菜チキンカレー。スタッフと一緒に束の間の休憩です。

(中谷さん)「彼女はアレなんですよ、彼女はOGなんですよ。今は他の店で働いているんですけど、今日は有給休暇をとって手伝いに来てくれた」
(中谷さん)「チキンカレーどう?」 (スタッフ)「おいしいです」 (中谷さん)「いけてる?」
(スタッフ)「(Q中谷さんはどんな方?)本当に人生で出会ったことがないような人で。シェフは楽しくやりたいという方で、やるときはちゃんとやるし、楽しくする時は楽しくやる、みたいな感じで。人柄が良すぎてもう大好きです」
(中谷さん)「どう?カレーおいしい?」 (スタッフ)「涙が出てきました」 (中谷さん)「カレー食べながら泣かんといて」

フランスの2つ星ホテルなどでパティシエとして働いた後、1987年に創業した『なかたに亭』。これまでに様々なケーキや洋菓子を作り上げてきましたが、37年を迎える今年、閉店すると決めました。
(中谷さん)「(誰かに)任せたら今の僕より良くしてくれるかもしれないですけど、良いところも悪いところも含めて、接客も全て含めて『なかたに亭』なので。色々なご意見があると思うんですけど、自分のわがままというか、決断です」
自らで始めた店を、65歳という1つの節目に、自らで閉めることにしました。

午後1時半。1人の男性がやってきました。塩田博之さん。中谷さんとは高校の同級生で50年の付き合いです。
(塩田さん)「見にきてん。最後」 (中谷さん)「えー、ありがとう」

(塩田さん)「彼がずっとここでがんばっていて。涙が出てくる。今でも持っている。ここがオープンした時の案内状」 (中谷さん)「そんなん持ってるの。凄いなそれ。覚えてない」 (塩田さん)「『このたび長年の夢がかない、自分の店をオープンすることになりました。ショーケースの中のいろとりどりのお菓子達と一緒にみなさまのお越しを心よりお待ちしております。 中谷哲哉』」 (中谷さん)「なんかちょっと思い出してきましたね。完全に忘れていたけど。ありがとう」 (塩田さん)「がんばって」

午後3時。朝、行列に並んでいた男性の姿が。
(午前6時過ぎの男性)「(Qゲットしたいものは?)やっぱりカライブ。買えなかったらたぶん泣くと思います」
開店から5時間が経っていますが、お目当てのカライブはまだ残っているのでしょうか?
(注文する男性)「カライブを2つと…カライブをあともう1つで」
(男性)「(Qきょうの収穫は?)カライブを3つ。自分はとりあえず2つ食べるので。最後に食べられると思うと良かったなと思います」
午後4時半。だんだんと残りのケーキも少なくなってきました。
(スタッフ)「フレジエ完売です」

少しずつ閉店の時間が近付いてきました。そして…
(中谷さん)「これ最後の2つなので。37年間の最後のケーキ」 (客)「これ2つください」
午後5時。最後のケーキが売り切れ、『なかたに亭』の最後のお客さんを送り出しました。

(なかたに亭 中谷哲哉さん)「皆さんお疲れ様でした。ありがとうございました。ひとときも、つくる人・販売の人が笑顔を忘れず、お客さんに本当に率直に誠実に向き合ってくれたのが本当にうれしいです。多分それは伝わっていると思います。『なかたに亭』は今日閉店するんですけど、みんなとの関係が終わるわけではないので。ちょっとゆっくりさせてもらって、また何か新しいことができたらいいなと思います。本当に長い間ありがとうございました」

人生の節目に寄り添い、食べた人を笑顔にしてきた『なかたに亭』のケーキ。

その優しい味と思い出の記憶はこの先も消えることはありません。

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