マンション価格の高騰が止まらない。かつて「億ション(=1億円以上のマンション)」が話題をさらった時代が嘘のように、今の不動産業界では2億、3億超えのマンションでないと「超高額マンション」と呼ばない。
【グラフ】世帯収入1500万円のパワーカップルはいくらローンを借りられるか? 住宅ローンの借入可能額のグラフを見る
ここでは、不動産業界に精通する牧野知弘氏が、高騰するマンション価格の謎を紐解く『なぜマンションは高騰しているのか』(祥伝社新書)より一部を抜粋。超高額マンションを購入するようなパワーカップルが陥る「落とし穴」とは――。(全4回の1回目/続きを読む)
◆◆◆
メディアでは、「高騰を続けるマンションを積極的に購入しているのはパワーカップル」などと報道されています。この「パワーカップル」とは、具体的にどのような人たちなのでしょうか。
パワーカップルという家族形態に、正確な定義はありません。おおむね、夫婦共働きで世帯年収の多い夫婦を指すようです。三菱総合研究所では「世帯年収1000万円以上の夫婦」、ニッセイ基礎研究所では「夫婦それぞれで年収700万円以上、世帯年収で1400万円以上」としています。
optimus/イメージマート
どちらが実態に即しているかは別として、高値になった新築マンションを購入できるのは、ニッセイ基礎研究所が定義する「世帯年収1400万円以上」になるでしょう。また、マンションの購入層は30代後半から40代ですから、その年代で年収700万円を超えるのは、2022年度の上場企業社員の平均年収638万円(帝国データバンク調査)を鑑みると、多くは上場企業に勤める社員ということになります。
パワーカップルは世の中にどれくらい存在するのでしょうか。ニッセイ基礎研究所の調査によれば、2022年で37万世帯、全世帯の約0.66%という希少種です。共働き世帯は全国で1646万世帯ですから、共働き世帯に絞っても2.25%です。割合こそ小さいですが、2018年時点でのパワーカップルは26万世帯ですから、わずか4年間で40%以上も増加しています。
家族構成はどうでしょうか。以前は、夫婦共働きで子供がいない世帯をDINKs(Double Income No Kids)と表現しました。夫婦で多額の年収を稼ぐので、パワーカップルの主体はDINKsかと思いきや、その比率は39.4%。パワーカップルの57.6%は夫婦と子供、つまりDEWKs(Double Employed With Kids)です。普通に夫婦で働いて子供も持つ。今はそんな、しなやかな時代になっているのです。
では、パワーカップルはどの程度の「パワー」を持っているのでしょうか。
マンション購入を前提に、シミュレーションしてみます。マンションを購入する際、多くは住宅ローンを活用します。ここでは期間35年を想定して、世帯収入1500万円のパワーカップルがどこまでローンを借りることができるかを考えます。
住宅ローンは長らく低金利が続いていますが、2023年10月時点で短期プライムレートに連動する変動金利は約2.5%、超長期の固定金利は2.9%程度です。仮に金利2%とし、年間のローン返済額を年収の25%と、返済適正比率(20~25%)の上限値に設定します。
すると、【図表1】で示すように、9433万円の借り入れが可能になります。金融機関によってはさまざまな特典への加入によって金利水準をさらに低く、0%台前半に設定しているところもありますので、借入可能額は1億2400万円程度にまで膨らみます。
パワーカップルであれば、ある程度の貯蓄があるはずで、頭金として1000万~2000万円は用意することができるでしょう。また、夫婦共に上場企業勤務の場合、親たちも裕福なケースが多いと想定されますから、双方の親の援助を見込めば、億ションに十分手が届きます。世帯年収2000万円を超える場合は、頭金や親からの援助を加えることで「2億ション」をゲットできる可能性も十分にあります。
昭和の時代、住宅は年収の5倍が適当、7倍が限界と言われました。それが、低金利と夫婦が共に働くことで、また給与の上昇もダブルに期待できることで、多少高額でも十分に購入を検討できる時代になったわけです。
億ションに手が届くということは、現在の相場からも坪単価500万~600万円台の湾岸にあるタワーマンションを買うことは可能ですし、実際、そうした層が高額になったマンション販売現場に果敢に参入してきています。
パワーカップルのバイイングパワー、恐るべし、ただし、リスクがないわけではありません。
超長期のローンを前提にしたマンション購入には、落とし穴があります。
1つ目が、金利の変動です。変動金利は当然ながら、将来にわたって金利が約束されているわけではありません。多くの金融機関で、金利が上昇した場合も「キャップ」と呼ばれる上限金利を設定していますが、固定期間にも上限(10年程度)があります。
【図表2】は、世帯年収1500万円の夫婦が金利2%で9433万円(年間返済額は年収の25%)を借り入れた場合の金利変動による返済額をシミュレーションしたものです。金利が上昇し、3%になると返済額は年間で60万6588円アップ、4%になると126万2268円、年収に対する返済比率は33.4%にも達します。これだと、かなり厳しいですね。
2つ目の落とし穴が、会社勤めにかかわるリスクです。上場企業の多くが終身雇用とはいえ、以前のような年功序列の給与体系は少なくなり、リストラなどによる降格や年収ダウンは珍しくありません。また、上場企業であっても業績が悪化し、倒産する事例も多くあります。2気筒エンジン(夫と妻)のどちらかが機能低下、あるいは機能停止するリスクを抱えているのです。
3つ目の落とし穴が、離婚リスクです。マンションを購入する時にローンを組む際、パワーカップルの多くは、夫婦ペアローンを選択します。ローンを組むには、(1)借入名義は1人にして夫婦のどちらかが連帯保証人となる、(2)夫婦が別々にローンを調達して互いに連帯保証する、の2通りがありますが、所得税控除などの特典がダブルに使える(2)のペアローンを選択するケースがほとんどです。
ということは、離婚した場合、片方がマンションに住み続けても、出て行ったほうも返済を継続しなければなりません。もちろん、片方がもういっぽうの債務を引き継ぐことはできますが、借入時点で目一杯に借りていると、1人での返済は厳しくなります。人間同士は別れることができても、マンションを分け合うことはできません。
結局はマンションを売却して返済する形が多くなります。
マーケットを賑わすパワーカップルですが、無理をすると、そのぶん被るリスクも大きくなります。とはいえ、マンションを手に入れたばかりの幸せな夫婦は、「これからも会社は安泰、夫婦そろって昇進・昇給、末永く仲睦まじい夫婦」であることを疑っていないでしょうが……。
〈「ホテルを取るのがもったいないから、マンションを買っておこう」と考えるアジア人観光客…日本の不動産が海外から“魅力的”と思われるワケ〉へ続く
(牧野 知弘/Webオリジナル(外部転載))