【奥村 シンゴ】80代の祖母が突然「猛スピードで徘徊」し始めて…付き添った孫が辿り着いた「まさかの場所」

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公益社団法人「認知症の人と家族の会」がまとめた「認知症の人の行方不明や徘徊、 自動車運転にかかわる実態調査」報告によれば、行方不明がはじまったころの要介護度は、未診断と要介護1が224件(57.3%)と半数以上を占めています。終息したころの要介護度は要介護2から3が154件(73.3%)です。
世間ではなんとなく「要介護度が高いから徘徊が出やすい」という認識がありますが、むしろ要介護度の低いほうが「徘徊」が出現しやすいのです。
筆者は、30歳過ぎから8年間80代半ばの祖母の近距離介護をほぼ1人で担っていました。いわゆる「孫介護」者の一人です。また、母親が同時に脳梗塞や大腸がんを罹患し「ダブルケア」になった時期がありました。
祖母は、ケア当初から「徘徊」と思われる症状が出ていて、筆者は昼夜問わず対応に追われました。彼女の徘徊した場所や動機は、筆者自身、そして読者の方も想像しづらいと思われます。詳しく紹介していきましょう。
私が祖母を介護していた時期は8年に及びますが、ケアをして5年目ぐらいから、週2回から週4回、時間も昼夜問わず「徘徊」の頻度が増えました。
「徘徊」とは、認知症の症状の一つで、脳の働きが低下し見当識障害や記憶障害などの影響と精神的・肉体的・環境的な原因で起こることが多いです。
見当識障害は、周囲の状況が理解できない、自分の居場所がわからず混乱します。記憶障害は、記憶ができない、短期的な記憶を忘れます。
祖母の場合も、私の知らぬ間に家を出て近所を歩き回ることが多かったです。
ある日のこと。突然朝方に玄関のドアノブをガチャガチャする音が聞こえたので見にいくと祖母が物凄い鬼の形相で「これなんで開かないの?外に出たいの」と言ってきました。
「ばあちゃん、今日施設行くのはお休みだから家でゆっくりしてよ。後で散歩に一緒に行こうや」と私が言うのにも聞く耳を全くもちません……。
私は、ケアマネージャーから「おばあちゃんがどうしても外へ出たいといえば、シンゴさんのご負担は大変だと思いますが、無理して止めず、できれば付き添ってあげてください」とアドバイスをうけていました。そのため、祖母の「徘徊」時、無理して行動を抑制せず、一緒に付き添っていました。
祖母は、身長が142センチ少し、体重が64キロで、足はむくみがひどく、かろうじて片杖でゆっくり歩行できる程度。しかし、この時は普段の歩行速度からすれば3倍ぐらい速いスピードで歩いていました。
「徘徊する時にかぎって歩行速度が増す」と聞くことがありますが、自分の親族で体感することになるとは……。
私は「ばあちゃん、どこに行きたいの?」と聞くと、祖母は「あそこの角を右に曲がれば、お兄さんやお姉さん達がいっぱいいるところに着くんだよ」と言います。
祖母は、昔の職場や故郷を思い出し歩いてるのかと思っていたら違いました……。
「もうすぐすればお寺さんに着くのよ、この角を左に曲がったらね」
お寺さんとは、私によく言っていた、祖母がお気に入りだったお泊りデイサービスの事でした。
お泊りデイサービスとは、通常のデイサービス利用後にそのまま同じ施設に宿泊できるサービス。通い慣れた親しみのある場所に宿泊できるため、利用者の精神的な負担が少ないのに加え、近年、ショートステイの空きが慢性的に少なく、需要が高まっています。
祖母はこれまで、「あんな姥捨て山のような場所には二度と行きません。私は家でシンゴと一緒に過ごします。体にどこも悪い部分はありませんよ」とデイサービスやショートステイへ行くのを拒否していました。
私やケアマネージャーの説得や裏ワザもあってようやく渋々行ったものの(詳細は拙著『おばあちゃんは、ぼくが介護します。』にて)、帰宅したら愚痴の連続、介護施設内で「シンゴくんがいる場所へ帰る」と号泣したり大声で叫んだりと、職員も手を焼いていた時期がありました。
そういう祖母だったので、お泊りデイサービスとの出逢いはまさに青天の霹靂でした。
祖母は、建物が寺に似ているので普段から「お寺さん」と呼んでいる、お泊まりデイサービスを目的地にして歩いていました。帰宅願望ならぬ施設願望の出現……。「自分の家に帰りたい」と徘徊する高齢者は後をたちませんが、まさかお泊りデイサービスだったとは……。
20分ぐらい歩き、国道に出ました。
「あの大きな坂を上にのぼるとお寺さんに着くの」と祖母。徘徊とはいえ、お泊まりデイサービスへ向かう道はあっていたのです。
私は30歳過ぎに介護離職して、祖母の在宅介護をほぼ1人で長年それなりにしてきたつもりでした。
しかし、祖母が、自宅ではなくお泊まりデイサービスに行くことを目指して徘徊しているという事実に複雑な心境でした。
そんなにお泊まりデイサービスが好きなのか……。
祖母が夜中から朝方頻繁にトイレの便器と逆を向いて尿をしたり、夕食の食べたのを忘れて何度も起きてご飯を求めてきたりで、ちょうど私がイライラしていた時期の話です。
いつの間にか、祖母にとって自宅は快適で安心できる場ではなくなっていたのではないか……。
私は、自責の念にかられつつ祖母に付き添いました。
「ばあちゃん、すごいなあ。よく覚えてるな」「そうでしょ?よく通っているからね、当然ですよ」と笑顔。
そして、祖母はお泊まりデイサービスの目的地に到着すると、男性職員に対して「今日はシンゴと来たわよ」と言いました。男性職員は、大変ビックリした様子で「歩いて来たん?ようここまで来たな」と笑って出迎えました。
そして、お泊りデイサービスで座っていた祖母は精神的に満足したのか寝てしまい、彼女を預け、私はタクシーで自宅まで戻りました。
〈80代の祖母が「猛スピードで徘徊」してまでお泊りデイサービスに向かった「まさかの理由」〉では祖母がなぜ自宅以上にお泊りデイサービスを好んでいたのか、その理由を深堀りするとともに、家族が徘徊を始めた際の注意点などをお伝えします。
奥村シンゴ
宝塚在住。「ヤングケアラー」、「就職氷河期ケアラー」、「ひきこもり」を経験。現在、介護・福祉担当ライター、関西経営管理協会講師、ケアラー・ひきこもり伴走支援団体「よしてよせての会」代表を務める。NHKおはよう日本、読売新聞などメディア多数出演。
著書『おばあちゃんは、ぼくが介護します。』国際ソロプチミスト賞受賞者。
ツイッター @okumurashingo43
80代の祖母が「猛スピードで徘徊」してまでお泊りデイサービスに向かった「まさかの理由」

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