「PTA会長は狂っている」「役員はみんな××だ」…ママさんバレーでいまも起こっている保護者間トラブルの実情

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

「PTA会長は狂っている」「役員はみんな××だ」――噂の出どころは、バレー部のママたちだった。最近、PTA連合会(P連)からの脱退を試みるPTAが増えているが、「PTAバレー部のママに反対される」というケースをときどき耳にする。P連を脱退したら、会長や役員の悪口を言いふらされたという例もあった。P連脱退は、なぜバレーママの逆鱗に触れるのか? 内情を探った。
【画像】一体どんなトラブルが…? ママさんバレーの根深い問題を写真で見る◆◆◆

令和でも健在な「PTAママさんバレー」「え、まだやってるの」と驚いた人もいるかもしれない。そう、昭和から続く「PTAママさんバレー」は今も健在だ。毎年バレーボール大会を行っているPTA連合会(P連)は、現在も少なからずある。プレーに参加するのは保護者のうちごく一部ながら、熱心な人が多い。 ママさんバレーが広まったのは、1964年、日本の女子バレーボールチームが金メダルを獲得した東京オリンピックがきっかけといわれる。以来、主婦の間でバレーボール熱が高まり、PTAでもバレーボール大会が開かれるようになった。当時、主婦は「社会的弱者」とみなされ、スポーツ振興を奨励される対象だった。iStock.com だが実は、このバレーボールに泣かされている母親たちもいる。大会の「応援」のために無関係な母親たちが動員されたり、会場準備や運営のため、本部役員が準備にあけくれたりしていることがあるのだ。 だが「バレーボールやめよう」とか「プレーする人たちだけでやってください」と言い出せる人は、なかなかいない。口にすれば、バレー部ママたちの恨みを買ってしまう。チームメンバーは団結しているので、なるべく敵にまわしたくないのだ。 最近はP連脱退を検討するPTAが増えているが、ここでもバレーボールが足かせとなる場合がある。「P連を抜けたら大会に出られなくなる」という理由で、バレー部の人たちが脱退に反対するからだという。バレー部のママたちが言いふらしていた役員への悪口 東京都のある公立小学校のPTAは、今年の春、区のP連を脱退した。P連主催のイベント運営など、本部役員の負担が大きかったからだ。 P連が開催するバレーボール大会も負担の一つだった。毎年輪番でまわってくる幹事校は、自校の体育館を大会会場として提供し、PTA本部役員が大会運営に当たることになっていた。対戦表やスケジュールの作成、予選会場や会議室の場所取りといった事前準備や、会場設営や後片付け等を、役員たちがこなさなければならないのだ。 こういった仕事の引き継ぎは役員内のみで行われ、バレー部の人たちは顔さえ見せない。役員が大会を運営するのは当然とされていることに、みな違和感を抱いていた。 とはいえ、ここで「P連を抜ける」といえば、バレー部の人たちが反対することは目に見えている。そこであらかじめ役員たちは、バレー部を含む全ての保護者に対し「P連の担当役員」を募った。バレーボール大会に今後も参加したい人がいたら、P連の担当を担ってほしい、それならP連加盟を継続できる、と伝えたのだ。 だが、立候補する保護者は誰もいなかった。バレー部の母親たちも、みな無反応だった。そこで同PTAは、年度末でP連を脱退することを正式に決定した。 ところが新学期が始まると、バレー部のママたちが役員の悪口を言いふらしていることがわかった。「PTA会長は狂っている」「役員はみんな××だ」などと吹聴し、バレー部ではない保護者にまで聞き苦しい噂が広まっていた。 だったらP連担当の役員を引き受けてくれればよかったのに――。「バレーボールはしたいが負担は背負いたくない」というのは、さすがにむしが良すぎる。役員たちはそう思ったが、当人たちは「これまで通り」を望んだだけだった。 こんなふうに、バレー部の母親たちが、他の保護者たちに及んでいる負担に無頓着な例は、取材をしているとときどき聞く。状況が変わりつつあるP連も そんななか、最近はP連が先頭に立って、バレーボール大会の見直しや廃止を進める動きも出てきている。各PTAで見直しを掲げると、どうしても保護者同士で諍いが起きやすいからだ。P連主導で進めたほうがまだ軋轢は少ない。 たとえば埼玉県伊奈町のP連は、2020年にソフトドッジボール大会を廃止した。同町P連では10年以上前からバレーボール大会をやめ、代わりにソフトドッジボール大会を行ってきたが、大会運営はやはり幹事校PTA役員の負担となっていた。 会場は毎年近くにある県の施設を使っていたが、予約は利用日の7か月前に行わねばならず、体育館と控室を予約する必要があった。抽選に外れる可能性もあるため、複数の日程を押さえて担当者が支払いの全額を立て替え、後日払い戻してもらう形だ。 試合の日には養護の先生にお手伝いを頼み、役員たちは選手の飲み物も用意する。何しろ量があるので、運搬も一苦労だった。 そこでコロナ禍でPTA活動が縮小された2020年度、各PTA会長にWebアンケートを行ったうえ、大会を廃止することにした。 音頭をとったのは、同町P連代表(会長)の村上拓麻さんだ。 「やはり、過去に大会に参加した人のなかには『面白かったので続けたい』という声もありましたが、運営側の負担になっていることを伝え、『必要なのかな』と投げかけたところ、『なくてもいいんじゃないかな』という話になりました。以前から『やりたくてやる』というより、年間計画に入っていたから仕方なくやっていたところがあり、『やってよかった』というのは結果論だったとも思います」 京都市小P連左京南支部も2021年度、バレーボール大会を「有志」による運営に切り替えた。それまではやはり、毎年担当校のPTA役員が大会運営にあたっていたが、これをやめて、バレーボールをプレーする人たち自身が大会を運営する形に変えたのだ。 このような提案をバレー部ママたちはなぜ、すんなりと受け入れたのか。実は、見直しを呼びかけた母親本人が、PTAバレーボールを続けてきたうちの一人だった。PTA会長歴3年、ママさんバレー歴9年の酒井照美さんだ。「私ら、感謝が欠落していたよね」「バレーボールの交歓会って、私ら出ているものとしたら楽しくて、何も悪いことはしていないつもりなんです。でも実はバレー部じゃないPTAの役員さんたちが裏でたくさん動いてくれていて、そのことをみんな意外と知らなかった。だからそれを私から伝えて、『私ら、感謝が欠落していたよね』ってお話しさせてもらいました。 そうしたら皆さん、うなずいてくださって。『だったら、このままのやり方ではあかんよね』ということで、今後は私らバレー大会に出るメンバーで、大会を開催することにしました」 酒井さんの提案により、大会運営の見直しはスムーズに運んだ。酒井さんの友人で、当時同小P連会長だった大森勢津さんは「もしバレーボールに参加したことがない私が提案していたら、反発を感じる方も多かったのではないかと思う」と振り返る。 バレーボールをすること自体は、もちろん全く悪いことではない。だが、少なくとも大会運営はプレーする人で行うのがスジだろう。 そもそも、忙しい保護者が多い昨今、P連やPTAでバレーボールをする必要はあるのだろうか。50年前と違い、いまは市民スポーツも盛んだ。もし活動や大会を続けたければ、PTAとは別に、希望者がサークルや団体を立ち上げることは難しくない。 子どもたちの部活動さえ地域化が進んでいる今、保護者のスポーツ活動も自立させてもいいのではないか。(大塚 玲子)
◆◆◆
「え、まだやってるの」と驚いた人もいるかもしれない。そう、昭和から続く「PTAママさんバレー」は今も健在だ。毎年バレーボール大会を行っているPTA連合会(P連)は、現在も少なからずある。プレーに参加するのは保護者のうちごく一部ながら、熱心な人が多い。
ママさんバレーが広まったのは、1964年、日本の女子バレーボールチームが金メダルを獲得した東京オリンピックがきっかけといわれる。以来、主婦の間でバレーボール熱が高まり、PTAでもバレーボール大会が開かれるようになった。当時、主婦は「社会的弱者」とみなされ、スポーツ振興を奨励される対象だった。
iStock.com
だが実は、このバレーボールに泣かされている母親たちもいる。大会の「応援」のために無関係な母親たちが動員されたり、会場準備や運営のため、本部役員が準備にあけくれたりしていることがあるのだ。
だが「バレーボールやめよう」とか「プレーする人たちだけでやってください」と言い出せる人は、なかなかいない。口にすれば、バレー部ママたちの恨みを買ってしまう。チームメンバーは団結しているので、なるべく敵にまわしたくないのだ。
最近はP連脱退を検討するPTAが増えているが、ここでもバレーボールが足かせとなる場合がある。「P連を抜けたら大会に出られなくなる」という理由で、バレー部の人たちが脱退に反対するからだという。
東京都のある公立小学校のPTAは、今年の春、区のP連を脱退した。P連主催のイベント運営など、本部役員の負担が大きかったからだ。
P連が開催するバレーボール大会も負担の一つだった。毎年輪番でまわってくる幹事校は、自校の体育館を大会会場として提供し、PTA本部役員が大会運営に当たることになっていた。対戦表やスケジュールの作成、予選会場や会議室の場所取りといった事前準備や、会場設営や後片付け等を、役員たちがこなさなければならないのだ。
こういった仕事の引き継ぎは役員内のみで行われ、バレー部の人たちは顔さえ見せない。役員が大会を運営するのは当然とされていることに、みな違和感を抱いていた。
とはいえ、ここで「P連を抜ける」といえば、バレー部の人たちが反対することは目に見えている。そこであらかじめ役員たちは、バレー部を含む全ての保護者に対し「P連の担当役員」を募った。バレーボール大会に今後も参加したい人がいたら、P連の担当を担ってほしい、それならP連加盟を継続できる、と伝えたのだ。
だが、立候補する保護者は誰もいなかった。バレー部の母親たちも、みな無反応だった。そこで同PTAは、年度末でP連を脱退することを正式に決定した。
ところが新学期が始まると、バレー部のママたちが役員の悪口を言いふらしていることがわかった。「PTA会長は狂っている」「役員はみんな××だ」などと吹聴し、バレー部ではない保護者にまで聞き苦しい噂が広まっていた。
だったらP連担当の役員を引き受けてくれればよかったのに――。「バレーボールはしたいが負担は背負いたくない」というのは、さすがにむしが良すぎる。役員たちはそう思ったが、当人たちは「これまで通り」を望んだだけだった。
こんなふうに、バレー部の母親たちが、他の保護者たちに及んでいる負担に無頓着な例は、取材をしているとときどき聞く。
そんななか、最近はP連が先頭に立って、バレーボール大会の見直しや廃止を進める動きも出てきている。各PTAで見直しを掲げると、どうしても保護者同士で諍いが起きやすいからだ。P連主導で進めたほうがまだ軋轢は少ない。
たとえば埼玉県伊奈町のP連は、2020年にソフトドッジボール大会を廃止した。同町P連では10年以上前からバレーボール大会をやめ、代わりにソフトドッジボール大会を行ってきたが、大会運営はやはり幹事校PTA役員の負担となっていた。
会場は毎年近くにある県の施設を使っていたが、予約は利用日の7か月前に行わねばならず、体育館と控室を予約する必要があった。抽選に外れる可能性もあるため、複数の日程を押さえて担当者が支払いの全額を立て替え、後日払い戻してもらう形だ。
試合の日には養護の先生にお手伝いを頼み、役員たちは選手の飲み物も用意する。何しろ量があるので、運搬も一苦労だった。
そこでコロナ禍でPTA活動が縮小された2020年度、各PTA会長にWebアンケートを行ったうえ、大会を廃止することにした。
音頭をとったのは、同町P連代表(会長)の村上拓麻さんだ。
「やはり、過去に大会に参加した人のなかには『面白かったので続けたい』という声もありましたが、運営側の負担になっていることを伝え、『必要なのかな』と投げかけたところ、『なくてもいいんじゃないかな』という話になりました。以前から『やりたくてやる』というより、年間計画に入っていたから仕方なくやっていたところがあり、『やってよかった』というのは結果論だったとも思います」
京都市小P連左京南支部も2021年度、バレーボール大会を「有志」による運営に切り替えた。それまではやはり、毎年担当校のPTA役員が大会運営にあたっていたが、これをやめて、バレーボールをプレーする人たち自身が大会を運営する形に変えたのだ。
このような提案をバレー部ママたちはなぜ、すんなりと受け入れたのか。実は、見直しを呼びかけた母親本人が、PTAバレーボールを続けてきたうちの一人だった。PTA会長歴3年、ママさんバレー歴9年の酒井照美さんだ。
「バレーボールの交歓会って、私ら出ているものとしたら楽しくて、何も悪いことはしていないつもりなんです。でも実はバレー部じゃないPTAの役員さんたちが裏でたくさん動いてくれていて、そのことをみんな意外と知らなかった。だからそれを私から伝えて、『私ら、感謝が欠落していたよね』ってお話しさせてもらいました。
そうしたら皆さん、うなずいてくださって。『だったら、このままのやり方ではあかんよね』ということで、今後は私らバレー大会に出るメンバーで、大会を開催することにしました」
酒井さんの提案により、大会運営の見直しはスムーズに運んだ。酒井さんの友人で、当時同小P連会長だった大森勢津さんは「もしバレーボールに参加したことがない私が提案していたら、反発を感じる方も多かったのではないかと思う」と振り返る。 バレーボールをすること自体は、もちろん全く悪いことではない。だが、少なくとも大会運営はプレーする人で行うのがスジだろう。 そもそも、忙しい保護者が多い昨今、P連やPTAでバレーボールをする必要はあるのだろうか。50年前と違い、いまは市民スポーツも盛んだ。もし活動や大会を続けたければ、PTAとは別に、希望者がサークルや団体を立ち上げることは難しくない。 子どもたちの部活動さえ地域化が進んでいる今、保護者のスポーツ活動も自立させてもいいのではないか。(大塚 玲子)
酒井さんの提案により、大会運営の見直しはスムーズに運んだ。酒井さんの友人で、当時同小P連会長だった大森勢津さんは「もしバレーボールに参加したことがない私が提案していたら、反発を感じる方も多かったのではないかと思う」と振り返る。
バレーボールをすること自体は、もちろん全く悪いことではない。だが、少なくとも大会運営はプレーする人で行うのがスジだろう。
そもそも、忙しい保護者が多い昨今、P連やPTAでバレーボールをする必要はあるのだろうか。50年前と違い、いまは市民スポーツも盛んだ。もし活動や大会を続けたければ、PTAとは別に、希望者がサークルや団体を立ち上げることは難しくない。
子どもたちの部活動さえ地域化が進んでいる今、保護者のスポーツ活動も自立させてもいいのではないか。
(大塚 玲子)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。