「妻の話を聞いていると必ずキレられる」という夫が根本的に勘違いしている”妻の本当の望み”

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※本稿は、諸富祥彦『プロカウンセラーの こころの声を聞く技術 聞いてもらう技術』(SB新書)の一部を再編集したものです。
「聞く技術」がもっとも必要とされているのは、夫婦関係ではないでしょうか。長年カウンセリングを行う中で、夫に「もっと話を聞いてほしい」「もっとわかってほしい」という女性の切実な声を幾度となくお聞きしました。そこには必ず、絶望まじりのため息が伴っています。
夫婦は、育った環境も違えば、価値観も異なります。そんな2人が一緒に生活するのですから、わかりあえないことも多く、衝突することもあるのが当然です。パートナーとの関係を良好に保つには、2人で協力してお互いに話を「聞く・聞いてもらう」関係を築いていけることが理想です。
話をていねいに聞いてもらえると、「この人は私のことを、大切に思ってくれているのだな」と感じることができます。妻の不満のワースト1は「夫が話をちゃんと聞いてくれない」ことなのです。
「私はあなたのことを大切に思っています」と言いながら、こちらの話をまともには聞いてくれない人がいます。それでは、「本当に大切にしてくれている」とは思えないのが当たり前です。
ここで一つ、夫婦間のありがちな会話例を見てみましょう。
ケース1では、夫は「勉強が苦手なら塾にでも行かせるか」と、妻が大変だとこぼすことへの改善策としてアドバイスを行っています。ところが、妻からキレられてしまいました。
夫としては、何か解決策を示せれば、とよかれと思って提案したのになぜでしょう?
話を聞いてもらっている側からしてみれば、アドバイスされるのは多くの場合、余計なお世話です。話を聞いてすぐにアドバイスされると、されたほうが「私の話、聞く気ないんだ。面倒くさいんだ」と感じてしまいます。また、「上から目線でものを言われた」「マウントされた」と感じることもあります。
「そのアドバイスを実行しないうちは、不十分だと言われた」
そんな気持ちになってしまうのです。
妻が訴えているのは、「子どもが宿題をやらない」という事実だけではありません。いやがっている子どもと向きあうつらさ、大変さをわかってもらいたくて、「大変だった」と訴えているのです。まずは妻の気持ちを受け止めて、いたわり、ねぎらいの一言を添えることが先決です。とはいえ、何か特別なことを言う必要はありません。
「そうか」「それは大変だね」
この一言で十分なのです。
「大変だったね」と妻の気持ちに寄り添う一言、そして「ありがとう」と苦労をねぎらう一言があってこそ、妻には、「この人は私の話に関心を抱いてくれている」「私の気持ちをわかってくれている」と感じます。気持ちと気持ちのつながり(リレーション)がつくられるのです。アドバイスをするとしても、その後です。
人は「自分のことをわかってくれる」と思える相手からでなければ、たとえよいアドバイスをもらったとしても、それを受け入れることなどできないでしょう。
結婚している女性が、夫に対して一番不満に思っているワースト1は、「夫が話をちゃんと聞いてくれない」ということです(カウンセリングの場で、「夫にもっと話を聞いてほしい」「わかってほしい」という言葉を何度聞いてきたことか……)。
そこで私は、講演会でよく、次のような宿題を出すようにしています。
「1日5分でいいから、お互いに愚痴や弱音を聞きあいましょう」
例えば、一緒に夕食をとるときに、まずは妻から夫に、「一杯どうぞ」とビールでも注ぎながら「今日は大変なこと、なかった?」と聞きます。妻は「まあ、そんなことがあったの。それは大変ねぇ」と、うなずきながら聞くようにします。
5分経ったら交替して、今度は5分、妻が夫に愚痴や弱音を聞いてもらいます。
こんなふうに一方的ではなく、夫婦でお互いに弱音や愚痴を聞きあう習慣をつくること。これが、夫婦でわかりあえる関係をつくるための第一歩です。
私のもとには、夫婦関係の改善のためのカウンセリングに来られる方もいます。例えば、こんな相談です。
「夫と話していると、ついついケンカになってしまうんです。そうするつもりはないのに……。このままでは離婚しなくてはならなくなってしまいます。子どももいるので、できればそれは避けたいのですが……」
ケース2では、妻は「普通、大きなことは夫婦で話しあって決めるべき」と、「“普通”はこうする」という一般論を自分の「意見」として述べています。
妻が「意見」を語っていると、受ける側の夫は、なんだか非難されている気持ちになるし、それに対する自分の賛否や「意見」(「それは違うだろう。僕の車なんだから……」)を語らなくてはならない気持ちになってしまいます。
「普通は……」と夫に自分の「意見」を言って責める前に、「ちょっとビックリした」という「気持ち」や、(自分に相談するプロセスを省かれて)「少しさみしかった」と自分の「気持ち」を素直に伝えるようにしましょう。そのほうが相手もずっと受け取りやすくなります。
このように、自分の気持ちをそのまま言葉にするほうが、相手にはずっと伝わりやすくなります。「気持ちを受け止めればいいんだな」という構えがとりやすくなるからです。
また、この会話では「普通」という価値観をきっかけに、売り言葉に買い言葉で攻撃が始まっています。夫婦関係に限らず人間関係では、一方が攻撃を始めると、他方も攻撃をして応戦するパターンに陥りがちです。攻撃されてイラッとしたら、その場から物理的に離れることをおすすめします。
ついついケンカになるという夫婦に対し、私が使う方法は、「ソリューション・フォーカスト・アプローチ(SFA)」と言われる方法です(「解決志向アプローチ」などと訳されます)。
私たちは一般に、夫婦ゲンカの相談を受けると、その「原因」を探ろうとします。
それは「問題の原因を突き止め、それを除去すれば、問題は解決するはずだ」と考えるからです。
しかし、実際にはどうでしょう。
問題の「原因」(例:夫が内緒で大事なこともひとりで決める)を突き止めて、それを解決しようとして、うまくいくことがあるでしょうか。
多くの場合、言われたほうは「責められている」と考えて、関係がさらに悪化するだけではないでしょうか。「原因探し」は「犯人探し」につながります。そして「犯人」に仕立てられた側は、「責められている」と感じて、意固地になってしまいます。責められるのを回避して口を閉ざすか、言いあいになってしまいがちです。
ソリューション・フォーカスト・アプローチでは、原因を探すとますます問題に絡めとられてしまうため、「問題の原因探しをするのは、解決を遠ざけてしまう」と考えます。
では、どうするのかというと、このアプローチでは「例外的にうまくいっているとき」を見つけるための質問をします。
「最近、例外的に夫とうまくいっていたのは、いつでしょう? どんなことをしていましたか?」「その中で、明日もできることには、どんなことがあるでしょうか?」
このように聞くのが、「例外探し」の方法です。
しかし、例外がうまく見つからないときには、「もし明日の朝、起きてみると奇跡がそこには起きていて……二人の関係が、劇的に改善しているとしましょう。二人の間には、もう、愛とハッピーしかありません。朝起きたら、どんなことをしていますか?」
このようにたずねることもあります。「ミラクル・クエスチョン」という方法です。
ソリューション・フォーカスト・アプローチの特徴は、
ということにあります。夫婦間で言いあいなどのトラブルが絶えない、不満が募ってしまう、という人は、ぜひお試しください。
———-諸富 祥彦(もろとみ・よしひこ)明治大学文学部教授1963年福岡県生まれ。教育学博士。臨床心理士。公認心理師。教育カウンセラー。「すべての子どもはこの世に生まれてきた意味がある」というメッセージをベースに、30年以上、さまざまな子育ての悩みを抱える親に、具体的な解決法をアドバイスしている。教育・心理関係の著書が100冊を超える。———-
(明治大学文学部教授 諸富 祥彦)

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