「これでまた将来、殺人ができるぜぇ!」 “柏市連続通り魔事件”公判で尾崎豊の「15の夜」を歌い上げ、チャット仲間に凄んだ被告の叫び

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

昭和から平成、令和へと時代は変わっても“凶悪事件”が消えることはない。世の中を震撼させた犯人たちは、一体なぜ凶行に走ったのか――。その深い闇の一端を垣間見ることができるのは、彼らが法廷で発した肉声だ。これまで数多くの刑事裁判を傍聴してきたノンフィクションライターの高橋ユキ氏に、とりわけ印象に残った“凶悪犯の言葉”を振り返ってもらう。今回、取り上げるのは「柏市連続通り魔事件」の裁判である。
***
【写真を見る】事件発生当初は“目撃者”としてマスコミに囲まれていた…カラオケで熱唱する姿も
2014年3月3日夜――。千葉県柏市の市道で“連続通り魔事件”が発生した。
刃渡り21.9cmのナイフ、手錠2つ、催涙スプレーを持ち、帽子にマスク、サングラスを装着した異様な風体の男にまず呼び止められたのは、自転車に乗る男子大学生だった。
大学生は男に金を要求されたが振り切って逃げ、その際に刃物で左手を切り付けられた。数分後、今度は近くを歩いていた会社員男性Aさん(31=当時)が、その男に突然、刃物で背中などを刺される。直後、車で通りかかった男性は、男に「いま、人をひとり殺してきた。降りろ、カネを払え」と脅された上に財布を奪われ、さらに、別の男性が車を奪われた。犯人はそのまま奪った車に乗って姿を消し、Aさんは搬送先の病院で亡くなった。
この翌日、事件の目撃者として、報道陣の取材に応じた男がいた。Aさんと同じマンションに住む男だった。
「犯人は『ハハハ』と笑い声を上げたり、奇声を上げたりしながら、牛刀のようなもので倒れた男性に馬乗りになり、背中を何度も刺していた」
男が「犯行を見た」というのは間違いではなかった。事件を目撃しただけではなく、犯行に及んだ張本人だったのだ。取材に応じた翌朝、捜査員から任意同行を求められた男は「チェックメイト」とつぶやいたという。
目撃者から容疑者となった男・竹井聖寿(逮捕当時24)は、連行される際、報道陣に向かって叫んだ。
「ヤフーチャット万歳!」
意味不明な雄叫びから1年後。竹井の裁判員裁判が千葉地裁で開かれたが、そこでも不可解な振る舞いで法廷を困惑の渦に巻き込んでいった。強盗殺人のほか、強盗致傷、強盗、そして自宅から大麻が発見されたことから大麻取締法でも起訴されていた竹井。5月の初公判にはスーツを着て、背中を丸め、うつむきながら法廷に姿を現した。罪状認否でも「(起訴状に)間違いはありません」とすべて認めている。
第3回公判まではこのようにスーツ姿でおとなしく裁判を受けていた竹井は、しかし、第4回公判で突如として“変貌”する。
まず服装から違っていた。これまで着ていたスーツから一転、白いタンクトップに膝下のデニムという格好で法廷奥のドアから現れたのだった。法廷が驚きに包まれる間も無く、被告人席に向かって歩きながら竹井は歌い始めた。
「♪僕~が僕~であるために~~勝ち~続けなきゃ~ならない~♪」
席についている検察官も弁護人も、なぜかこれを止めようとしない。ワンマンショーのごとく、竹井は歌い続けながら席につき、今度は二曲目が始まる。
「♪ぬ~すんだバ~イク~では~しりだす~(中略)暗い夜のとばりの~中へぇ~えええ~~♪」
「僕が僕であるために」に続けて「15の夜」と、突如始まった尾崎豊メドレーに面食らっているのか、先ほどと同様、検察官も弁護人もこれを全く止めようとしない。そうこうしている間に竹井は「自由になれた気がした~15の夜~」まで歌い切り、そして、こう叫んだ。
「覚悟しておけ! 道連れだ~! ハッハッハッハッハッハッハッ」
弁護人は目を閉じ、公判は1時間中断した。
この日、竹井はなぜタンクトップで現れたのか。仕切り直された裁判で証人として呼ばれていたのは、かつての“チャット友達”だった。竹井は“JoAKU 除悪”の名で「ニコ生」に動画を配信していたほか、連行時に叫んでいたように、「ヤフーチャット」にも出没していた。初公判の弁護側冒頭陳述で弁護人は、一連の犯行の動機が「“テロ行為”の準備資金をつくるため」であり、そこにインターネット空間の関係性も大きく影響していたという主張を繰り広げた。
「犯行に及んだ動機は2つあります。ひとつは生活費のほか、バスジャックの後、ハイジャックをしてスカイツリーに突っ込むための準備資金にすること。もうひとつはネットに依存していた生活のため、チャット仲間に存在を誇示するため、何か大きな事を今やらなければ、と思ったことです。幼少期から竹井さんは人間関係を築くことが上手くなく、中学校の頃は友人がいませんでした。自身の存在を示し、寂しさを打ち消せるのがインターネット空間でした……」(弁護側冒頭陳述)
寂しさを紛らわせるためか「ネット仲間にハイジャックの話をすることで注目を集めようとしたのに、かえってチャット仲間から浮いた存在に」(同)なってしまい、仲間から冷遇されることを恐れて犯行に及んだ、というのが弁護側の主張だった。
竹井がタンクトップになった日に、証人出廷したチャット友達、ハンドルネーム“六文銭(rokumonsen)”は、事件から3~4年前、ヤフーチャットの「喧嘩部屋」というルームで知り合ったという。衝立の奥からこう語った。
「被告は、過去の悪行自慢、武器の話、違法薬物や動物虐待の話をしていました。中学校の頃、人を刺して少年院に入ったとか、ハムスターをトーストしたとか、猫に火をつけたり、鳥を殺害したりしたと聞きました。映像でも観ました。鳥の虐待です。事件の前の年の秋ぐらいだと思います。盗んできた鳥をナイフで刺し殺す映像でした。
あとは、チャットのときにバタフライナイフやエアガンを、いつもカチャカチャいわせながら手に持っていて、たまにカメラで見せていました。あとは酒鬼薔薇聖斗を崇拝している、と。こうした話が武勇伝として通じる場所でした」
「喧嘩部屋」で知り合い、悪行自慢をしていた相手に自分を大きく見せるためのタンクトップだったのか。午前中の竹井は“六文銭”に対して両肩の刺青あらわに睨みを利かせていたが、法廷の冷房が強かったためか、午後にはチェックのシャツを羽織っていた。そして翌日以降の公判では再び当初のスーツ姿に戻り、こんなことを語った。
「悪ぶってみたけれど、心の奥底にある小さな何かが違うと訴えている、ちゃんと謝罪して死刑になって“除悪”という名を残し、いじめや差別の撲滅に貢献したい」
ところが判決の日。法廷奥のドアが開くと、タンクトップ姿の竹井が、オウム真理教の「麻原彰晃マーチ」を歌いながら入廷してきた。裁判長をはじめ、前回はぼんやりと眺めるだけだった弁護人も今回はさすがに制止するが、無視して次の曲へ。
「行儀よ~く真面目なんて出来やしなかった~」
抑揚なく「この支配からのっ…卒業~」まで歌いきり「薬でラリってます、フッフッフッフッ」と笑い続けた。
判決で裁判長は起訴状の通り、1件の強盗致傷、1件の強盗殺人、2件の強盗を認定し、求刑通りの無期懲役を言い渡した。弁護側は竹井被告が逮捕前、精神科に通院していた事から責任能力は減退していたとも主張しており、「バスジャックして空港に行き、ハイジャックして機長を殺し、スカイツリーに突っ込む」という荒唐無稽なテロ行為の資金稼ぎだったと訴えていたが、これらは一蹴され、一連の犯行は生活費のためだったと認定されていた。
竹井は裁判長の言い渡しをふんぞり返って聞いていたものの、最後に主文となる無期懲役を告げられると間髪入れず、両手を高く掲げて拍手。その両手を頭の後ろに組んだり、中指を立てて笑みを浮かべながら、検察官や被害者側を向くといった態度を見せた。そして閉廷後に叫んだ。
退廷前には「悔しかったら死刑にしてみろ。殺人は麻薬よりセックスより気持ちいいぜぇ。はっはっはっは」などと、少し棒読み気味に毒づいてみせた。
「これでまた将来殺人ができるぜぇ~~。殺人は麻薬よりセックスよりも気持ちいいぜぇ~~。ハッハッハッハ」
“悪ぶってみた”という竹井に、突然殺害されたAさんの無念を思う。その後、判決を不服として控訴、上告したがいずれも棄却され2016年10月、無期懲役が確定している。
高橋ユキ(たかはし・ゆき)ノンフィクションライター。福岡県出身。2006年『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』でデビュー。裁判傍聴を中心に事件記事を執筆。著書に『木嶋佳苗劇場』(共著)、『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』、『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』など。
デイリー新潮編集部

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。