「ここでやめていればよかったものの、最初の段階で身分証明書のコピーを取られ、反社会的勢力の名称もチラホラ出され、下手に逃げられない……」
【その後の生活は…】歌舞伎町でゴミを拾う元詐欺師の男(写真多数)
2015年特殊詐欺事件主犯として詐欺罪で逮捕され、今は犯罪撲滅活動家として活動するフナイム氏。もともと役者志望のフリーターだった彼はなぜ“特殊詐欺グループの一員”になってしまったのか? フナイム氏による反省と警告の書『闇バイトで人生詰んだ。~元特殊詐欺主犯からの警告~』(かざひの文庫)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)
役者志望のフリーターがなぜ特殊詐欺グループの一員に…。写真はイメージ getty
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降りたった駅はファミリー向けのマンションが建ち並ぶ川崎市内のベッドタウン。こんなところに会社があるのか不審に感じたが、私はスーツを着て初出勤した。
指定された場所へ行くと同じ年くらいの男性が迎えに来ていた。
「あっ、どうも。ご案内します」。そう言って連れていかれたのは、駅から徒歩5分程度のオフィスビルでもなんでもないマンション。中に入ると3LDKの間取りで、リビングには応接間のようなソファーとテーブル、その上には大量の吸い殻が入った灰皿。
隣の部屋には、折り畳み式の長机と椅子、パソコンと固定電話が2台、ファックスが1台。大量の書類と携帯電話が置いてあった。
「あ、こっちの部屋には入らないでくださいね」
玄関からすぐ右手の部屋には入らないでくれと指示があった。事務所には、50代くらいのおじさんが2人。2人とも笑顔は優しいが、強面の顔でスーツをビシッと着用していた。
「とりあえず仕事の内容説明するのもアレなんで見ていてください。そのほうが流れとかすぐに覚えると思います。今マニュアルとか見てもわからないと思うので」
同年代くらいの男性に言われるがまま、私は仕事の様子を真剣に見ていた。
固定電話が鳴る。
「お電話ありがとうございます。住友第一信販でございます」。
同じ年くらいの男性が電話に出る。
「ご融資の件ですよね。はい、大丈夫です。預託のほう確認とれておりますので、このあと協会に融資の実行許可を頂いて、すぐに御社の口座にご融資いたしますので、確認とれましたらまたご連絡いたします。そうですね……15分くらいだと思います。失礼します」
何も見ることも読むこともなく、流暢に話を進め電話を切る男性。
〈凄いな。仕事めちゃくちゃできるんだな〉そう感心していた。電話の男はソファーでたばこを一服し、吸い終わると、今度は電話をかけ始めた。
「もしもし……住友第一信販の山本です。お世話になっております。ただいま、融資の実行許可を頂くために金融協会へ手続きしたところ、金融協会のほうから、融資実行許可が下りなかったんですよね。社長……参りました。御社の状況を考えると、この預託では担保として成立しない、そして返済能力がないのではないかと突っ込まれてしまって……。
返済能力の確認として、先ほど預託頂いた毎月の返済金額の6か月分をもう一度弊社の銀行口座に入金して頂いて、その明細書をファックスで送付して頂けませんでしょうか。そうしましたら、協会のほうに弊社がすぐに確認をとりまして、融資実行許可を頂き、今回ご入金頂いた金額に関しては、融資金と一緒にご返金させて頂きますので、このお手続きだけなんとかお願いできますでしょうか」
こう告げて男は電話を切った。
あれ何かがおかしい……。さっきまでタバコを吸っていたのに……。誰とも話などしていなかったのに。お金を要求している。どういうことだ……。金融の仕事? なんなんだ……。
ここで初めて理解した。この仕事は企業に低金利、無担保でお金を融資するとファックスでDMを送り、融資の際に保証金を要求する「融資保証金詐欺」だったことに。
ここでやめていればよかったものの、最初の段階で身分証明書のコピーを取られ、反社会的勢力の名称もチラホラ出され、下手に逃げられない……。紹介してくれた人の顔も潰せない。そう思った私は、このまま詐欺を続けることになる。
その日から目の前で、毎日数百万円の現金を数える現場を見る。仕事(詐欺)が終わると豪華な食事やキャバクラに連れて行ってもらい高級シャンパンを開け、同い年くらいの綺麗な女の子との時間を楽しむようになった。
「仕事なにしてるの?」と女の子に聞かれると調子に乗った様子で「あ、俺? 不動産」と簡単に嘘をつくようになってしまう。給料日(報酬の支払日)には目の前でパンパンの現金が入った封筒が渡される。時間が経つにつれて、私はお金の魔力に憑りつかれてしまったが、最初の2か月間は仕事を覚えるまでの「研修」という形で私の報酬は20万円だった。
研修期間が終わり、別の詐欺グループと合流し同じ融資保証金詐欺を行った。場所はマンションではなく別の事務所。ペーパーカンパニーの名義で借りたようだった。事務所の中には、オフィスデスクが10個並んでいて、一人一台固定電話機が目の前にあった。メンバーは11人。
年齢は皆私と同じくらいの男ばかり。繋がりを聞いてみるとどうやら地元の不良グループの先輩後輩で成り立っているとのことだった。二人一組になり、5社の嘘の金融会社を語り、詐欺を行った。
不良グループのメンバーは若いが全員羽振りがとてもよかった。高級車に乗り、高級時計をつけてブランドものの服を買い漁っていた。上層部の人間はかけ子のメンバーへ相当な還元をしていた。平均して月に100万円以上。中には500万円の収入を得ている者もいたが、私の上層部はまた別の人間だったため、そのメンバーと同じような報酬は全くもらえず、いくら売り上げを上げても30万円程にしかならなかった。
なぜなのか……私は上に話をしてみたが、上の人間は「経費が色々かかりすぎている。それを回収するのにどうしてもこの金額になってしまう。あと、将来的にこういう詐欺はすぐに辞めて、会社を起こして君を社長という立場にしたい。そのためにお金をプールしている」と言って聞き入れてもらえなかった。
そんな話は最初に一言もなかったが、若かった私は素直に引き下がり、そしてうまく口車に乗せられながら、上の人間を信じて詐欺を行っていた。
〈「こんな生活、馬鹿らしい」パトカーを見ただけで心臓バクバク…“元・特殊詐欺グループメンバーの男”が組織からの脱退を覚悟した日〉へ続く
(フナイム/Webオリジナル(外部転載))