「森喜朗元会長を呼べ!」東京五輪汚職で受託収賄罪の高橋治之被告 弁護人が法廷で異例の証人尋問要求

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東京五輪・パラリンピックをめぐる汚職事件で、受託収賄罪に問われた大会組織委員会の元理事・高橋治之被告(79)の公判が1月31日、東京地裁で開かれ、弁護側は組織委の森喜朗元会長(86)の証人尋問を実施するよう強く求めた。
弁護側は2時間近い冒頭陳述のなかで、高橋被告にはスポンサー集めをする権限はなく、企業から受領した約1億9800万円は「民間のコンサルタント業務の報酬であり『民と民』の取引で、賄賂ではない」と起訴内容を否認、全面無罪を主張した。
一人で長時間にわたって冒頭陳述を読み上げる弁護人の声はカスレて聞きづらいときがあり、途中で2度ほど持参したペットボトルの水分で喉を潤すほどだった。ようやく終わり、法廷内は緊張感が消え去り、このまま閉廷すると思われたときだった。
「裁判長!」
弁護人は今までとは違う力のこもった呼びかけとともに、席から立ち上がった。
「被告にとって、森元会長の証言はベスト・エビデンスです。元会長の証人尋問をお願いします」
想定外だったのだろう。裁判を傍聴したある記者はこう明かす。
「戸惑う裁判長は陪席の2人の裁判官に耳打ちしながら話していました。会話の内容はさすがにわかりませんでしたが、相談したあと『弁護側からの要請』にとどめたように見えましたね」
一方、検察側は「森元会長を呼ぶ予定がない」と突き放すと、弁護側が食い下がる。
「裁判長の訴訟指揮として証人尋問を実現してください」
この発言に対しても裁判長は方針を示さず、この日の公判は終わった。閉廷後、弁護側は報道陣に改めて「証人尋問が行われなければ刑事裁判として異例」との見解を示した。
検察、弁護側の冒頭陳述から主な争点を整理すると「高橋被告にスポンサー集めの権限があったのか」「受け取った金銭の賄賂性」の2点になる。
一つ目の「スポンサー集めの権限」について、検察側によれば被告は森元会長からスポンサー選定を任され、契約締結などで理事会で意見を述べ、マーケティング関連の働きかけをする権限を与えられていた、とした。
弁護側は「スポンサー選びは森会長一任だったため任されていない」、マーケティング業務については「提案したことはあるが却下され、武藤敏郎事務総長(当時)に相手にもされず、被告は反論さえしなかった」としている。
二つ目の「賄賂性」について、検察は「贈収賄の適用を受ける『みなし公務員』(国または自治体の職員ではないが、公務員とみなされる職務に従事している人)であるのを知りながら、被告はコンサルタント契約を装い、知人の会社口座を『受け皿』にして現金を振り込ませるなど、違法性を認識したうえで金銭を受け取っていた」と主張。
これに対し、弁護側は次のように否定する。
「電通の元専務だった被告はその経験や人脈に基づいてコンサルタント業務を担ってきた。企業から受け取った報酬は『クライアントのために電通関係者に働きかけをした見返り(コンサルタント料)に過ぎない』」とした。
双方の言い分が真っ向から対立する展開となり、森元会長の証言が実現するかどうかは極めて重要である。
「東京五輪・パラリンピック組織委の理事枠は35で残り1枠がずっと空席だったのですが、’14年6月、最後のイスに座ったのが高橋氏でした。スポーツ界のフィクサーとして畏怖され、IOC(国際オリンピック委員会)に限らず、FIFA(国際サッカー連盟)、WA(世界陸連)などに人脈があるからと、当時会長だった森さんが押し込みました。35人目の締めを飾ることで、存在感を大きくみせるという両者の思惑があったと思います」
長く五輪を取材し、この裁判を初公判から傍聴するスポーツライターの津田俊樹氏はこう続ける。
「弁護側の冒頭陳述でも述べられていましたが、森氏は高橋氏が経営するステーキレストランで一緒に食事するほどの仲でした。それなのに高橋氏が逮捕、起訴されると距離を置くようになり、検察の参考人聴取に応じています。弁護側の肩を持つわけではありませんが、ベスト・エビデンス(全面無罪になるための証拠)とは具体的に何か、森氏を証人として法廷に呼ぶべきです。一連の事件では、いまだ明らかになっていない点がありますから」
森氏は現在、都内の超高級介護施設に入居し、車椅子生活ながらラグビー観戦のために遠出しているとの情報もある。
自民党は最大派閥の清和政策研究会(安倍派)の裏金問題で大揺れである。元首相として隠然たる影響力を持つ森氏は「安倍派5人衆」を擁護するために、党執行部に精力的に働きかけるなど心身の衰えはみられない。政界から司法に話を戻すと、森元会長の証人尋問が実現すれば真相解明に一歩でも近づける、と思うのだが……。

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