「限界です」26歳医師が自殺 100連勤・月200時間超の残業も…院長「自己研鑽」 他の医師も過酷勤務を訴えたが病院幹部「僕ら昔の世代の人間やから…意識が違う」【報道特集】

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2022年、神戸市の病院に勤務する26歳の医師が自殺しました。
【画像】26歳医師が自殺 内部資料・音声を入手 他の医師の訴えに「勉強やん、自分を鍛えるための」
原因として浮かび上がってきたのは、過酷な勤務実態です。
医師に何があったのか。真相を追い求める遺族を取材しました。
2022年5月、甲南医療センターに勤めていた26歳の医師、高島晨伍さんが自殺した。
私たちは遺族に開示されなかった、第三者委員会の調査報告書を入手した。そこには…
第三者委員会の報告書「勤務時間は極めて長時間に及ぶに至っており、過労死等を引き起こすとされる危険な水準を超過している。うつ病を発症しており、自死直前には、その程度は、重度とみなされる状態へ悪化していた」
報告書は、タイムカードや電子カルテの履歴などから、晨伍さんは過労死ラインを超える時間外労働をしていたと認定。診療に追われていたうえ、上司に、学会発表の準備を課され、重度のうつ病を発症し、自殺につながった、などとまとめられていた。
病院から何の説明もない中、家族は、晨伍さんの死について真実が知りたいと労災を申請した。
西宮労働基準監督署は2023年6月、調査報告書と同様に「極度の長時間労働により精神障害を発症し、自殺した」として、労災だと認定した。
労基署が調べた晨伍さんの「労働時間集計表」によると、自殺する前の1か月の時間外労働は、207時間50分。過労死ラインとされる100時間を大きく上回る。
4月20日をみると、朝7時5分に始まり、仕事を終えたのは、32時30分。
つまり翌朝8時半だった。
しかし、翌日21日をみると、そのまま8時半から、午後4時51分まで勤務していて、33時間以上、働き続けていたのだ。
休みなく、100日連続で勤務していたこともわかった。
甲南医療センター 具英成 院長「皆さん、きょうはお集まりいただいて、まずは労をねぎらいたいと思います」
晨伍さんの死から1年以上が経った2023年8月。病院は、遺族に説明をしないまま、記者会見を開いた。
病院のトップ、具英成 院長は、調査報告書や労基署が認定した過重な労働を真っ向から否定した。
甲南医療センター 具英成 院長「労基署の場合は、(タイムカードの)打刻の時間を中心に、時間を推定していると思うが、病院としては、過重な労働を負荷していた認識はございません」
晨伍さんが、長時間病院にいたことは認めたが、実際に残業していたのは、30時間30分だと主張した。
労基署が認めた200時間とはかけ離れたものだ。
では、この差は何だと言うのか。
甲南医療センター 具英成 院長「本人の自主性の中での自己研鑽。(医師は)一生涯勉強だという典型的な仕事。日進月歩の医学の進歩もございます。アップデートしていかないと、皆さんの信頼をきちっと掴めるような医師には育たない。そういう部分で自己研鑽」
自己研鑽――
自分の能力を磨くために、自ら学習をしたり、経験を積んだりすることだ。
つまり、晨伍さんは、学会準備や医学の学習のため、自らの意思で長時間病院に残っていたのだという。
また、他の医師の勤務状況についても言及した。
甲南医療センター 具英成 院長「全般的に言うと、当院では比較的、時間内に仕事を済ませて帰る方が多い。(過労自殺は)この病院だから出たという問題かどうか、わからないんじゃないでしょうか。私もわかりません」
しかし、過重労働に苦しんでいたのは、晨伍さんだけではなかった。
私たちは、独自に病院の内部文書を入手した。
実は、晨伍さんが自殺する1年前の2021年5月、別の内科の専攻医5人が、病院幹部に過重労働を訴えていたのだ。
病院の内部文書「4月の専攻医の平均残業時間は、凡そ100時間を超えていたと考えられます。検査漏れ(患者への検査忘れ)も多くなってきており、このままでは患者さんの命に係わると考えられるので業務緩和をよろしくお願いいたします」
具体的な業務の改善を提案し、過酷な勤務の実態を訴えていた。
この時の音声記録も残されている。
当時の専攻医の音声「実際働いてみると、“うっ”と思うところがあり、どうしたらもっと良くなるかなって。業務緩和をよろしくお願いいたします」
これに対し、病院幹部は、働き方の改善を検討するとしながらも、「医師の業務の半分は、勉強だ」などと話した。
病院幹部の音声「ちょっとだけ言いたいことは、僕らも昔の世代の人間やから、先生らと意識が違うんやけど、主治医していると、今日あの人どうなったかなって見に来たいことってあるやん。それは主治医として心配、あるいは興味として、自分の入れた薬で、カリウムがどんだけ上がっているか、下がっているか見たいやん。半分は勉強やん。自分を鍛えるための」
専攻医らは同じ文書を示し、具 院長にも掛け合ったが、院長が対策をとった形跡はなく、労働環境は変わらなかったという。
甲南医療センターの専攻医は実際、どのような働き方をしていたのか。
私たちは、晨伍さんが働いていた当時、この病院にいた医師から話を聞くことができた。
当時勤務していた医師「過労死ラインと言われる100時間を超えている若手医師はほとんど。自己研鑽と呼ばれる自主的にやっていることかと言われますと、患者さんの診療が夜遅くまで長引いているとか、患者さんのために、休んでいる時に家から呼び出されるとか、診療にあたる時間が、時間外労働の中でもほとんどなんですね」
しかし、この医師は、働いた時間をそのまま「時間外労働」として申告できなかったという。
当時勤務していた医師「私も、管理職の先生から、50時間以上残業手当の申請をつけないようにと言われたこともありますし、残業代を削減するという意味で、働いていても、働いていないかのように見せかけるような職場の空気がありました」
また、別の職員は、医師が残業時間を過少申告するよう指示されていた背景は、病院の経営状態があったと明かす。
病院に勤務していた職員「コロナでだいぶ赤字だったみたい。それでかなり経営状態が悪いって話はよく院長先生含めて、上からお達しがあった。できるだけ無意味な“超勤”(超過勤務)をつけるなっていうところだと思います。仕事は全部、時間内で終えるように頑張れっていう…できないんですけどね」
2023年8月、晨伍さんの母・淳子さんと、兄・章伍さんは、初めて記者会見を開いた。社会に訴えることで、病院が、説明や謝罪をしてくれるのではないかと期待したからだ。
高島淳子さん「いまだに甲南医療センターからは、何ら誠意ある対応は得られていません。もう息子は・・・優しい上級医になることも、患者さんを救い、社会に貢献することもできません」
しかし、病院からは何の連絡もなかった。
病院が向き合おうとしない中、自分たちにできることはないのか。淳子さんと章伍さんは、何度も東京に足を運んだ。
厚生労働省に、医療現場における労働環境の改善を求めたのだ。
高島淳子さん「嘆願書をお渡しに参りました。どうぞよろしくお願いいたします」
そして2023年12月19日。
高島淳子さん「どうもありがとう。本当にありがとう。苦労かけた。ありがとう」
遺族の刑事告訴を受けた、西宮労働基準監督署は、病院の運営法人「甲南会」と、具英成 院長らを、晨伍さんに規定を超える長時間労働をさせた、労働基準法違反の疑いで書類送検した。
高島淳子さん「お母さん、本当に悪かった…こんな刑事告訴されるような環境の中で働いていること全然知らなくて…。真実を明らかにして、改善点を挙げて、晨伍がどうして亡くなったかに向き合って、謝罪されることが、全ての方の為になることだと思います」
書類送検を受け、改めて病院に取材を申し込むと、カメラでの対応を拒否。「8月の会見から認識は変わりません」とコメントした。
専攻医の過重労働を知っていたのに向き合わず、対策をとってこなかったのではないか。書類送検された具 院長に直接問うた。
――(書類送検の)受け止めをいただきたい。
甲南医療センター 具英成 院長「申し訳ないけど、すみません。しかるべき時に、またお話しさせてもらいます」
――36協定を超えた過重労働を、院長も把握していたんじゃないか?
甲南医療センター 具英成 院長「ノーコメントです」
――2021年に専攻医が過重労働を訴えていた。それについて認識はありましたか?
甲南医療センター 具英成 院長「ありません。記憶にありません」
――ご遺族に説明や謝罪の場はないですか?
甲南医療センター 具英成 院長「それも勘弁してください、今は」
質問にほとんど答えることはなく、その場を後にした。
1月20日。淳子さんと章伍さんの姿は、大阪市内の寺にあった。亡くなった晨伍さんに、ある報告をするため、訪れたという。
高島淳子さん「これからも見守っていてください。ありがとうございます」
淳子さんら遺族は、病院の運営法人「甲南会」と具英成 院長に対し、過重労働を知っていたのに、是正措置をとらなかったため、晨伍さんは自殺したとして、2億3000万円余りの損害賠償を求め、来週にも提訴することを決めた。
高島章伍さん「労災認定がとれれば、向き合ってくれるんじゃないか。社会に訴えれば、向き合ってくれるんじゃないか。そういった意味合いを期待しても、裏切られる。(病院側が)1人の人間として、1人の医師として、どう思っているのか」
高島淳子さん「二度と同じようなことが起こらないように、けじめをつけていただきたい」

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