「功ある者には禄を与えよ、徳ある者には地位を与えよ」。これは、中国の歴史書『書経』にある言葉と言われています。現代で言えば「功績のある者には高い給与を与えよ。人徳のある者には高い地位を与えよ」となるでしょう。これは言い換えると、「功績のある者でも人徳のない者には高い地位を与えてはならない」ということでもあります。そういう人物に高い地位を与えることで、組織が崩壊寸前にまで陥ることもあるのです。
私は経営心理士講座を主宰し、受講生の相談を受ける中で、仕事ができるという理由で部下を昇進させ、後悔する経営者をたくさん見てきました。
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もちろん仕事ができることは良いことです。ただ、仕事ができる人は諸刃の剣となる性質を持っており、その人が優れた人間性を備えていなければ、会社を崩壊に導く危険人物ともなり得ます。
仕事ができる人には多くの仕事が集まり、重要性の高い仕事も任せられるようになります。そうなると周囲も一目置くようになり、その人の影響力は増していきます。
これが営業やマーケティングに関することであれば、会社の売り上げの多くをその人に依存するようになり、そうなると社長でもその人に対して強く言えなくなります。そして、その人を昇進させ、その影響力を公に行使することが可能となった時、その人の本性が見え始めるのです。
ある製造業の会社でのことです。ずっと営業成績が1位のT氏(47歳)は社長も一目置く存在であり、社内で強い発言力を持っていました。
そんな中、営業部長が定年退職することになり、社長(57歳)は営業成績を考慮してT氏を後任の部長に抜擢しました。
以降、T氏の態度は大きくなり、部下に横柄な態度をとる、感情的になるといったことが常態化し、それが原因で、営業部では複数の社員が離職してしまいました。しかし、圧倒的な営業成績の良さから、社長もT氏に対して何も言えず、見て見ぬ振りを続けました。
その後、その状況がエスカレートしたため、社長もさすがにこれはまずいと思い、営業部長であるT氏に、部下に対する態度を注意しました。しかし、これにT氏は反発。これを機に社長とT氏との仲が険悪となってしまいました。
T氏は社内で公然と社長批判をするようになり、社長の求心力は低下し、会社全体の雰囲気も悪くなっていきました。それに伴い営業部以外の部署からも、離職者が出始めます。
当時は募集をかけても人が簡単には採れない状況だったため、離職した社員の穴を埋められず、社員数が減っていき、危機感を覚えた社長はT氏と話し合いの場を設けることにしました。
T氏は「今の会社があるのは自分の営業力のおかげ。役員に引き上げてもらいたいくらいだ」と、自分の非を認めずにさらなる待遇改善の主張をしてくるのみ。
一方、社長はそういった主張は一切認めることができないし、営業成績は良くても社内に悪影響を及ぼしている以上、人事評価は下げざるを得ないと伝え、話し合いは決裂。T氏は逆上し、数日後、会社を辞めていきました。
それによって会社の売り上げは大きく減少してしまったのですが、社長は私にこう言いました。
「あのままT氏にずっといられたら、私に対する社員たちの信頼はなくなって、社内の雰囲気はますます悪くなっていったと思います。そうなったらもう内部崩壊ですよね。
売り上げはずいぶん減ってしまったけど、会社が機能停止してしまったら元も子もないですから。今回のことで、管理職の人選で重視すべき点は営業成績よりも大事なものがあることを思い知らされました」
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スポーツの世界で名プレイヤーが名監督になれるとは限らないように、ビジネスの世界でも名プレイヤーが必ずしも優れたマネジャーになるとは限りません。そもそも、プレイヤーに求められる資質とマネジャーに求められる資質は根本的に異なることを理解する必要があるでしょう。
〈42歳経営者が絶句した「売上の4割」を担う事業部長の「独立騒動」…昇進させてはダメな人の特徴〉では、もう1つの事例をみるとともに、「マネジャーに求められる資質」について考えていきましょう。