「現金500万円以上が消えた…」働き者だった店主を“酒と博打の沼”に引きずり込んだ手口が怖すぎた

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愚痴や悩みは、“詐欺師の大好物”だということはご存知だろうか。複数の「日掛け金融」に勤務してきた筆者は、そのようなケースを数多く目の当たりにしてきた。今回はそのなかから、お酒のつまみ程度に妻の愚痴を話したことから転落した元顧客について紹介する。ちなみに日掛け金融とは、個人・法人を問わず経営者のみを対象に貸付をおこない、債務者から毎日集金をしていた特殊な金融会社である。なお、個人の特定を避けるために名前は匿名とし、事実を一部加工している。
◆子育てと商売に専念するのがワシの使命
東根三郎さん(仮名・50代後半)は、日用品店や駄菓子屋、布団屋や自転車屋、個人経営の飲食店や小さなスナックなどが軒を連ねる場所で生まれ育った。親の勧めもあり、20代と若くして結婚した。
「生まれたときからずっと同じ場所で育って結婚。ワシは小さい頃から一人っ子として甘やかされ、金遣いが荒くて女癖も悪かった。気が強く、財布の紐が堅いA子との結婚を機に気を引き締めたのです。A子は、ワシの両親との同居も嫌がらず、よく働いてくれました」
近所に住む幼馴染とも、結婚後は顔を合わせたら雑談する程度。あとは半年~1年に一度会って食事をするかどうかぐらいに落ち着いた。A子さんは外出を咎めはしなかったが、酒を飲むと気が大きくなる東根さんに外出先での禁酒を約束させている。
「だから出かけても、全然楽しくない。それなら子育てと商売に専念しようと思ったんです。それを真剣に話したら、両親も喜んで店を譲ってくれました。ただ、両親はワシの金遣いの荒さを知っているので、経理は妻、店兼自宅の土地と建物は、両親名義のままでした」
◆子育てが終わると飲み歩きの悪癖が復活
それでも、「子供が家に居てくれたときには頑張れた」と東根さん。ところが、息子が県外に就職し、娘が県外に嫁いでいなくなると、心にポッカリと大きな穴が開いてしまう。そして、A子さんからの注意やアドバイスに耳を傾けられなくなっていく。
「そんなときに両親が次々と亡くなり、土地や建物など財産を相続。売上が伸び悩んでいた店の番をA子に任せ、ワシはA子の両親が営む会社の役員を務めることになりました。でもストレスが溜まるから、両親が遺してくれたお金で、コッソリ飲み歩くようになったのです」
そしてある日、近所にある小さな飲み屋へと足を運んだ。その店は、東根さんが子供の頃からあったが、いまは婿養子に入った男性が大将として店を継ぎ、前オーナー夫婦は隠居。そのため、東根さんは一見(いちげん)さんのようなものだった。
「でも、同じ町内。ワシの両親が亡くなったときに挨拶を交わしていて、お互いに顔見知り。大将は『ご両親が亡くなって、大変ですね。何かあれば頼ってください』と、穏やかな笑顔で言い、『どうです?一杯。奢りますよ』と、空のグラスを渡してくれたのです」
◆飲ませ上手、聞き上手の大将にほだされて
その日は飲むつもりで店に入ったのだが、A子さんの顔が何度も浮かんで躊躇していた東根さん。大将にやさしい言葉をかけられてすっかりイイ気分になり、渡されたグラスを傾けてしまう。そして、酒のつまみ程度にと妻の愚痴を言いはじめたのがケチのつきはじめだった。
「大将が絶妙なバランスで相槌を打ってくれるもんだから、次から次に愚痴が止まらなくなってしまったのです。店にいたのがワシと大将だけだったから、余計のこと。そのうち、『あんまり財布の紐を締め付けられると、抵抗したくなりますよね』なんて言われてね…」

「そこで、Hという男と知り合いました。大将とも仲が良く、常連のような印象だったので、ついワシも気を許してしまったのです。そしてHから、『自分はギャンブルをして、嫁はんに内緒のお金を貯めている』などと言われ、信じてしまいました」
◆ワシの人生を破滅させたHという男の存在
パチンコや競馬などを教わり、自分も賭けてみる。すると、ビギナーズラックなのか運なのか、少額ではあったものの勝ちが続いた。パチンコに競馬、競輪…。どんどんとギャンブルを教わっていった。そのうち負けが続くようになるが、今度は悔しくてやめられない。
「負けを取り返してやろうとギャンブルを続けるうち、ワシの自由になるお金は底を尽きていました。気がつけば500万円以上の現金が消えていたので、恐妻家のA子にバレたら離婚を突きつけられ、役員を解任されるかもしれないとの恐怖に苛まれました」
会社に出社さえしていれば給料が貰えたため、役員の仕事をクビになることだけは避けたいと考えていたとき、大将がタイミングよく手を差し伸べる。「お金、貸そうか?」と持ちかけられ、東根さんに選択肢はなかった。その場しのぎで、大将が作った契約書にサイン。
「その契約書、利息がびっくりするぐらい高かった。気づいたのは、サインしてずいぶん経ってから。返済を待ってくれと頼むと、『だったら、奥さんに事情を話して払ってもらう』と言うので、消費者金融や日掛金融などを転々として借金し、返済に充てていました」
◆大将とHはグルだった? 奈落の底へ
大将に返済して余ったお金は、またギャンブルにつぎ込むため、借金は膨らむ一方。キャッシングなどの枠がなくなると、A子さんに内緒で自分名義の店兼自宅を借金の抵当に入れた。そして、親戚などにも借金をし続けた結果、ついにA子さんの知るところとなる。
「そして、離婚を突きつけられました。A子の両親は話を聞いて大激怒。役員を解任されました。また、店兼自宅の土地・建物は抵当に入れているので、近々住むところも失うと思います。お宅の会社だけは長い付き合いだし、返済しておこうと思ってね」
東根さんはそう力なく笑ったあと、「しかも、Hと大将はグルだったみたいでさ。カモにされたのは、ワシだけじゃないらしい。そう聞いても、面倒臭そうだから訴えるなんてしないけど」と言い、黙々と返済手続きを済ませた。
何気ない日常が、ちょっとしたキッカケで崩壊してしまうことは珍しくない。とくに、詐欺師に狙われやすい不満や愚痴などは、言わないに越したことはないだろう。

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