【赤澤 健一】孤独死して半年間放置されていた男性…窓一面に大量のハエ…ここまで発見が遅れてしまった「納得の理由」

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遺品整理の現場では、いまの日本人、あるいは日本社会の現実に直面させられる。多くの人が、「最期は一人で死んでいく」という現実だ。いま孤独死の現場では何が起こっているのか。日本人の知らない遺品整理の実情を克明に記した『遺品は語る』(赤澤健一著)より、抜粋してお届けする。
高齢化が進んだ社会というのは、「亡くなる人間が多くなる社会」でもある。死者の数それ自体が増える時代ともなれば、「どんな死に方をするか」にも注目が集まって当然だ。
少子化で子どもが少なくなり、独居高齢者が増え、地域コミュニティが消失した社会の中で、いわゆる「孤独死」も増加している。そうした状況を行政は必ずしもカバーできていない。日本は毎年二万以上の人が自殺するが、それに匹敵するか、それ以上の人数が孤独死する国でもある。
孤独死は、『広辞苑』によれば「看取る人もなく一人きりで死ぬこと」とされている。要介護になって誰かのお世話になっていれば孤独死はできないから、見方を換えると、亡くなるそのときまで自立して生活できる高齢者が多いというポジティブな側面もある。そのため最近では、「孤独死」という呼び方ではなく、「孤立死」とか「独居死」とする向きもあるようだ。マイナスイメージを払拭しようという意図が感じられる。
孤独死の数は、きちんと統計が取られているわけではない。誰にも看取られずに息を引き取り、周囲に気づかれずに放置されていたという死に方には、突然の心肺停止もあれば自殺や餓死なども含まれ、明確に分類できないようなケースもあるからだろう。それでも、その数が年々増えていることは確かだ。
私は、そんな時代に遺品整理の仕事に携わっている。
誰にも気づかれずに、死んだことを知る人もなく、ひっそりと一人でその生涯を終える。孤独死、あるいは自殺──。そんな現場に、私は何度も立ち会ってきた。
そうした現場を知る遺品整理業者が常に感じている問題を、これから整理してみたい。殊清掃の現場から
遺品整理とは、故人が遺した遺品を整理して、思い出の品はご家族に渡し、不用なものは処理をする仕事をいう。たとえば、次のような依頼の電話を受けるのが常である。
「遺品整理をお願いしたいのですが」「整理する家は、どちらの地域ですか」「静岡市ですが、私は東京に住んでいて、実家に一人住まいだった母が亡くなったので、その遺品整理をお願いしたいのですけれども……」
もっとも一般的な遺品整理のケースだ。
遺品整理というのは、一般には故人の親族から依頼されて、亡くなられた方の家を整理することだが、実際に遺品整理を依頼してくるのは、親と別居している子ども世代というケースが多い。もちろん、親と同居していても親が亡くなれば遺品整理が必要になるが、別居しているほうが面倒なことが多いからだろう。
photo by gettyimages
そうした一般的な遺品整理以外に、当社の受託する業務の中には、さらに専門的な作業を要求される「特殊清掃」と呼ぶ案件がある。これには孤独死や自殺、それ以外にゴミ屋敷や夜逃げの後始末などが含まれる。
こうした現場では、いったいなにが起こっているのか、“いまの社会の現実”はおそるべきものがある。
二〇一四年八月、一件の孤独死の案件を依頼された。
一般的な遺品整理は故人の親族からの問い合わせが多いが、孤独死関連の問い合わせは不動産管理会社か賃貸物件のオーナー(大家)からが多い。このときも賃貸マンションのオーナーからの依頼だった。ご家族に連絡を取りつつ、並行して当社に問い合わせてきたようだった。
プライバシーの問題があるため、個人を特定できないようにしか書けない点はご了解いただきたいが、マンションは住宅街の中にあった。五〇室ほどの七階建てのマンション。その四階の一室に住んでいた男性が、死後半年ほど経過してから発見された。
時間が経過していたため、死因は不明。とにかく臭いがひどい。エントランスや道路にまで広がっている。ハエも大量発生したようだ。電話でも、「窓のサッシにハエがたくさんいるんです。とにかくすごくて……。窓の向こうが見えなくなるくらい大量にたかっているハエの中に手を突っ込まないと、窓も開けられないんです」と、オーナーの困惑ぶりが伝わってきた。困り果てて私どもに助けを求めてきたということだった。
この例からもわかるように、孤独死は、死後すぐに発見されないことが多い。一人暮らしの五〇代や六〇代の方だと、実際のところ、急死しても「最近、顔を見ないけど元気でいるのだろう」と周囲から注意を払われないことが多いからだ。
昔だと、新聞がたまって配達に来た人が気がついてくれたりしたが、いまは新聞を取っていない人も多い。亡くなっても、すぐには気づかれないのがいまの日本なのだ。
亡くなられた後の遺体の臭いでわかるのではないかと思う人もいるだろうが、現実には、相当ひどい状態になってからでないと気づかれない。一般の人は死臭をかいだことがないので、その臭いがわからないのだ。
photo by gettyimages
夏場だと三日もすると臭いがするが、それだけでは死臭だとは気づかれない。もっと後になって、虫が大量に発生するなどかなりひどい状態になってから発見されることになる。
このときの案件は、その典型的なケースだった。
【「ウジ、ハエの死骸が床一面に…」体重130キロの男性が孤独死した現場の壮絶…いつまでも消えない「死臭の記憶」】に続きます

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