50年に一度の流行!「梅毒」は昔の病気じゃない…今気をつけたいこと

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2023年、梅毒の感染者は過去最多だった前年の1万3228人を上回り、12月17日時点で1万4401人と3年連続の増加で過去最多となりました。なぜ今、流行? 感染したらどうする? 気をつけたいポイントを取材しました。(社会部 馬野恵里花)■症状は消えても実は治っていない!梅毒は梅毒トレポネーマという細菌が原因で、主に性交渉などで感染し、皮膚の異常のほか、臓器などに深刻な症状が出ることがあります。赤い発疹が楊梅(やまもも)に似ていることから、この名がついたといわれています。梅毒は3段階で病状が進みます。

1期梅毒:感染から1か月前後で口や性器などの粘膜に、しこりや潰瘍ができる。股(また)の付け根のリンパ節が腫れることも。痛みがないことが多く、自然に消える。2期梅毒:感染から1~3か月後、全身に菌が回り、顔や手のひらなどに発疹、いわゆる「バラ疹」が出るが、自然に消える。3期梅毒:感染から何年も無治療の状態が続く。皮膚症状はないが、菌が脳や心臓などの臓器や血管に入り、臓器障害、精神症状が出ることがある。適切な治療を受ければ、基本的にはどの段階でも治すことができます。治療は注射か服薬で、注射は尻の筋肉に1度か3度、服薬は4週間、薬を飲み続けるのが一般的です。再検査し、問題がなければ人にうつすことはありません。■「自分は無関係」じゃない梅毒に感染したことがある20代の会社員ゆかりさん(仮名)に話を聞きました。ゆかりさん「(梅毒は)昔の病気のイメージだった。自分には関係ないと思っていた」感染の心当たりを尋ねると「マッチングアプリでの出会い」だと話します。「一時期、本当に毎日いろんな男性と会って、会ったその日に性行為することも」「付き合っていた人と別れたてで…。さみしさを埋めたかったみたいな感じで、深く考えずにそういうことをしていました」梅毒を疑ったきっかけは、性交渉したある男性の言動でした。「その男性はいわゆる“ヤリモク”で。アプリで100人以上の女性とやったみたいなことを聞かされました。それを聞いて漠然と怖くなって」すぐに性病検査を受けたゆかりさん。梅毒は陰性でした。「お医者さんに、すぐだと(陽性が)出ないこともあるから、また来てと言われ、2か月後に再検査したら陽性で。感染がわかるまでに時差があるのも…」薬で治療し、今症状などはなく、定期的な通院で状況を確認しているといいます。「梅毒って、すごく怖いイメージがあって、まさか自分がとショックだった。でも性行為があれば、相手がいるわけで、その人の普段の行動まではわからない」「誰でもうつる可能性があるんだと身をもって知った。自分は“無関係だ”とは思わないでほしい」■今は流行期 SNSの出会いにも要注意日本大学医学部の川名敬主任教授は、今は40~50年に一度の梅毒の流行期だと話します。「一定の頻度で必ず流行は起こりますが、人間の持っている免疫の力が衰えるのと、今、医療従事者も梅毒という病気を診たことがない世代になり、診断が遅れることもあります。現在の流行は、そういった社会的背景も影響していると考えられます」急増の背景にはSNSもあると指摘します。「梅毒に限らず、2010年くらいから性感染症が増えている。時間や空間を超えて、いろいろな方が知り合い、性行為に及ぶことが頻繁になってきた。そういうことにSNSが拍車をかけているんじゃないかと思っています」SNSやマッチングアプリの利用が増え、不特定多数の相手と出会い、性行為に及ぶハードルが以前より下がっている可能性があると指摘。「梅毒は感染力が強い。予防するワクチンなどはないため、必ずコンドームなどで感染を予防すると同時に、早く見つけて早く治療し、広げてしまう可能性を断ち切るというのが重要」■梅毒に感染したら?臨床の現場でも、梅毒患者の増加は顕著です。新宿レディースクリニック院長の崎山ゆかり医師に聞きました。「このクリニックでも1か月に10人前後が梅毒と診断され、治療している状況が、ここ数年続いています」「一番多いのは風俗など、お仕事がきっかけの方ですが、不特定の複数人と関係を持ち、感染経路がわからない人も珍しくありません」崎山医師は、梅毒は「忍者のように消えたり化けたりする」といい、慣れている医師でも見抜くのが難しい場合もあるため、心配なことがあれば何でも伝えてほしいと話します。「言いづらいことはスマホのメモ機能でもいいし、伝えてほしい。空振りでもいい。恥ずかしいとか、怒られるかもと心配される方がいますが、そんなことはない。他の感染症と同じように対応しているので、ぜひ不安の種を放っておかずに相談してほしいです」自身の症状や治療と冷静に向き合うことが大切だと言います。「性行為というのは、どんな方法をもってしても、性感染症とは切り離せない。その可能性をわかった上で、もし感染したら、しっかり治療することが重要。診察に来ただけで安心して、途中で薬を飲むのをやめたり、再検査に来なかったりの方もいますが、自分の幸せな人生のためにも冷静に向き合ってほしい」■赤ちゃんに影響も…近年深刻なのが「先天梅毒」です。梅毒に感染した母親から胎児に感染するもので、流産や死産のほか、赤ちゃんの骨や神経の異常、目の角膜炎や難聴などの可能性もあり、将来発達に問題が生じることもあります。先天梅毒の赤ちゃんの数は、2023年は2022年の2倍近くになる見込みで、過去最多を更新。先天梅毒は梅毒から遅れて流行する傾向があり、今後も注意が必要です。妊婦健診で梅毒も調べますが、そこで梅毒と診断され、治療しても先天梅毒を防げないことがあります。また、妊娠初期に陰性でも、その後、たとえばパートナーが梅毒に感染し、性行為をすれば女性が妊娠中に感染する可能性もあるため、注意が必要です。■2024年の見通し大流行中の梅毒。2024年以降の見通しは。川名教授「ごく最近のデータでは、大都市部では少し減り始めています。一方、地方都市では感染が増え、人流とともに梅毒も移動し始めている可能性があります」「だんだん全国区になってきているところはありますので、まだまだ予断を許さない」一方、梅毒は感染に気がつかない人や、気づいても検査や受診をしない人も多く、「隠れた感染者」が多いと指摘します。「実際の感染者は、もっと多いわけです。そこを駆逐しないと流行は収まらないというのが重要な点。流行の収束は、それほど甘くはない、ひそかに続く可能性があると認識しておいた方がいい」東京都は新宿や立川に無料検査場を設けていて、完全匿名で検査を受けることができます。担当者によると、新宿だけでも一日40人ほどが検査に訪れ、最近では、不特定多数と性交渉する人ではなく、特定のパートナーしかいないという人でも梅毒に感染する例が増えているといいます。社会に多くの感染者がいる状況では、自分が行動に気をつけていても、パートナーがほかで感染すれば、自分も知らずに感染する可能性があるということです。自分や大切な人を守るためにも、自覚を持った行動が求められています。
2023年、梅毒の感染者は過去最多だった前年の1万3228人を上回り、12月17日時点で1万4401人と3年連続の増加で過去最多となりました。なぜ今、流行? 感染したらどうする? 気をつけたいポイントを取材しました。(社会部 馬野恵里花)
梅毒は梅毒トレポネーマという細菌が原因で、主に性交渉などで感染し、皮膚の異常のほか、臓器などに深刻な症状が出ることがあります。赤い発疹が楊梅(やまもも)に似ていることから、この名がついたといわれています。梅毒は3段階で病状が進みます。
1期梅毒:感染から1か月前後で口や性器などの粘膜に、しこりや潰瘍ができる。股(また)の付け根のリンパ節が腫れることも。痛みがないことが多く、自然に消える。
2期梅毒:感染から1~3か月後、全身に菌が回り、顔や手のひらなどに発疹、いわゆる「バラ疹」が出るが、自然に消える。
3期梅毒:感染から何年も無治療の状態が続く。皮膚症状はないが、菌が脳や心臓などの臓器や血管に入り、臓器障害、精神症状が出ることがある。
適切な治療を受ければ、基本的にはどの段階でも治すことができます。治療は注射か服薬で、注射は尻の筋肉に1度か3度、服薬は4週間、薬を飲み続けるのが一般的です。再検査し、問題がなければ人にうつすことはありません。
梅毒に感染したことがある20代の会社員ゆかりさん(仮名)に話を聞きました。
ゆかりさん「(梅毒は)昔の病気のイメージだった。自分には関係ないと思っていた」
感染の心当たりを尋ねると「マッチングアプリでの出会い」だと話します。「一時期、本当に毎日いろんな男性と会って、会ったその日に性行為することも」「付き合っていた人と別れたてで…。さみしさを埋めたかったみたいな感じで、深く考えずにそういうことをしていました」
梅毒を疑ったきっかけは、性交渉したある男性の言動でした。「その男性はいわゆる“ヤリモク”で。アプリで100人以上の女性とやったみたいなことを聞かされました。それを聞いて漠然と怖くなって」
すぐに性病検査を受けたゆかりさん。梅毒は陰性でした。「お医者さんに、すぐだと(陽性が)出ないこともあるから、また来てと言われ、2か月後に再検査したら陽性で。感染がわかるまでに時差があるのも…」
薬で治療し、今症状などはなく、定期的な通院で状況を確認しているといいます。
「梅毒って、すごく怖いイメージがあって、まさか自分がとショックだった。でも性行為があれば、相手がいるわけで、その人の普段の行動まではわからない」「誰でもうつる可能性があるんだと身をもって知った。自分は“無関係だ”とは思わないでほしい」
日本大学医学部の川名敬主任教授は、今は40~50年に一度の梅毒の流行期だと話します。
「一定の頻度で必ず流行は起こりますが、人間の持っている免疫の力が衰えるのと、今、医療従事者も梅毒という病気を診たことがない世代になり、診断が遅れることもあります。現在の流行は、そういった社会的背景も影響していると考えられます」
急増の背景にはSNSもあると指摘します。
「梅毒に限らず、2010年くらいから性感染症が増えている。時間や空間を超えて、いろいろな方が知り合い、性行為に及ぶことが頻繁になってきた。そういうことにSNSが拍車をかけているんじゃないかと思っています」
SNSやマッチングアプリの利用が増え、不特定多数の相手と出会い、性行為に及ぶハードルが以前より下がっている可能性があると指摘。
「梅毒は感染力が強い。予防するワクチンなどはないため、必ずコンドームなどで感染を予防すると同時に、早く見つけて早く治療し、広げてしまう可能性を断ち切るというのが重要」
臨床の現場でも、梅毒患者の増加は顕著です。新宿レディースクリニック院長の崎山ゆかり医師に聞きました。
「このクリニックでも1か月に10人前後が梅毒と診断され、治療している状況が、ここ数年続いています」「一番多いのは風俗など、お仕事がきっかけの方ですが、不特定の複数人と関係を持ち、感染経路がわからない人も珍しくありません」
崎山医師は、梅毒は「忍者のように消えたり化けたりする」といい、慣れている医師でも見抜くのが難しい場合もあるため、心配なことがあれば何でも伝えてほしいと話します。「言いづらいことはスマホのメモ機能でもいいし、伝えてほしい。空振りでもいい。恥ずかしいとか、怒られるかもと心配される方がいますが、そんなことはない。他の感染症と同じように対応しているので、ぜひ不安の種を放っておかずに相談してほしいです」
自身の症状や治療と冷静に向き合うことが大切だと言います。
「性行為というのは、どんな方法をもってしても、性感染症とは切り離せない。その可能性をわかった上で、もし感染したら、しっかり治療することが重要。診察に来ただけで安心して、途中で薬を飲むのをやめたり、再検査に来なかったりの方もいますが、自分の幸せな人生のためにも冷静に向き合ってほしい」
近年深刻なのが「先天梅毒」です。梅毒に感染した母親から胎児に感染するもので、流産や死産のほか、赤ちゃんの骨や神経の異常、目の角膜炎や難聴などの可能性もあり、将来発達に問題が生じることもあります。先天梅毒の赤ちゃんの数は、2023年は2022年の2倍近くになる見込みで、過去最多を更新。先天梅毒は梅毒から遅れて流行する傾向があり、今後も注意が必要です。妊婦健診で梅毒も調べますが、そこで梅毒と診断され、治療しても先天梅毒を防げないことがあります。また、妊娠初期に陰性でも、その後、たとえばパートナーが梅毒に感染し、性行為をすれば女性が妊娠中に感染する可能性もあるため、注意が必要です。■2024年の見通し大流行中の梅毒。2024年以降の見通しは。川名教授「ごく最近のデータでは、大都市部では少し減り始めています。一方、地方都市では感染が増え、人流とともに梅毒も移動し始めている可能性があります」「だんだん全国区になってきているところはありますので、まだまだ予断を許さない」一方、梅毒は感染に気がつかない人や、気づいても検査や受診をしない人も多く、「隠れた感染者」が多いと指摘します。「実際の感染者は、もっと多いわけです。そこを駆逐しないと流行は収まらないというのが重要な点。流行の収束は、それほど甘くはない、ひそかに続く可能性があると認識しておいた方がいい」東京都は新宿や立川に無料検査場を設けていて、完全匿名で検査を受けることができます。担当者によると、新宿だけでも一日40人ほどが検査に訪れ、最近では、不特定多数と性交渉する人ではなく、特定のパートナーしかいないという人でも梅毒に感染する例が増えているといいます。社会に多くの感染者がいる状況では、自分が行動に気をつけていても、パートナーがほかで感染すれば、自分も知らずに感染する可能性があるということです。自分や大切な人を守るためにも、自覚を持った行動が求められています。
近年深刻なのが「先天梅毒」です。梅毒に感染した母親から胎児に感染するもので、流産や死産のほか、赤ちゃんの骨や神経の異常、目の角膜炎や難聴などの可能性もあり、将来発達に問題が生じることもあります。
先天梅毒の赤ちゃんの数は、2023年は2022年の2倍近くになる見込みで、過去最多を更新。先天梅毒は梅毒から遅れて流行する傾向があり、今後も注意が必要です。妊婦健診で梅毒も調べますが、そこで梅毒と診断され、治療しても先天梅毒を防げないことがあります。また、妊娠初期に陰性でも、その後、たとえばパートナーが梅毒に感染し、性行為をすれば女性が妊娠中に感染する可能性もあるため、注意が必要です。
大流行中の梅毒。2024年以降の見通しは。
川名教授「ごく最近のデータでは、大都市部では少し減り始めています。一方、地方都市では感染が増え、人流とともに梅毒も移動し始めている可能性があります」「だんだん全国区になってきているところはありますので、まだまだ予断を許さない」
一方、梅毒は感染に気がつかない人や、気づいても検査や受診をしない人も多く、「隠れた感染者」が多いと指摘します。「実際の感染者は、もっと多いわけです。そこを駆逐しないと流行は収まらないというのが重要な点。流行の収束は、それほど甘くはない、ひそかに続く可能性があると認識しておいた方がいい」
東京都は新宿や立川に無料検査場を設けていて、完全匿名で検査を受けることができます。担当者によると、新宿だけでも一日40人ほどが検査に訪れ、最近では、不特定多数と性交渉する人ではなく、特定のパートナーしかいないという人でも梅毒に感染する例が増えているといいます。

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