【赤澤 健一】「田舎で一人暮らし」88歳の母の急死…残された「真新しい大量のタオル」に60代娘が涙を流した理由

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遺品整理の現場では、いまの日本人、あるいは日本社会の現実に直面させられる。多くの人が、「最期は一人で死んでいく」という現実だ。いま孤独死・自殺の現場では何が起こっているのか。遺品整理業者が、日本人の知らない遺品整理の実情を克明に記した『遺品は語る』(赤澤健一著)より、抜粋してお届けする。
孤独死の案件では、故人に身寄りのないケースも多いが、家族がいる場合は、それはそれで切ない場面に遭遇することになる。
しばらく前のことだが、田舎の実家に一人暮らしをしていて、八八歳で亡くなられた方の遺品整理を六〇代の娘さんから依頼されたことがある。高齢のお母さんが心筋梗塞で急に倒れ、救急搬送されたものの病院で亡くなられたという。住み慣れた田舎で暮らしたいという母親に対し、仕事があって都会に住まねばならず、離れて暮らしていた娘さんが、お母さんの住んでいた実家の片づけを頼んできたわけだ。
母親の様子を見に、しばしば実家に顔を出していたらしく、「最後に会ったのは三日前で、あんなに元気だったのに……」と、娘さんは気落ちしていた。一人暮らしは母親本人の希望だったとはいえ、結果として寂しい思いをさせていたのではないかと、娘さんなりに思うところがあったのだろう。
娘さんによれば、元気なころ、お母さんはものを大切にし、なんでも古くなるまで使い切る方であったらしい。こうした故人の生活ぶりを話していただくことは、遺品整理をするスタッフには非常に学びになるものだ。
Photo by getty images
ところが遺品整理をしているうち、箱に収められたままの真新しいタオルが大量に出てきた。それは、娘さんがお母さんのために毎年プレゼントし続けてきたものだった。新しいまま手をつけずに、几帳面に年ごとに整理して並べられていた。大切に取っておいたお母さんの気持ちが偲ばれる。それを見た娘さんは、「使い古したものばかり使わずに、新しいのを使ってくれてたらよかったのに……」と涙声だった。作業スタッフも、思わずもらい泣きしそうだった。依頼主の気持ちも片づける孤独死や自殺などの案件になると、当社の現場スタッフにとっても精神的にきつい面がある。一般の遺品整理以上の配慮がいる。たとえば作業も、室内や建物に血がつかないように運び出したりする細心の注意が必要とされる。なにより、故人のご家族との接触に、きわめてセンシティブな配慮をしなくてはならない。たとえば、自殺した故人の母親といっしょになって室内で見積もりしたり作業をしたりすることがある。ご遺体の発見が遅れ、腐敗して室内中に悪臭が充満していたとしても、遺族の前ではスタッフ同士で臭いの話などは禁物だし、臭いの辛さを態度でさとられないようにする配慮も必要だ。それがプロの心構えというものだろう。しかもそのあとで、悲しみの中にある母親に見積金額を提示し、内容を理解してもらわねばならない。もちろん、それによって母親の気持ちの整理に寄り添うという一面もある。専門用語で、これを「グリーフケア」という。悲しみを乗り越えて立ち直るのを手助けするという意味だ。Photo by getty imagesご依頼主は遺品を片づけ、それとともに気持ちを片づける必要があるのだ。それをサポートするのが、この仕事だと思っている。【「手には洗濯物、正座をしたまま絶命」…山間部で一人暮らしをする90代女性の予想だにしなかった「最期の姿」】に続きます
ところが遺品整理をしているうち、箱に収められたままの真新しいタオルが大量に出てきた。それは、娘さんがお母さんのために毎年プレゼントし続けてきたものだった。
新しいまま手をつけずに、几帳面に年ごとに整理して並べられていた。大切に取っておいたお母さんの気持ちが偲ばれる。
それを見た娘さんは、「使い古したものばかり使わずに、新しいのを使ってくれてたらよかったのに……」と涙声だった。作業スタッフも、思わずもらい泣きしそうだった。
孤独死や自殺などの案件になると、当社の現場スタッフにとっても精神的にきつい面がある。一般の遺品整理以上の配慮がいる。たとえば作業も、室内や建物に血がつかないように運び出したりする細心の注意が必要とされる。
なにより、故人のご家族との接触に、きわめてセンシティブな配慮をしなくてはならない。たとえば、自殺した故人の母親といっしょになって室内で見積もりしたり作業をしたりすることがある。ご遺体の発見が遅れ、腐敗して室内中に悪臭が充満していたとしても、遺族の前ではスタッフ同士で臭いの話などは禁物だし、臭いの辛さを態度でさとられないようにする配慮も必要だ。それがプロの心構えというものだろう。
しかもそのあとで、悲しみの中にある母親に見積金額を提示し、内容を理解してもらわねばならない。もちろん、それによって母親の気持ちの整理に寄り添うという一面もある。専門用語で、これを「グリーフケア」という。悲しみを乗り越えて立ち直るのを手助けするという意味だ。
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ご依頼主は遺品を片づけ、それとともに気持ちを片づける必要があるのだ。それをサポートするのが、この仕事だと思っている。
【「手には洗濯物、正座をしたまま絶命」…山間部で一人暮らしをする90代女性の予想だにしなかった「最期の姿」】に続きます

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