安すぎる「熊出動手当て」に猟友会員が悲鳴 「費用含めたらほぼボランティア」「命張ってるのに人を舐めてる」

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年間を通して「熊」の話題が取り上げられ、悲しき被害や、あるいは駆除に成功した事例の記事をよく目にする。その一方で、実際に“熊対応”を強いられる人々の事情に耳を傾けてみると……。
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【写真】今年も「OSO」が大きな話題に…駆除されてもすごい迫力「このままではパンクしてしまう……」「さすがに“やってられるか”と思わざるを得ませんよ」 そう話すのは、長野県内で熊の出没対応にあたっている猟友会員である。「私の住む地域では、熊が罠にかかった際などに自治体から連絡が入り、猟友会員でその対応にあたることになっています。ですが、今年の熊の出没数は異常なほど多く、例年の4、5倍くらいのペースで対応を強いられているんです。これまでは一度も熊の出没がなかった年もあったくらいなのに、ここ2、3か月だけで、すでに十数回も出動しているほど。狩猟歴50年以上の大ベテランも『こんなことは今までなかった』と嘆いています」

今年の出没数は「異常なほど多い」(写真はツキノワグマのイメージ) しかし、熊が増えたからといって、対応にあたることのできる人員はごく限られたままなのだという。「もちろん、地域の猟友会員は何人かいるのですが、熊の対応には特別な技術が必要になるので、このエリアで出動するのは、私と、もう一人の先輩を含めて2人だけなんです。ですから、時間帯も休日も問わず要請が舞い込み、その都度対応に向かわざるを得ない状態。しかも、猟友会は高齢化が進む一方、熊対応ができる人材の育成も進んでいないので、さすがにこのままではパンクしてしまうのではと憂慮しています」命の危険も 熊の増加に、人材不足が重なり、既に現場では悲鳴があがっているようだ。だが、問題はこれだけではないという。「こうして何度も現場に駆り出されながら、自治体から支給される手当てはたったの時給1000円です。熊を捕った場合の報奨金が出るわけでもなく、現場に駆け付けるためのガソリン代が出ることもありませんから、実態としてはほぼボランティア状態ですね。割に合うどころの話ではないですよ」 熊の対応時には、命の危険を感じることもあるそうで、「出動時は、基本的には罠にかかった熊と対面することになります。熊専用の罠の場合はまだ良いのですが、そうではない場合、括りつけられたワイヤーが外れそうになったり、あるいは既に外れかけている状態だったこともあったりして、大事故の一歩手前ということが何度かありました。これだけ命を張っておきながらの『時給1000円』ですから、こう言っては悪いですけど、人を舐めてますよね。北海道や東北など、突出して熊の数が多いところは事情も違うのかもしれませんが、それ以外では、似たような状況なのではないでしょうか」「簡単には変わらない」 知られざる現場からの悲鳴――。長野県の担当者に実態を尋ねてみると、「はっきりした原因まではわかっていないものの、今年の熊の目撃数は格段に多く、昨年度と比較して、10月は50頭から156頭に、11月は26頭から117頭にまで増加しています。基本的には山林での目撃ですが、農林業の被害額も大きく、ここ数年は1億円超えが続いています。たしかに、熊対応の担い手を確保することは課題としてとらえていまして、狩猟免許取得の呼びかけや、腕を磨いていただくための研修会の開催などは行っていても、簡単に増やせる状況ではないというのが現状です」 待遇面については、「『活動経費』としての補助金が出ている町村も一部ありますが、実際に熊が出没した際の対応や、それに関する手当てや報奨金については、各市町村の裁量になっています」 ということで、実際にいくつかの市町村に聞いてみると、捕獲等までの一連の対応に数万円を支給するという地域も一部あったものの、多くは「時給1000円」「1回の出動につき3000円」などという似たり寄ったりの状況であった。ある市の担当者からはこんな声も。「出没数が多くなったことで、このような問題が浮き彫りになったように思います。ですが、予算にも関わる話なので、一自治体で簡単に『では手当てを拡充しましょう』というわけにもいかない事情はあります。これを機に、県や国として、何かしらの補助を検討していただけたら、というのが正直なところです」 容易には変わりそうにない実態に、先の猟友会員はこう漏らす。「自分の時給を上げてほしいという話ではありません。技術が必要になるため、担い手を増やすのもあまり現実的ではないのもわかります。だからこそ、限られた人員でも持続的に対応にあたることができるよう、体制や待遇面をもう少し考え直していただくことも必要なのではないでしょうか」 今や熊は大きな社会問題の一つである。現場からの問題提起に耳を傾けなければならないのは、当事者だけではないのかもしれない。デイリー新潮編集部
「さすがに“やってられるか”と思わざるを得ませんよ」
そう話すのは、長野県内で熊の出没対応にあたっている猟友会員である。
「私の住む地域では、熊が罠にかかった際などに自治体から連絡が入り、猟友会員でその対応にあたることになっています。ですが、今年の熊の出没数は異常なほど多く、例年の4、5倍くらいのペースで対応を強いられているんです。これまでは一度も熊の出没がなかった年もあったくらいなのに、ここ2、3か月だけで、すでに十数回も出動しているほど。狩猟歴50年以上の大ベテランも『こんなことは今までなかった』と嘆いています」
しかし、熊が増えたからといって、対応にあたることのできる人員はごく限られたままなのだという。
「もちろん、地域の猟友会員は何人かいるのですが、熊の対応には特別な技術が必要になるので、このエリアで出動するのは、私と、もう一人の先輩を含めて2人だけなんです。ですから、時間帯も休日も問わず要請が舞い込み、その都度対応に向かわざるを得ない状態。しかも、猟友会は高齢化が進む一方、熊対応ができる人材の育成も進んでいないので、さすがにこのままではパンクしてしまうのではと憂慮しています」
熊の増加に、人材不足が重なり、既に現場では悲鳴があがっているようだ。だが、問題はこれだけではないという。
「こうして何度も現場に駆り出されながら、自治体から支給される手当てはたったの時給1000円です。熊を捕った場合の報奨金が出るわけでもなく、現場に駆け付けるためのガソリン代が出ることもありませんから、実態としてはほぼボランティア状態ですね。割に合うどころの話ではないですよ」
熊の対応時には、命の危険を感じることもあるそうで、
「出動時は、基本的には罠にかかった熊と対面することになります。熊専用の罠の場合はまだ良いのですが、そうではない場合、括りつけられたワイヤーが外れそうになったり、あるいは既に外れかけている状態だったこともあったりして、大事故の一歩手前ということが何度かありました。これだけ命を張っておきながらの『時給1000円』ですから、こう言っては悪いですけど、人を舐めてますよね。北海道や東北など、突出して熊の数が多いところは事情も違うのかもしれませんが、それ以外では、似たような状況なのではないでしょうか」
知られざる現場からの悲鳴――。長野県の担当者に実態を尋ねてみると、
「はっきりした原因まではわかっていないものの、今年の熊の目撃数は格段に多く、昨年度と比較して、10月は50頭から156頭に、11月は26頭から117頭にまで増加しています。基本的には山林での目撃ですが、農林業の被害額も大きく、ここ数年は1億円超えが続いています。たしかに、熊対応の担い手を確保することは課題としてとらえていまして、狩猟免許取得の呼びかけや、腕を磨いていただくための研修会の開催などは行っていても、簡単に増やせる状況ではないというのが現状です」
待遇面については、
「『活動経費』としての補助金が出ている町村も一部ありますが、実際に熊が出没した際の対応や、それに関する手当てや報奨金については、各市町村の裁量になっています」
ということで、実際にいくつかの市町村に聞いてみると、捕獲等までの一連の対応に数万円を支給するという地域も一部あったものの、多くは「時給1000円」「1回の出動につき3000円」などという似たり寄ったりの状況であった。ある市の担当者からはこんな声も。
「出没数が多くなったことで、このような問題が浮き彫りになったように思います。ですが、予算にも関わる話なので、一自治体で簡単に『では手当てを拡充しましょう』というわけにもいかない事情はあります。これを機に、県や国として、何かしらの補助を検討していただけたら、というのが正直なところです」
容易には変わりそうにない実態に、先の猟友会員はこう漏らす。
「自分の時給を上げてほしいという話ではありません。技術が必要になるため、担い手を増やすのもあまり現実的ではないのもわかります。だからこそ、限られた人員でも持続的に対応にあたることができるよう、体制や待遇面をもう少し考え直していただくことも必要なのではないでしょうか」
今や熊は大きな社会問題の一つである。現場からの問題提起に耳を傾けなければならないのは、当事者だけではないのかもしれない。
デイリー新潮編集部

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