夜間に子どもの悲鳴のような鳴き声…ルポ!7万頭大量発生キョンが泳いで東京へ「衝撃の繁殖現場」写真

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「千葉県で繁殖しているキョンですが、最近は県境を越えて茨城県でも確認されています。すでに千葉県内の問題ではなくなっているんです。このままいけば、都内に出没するのも時間の問題でしょう」(全国紙社会部記者)
シカ科の特定外来生物キョンが千葉県で大繁殖している。同県によると県内の生息数は毎年増え続け、’22年時点で7万1500頭に上る。体調1m、体重10kgほどでニホンジカを小さくしたようなこの草食動物。原産地は中国や台湾で、もともと日本にはいなかった。
千葉県自然保護課の市原岳人副課長が説明する。
「千葉の場合、’01年に閉園した勝浦市の観光施設で飼われていたものが逃げ出して野生化しました。もっとも多少は放し飼いのような飼育をしていたため、閉園前から何頭かは脱走していたようです。生後7ヵ月から妊娠し繁殖力も強いため急激に増えてしまう。市原市より南に定住し、君津、鴨川、大多喜町の山林には特に多くいます」
生息数の増加で住宅地への被害も増えている。民家の花壇に植えた花や田んぼのコメなどを食べるうえ、夜間に子どもの悲鳴のようなおどろおどろしい大きな声で鳴くために睡眠が妨害されると訴える住民もいる。県では撲滅を目指して’22年には8864頭を捕獲したが、一向に減る気配がない。
このキョンが最近では東京に近い県北西部に広がっているという。柏市で農園を営む小川幸夫氏が話す。
「今までに4回目撃しています。最初は6年ほど前。山林で作業をしているときに崖を駆け上がる小型の動物がいたのです。夜中に『ギョーン!』という独特な鳴き声を聞きキョンだと気づきました。車の前に出てきたこともあります。山林や川伝いに移動しているのか、だんだん柏の市街地に近づいている感じです。
キョンやイノシシなどの野生動物を目にするようになったのは、県内に大きな被害を出した’19年の台風15号の後あたりから。農作物の被害でいうとイノシシのほうが大きいのですが、キョンが希少植物を食べてしまわないか心配です」
千葉だけではない。すでに茨城では複数回目撃されているのだ。茨城県自然博物館の後藤優介・副主任学芸員が説明する。
「県内で’17年から現在までに確認できたものだけで3回。目撃情報や鳴き声情報はさらにあります。一番新しいものは、柏から北に約50km離れた筑西市の川沿いで今年9月に撮影されました。おそらく千葉から利根川を渡ってきたのでしょう。
今のところ確認されているのはすべてオスですが、メスが来ると繁殖する可能性がある。茨城の北側は栃木、福島と山が続いているため、東日本一帯に広まる恐れがあります。茨城で食い止める必要があり、情報を集めているところです」
さらに気になるのは、キョンが都内23区へ来ることだ。千葉から江戸川を渡れば東京都葛飾区。茨城からも利根川と江戸川を渡り、川沿いに南下すれば都内だ。よく聞くのは、キョンは泳げないため川を渡る可能性が低いという噂。だが、泳ぐキョンは実際に目撃されているのだ。
勝浦市でマリンスポーツサービスを提供する「マリブポイント」の従業員が話す。
「積極的ではありませんが、必要に迫られればキョンも泳ぐんです。勝浦では崖から落ちたり、動物に追われたりして海に飛び込んだキョンが泳いでいるのを見ることがあります。今年秋にも、太平洋の沖合350mを泳ぐキョンを岸に向かって誘導してレスキューしました」
泳げるなら都内への移動も現実味を帯びてくる。年間300頭以上のキョンを捕獲してジビエ肉として販売するなどその生態に詳しい猟師工房(君津市)の原田祐介代表は、東京へ移動する可能性をこう指摘する。
「キョンは犬かきのようにして泳ぎます。冒険心の強い若いオスは、縄張りを求めて移動します。千葉の江戸川沿いを移動中に犬などに追いかけられたら驚いて川に飛び込み、そのまま東京側の川岸まで渡っても何ら不思議ではありません。草むらが多く餌も見つけやすい川岸は動物が生息しやすい場所。そこから都内に定住する可能性はあります」
現在、キョンが生息するのは千葉と伊豆大島だけといわれる。だが、かつて動物の管理が甘かった時代にキョンを飼育していた動物園は全国に点在し、それらの地域の山中で鳴き声を聞いたとの情報もある。人間によって連れてこられたキョンに責任はないが、すでに日本全体で問題になりつつあるのだ。
取材・文・撮影:形山昌由ジャーナリスト

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