北海道でエゾアワビの稚貝全滅、水温上昇でウイルス増殖か…再来年のおせち料理に影響も

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北海道で唯一、エゾアワビの稚貝を生産する道栽培漁業振興公社熊石事業所(八雲町)で今夏、約95万個の稚貝が全滅した。
原因は水温が高いと増殖する「アワビ筋萎縮(いしゅく)症ウイルス」。過去に神奈川県や京都府などで感染例があるが道内では例がなく、夏の猛暑が背景にあるとみられる。全滅した稚貝が成長して流通する予定だった2年後以降、おせち料理などに影響する恐れがある。(北海道支社 高橋広大)
■「急に水槽の底に落ちていた」
「ウイルスがとうとう北海道に来てしまったか……」。熊石事業所の材木谷敏秀所長(54)は、ずらりと並んだ水槽の前で肩を落とした。176個の水槽は大半が空っぽで、一部に餌となる海藻が生えているだけだ。
公社では、稚貝を30ミリの大きさまで成長させた後、道内の漁協や近隣の上ノ国町、福島町など約20か所に供給する。その後、養殖などによって55ミリ以上まで育てられ、出荷される。道内では稚貝の生産を公社が一手に引き受けており、今回の全滅による影響は甚大だ。
今年8月1日、水槽で2~3ミリの稚貝が大量死しているのが確認され、同8日までに全滅。道立総合研究機構が検査した結果、アワビ筋萎縮症ウイルスの陽性が判明した。材木谷所長は「アワビは前日まで(すみかの)波板にくっついていたのに、急に水槽の底に落ちていた」と振り返る。
稚貝の飼育には、近くの日本海からくみ上げた海水が使われている。気象庁のデータによると、日本海の8月の水温は21~23度台が平年値だが、今年は24~27度台と高かった。公社はウイルスを含んだ海水を使用したことで感染が広がった可能性があるとみている。
■損失4000万円
公社は今年計画していた稚貝約80万個の供給を中止。損失額は4000万円以上に上る。三宅博哉副会長は「水温が高くなり、ウイルスが活性化した可能性がある」と推測する。
道産エゾアワビは、全国のアワビ類で約1割のシェアを持つ。道内で流通するのは大半が道産エゾアワビのため、関係者は不安を隠さない。福島町産エゾアワビをおせちの材料に使う函館市のレストラン経営者は「入手できなければ道外産を使うしかないが、確保できるだろうか」と話す。
公社は道などと対策を進め、来年以降の稚貝の供給再開を目指す。国立研究開発法人水産研究・教育機構の松山知正・免疫グループ長(魚病学)は「感染した稚貝は廃棄せざるをえない。取水時に海水に紫外線を当ててウイルスを殺して予防するしかない」と指摘する。
◆アワビ筋萎縮症=アワビのみに起きる感染症で、えらの表面に感染するため酸欠となり、稚貝の大量死を招く。ウイルスは水温18~20度になると活発になり、25度以上で収束する。感染したアワビを食べても体温でウイルスが活動できないため、人への健康影響はない。

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