近年はSDGsの提唱などにより、リサイクルやリユースへの関心が高まったことでゴミの分別を重視する自治体が増えている。
燃えるゴミ・燃えない(燃やさない)ゴミ・資源ゴミ・粗大ゴミ、それぞれに細かいルールがあることも珍しくない。特に引っ越ししたばかりの時は、品目一覧表なしでは、正しいゴミの分別が不可能な地域も出てきている。
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「ゴミの出し方が住民にとってストレスなのは間違いありません」と話すのは、消費生活アドバイザーの田沼裕子さんだ。
「30年ほど前にエコがブームになり、リサイクルの手始めとして、ペットボトルは洗ってゴミに出すというルールが定着しましたが、その頃から『環境には優しいかも知れないけど、水道代がかかるのでお財布には厳しい』という声が上がっていました。今は『スプレー缶などの穴あけが面倒』『ちょっとでも分別を間違えると収集してもらえない』などのぼやきも多く聞きます」(田沼さん)
田沼さんによれば、分別以上に問題になっているのが「プライバシーの問題」だという。
「最近では、<市が指定した透明や半透明のゴミ袋を使ってゴミを出ように>と、ルールを決めている自治体が増えてきています。袋に名前を書くように指導しているケースもあります。それらは未だに分別しないでゴミを出してくる住民を減らすのが主目的のルールです。
しかし、成果があがる反面、ゴミの中身が名前とともに見えしまい、どこのお店を利用して、何を買い、どう消費しているかが一目瞭然となり、家庭の事情がダダ洩れになっているという問題が発生しました。ゴミを漁るストーカーの話なども聞きますし、ゴミは個人情報の塊です。それを透明のゴミ袋を入れたり、名前を書いたりすることはプライバシーが侵害される恐れがあるんです」(田沼さん)
「プライバシーの侵害」は「人権の侵害」にも通ずる重大な問題ともいえる。私は、これまで年齢性別問わず、5000人以上から、個人が抱えるあらゆる悩みを取材してきたが、実際、引っ越し先で出した家庭ゴミで、まさにこの憂き目にあい、住まいを追われた家族がいた。
小田島律子さん(仮名・45歳)は夫の転勤を機に北関東の某所にマイホームを建てて移住。そこは新興住宅地ではあったが、古くからの住民と移住組の住居が混在する地域でもあった。
「自治会長さんのお宅に挨拶に伺った時、『ゴミの出し方が、県内でも特に細かく決められている地域だから注意してね』と真っ先に言われました。ここではゴミの種類別に指定された袋を使い分けるのですが、それがすべて透明で、しかも自治会名と世帯主のフルネームを書かないとダメ。少しでもルールを破れば、清掃業者さんは持って行ってくれず、名前が書かれた透明のゴミ袋は近隣住民にさらされる事になると注意を受けました」
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律子さんは自治会長から、
『燃えるゴミは専用の透明の袋に入れて、自治会名と名前を入れて出してください』
『ペットボトルは必ず洗って資源ごみの日に名前を書いた袋に入れて出すけど、ラベルは燃えるゴミの日に、キャップは不燃ごみの日に名前を書いた袋に入れて出してください』
『段ボールはヒモで十文字に縛って出せばいいけど、ガムテープや金具はすべて外してください』
『食品用の発泡スチロールトレイは資源ごみの専用袋に入れるけど、納豆とカップ麺の容器は必ず燃えるゴミに入れてください』
など、細かく説明を受けたという。
「燃えるゴミの日に、袋の中に子供が捨てたボールペンのキャップが1つ紛れていたSさんは『キャップが入っています』と注意の張り紙を貼られ、回収されなかった話とか、Dさんはカード明細書をそのまま袋に入れてしまったため、普段何を買っているのかご近所にバレてしまったとか、恐ろしい話も聞かされました。前に住んでいたマンションは分別さえすれば、どんな袋でも、いつ出しても良いという環境だったので困惑しました」
他にも指定のゴミ袋が1枚10円近くするとか、ゴミ捨て場の掃除の順番がタイトに回ってくるなど、気にかかることは他にもあったというが、最も懸念したのは「透明なゴミ袋で、どうやって見られたくないゴミを捨てれば良いのか?」だったという。
「家に帰って市役所のホームページから「ゴミ収集日と分別方法」を調べていったら『中身が知られたくないゴミは新聞紙で包んで出すこともできる』と書いてあり、生理用品などは、中が見えない袋を使っても良いと書いてあったので、ホッとしました」
とはいえ、厳しい事には変わりはない。律子さんは自治体のホームページから「ゴミ収集日と分別方法」のページをプリントアウトして冷蔵庫に貼り付け、家族で共有。分別を徹底させて「全神経を集中させてゴミを出していた」という。
「それでも失敗したんです。ご近所の奥さんと立ち話をしていたら、『更年期で体調が悪い』と言われたので、『私もそろそろ気をつけないと』と返したら、『奥さんはまだ生理あるんだし、避妊もしてるくらいなんだから大丈夫でしょ?』と言われました。
『どういうことですか?』と聞いたら『お宅、すごい大量のナプキンを捨てているじゃない? あれはお嬢さんひとりの量じゃないもの。それに、前にゴミの中からコンドームが見えていたこともあったのよ』と言われたんです。ナプキンも避妊具も新聞紙に包んで捨てていたつもりだったので、顏から火が出そうなくらい恥ずかしかった」
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以来、細心の注意を払ってゴミを分別して出した後は、自分のゴミがちゃんと業者に回収されているか、再度ゴミステーションに出向いて確かめるのが日課になったほど気を使うまでになったそうだ。
前出・消費生活アドバイザーの田沼さんが語る。
「分別のルールを守っていないゴミが回収拒否されるという話はよく聞きますが、その許容範囲は自治体や回収する業者によって違います。中身をろくに見ないこともあれば、目を皿のようにしてチェックする場合もある。回収されなかったゴミは置き去りになりますので、出した本人がすぐに引き取らないと、ルール違反した証拠としてずっとさらされることになりかねません」(田沼さん)
ところが、そんな努力も全て台無しにされていることに気付いたのは、移住して3ヵ月ほどたった頃のことだった。
続く『近隣住民のマナー違反で、家族の可燃ゴミの中身が通学路に展示された状態に…炎上する日常生活に追い詰められて【長男は家出、長女は引きこもり】』では、ゴミ出しご近所トラブルによって、長男は深夜外出が増え、長女が不登校になった顛末に触れていく。