“頂き女子りりちゃん”を名乗り、複数の男性から金銭をだまし取ったとして今年8月に逮捕され、現在公判中の渡辺真衣被告(25才)。その金額が2億円を超えていたことや、「おぢ」と呼ぶ年上男性たちから金銭を搾取するテクニックを自らまとめた「マニュアル」を販売していたこと、だまし取った金銭の大半がホストに流れていたことなどが話題を呼び、裁判中の一挙一動が連日報道されている。渦中の本人は現在、何を思うのか。『ホス狂い~歌舞伎町ネバーランドで女たちは今日も踊る~』の著書があるノンフィクションライターの宇都宮直子氏が、彼女に接見した。
【写真】「頂き女子りりちゃん」の土下座シーンや「5000万円いただいているおぢ”」とのLINEのやりとり、販売していたマニュアルの内容 * * *「はじめましてぇ~~~~」 第2回公判の2日後にあたる12月8日、勾留されている愛知県の留置施設の第二面会室に現れた渡辺被告は、こちらが拍子抜けするほどに明るい笑顔で現れた。 アクリル越しの渡辺被告は、紺のスウェットに黒いパンツ、すっぴんにクリアフレームの太ブチ眼鏡という姿。目はぱっちりとした二重まぶたで、顔の半分を覆う白いマスクには黒いマジックで「23」という留置番号がデカデカと書かれている。 無機質な面会室に不似合いな明るさと勢いに若干面くらいながらも、現在の体調について問うと「ありがとうございます~!元気です!眠れてますし。食べてるし!健康ですよ~!」とマッスルポーズを決める――。 その姿は、筆者が傍聴していた6日の公判で、終始うなだれていた渡辺被告からは想像もつかないものだった。 マッチングアプリで知り合ったという男性から約3800万円をだまし取ったことの審議が行われた同公判では、被害男性が渡辺被告と知り合ってわずか1か月ほどで生命保険もすべて解約し、全財産を被告との同居と結婚を夢見て“オールイン”していたことが明かされた。同時に渡辺被告が男性に語っていた「つらい生い立ちで、不仲である親との手切れ金のために800万円必要」であることや「『池田』と言う男に2700万円以上の借金があり、それを返さなければ風俗で働かなければいけないこと」「携帯代金を滞納しており、払わなければ携帯が使えなくなること」がすべて渡辺被告による「ウソ」だったことも次々に明らかにされた。 検察が繰り返す、「ウソ、ウソ、虚偽」の言葉だけが響く、水を打ったように静まり返る法廷の中でただうつむく渡辺被告にかつて数々の動画に出演していた、キレイに整えられたセミロングのアッシュブロンドに華やかなメイクを施した「頂き女子」の面影はなかった。 しかし、いざ面会してみると外見こそ違うものの大きな目を見開き、ハイテンションでまくしたてる様子は筆者がYouTubeで幾度となく目にした「りりちゃん」そのものだった。 「公判では元気がなさそうでしたが……」と問いかけると、手をひらひらさせながら「裁判来てくれたんですか~?ありがとうございます!そうだ!目があったかも?」とこちらをのぞき込むようにして言う。 しかし全体で84席もある広い傍聴席で私が座っていたのは、後列から2番目の席であり、被告人席から目が合うような距離ではない。それでも「私はあなたを認識してます」というように、こちらの心を揺さぶり、気を持たせるようなことを言うのは、もはやクセとなっているのか。そして、“元気がなかった”理由については「裁判じゃ元気だしちゃダメじゃないですか~(笑い)」と、語尾を伸ばした「りりちゃん節」で、悪びれもせず言い切るのだ。 では、いまの状況をどうとらえ、何を考えているのか。「うーん……。何を考えているのか、といわれるとわからない。外に出たら何をしよっかなとかですかね。どうしよう? いきなり言われても、パッと出て来ない。 逮捕されたことへの後悔ですか? 事件のことは、流れのままに受け止める。受け入れています。あっ、刑務所って資格とれるんですよね?何の資格とろうかな……」 時折口ごもりながらも、笑顔とハイテンションぶりは変わらない。「わからない」と言うときは頭に手を当て、「流れのままに」に言及する際は「置いといて」というジェスチャーを使い、身振り手振りを交えながら楽しげに筆者に話しかける。 8月に逮捕された2か月後、「詐欺でだまし取った金だと知りながら現金4000万円を受け取った」として、渡辺被告が指名していた歌舞伎町ホスト・狼谷歩(26才)が組織犯罪処罰法違反の罪で逮捕されたことも大きな話題となった。(※その後12月5日に覚せい剤取り締まり法で再逮捕) 全国紙社会部記者によると「彼は渡辺被告のお金の出所について、いくらでも知らないフリをすることができたのに、言い訳もせず、素直に逮捕に応じた」といい、このことは歌舞伎町でも大きな話題となっていた。 実際筆者は取材で知り合ったある20代のホス狂いが「これって、ホストが一緒に罪を被ってくれたってことですよね? 担当と“心中”できるなんて、こういったら何だけど、羨ましくて……」と呟く場面に出くわしたことがある。 しかし渡辺被告は狼谷容疑者の逮捕は知らなかったようで、伝えると目を丸くして驚いていたものの、歌舞伎町内でまるで美談のように語られている、“彼が罪をすべて認めたこと”については「ホストとして行き詰ってたから逮捕されたんじゃないですか。私もこっちで罰を受けるし、人生考え直してるし、歩(あゆむ)さんも、そんな感じで!」とまるで他人事だった。“担当”については一貫してドライな態度を貫いたものの話が「ホスト」や「歌舞伎町」に及ぶと、ここぞとばかりに自身の「ホス狂い人生」について堰を切ったように話し出す。 曰く、「一番最初にホストクラブに行ったのは20才の時。その時指名した担当が、30万使えばナンバーワンになれるというので、ソープで働くようになった。最初は30万だったのが、そのうち50万、次はイベントがあるから……と、どんどん高額を使うようになっていった」のだという。 自らがホストにハマっていく過程を「病み営」(病んでいるふりをして同情を惹く営業)や「店グル(店全体がグルとなって客を囲い込むこと)」などの夜の専門用語を交え「これはこういう意味で」と解説しながら話す様は、まるで「りりちゃん劇場」を見せられているかのような気分にさせられる。手をひらひらさせながら、体を傾け、私が口をはさむスキがないほどまくしたてる。途中で興奮のあまり、顔が真っ赤になる場面も何回もあった。「私、いままで人の役にたったことがないですし、昼職も楽しくないとか、生きがいがない。流されるままでも、お金を稼いで“頑張って”、役に立っているというのが嬉しかった。自分の中で楽しいと思った。 私の周りって、ホス狂いの子がすごく多くって。体売っても、何しても、お金を稼いで、担当に使うというのは素晴らしいことで、歌舞伎町はそれが褒められる世界なんです。そうやって、昼職やめて、風俗いって、詐欺にっていう流れですね。おじさんたちからお金をもらおうと思ったきっかけも風俗。ずっとナンバーワンだった当時の担当が、太いお客さんと切れちゃってナンバー2なったことがあってとにかくお金が必要だったとき、風俗のお客さんからお金をもらったことがあって。それで、おじさんたちからお金をもらおうと」 渡辺被告は自身で「詐欺」と口にしたが、生命保険を解約してまでして彼女に全財産をつぎ込んだ「おぢ」についてはどう考えているのか。すると、それまでの饒舌が一気にやんで、きょとんとした様子で、こう話すのだ。「何も思わない。なんか、何も思わないですね。後悔とかも現状は『ない』です。(被害者に対し)人間として接したという感覚ではないので。検事さんたちにも同じことを聞かれたんですけど、でも、まだ全然答えは出せない。でも、相手の方たちが、私に今後も何か求めることがあるなら、向き合おうと思います」 被害者には「親との関係が悪く、縁を切りたいが、手切れ金として800万円を要求されている」と言い、現金を詐取した渡辺被告だが、現在勾留されている愛知県の留置所には、母親も面会に来ているという。「お母さんは、ここにきて『何か欲しいものない?』って。この服もお母さんが差し入れてくれたんです。お母さんのところにも刑事さんと弁護士さんが来て、取り調べを受けて『なんで助けてあげなかったんだ』って、怒られたって」 ちょうどその時、後ろに控えていた刑務官から「あと30秒です」とのコールがかかった。 「とにかく、母親はひとりなんですよ。ひとりで可哀そうな人なんです。お父さんとは会話もないし、友達もいないような人で、私しかいないから。だから、お母さんを救ってあげたい」 接見時間が終わると、渡辺被告は筆者と刑務官に深々とお辞儀をしてお礼をいい、部屋を出て行った。 渡辺被告は被害男性について「何とも思っていない」と嘯いたが、かつてまめにアップしていたSNSで2000万円以上を受け取った翌日に〈『ごめんね』なんて、わたしの心殺してしまうようなこと一生涯わたし思わないように〉と「おぢ」に対し、逡巡する気持ちも綴っていたこともまた「事実」だ。 15分という短い接見時間で彼女の現在の心を推し量ることは難しいが、それでも、記者の取材とわかっていながら、表に出たら刑期に影響しそうな内容を嬉々として話す姿や、ことあるごとに、後ろに控える刑務官に「ありがとうございます」と頭を下げる深さは、何か、人に好かれようとすることが習い性になっているようにも感じられ、渡辺被告の言葉をどこまでその通りに受け止めるべきか、複雑な気分になったことは確かだ。 次回の公判は来年2月16日、愛知県名古屋地裁で開かれる。
* * *「はじめましてぇ~~~~」
第2回公判の2日後にあたる12月8日、勾留されている愛知県の留置施設の第二面会室に現れた渡辺被告は、こちらが拍子抜けするほどに明るい笑顔で現れた。
アクリル越しの渡辺被告は、紺のスウェットに黒いパンツ、すっぴんにクリアフレームの太ブチ眼鏡という姿。目はぱっちりとした二重まぶたで、顔の半分を覆う白いマスクには黒いマジックで「23」という留置番号がデカデカと書かれている。
無機質な面会室に不似合いな明るさと勢いに若干面くらいながらも、現在の体調について問うと「ありがとうございます~!元気です!眠れてますし。食べてるし!健康ですよ~!」とマッスルポーズを決める――。
その姿は、筆者が傍聴していた6日の公判で、終始うなだれていた渡辺被告からは想像もつかないものだった。
マッチングアプリで知り合ったという男性から約3800万円をだまし取ったことの審議が行われた同公判では、被害男性が渡辺被告と知り合ってわずか1か月ほどで生命保険もすべて解約し、全財産を被告との同居と結婚を夢見て“オールイン”していたことが明かされた。同時に渡辺被告が男性に語っていた「つらい生い立ちで、不仲である親との手切れ金のために800万円必要」であることや「『池田』と言う男に2700万円以上の借金があり、それを返さなければ風俗で働かなければいけないこと」「携帯代金を滞納しており、払わなければ携帯が使えなくなること」がすべて渡辺被告による「ウソ」だったことも次々に明らかにされた。
検察が繰り返す、「ウソ、ウソ、虚偽」の言葉だけが響く、水を打ったように静まり返る法廷の中でただうつむく渡辺被告にかつて数々の動画に出演していた、キレイに整えられたセミロングのアッシュブロンドに華やかなメイクを施した「頂き女子」の面影はなかった。
しかし、いざ面会してみると外見こそ違うものの大きな目を見開き、ハイテンションでまくしたてる様子は筆者がYouTubeで幾度となく目にした「りりちゃん」そのものだった。 「公判では元気がなさそうでしたが……」と問いかけると、手をひらひらさせながら「裁判来てくれたんですか~?ありがとうございます!そうだ!目があったかも?」とこちらをのぞき込むようにして言う。
しかし全体で84席もある広い傍聴席で私が座っていたのは、後列から2番目の席であり、被告人席から目が合うような距離ではない。それでも「私はあなたを認識してます」というように、こちらの心を揺さぶり、気を持たせるようなことを言うのは、もはやクセとなっているのか。そして、“元気がなかった”理由については「裁判じゃ元気だしちゃダメじゃないですか~(笑い)」と、語尾を伸ばした「りりちゃん節」で、悪びれもせず言い切るのだ。 では、いまの状況をどうとらえ、何を考えているのか。
「うーん……。何を考えているのか、といわれるとわからない。外に出たら何をしよっかなとかですかね。どうしよう? いきなり言われても、パッと出て来ない。
逮捕されたことへの後悔ですか? 事件のことは、流れのままに受け止める。受け入れています。あっ、刑務所って資格とれるんですよね?何の資格とろうかな……」
時折口ごもりながらも、笑顔とハイテンションぶりは変わらない。「わからない」と言うときは頭に手を当て、「流れのままに」に言及する際は「置いといて」というジェスチャーを使い、身振り手振りを交えながら楽しげに筆者に話しかける。
8月に逮捕された2か月後、「詐欺でだまし取った金だと知りながら現金4000万円を受け取った」として、渡辺被告が指名していた歌舞伎町ホスト・狼谷歩(26才)が組織犯罪処罰法違反の罪で逮捕されたことも大きな話題となった。(※その後12月5日に覚せい剤取り締まり法で再逮捕)
全国紙社会部記者によると「彼は渡辺被告のお金の出所について、いくらでも知らないフリをすることができたのに、言い訳もせず、素直に逮捕に応じた」といい、このことは歌舞伎町でも大きな話題となっていた。
実際筆者は取材で知り合ったある20代のホス狂いが「これって、ホストが一緒に罪を被ってくれたってことですよね? 担当と“心中”できるなんて、こういったら何だけど、羨ましくて……」と呟く場面に出くわしたことがある。
しかし渡辺被告は狼谷容疑者の逮捕は知らなかったようで、伝えると目を丸くして驚いていたものの、歌舞伎町内でまるで美談のように語られている、“彼が罪をすべて認めたこと”については「ホストとして行き詰ってたから逮捕されたんじゃないですか。私もこっちで罰を受けるし、人生考え直してるし、歩(あゆむ)さんも、そんな感じで!」とまるで他人事だった。
“担当”については一貫してドライな態度を貫いたものの話が「ホスト」や「歌舞伎町」に及ぶと、ここぞとばかりに自身の「ホス狂い人生」について堰を切ったように話し出す。
曰く、「一番最初にホストクラブに行ったのは20才の時。その時指名した担当が、30万使えばナンバーワンになれるというので、ソープで働くようになった。最初は30万だったのが、そのうち50万、次はイベントがあるから……と、どんどん高額を使うようになっていった」のだという。
自らがホストにハマっていく過程を「病み営」(病んでいるふりをして同情を惹く営業)や「店グル(店全体がグルとなって客を囲い込むこと)」などの夜の専門用語を交え「これはこういう意味で」と解説しながら話す様は、まるで「りりちゃん劇場」を見せられているかのような気分にさせられる。手をひらひらさせながら、体を傾け、私が口をはさむスキがないほどまくしたてる。途中で興奮のあまり、顔が真っ赤になる場面も何回もあった。
「私、いままで人の役にたったことがないですし、昼職も楽しくないとか、生きがいがない。流されるままでも、お金を稼いで“頑張って”、役に立っているというのが嬉しかった。自分の中で楽しいと思った。 私の周りって、ホス狂いの子がすごく多くって。体売っても、何しても、お金を稼いで、担当に使うというのは素晴らしいことで、歌舞伎町はそれが褒められる世界なんです。そうやって、昼職やめて、風俗いって、詐欺にっていう流れですね。おじさんたちからお金をもらおうと思ったきっかけも風俗。ずっとナンバーワンだった当時の担当が、太いお客さんと切れちゃってナンバー2なったことがあってとにかくお金が必要だったとき、風俗のお客さんからお金をもらったことがあって。それで、おじさんたちからお金をもらおうと」 渡辺被告は自身で「詐欺」と口にしたが、生命保険を解約してまでして彼女に全財産をつぎ込んだ「おぢ」についてはどう考えているのか。すると、それまでの饒舌が一気にやんで、きょとんとした様子で、こう話すのだ。
「何も思わない。なんか、何も思わないですね。後悔とかも現状は『ない』です。(被害者に対し)人間として接したという感覚ではないので。検事さんたちにも同じことを聞かれたんですけど、でも、まだ全然答えは出せない。でも、相手の方たちが、私に今後も何か求めることがあるなら、向き合おうと思います」
被害者には「親との関係が悪く、縁を切りたいが、手切れ金として800万円を要求されている」と言い、現金を詐取した渡辺被告だが、現在勾留されている愛知県の留置所には、母親も面会に来ているという。
「お母さんは、ここにきて『何か欲しいものない?』って。この服もお母さんが差し入れてくれたんです。お母さんのところにも刑事さんと弁護士さんが来て、取り調べを受けて『なんで助けてあげなかったんだ』って、怒られたって」
ちょうどその時、後ろに控えていた刑務官から「あと30秒です」とのコールがかかった。 「とにかく、母親はひとりなんですよ。ひとりで可哀そうな人なんです。お父さんとは会話もないし、友達もいないような人で、私しかいないから。だから、お母さんを救ってあげたい」
接見時間が終わると、渡辺被告は筆者と刑務官に深々とお辞儀をしてお礼をいい、部屋を出て行った。
渡辺被告は被害男性について「何とも思っていない」と嘯いたが、かつてまめにアップしていたSNSで2000万円以上を受け取った翌日に〈『ごめんね』なんて、わたしの心殺してしまうようなこと一生涯わたし思わないように〉と「おぢ」に対し、逡巡する気持ちも綴っていたこともまた「事実」だ。
15分という短い接見時間で彼女の現在の心を推し量ることは難しいが、それでも、記者の取材とわかっていながら、表に出たら刑期に影響しそうな内容を嬉々として話す姿や、ことあるごとに、後ろに控える刑務官に「ありがとうございます」と頭を下げる深さは、何か、人に好かれようとすることが習い性になっているようにも感じられ、渡辺被告の言葉をどこまでその通りに受け止めるべきか、複雑な気分になったことは確かだ。 次回の公判は来年2月16日、愛知県名古屋地裁で開かれる。