ライバルにもならない? 増える「コンビニ野菜」をスーパー「アキダイ」社長はどう見ているか

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【写真】「あと3年くらいで引退したい…」と明かした秋葉社長、次にやりたいことは『あなたとコンビニとニッポン』スーパーアキダイ社長・秋葉弘道×渡辺広明 全国5万8000店舗、年間159億人が買い物する“コンビニ超大国ニッポン”。老若男女、昼夜を問わずさまざまな人が訪れるコンビニは、その目的や利用方法も人によってさまざまだ。「コンビニとの付き合い方」を覗いた先に見えてくるものとは? コンビニジャーナリスト・渡辺広明氏が、ゲストを招きコンビニについて大いに語り合う――。 今回のゲストは、食品スーパー「アキダイ」社長の秋葉弘道氏(55)。青果をはじめとする生鮮食品事情に精通し、ニュース番組にてコメントする姿でおなじみだ。折しもコンビニは生鮮食品を苦手としている。そんなコンビニに、生鮮のプロはどのような印象を抱いているのだろうか。

“青果のプロ”はコンビニに何を思う――コンビニや大手スーパーの生鮮は驚異じゃない渡辺広明(以下、渡辺):近年はコンビニでも「生鮮三品(青果、精肉、鮮魚)」を扱っている店舗は珍しくありません。秋葉さんは、コンビニの生鮮食品――とくに青果についてどのような印象を持っていますか? 秋葉弘道(以下、秋葉):買い忘れたときなどの“緊急購買”としては非常に便利だと思います。しかし、プロの視点で見ると……。 渡辺:わかります(笑)。生鮮はプロの目利きが必要な商品ですからね。コンビニが得意とする「大量に安く仕入れる」というビジネスモデルは、生鮮三品には通用しないんですよね。本部一括のセントラルで仕入れられる商品は、バナナやもやしなどの限られたものだけ。あとは各店舗が、その地域の卸や八百屋から独自に仕入れないと不可能です。アキダイさんから見れば、コンビニ野菜なんて脅威でもなんでもない。 秋葉:コンビニに限らず、スーパーなどの大手小売もあまり怖さは感じないですね。一時的に力を入れて大安売りされたら、短期的にはうちの需要が落ちるかもしれません。でも、維持するのは難しいですから。 渡辺:東京都の世田谷区や杉並区など、スーパーが少ない限られた立地では、コンビニの生鮮が1日で20万円も売れることはありますが、これは極めて珍しいケースです。 秋葉:20万円はすごい! 地域の八百屋と密に協力しているとか、もともとそのコンビニが八百屋だったとか、特別な理由がない限り達成できる数字ではありません。 渡辺:立地や協力者があってこそです。大多数の普通のオーナーでは不可能でしょうね。 秋葉:コンビニの生鮮を強くするとしたら、私のような人材が売り場に入る必要があります。 渡辺:全国のコンビニに目利きのプロを配置するのはやはり難しい。秋葉さんがコンビニの野菜売り場を手掛けたらすごいことになりそうです。 秋葉:実はセブン-イレブンで2店舗だけ、アキダイの野菜を扱っているところがありますよ。 渡辺:そうだったんですか!? 秋葉:お店側から熱烈にオファーされて、受けてもいいかなと。先ほど言ったような、ウチが売り場にしっかりと入り込んでいる形ではありませんが、定期的にお店側から棚の写真が送られてくるので、「この野菜はそろそろ置かない方がいいですよ」などのアドバイスを送っています。 渡辺:青果の廃棄タイミングもコンビニの課題です。一応、マニュアルを作成しているんですよ。「ここが黒ずんだら」とか「柔らかくなったら」とか……。でも、マニュアルを作ったからといって、高校生などのアルバイトが廃棄タイミングを見極められるわけがない。生鮮はとてもデリケートで、プロの目が必要です。信頼関係がものを言う市場での買い付け渡辺:大手スーパーの青果はいかがですか? 秋葉:コンビニに限らず、大手スーパーでも市場から直接買い付けるのは難しいでしょう。複数の仲卸を使っているケースがほとんど。だから、もしもスーパーに良質な生鮮が置かれていたら、それはスーパーの目利き力ではなく「良い仲卸に当たった」というだけの話なんです。 渡辺:スーパー自体は、決して市場に詳しいわけではありませんからね。アキダイは仲卸を使っていないんですか? 秋葉:仲卸を通すのはごく一部だけで、95%くらいは直接市場で買い付けています。渡辺:どの市場を利用するんですか。 秋葉:所沢、東久留米、国立、板橋の4ヵ所です。 渡辺:日本最大の大田市場は行かないんですね。少し意外です。 秋葉:「来てくれ」と声が掛かることはあるんですけどね。距離の問題もありますし、市場での取引は付き合いの深さも大きく影響しますから。 渡辺:大きな市場でそこそこの付き合いをするよりも、小さな市場で密な付き合いをする方がいい。 秋葉:その通りです。入ってきた青果の量が少ないときは、付き合いが深いところに優先的に売るんですよ。本当に少ないときなんかは、私にだけ売って終了ということもあります。 渡辺:信頼関係が大切な世界です。 秋葉:産地と市場でも似たようなことが起こります。不作のときは、実績のある市場へと優先的に渡り、行き渡らない市場も出てくる。そうなると、手に入らなかった市場は何とかして買い漁ろうと動くため、相場が上がってしまう。こうした事情を知っていることも私の強みだと思います。 渡辺:だからテレビでも引っ張りだこなんですよ。たまに僕も青果についてテレビ局からコメントを求められることがあります。でも、僕の知識レベルだと出荷量が少なかったら「天候不良で……」などの表面的なことしか答えられない。 秋葉:それはそれで、テレビ局が欲しい言葉だと思いますよ。 渡辺:そうは言っても、秋葉さんのように詳しく知っている人がコメントしないと説得力がありません。 秋葉:でも、深い理由まで詳しく話してもオンエアされませんからね(笑)。決してテレビが悪いわけではありませんが。 渡辺:放送尺の都合ですね。 秋葉:そうなんですよね(笑)。たとえば、一言で「高温障害」といっても「この産地では花落が原因で、別の産地では種がまけなかったから」など多岐にわたります。さらに言えば、高温障害が落ち着いたら、各地で種まきのタイミングが重なるため、その後は軒並み価格が下がる……などの説明までできます。 渡辺:すごいなぁ。アキダイの従業員たちも秋葉さんのように生鮮事情に詳しいんですか? 秋葉:売り子たちにも情報を集めるように教育しています。お客様から「キャベツ高くて困っちゃうわね」と言われたら、「なぜ高いのか」と「いつまで高いのか」を答えられないと駄目なんです。ある産地で雹害が起きたら、見た目は虫食いみたいになっちゃうけど、雹害だから問題ないんですよ、と。その分、安く売ってるから、生産地も大変だから買ってあげて下さい……などのセールストークができる。 渡辺:産地の声も届けているんですね。 秋葉:雹害や豪雨などの被害があると。産地から被害状況の画像が送られてきます。それをテレビで伝えてもらうこともあります。 渡辺:本当にすばらしい。お客さんも、秋葉社長やアキダイのファンになるわけですよ。やる気のあるコンビニ店員がいると買いたくなる渡辺:コンビニの生鮮はアキダイに勝てる要素がありませんが、逆に「ここはコンビニがすごい」と感じる部分はありますか? 秋葉:最初に言った緊急購買もそうですが、中食が圧倒的に強いですよね。 渡辺:持ち帰りの弁当などですね。 秋葉:単身者や仕事が忙しくて自炊できない人は、うちよりもコンビニを利用する方がメリットが大きいでしょう。食べたいときに食べることができるし、自炊に比べて生ゴミが少ないのも魅力じゃないですか。あとはスイーツ系かな? 渡辺:秋葉さん、コンビニスイーツ食べるんですか! 秋葉:甘いもの、わりと好きなんですよ。昔に比べて、コンビニのスイーツは劇的に美味しくなりましたよね。町のケーキ屋の方がいいのかもしれないけど、ふと食べたいと思ったとき、ケーキ屋が近くになかったり営業時間外だったりしますから。しかも、ケーキ屋より安いでしょう。家族や社員への差し入れに買うこともあります。 渡辺:ホットスナックはいかがですか? 秋葉:「こちらの商品、揚げたてです!」と元気に言われちゃうと、つい買っちゃいます(笑)。 渡辺:商売人の言動は、同じ商売人に響くんですね。 秋葉:やる気のある店員さんがいると、やはり同業者として応えたくなります。 渡辺:わりとコンビニを利用しているんですね。 秋葉:市場から戻ってくるときや帰宅時のほか、ATMもよく利用します。週5日以上は通ってるんじゃないかな? 出勤時に小腹が空いたとき、手軽に食べられるコンビニおにぎりも重宝します。ただ、添加物があまり好きじゃないからpH調整剤は気になるかな……。 渡辺:日持ちさせないといけませんからね。今ローソンで「冷凍おにぎり」の実験販売が行われています。日持ちを気にする必要がなくなるので、もしかしたら冷凍おにぎりには添加物が入らなくなるかもしれません。 秋葉:冷凍かぁ……時間掛かります? 渡辺:今実験中の商品は、店舗のレンジで45秒、家庭用レンジだと1分半くらいです。秋葉:朝は慌ただしいから、その45秒すら惜しいかもしれない(笑)。渡辺:秋葉さん、多忙ですからね。60歳までには引退して世界旅行したい渡辺:2023年3月、アキダイがロピア(神奈川県を拠点とする食品スーパー)の傘下に入りましたよね? 意外と言いますか…とにかく驚きました。 秋葉:多くの企業さんからM&Aのお話をいただいていましたが、縁あってロピアのM&Aを受けることにしました。 渡辺:もともと事業継承を考えていたということですか。 秋葉:アキダイは私が一代で築いた企業で、子どもが継ぐ予定もありません。だから、何とかして僕の引退後も従業員たちが安心して働ける環境を整えてあげたかったんです。 渡辺:秋葉さんから「引退」の言葉が出るとは思いませんでした。てっきり「生涯現役」のタイプかと…。 秋葉:目標としてはあと3年くらいで辞めたいんですよ。無責任な形で引退するつもりはありませんが、60歳前後で次のステージに行きたいなと。 渡辺:次のステージとは? 秋葉:いやいや、プライベートな話ですよ。これまで数十年間、連休なんて考えられないような生活を続けていたので、ゆっくり時間をとって日本とか世界とか無期限で旅行してみたいんです。 渡辺:素敵な夢ですが、仕事欲が再燃しそうな気もします。 秋葉:もちろん、これまで培ったノウハウを若い世代に届けようという思いもあります。希望があれば、スーパーや八百屋などにコンサル的なことをしてみたいです。ボランティアに近い感じで、報酬は言い値でいいかな? 渡辺:秋葉さんのノウハウが小規模経営の小売に広がれば、大手スーパーもうかうかしていられないでしょうね。秋葉弘道(あきば・ひろみち) 株式会社アキダイ社長。1968年東京都生まれ。高校1年のときに始めたアルバイトをきっかけに青果商に興味を抱く。1992年、23歳の若さで東京都練馬区にアキダイをオープン。たしかな目利きと接客を武器に、現在は系列10店舗、年商約38億円へと成長させる。生鮮食品に関するテレビ取材の依頼も非常に多く、テレビ出演は年間300本以上。渡辺広明(わたなべ・ひろあき)消費経済アナリスト、流通アナリスト、コンビニジャーナリスト。1967年静岡県浜松市生まれ。株式会社ローソンに22年間勤務し、店長、スーパーバイザー、バイヤーなどを経験。現在は商品開発・営業・マーケティング・顧問・コンサル業務など幅広く活動中。フジテレビ『FNN Live News α』レギュラーコメンテーター、TOKYO FM『馬渕・渡辺の#ビジトピ』パーソナリティ。近著『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』(フォレスト出版)。デイリー新潮編集部
【写真】「あと3年くらいで引退したい…」と明かした秋葉社長、次にやりたいことは『あなたとコンビニとニッポン』スーパーアキダイ社長・秋葉弘道×渡辺広明 全国5万8000店舗、年間159億人が買い物する“コンビニ超大国ニッポン”。老若男女、昼夜を問わずさまざまな人が訪れるコンビニは、その目的や利用方法も人によってさまざまだ。「コンビニとの付き合い方」を覗いた先に見えてくるものとは? コンビニジャーナリスト・渡辺広明氏が、ゲストを招きコンビニについて大いに語り合う――。 今回のゲストは、食品スーパー「アキダイ」社長の秋葉弘道氏(55)。青果をはじめとする生鮮食品事情に精通し、ニュース番組にてコメントする姿でおなじみだ。折しもコンビニは生鮮食品を苦手としている。そんなコンビニに、生鮮のプロはどのような印象を抱いているのだろうか。

“青果のプロ”はコンビニに何を思う――コンビニや大手スーパーの生鮮は驚異じゃない渡辺広明(以下、渡辺):近年はコンビニでも「生鮮三品(青果、精肉、鮮魚)」を扱っている店舗は珍しくありません。秋葉さんは、コンビニの生鮮食品――とくに青果についてどのような印象を持っていますか? 秋葉弘道(以下、秋葉):買い忘れたときなどの“緊急購買”としては非常に便利だと思います。しかし、プロの視点で見ると……。 渡辺:わかります(笑)。生鮮はプロの目利きが必要な商品ですからね。コンビニが得意とする「大量に安く仕入れる」というビジネスモデルは、生鮮三品には通用しないんですよね。本部一括のセントラルで仕入れられる商品は、バナナやもやしなどの限られたものだけ。あとは各店舗が、その地域の卸や八百屋から独自に仕入れないと不可能です。アキダイさんから見れば、コンビニ野菜なんて脅威でもなんでもない。 秋葉:コンビニに限らず、スーパーなどの大手小売もあまり怖さは感じないですね。一時的に力を入れて大安売りされたら、短期的にはうちの需要が落ちるかもしれません。でも、維持するのは難しいですから。 渡辺:東京都の世田谷区や杉並区など、スーパーが少ない限られた立地では、コンビニの生鮮が1日で20万円も売れることはありますが、これは極めて珍しいケースです。 秋葉:20万円はすごい! 地域の八百屋と密に協力しているとか、もともとそのコンビニが八百屋だったとか、特別な理由がない限り達成できる数字ではありません。 渡辺:立地や協力者があってこそです。大多数の普通のオーナーでは不可能でしょうね。 秋葉:コンビニの生鮮を強くするとしたら、私のような人材が売り場に入る必要があります。 渡辺:全国のコンビニに目利きのプロを配置するのはやはり難しい。秋葉さんがコンビニの野菜売り場を手掛けたらすごいことになりそうです。 秋葉:実はセブン-イレブンで2店舗だけ、アキダイの野菜を扱っているところがありますよ。 渡辺:そうだったんですか!? 秋葉:お店側から熱烈にオファーされて、受けてもいいかなと。先ほど言ったような、ウチが売り場にしっかりと入り込んでいる形ではありませんが、定期的にお店側から棚の写真が送られてくるので、「この野菜はそろそろ置かない方がいいですよ」などのアドバイスを送っています。 渡辺:青果の廃棄タイミングもコンビニの課題です。一応、マニュアルを作成しているんですよ。「ここが黒ずんだら」とか「柔らかくなったら」とか……。でも、マニュアルを作ったからといって、高校生などのアルバイトが廃棄タイミングを見極められるわけがない。生鮮はとてもデリケートで、プロの目が必要です。信頼関係がものを言う市場での買い付け渡辺:大手スーパーの青果はいかがですか? 秋葉:コンビニに限らず、大手スーパーでも市場から直接買い付けるのは難しいでしょう。複数の仲卸を使っているケースがほとんど。だから、もしもスーパーに良質な生鮮が置かれていたら、それはスーパーの目利き力ではなく「良い仲卸に当たった」というだけの話なんです。 渡辺:スーパー自体は、決して市場に詳しいわけではありませんからね。アキダイは仲卸を使っていないんですか? 秋葉:仲卸を通すのはごく一部だけで、95%くらいは直接市場で買い付けています。渡辺:どの市場を利用するんですか。 秋葉:所沢、東久留米、国立、板橋の4ヵ所です。 渡辺:日本最大の大田市場は行かないんですね。少し意外です。 秋葉:「来てくれ」と声が掛かることはあるんですけどね。距離の問題もありますし、市場での取引は付き合いの深さも大きく影響しますから。 渡辺:大きな市場でそこそこの付き合いをするよりも、小さな市場で密な付き合いをする方がいい。 秋葉:その通りです。入ってきた青果の量が少ないときは、付き合いが深いところに優先的に売るんですよ。本当に少ないときなんかは、私にだけ売って終了ということもあります。 渡辺:信頼関係が大切な世界です。 秋葉:産地と市場でも似たようなことが起こります。不作のときは、実績のある市場へと優先的に渡り、行き渡らない市場も出てくる。そうなると、手に入らなかった市場は何とかして買い漁ろうと動くため、相場が上がってしまう。こうした事情を知っていることも私の強みだと思います。 渡辺:だからテレビでも引っ張りだこなんですよ。たまに僕も青果についてテレビ局からコメントを求められることがあります。でも、僕の知識レベルだと出荷量が少なかったら「天候不良で……」などの表面的なことしか答えられない。 秋葉:それはそれで、テレビ局が欲しい言葉だと思いますよ。 渡辺:そうは言っても、秋葉さんのように詳しく知っている人がコメントしないと説得力がありません。 秋葉:でも、深い理由まで詳しく話してもオンエアされませんからね(笑)。決してテレビが悪いわけではありませんが。 渡辺:放送尺の都合ですね。 秋葉:そうなんですよね(笑)。たとえば、一言で「高温障害」といっても「この産地では花落が原因で、別の産地では種がまけなかったから」など多岐にわたります。さらに言えば、高温障害が落ち着いたら、各地で種まきのタイミングが重なるため、その後は軒並み価格が下がる……などの説明までできます。 渡辺:すごいなぁ。アキダイの従業員たちも秋葉さんのように生鮮事情に詳しいんですか? 秋葉:売り子たちにも情報を集めるように教育しています。お客様から「キャベツ高くて困っちゃうわね」と言われたら、「なぜ高いのか」と「いつまで高いのか」を答えられないと駄目なんです。ある産地で雹害が起きたら、見た目は虫食いみたいになっちゃうけど、雹害だから問題ないんですよ、と。その分、安く売ってるから、生産地も大変だから買ってあげて下さい……などのセールストークができる。 渡辺:産地の声も届けているんですね。 秋葉:雹害や豪雨などの被害があると。産地から被害状況の画像が送られてきます。それをテレビで伝えてもらうこともあります。 渡辺:本当にすばらしい。お客さんも、秋葉社長やアキダイのファンになるわけですよ。やる気のあるコンビニ店員がいると買いたくなる渡辺:コンビニの生鮮はアキダイに勝てる要素がありませんが、逆に「ここはコンビニがすごい」と感じる部分はありますか? 秋葉:最初に言った緊急購買もそうですが、中食が圧倒的に強いですよね。 渡辺:持ち帰りの弁当などですね。 秋葉:単身者や仕事が忙しくて自炊できない人は、うちよりもコンビニを利用する方がメリットが大きいでしょう。食べたいときに食べることができるし、自炊に比べて生ゴミが少ないのも魅力じゃないですか。あとはスイーツ系かな? 渡辺:秋葉さん、コンビニスイーツ食べるんですか! 秋葉:甘いもの、わりと好きなんですよ。昔に比べて、コンビニのスイーツは劇的に美味しくなりましたよね。町のケーキ屋の方がいいのかもしれないけど、ふと食べたいと思ったとき、ケーキ屋が近くになかったり営業時間外だったりしますから。しかも、ケーキ屋より安いでしょう。家族や社員への差し入れに買うこともあります。 渡辺:ホットスナックはいかがですか? 秋葉:「こちらの商品、揚げたてです!」と元気に言われちゃうと、つい買っちゃいます(笑)。 渡辺:商売人の言動は、同じ商売人に響くんですね。 秋葉:やる気のある店員さんがいると、やはり同業者として応えたくなります。 渡辺:わりとコンビニを利用しているんですね。 秋葉:市場から戻ってくるときや帰宅時のほか、ATMもよく利用します。週5日以上は通ってるんじゃないかな? 出勤時に小腹が空いたとき、手軽に食べられるコンビニおにぎりも重宝します。ただ、添加物があまり好きじゃないからpH調整剤は気になるかな……。 渡辺:日持ちさせないといけませんからね。今ローソンで「冷凍おにぎり」の実験販売が行われています。日持ちを気にする必要がなくなるので、もしかしたら冷凍おにぎりには添加物が入らなくなるかもしれません。 秋葉:冷凍かぁ……時間掛かります? 渡辺:今実験中の商品は、店舗のレンジで45秒、家庭用レンジだと1分半くらいです。秋葉:朝は慌ただしいから、その45秒すら惜しいかもしれない(笑)。渡辺:秋葉さん、多忙ですからね。60歳までには引退して世界旅行したい渡辺:2023年3月、アキダイがロピア(神奈川県を拠点とする食品スーパー)の傘下に入りましたよね? 意外と言いますか…とにかく驚きました。 秋葉:多くの企業さんからM&Aのお話をいただいていましたが、縁あってロピアのM&Aを受けることにしました。 渡辺:もともと事業継承を考えていたということですか。 秋葉:アキダイは私が一代で築いた企業で、子どもが継ぐ予定もありません。だから、何とかして僕の引退後も従業員たちが安心して働ける環境を整えてあげたかったんです。 渡辺:秋葉さんから「引退」の言葉が出るとは思いませんでした。てっきり「生涯現役」のタイプかと…。 秋葉:目標としてはあと3年くらいで辞めたいんですよ。無責任な形で引退するつもりはありませんが、60歳前後で次のステージに行きたいなと。 渡辺:次のステージとは? 秋葉:いやいや、プライベートな話ですよ。これまで数十年間、連休なんて考えられないような生活を続けていたので、ゆっくり時間をとって日本とか世界とか無期限で旅行してみたいんです。 渡辺:素敵な夢ですが、仕事欲が再燃しそうな気もします。 秋葉:もちろん、これまで培ったノウハウを若い世代に届けようという思いもあります。希望があれば、スーパーや八百屋などにコンサル的なことをしてみたいです。ボランティアに近い感じで、報酬は言い値でいいかな? 渡辺:秋葉さんのノウハウが小規模経営の小売に広がれば、大手スーパーもうかうかしていられないでしょうね。秋葉弘道(あきば・ひろみち) 株式会社アキダイ社長。1968年東京都生まれ。高校1年のときに始めたアルバイトをきっかけに青果商に興味を抱く。1992年、23歳の若さで東京都練馬区にアキダイをオープン。たしかな目利きと接客を武器に、現在は系列10店舗、年商約38億円へと成長させる。生鮮食品に関するテレビ取材の依頼も非常に多く、テレビ出演は年間300本以上。渡辺広明(わたなべ・ひろあき)消費経済アナリスト、流通アナリスト、コンビニジャーナリスト。1967年静岡県浜松市生まれ。株式会社ローソンに22年間勤務し、店長、スーパーバイザー、バイヤーなどを経験。現在は商品開発・営業・マーケティング・顧問・コンサル業務など幅広く活動中。フジテレビ『FNN Live News α』レギュラーコメンテーター、TOKYO FM『馬渕・渡辺の#ビジトピ』パーソナリティ。近著『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』(フォレスト出版)。デイリー新潮編集部
全国5万8000店舗、年間159億人が買い物する“コンビニ超大国ニッポン”。老若男女、昼夜を問わずさまざまな人が訪れるコンビニは、その目的や利用方法も人によってさまざまだ。「コンビニとの付き合い方」を覗いた先に見えてくるものとは? コンビニジャーナリスト・渡辺広明氏が、ゲストを招きコンビニについて大いに語り合う――。
今回のゲストは、食品スーパー「アキダイ」社長の秋葉弘道氏(55)。青果をはじめとする生鮮食品事情に精通し、ニュース番組にてコメントする姿でおなじみだ。折しもコンビニは生鮮食品を苦手としている。そんなコンビニに、生鮮のプロはどのような印象を抱いているのだろうか。
渡辺広明(以下、渡辺):近年はコンビニでも「生鮮三品(青果、精肉、鮮魚)」を扱っている店舗は珍しくありません。秋葉さんは、コンビニの生鮮食品――とくに青果についてどのような印象を持っていますか?
秋葉弘道(以下、秋葉):買い忘れたときなどの“緊急購買”としては非常に便利だと思います。しかし、プロの視点で見ると……。
渡辺:わかります(笑)。生鮮はプロの目利きが必要な商品ですからね。コンビニが得意とする「大量に安く仕入れる」というビジネスモデルは、生鮮三品には通用しないんですよね。本部一括のセントラルで仕入れられる商品は、バナナやもやしなどの限られたものだけ。あとは各店舗が、その地域の卸や八百屋から独自に仕入れないと不可能です。アキダイさんから見れば、コンビニ野菜なんて脅威でもなんでもない。
秋葉:コンビニに限らず、スーパーなどの大手小売もあまり怖さは感じないですね。一時的に力を入れて大安売りされたら、短期的にはうちの需要が落ちるかもしれません。でも、維持するのは難しいですから。
渡辺:東京都の世田谷区や杉並区など、スーパーが少ない限られた立地では、コンビニの生鮮が1日で20万円も売れることはありますが、これは極めて珍しいケースです。
秋葉:20万円はすごい! 地域の八百屋と密に協力しているとか、もともとそのコンビニが八百屋だったとか、特別な理由がない限り達成できる数字ではありません。
渡辺:立地や協力者があってこそです。大多数の普通のオーナーでは不可能でしょうね。
秋葉:コンビニの生鮮を強くするとしたら、私のような人材が売り場に入る必要があります。
渡辺:全国のコンビニに目利きのプロを配置するのはやはり難しい。秋葉さんがコンビニの野菜売り場を手掛けたらすごいことになりそうです。
秋葉:実はセブン-イレブンで2店舗だけ、アキダイの野菜を扱っているところがありますよ。
渡辺:そうだったんですか!?
秋葉:お店側から熱烈にオファーされて、受けてもいいかなと。先ほど言ったような、ウチが売り場にしっかりと入り込んでいる形ではありませんが、定期的にお店側から棚の写真が送られてくるので、「この野菜はそろそろ置かない方がいいですよ」などのアドバイスを送っています。
渡辺:青果の廃棄タイミングもコンビニの課題です。一応、マニュアルを作成しているんですよ。「ここが黒ずんだら」とか「柔らかくなったら」とか……。でも、マニュアルを作ったからといって、高校生などのアルバイトが廃棄タイミングを見極められるわけがない。生鮮はとてもデリケートで、プロの目が必要です。
渡辺:大手スーパーの青果はいかがですか?
秋葉:コンビニに限らず、大手スーパーでも市場から直接買い付けるのは難しいでしょう。複数の仲卸を使っているケースがほとんど。だから、もしもスーパーに良質な生鮮が置かれていたら、それはスーパーの目利き力ではなく「良い仲卸に当たった」というだけの話なんです。
渡辺:スーパー自体は、決して市場に詳しいわけではありませんからね。アキダイは仲卸を使っていないんですか?
秋葉:仲卸を通すのはごく一部だけで、95%くらいは直接市場で買い付けています。
渡辺:どの市場を利用するんですか。
秋葉:所沢、東久留米、国立、板橋の4ヵ所です。
渡辺:日本最大の大田市場は行かないんですね。少し意外です。
秋葉:「来てくれ」と声が掛かることはあるんですけどね。距離の問題もありますし、市場での取引は付き合いの深さも大きく影響しますから。
渡辺:大きな市場でそこそこの付き合いをするよりも、小さな市場で密な付き合いをする方がいい。
秋葉:その通りです。入ってきた青果の量が少ないときは、付き合いが深いところに優先的に売るんですよ。本当に少ないときなんかは、私にだけ売って終了ということもあります。
渡辺:信頼関係が大切な世界です。
秋葉:産地と市場でも似たようなことが起こります。不作のときは、実績のある市場へと優先的に渡り、行き渡らない市場も出てくる。そうなると、手に入らなかった市場は何とかして買い漁ろうと動くため、相場が上がってしまう。こうした事情を知っていることも私の強みだと思います。
渡辺:だからテレビでも引っ張りだこなんですよ。たまに僕も青果についてテレビ局からコメントを求められることがあります。でも、僕の知識レベルだと出荷量が少なかったら「天候不良で……」などの表面的なことしか答えられない。
秋葉:それはそれで、テレビ局が欲しい言葉だと思いますよ。
渡辺:そうは言っても、秋葉さんのように詳しく知っている人がコメントしないと説得力がありません。
秋葉:でも、深い理由まで詳しく話してもオンエアされませんからね(笑)。決してテレビが悪いわけではありませんが。
渡辺:放送尺の都合ですね。
秋葉:そうなんですよね(笑)。たとえば、一言で「高温障害」といっても「この産地では花落が原因で、別の産地では種がまけなかったから」など多岐にわたります。さらに言えば、高温障害が落ち着いたら、各地で種まきのタイミングが重なるため、その後は軒並み価格が下がる……などの説明までできます。
渡辺:すごいなぁ。アキダイの従業員たちも秋葉さんのように生鮮事情に詳しいんですか?
秋葉:売り子たちにも情報を集めるように教育しています。お客様から「キャベツ高くて困っちゃうわね」と言われたら、「なぜ高いのか」と「いつまで高いのか」を答えられないと駄目なんです。ある産地で雹害が起きたら、見た目は虫食いみたいになっちゃうけど、雹害だから問題ないんですよ、と。その分、安く売ってるから、生産地も大変だから買ってあげて下さい……などのセールストークができる。
渡辺:産地の声も届けているんですね。
秋葉:雹害や豪雨などの被害があると。産地から被害状況の画像が送られてきます。それをテレビで伝えてもらうこともあります。
渡辺:本当にすばらしい。お客さんも、秋葉社長やアキダイのファンになるわけですよ。
渡辺:コンビニの生鮮はアキダイに勝てる要素がありませんが、逆に「ここはコンビニがすごい」と感じる部分はありますか?
秋葉:最初に言った緊急購買もそうですが、中食が圧倒的に強いですよね。
渡辺:持ち帰りの弁当などですね。
秋葉:単身者や仕事が忙しくて自炊できない人は、うちよりもコンビニを利用する方がメリットが大きいでしょう。食べたいときに食べることができるし、自炊に比べて生ゴミが少ないのも魅力じゃないですか。あとはスイーツ系かな?
渡辺:秋葉さん、コンビニスイーツ食べるんですか!
秋葉:甘いもの、わりと好きなんですよ。昔に比べて、コンビニのスイーツは劇的に美味しくなりましたよね。町のケーキ屋の方がいいのかもしれないけど、ふと食べたいと思ったとき、ケーキ屋が近くになかったり営業時間外だったりしますから。しかも、ケーキ屋より安いでしょう。家族や社員への差し入れに買うこともあります。
渡辺:ホットスナックはいかがですか?
秋葉:「こちらの商品、揚げたてです!」と元気に言われちゃうと、つい買っちゃいます(笑)。
渡辺:商売人の言動は、同じ商売人に響くんですね。
秋葉:やる気のある店員さんがいると、やはり同業者として応えたくなります。
渡辺:わりとコンビニを利用しているんですね。
秋葉:市場から戻ってくるときや帰宅時のほか、ATMもよく利用します。週5日以上は通ってるんじゃないかな? 出勤時に小腹が空いたとき、手軽に食べられるコンビニおにぎりも重宝します。ただ、添加物があまり好きじゃないからpH調整剤は気になるかな……。
渡辺:日持ちさせないといけませんからね。今ローソンで「冷凍おにぎり」の実験販売が行われています。日持ちを気にする必要がなくなるので、もしかしたら冷凍おにぎりには添加物が入らなくなるかもしれません。
秋葉:冷凍かぁ……時間掛かります?
渡辺:今実験中の商品は、店舗のレンジで45秒、家庭用レンジだと1分半くらいです。
秋葉:朝は慌ただしいから、その45秒すら惜しいかもしれない(笑)。
渡辺:秋葉さん、多忙ですからね。
渡辺:2023年3月、アキダイがロピア(神奈川県を拠点とする食品スーパー)の傘下に入りましたよね? 意外と言いますか…とにかく驚きました。
秋葉:多くの企業さんからM&Aのお話をいただいていましたが、縁あってロピアのM&Aを受けることにしました。
渡辺:もともと事業継承を考えていたということですか。
秋葉:アキダイは私が一代で築いた企業で、子どもが継ぐ予定もありません。だから、何とかして僕の引退後も従業員たちが安心して働ける環境を整えてあげたかったんです。
渡辺:秋葉さんから「引退」の言葉が出るとは思いませんでした。てっきり「生涯現役」のタイプかと…。
秋葉:目標としてはあと3年くらいで辞めたいんですよ。無責任な形で引退するつもりはありませんが、60歳前後で次のステージに行きたいなと。
渡辺:次のステージとは?
秋葉:いやいや、プライベートな話ですよ。これまで数十年間、連休なんて考えられないような生活を続けていたので、ゆっくり時間をとって日本とか世界とか無期限で旅行してみたいんです。
渡辺:素敵な夢ですが、仕事欲が再燃しそうな気もします。
秋葉:もちろん、これまで培ったノウハウを若い世代に届けようという思いもあります。希望があれば、スーパーや八百屋などにコンサル的なことをしてみたいです。ボランティアに近い感じで、報酬は言い値でいいかな?
渡辺:秋葉さんのノウハウが小規模経営の小売に広がれば、大手スーパーもうかうかしていられないでしょうね。
秋葉弘道(あきば・ひろみち) 株式会社アキダイ社長。1968年東京都生まれ。高校1年のときに始めたアルバイトをきっかけに青果商に興味を抱く。1992年、23歳の若さで東京都練馬区にアキダイをオープン。たしかな目利きと接客を武器に、現在は系列10店舗、年商約38億円へと成長させる。生鮮食品に関するテレビ取材の依頼も非常に多く、テレビ出演は年間300本以上。
渡辺広明(わたなべ・ひろあき)消費経済アナリスト、流通アナリスト、コンビニジャーナリスト。1967年静岡県浜松市生まれ。株式会社ローソンに22年間勤務し、店長、スーパーバイザー、バイヤーなどを経験。現在は商品開発・営業・マーケティング・顧問・コンサル業務など幅広く活動中。フジテレビ『FNN Live News α』レギュラーコメンテーター、TOKYO FM『馬渕・渡辺の#ビジトピ』パーソナリティ。近著『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』(フォレスト出版)。

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