現在はタッチパネルなどでチェックインの手続きを行う無人フロントが主流になりつつあるラブホテル業界。だが、その一方で昔ながらの有人フロントのラブホテルも数を減らしながら根強く残っている。 現在は健康食品メーカーの営業マンとして働く河野翔太さん(仮名・31歳)も20代前半の数年間、ラブホテルでアルバイトとして勤務。フロントでの受付対応と部屋の清掃の主に2つの業務を担当していたという。
◆拘束時間は長いが、“ラク”なバイトだった
「専門学校卒業後に就職した会社を半年で辞めてしまい、それからはラブホのバイトをしながらパチプロの真似事のようなことをしていました。ただ、勤務先のラブホは北関東でも郊外にあったのでお客さんは少なかったですね。日中や夜の早い時間は休憩利用の方がそれなりにいましたが、私は基本的に23時~翌朝7時の夜勤担当。週末の金曜土曜は多少お客さんが増えましたけど、それでも満室になることはなかったです」
拘束時間は長くても仕事量は少なかったのでバイトとしては気に入っていたとか。ただし、働き始めてから1年ほど経った某日、“ある奇妙な男性客”に遭遇する。
◆ゴルフバッグを担いでチェックインする不審な男性が…
その日、急用で欠勤した女性パートの代わりに久々に昼間に出勤した河野さんがいる受付にやってきたのは、品の良さそうな眼鏡姿の40代くらいの紳士。連れの女性の姿はなく、1人でのチェックインだったそうだ。
「そういうお店の女性とラブホテルを利用する場合、男性が先に1人で部屋に入るため、これ自体は決して珍しいことではありません。でも、フロントはお金の受け渡しができる程度の小さな窓口しかなく、相手の姿が確認できないんです。それでフロントに設置された防犯カメラの映像をモニターでチェックすると、男性はなぜかゴルフバックを担いでいたんです。仮にゴルフ場や打ちっ放しに行った帰りでも普通は車のトランクに入れておくはず。きちっとした身なりの方でもその時点で怪しいじゃないですか。防犯上の理由もあったため、『失礼ですがそちらのゴルフバッグは……』と尋ねたんです」
◆チェックアウトの際にはお礼を述べ、部屋にはチップが!
すると、男性はファスナーを開けて窓口から中が見えるようにして、「この娘と一緒に入りたいのですが……」と一言。河野さんがのぞき込むと、そこには“それ専用のドール”が。もちろん、規則上は何の問題もなかったので男性に非礼を詫びたうえで、『ごゆっくりお過ごしください』と部屋のカギを渡したそうだ。
「ラブホでフロントをやっていると、いかにも不倫カップルっぽい男女、パパ活を疑ってしまう中年男性と20歳前後の女性などいろんなお客さんがいますが、さすがに“ドール”との組み合わせはこの方だけ。世の中にはそういう愛好家がいることは知っていましたが、まさか自分が働くラブホに来るとは想像もしていませんでした」
それから約2時間後、男性はチェックアウトする際に「約2時間後、カギをフロントに返しに来た男性からは「楽しい時間が過ごせました。ありがとう」と丁寧にお礼を述べて帰ったとのこと。しかも、それだけではなく滞在した部屋にもベッド脇のサイドテーブルにはメモ用紙にお礼の言葉と1000円1枚が置かれていたそうだ。
◆何度も利用してくれたため、ホテル側も上客として対応
「私が勤めていた時、チェックアウト時にお礼を言ってきた人はたまにいましたが、部屋にチップを置いて行った方は記憶にないですね。欧米ではホテルのベッドメイキングする人にチップを置く習慣があると聞きましたが、ラブホでこんなことをする人がいるなんて思ってもいなかったので衝撃的でした」
この男性はその後もたびたび河野さんのラブホテルを利用。基本的にどの部屋の料金も同じだが、空いていれば一番広いカド部屋に案内するようにしていたそうだ。
「ほかにもせめてものサービスで割引券も1枚余分に渡したりとかしていましたね。『部屋が汚い!』とかクレームを言ってくるお客さんは時々いましたが、お礼だけじゃなくチップまでくれるお客さんはあの人だけ。そういうのもあって今でも鮮明に覚えています」
この紳士は、ラブホテルにとって紛れもない上客であったようだ。
<TEXT/トシタカマサ>