死亡事故が起きた電動キックボード なぜ「ノーヘルOK」にこだわるのか

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自動車のシートベルト着用が義務化されたとき、窮屈だし必要ないと主張する人たちが少なからずいたが、今では大半の人がその有用性について知るところだろう。チャイルドシートも、同じように受け入れられ普及している。では、街で乗る人が急激に増えている電動キックボードのヘルメット着用については、どうだろうか? 俳人で著作家の日野百草氏が、電動キックボードによる死亡事故をきっかけに、安全対策について考えた。
【写真】世耕大臣(当時)も試乗 * * * やはり、電動キックボードのヘルメット着用はすべてにおいて義務化すべきである。 2022年9月26日、東京都中央区でシェアリングサービス会社の電動キックボードを運転中に会社役員の男性が転倒、死亡した。飲酒運転の可能性があり、同社は「今回の事故を重く受けとめ、安全性向上に向けた不断の検証を進めていくとともに、飲酒運転の防止や交通ルール遵守の取組みをより一層徹底してまいります」とのコメントを出した。 飲酒運転は違反である、それは大前提だ。しかし、だからといって死んでいいとはならない。まずは死亡した男性に対し、心からお悔やみを申し上げる。 筆者はこれまでも、各メディアで電動キックボードの法的な不備とその危険性を訴えてきた。今年に入ってもこのNEWSポストセブンでは『電動キックボード「無免許ノーヘルで公道走行可」は見直すべきではないか』『電動キックボードの公道運転 無免許、無保険で事故なら人生が終わりかねない』のルポルタージュを書いている。 もちろん、これをもって「それみたことか」を言うつもりはない。繰り返すが飲酒運転は道路交通法違反であり、シェアリングサービス会社の規約違反でもある。 しかし、ヘルメットを被っていれば、助かった命かもしれない。 現在、電動キックボードは駆動モーターの定格出力が0.6kw以下、排気量50cc以下相当として原付(原動機付自転車、原付1種)扱いとなっている。当然、原付のため制限速度は30km/h、もちろんヘルメットの着用は義務である。 ところが、シェアリングサービスの電動キックボードは小型特殊自動車、いわゆる「小特」となる。小特とは小型のトラクターやコンバイン、フォークリフトなどを公道で走らせるときの免許で、普通自動車や普通自動二輪の免許があれば勝手についてくる。実業高校で取らされたか10代からそうした仕事に従事、もしくは免許の種類を全部埋めるマニアでもない限り欄内になく、ほとんどのドライバーやライダーが意識せずに持っている免許である。 このシェアリングサービスの電動キックボードは「産業競争力強化法」および経済産業省の「新事業特例制度」による実証実験として東京区部と一部都下でサービスが提供されている。制限速度は15km/h、ヘルメットの着用は任意である。つまるところ、「ノーヘル」で構わないことになる。 将来的には2022年4月に可決成立、公布された改正道路交通法による「特定小型原付」という新たな定義によってさらに自由化が進められる。整理すると、・従来の電動キックボード(原付扱い)要原付免許以上、要ヘルメット、制限速度30km/h、二段階右折義務あり・シェアリングサービスの電動キックボード(現時点)要小特免許以上(原付免許のみは不可)、ヘルメット不要(推奨)、制限速度15km/h、二段階右折義務なし(小回り右折)・特定小型原付の電動キックボード(改正道路交通法施行後、2024年4月ごろか)運転免許不要、ヘルメット不要、制限速度20km/h、二段階右折義務あり、一定の条件下で歩道走行および逆走可。 以上、おおよそ3通りの区分けとなる。特定小型原付はまだ施行されておらず(公布と施行は別である)、将来的な予定なので注意が必要である。現状はいかなる電動キックボードも公道を無免許で運転してはならない。ヘルメットを持ち歩く人なんていませんから それにしても、なぜ特定の電動キックボードのみノーヘルが許されるのか、筆者には不思議でならない。そもそも原付免許で乗れるはずの電動キックボードがシェリングサービスでは原付免許のみでは不可、というのもよくわからない。原付はヘルメット必須だから小特に無理やりした感もある。 ちなみに小特とは、毎時15kmを超える速度を出すことができない構造の車両、かつ車両の長さ4.70メートル、幅1.70メートル、高さ2.00メートル以下の規格の車両で総排気量1500cc以下の車両を指す。ゆえにシェアリングサービスの電動キックボードは制限速度15km/hとなっているのだが、特筆すべきはシェアリングサービスの電動キックボードは小特扱いなので二段階右折が不要なのである。便利とみるか、危険とみるか。 大手バイクショップチェーンの幹部に尋ねてみたが、意外な回答があった。彼は実際に業界団体の説明会などにも足を運んでいる。「ヘルメットを被りたくない人が多いからノーヘルにしたい、というのが本音ですよ。電動キックボードを普及させたい国としては利用者の安全より利便性をとった。ノーヘルであることを優先して小特の区分にねじ込んだ。先行する韓国の二の舞いは嫌だったのでしょう」 パーソナルモビリティ先進国の韓国では2021年5月13日からシェアリングサービスの電動キックボードにヘルメットの着用が義務化され、罰金の対象となった。あまりの事故の多さにやむを得ず改正することになった格好だ。「しかし韓国ではヘルメット着用が義務化されてから、電動キックボードのシェアリングサービスの利用が大きく落ち込んだのです。ヘルメットを被るなら使わないと半分近くに落ち込みました」 韓国の業界団体の調査によればヘルメット着用義務化によって電動キックボード業者の売上や利用者は一時30%から50%も減ったとされる。「ヘルメットを持ち歩く人なんていませんからね、髪型を気にして嫌がる人もいるでしょうし、蒸れるとか、単に面倒とかって人もいます。これを日本政府も、日本の業界団体や企業も気にしたのでしょうね。あとはインバウド、外国人観光客に気を使った部分もあるのでしょう」 国情やレギュレーションの違いもあるため比較はできないが、ヘルメットの着用義務がない、もしくはゆるい国は多い。「対して警察はヘルメットを義務化したかった。行政も事故の増加は避けたかった。しかし国と業界は普及の妨げになると特別扱いで小特にねじ込んで推進した。後者が押し切った形ですね」 警視庁は当初からノーヘルに懸念を示していた。繰り返される電動キックボードによる違反行為に対して集中的な取り締まりも続けた。また業界団体にも対策を要請している。行政もまた、今回事故のあった中央区も2022年5月16日に以下の要望書を提出している。〈本区は、銀座や京橋、日本橋などの商業・業務が集積し、路上パーキングが多いことや、一部地域では歩行者天国が実施されるなどの地域特性があり、限られた道路空間に新たな交通主体が加わることにより、交通事故の増加などを懸念しております。 本区といたしましては、特定小型原動機付自転車に関して、交通事故の危険性が高い道路空間には通行禁止区域を設ける等の必要があると考えております。つきましては、改正道路交通法の施行に当たり、各警察署が地域町会の意見を取り入れ、地域特性に配慮するなど、より柔軟に交通規制の対応ができる制度となるよう要望いたします〉 この中央区の懸念通り、同区が電動キックボードのシェアリングサービス死亡者第1号となってしまった。やはり見切り発車による公道実験とサービスが混乱を招いている。人身事故だったらと思うと怖い「決まったことなので仕方がない話ですが、私もバイク乗りですから、個人的にはヘルメット着用は義務化すべきだと思います。15km/hだって打ちどころが悪かったら死にますよ。何でも死ぬと言われればそうですけど、ヘルメットをちゃんと被って助かる人は本当に多いのです。自転車だってそうですよ」 警視庁によれば、自転車の交通事故で死亡した人の約6割が頭部の致命傷によるものだとしている。また致死率もヘルメットの着用者に比べて2.2倍となっている(2017年~2021年統計)。自転車は13歳未満を除けばヘルメットの着用は努力義務となっているが、電動アシスト自転車などは24km/hまではアシスト機能が効くように設計されているわけで、自転車のヘルメット着用に対して国や全国の自治体が力を入れている意味がよくわかる。それなのに電動キックボードとなるとノーヘルにこだわる、本当に不思議な話である。「そうは言っても、自転車までヘルメット義務化となると難しいでしょうね。つまるところ、最終的には電動キックボードは原付というより自転車の扱いにしたいのでしょう。実際、免許もいらなくなりますしね」 補足すると、2024年4月ごろには免許不要で電動キックボードに乗れるようになるとされている。先の改正道路交通法による特定小型原付の電動キックボードに適用される予定だが、16歳以上なら免許不要で制限速度も20km/hに緩和される。その他、細かい条件はあるが、16歳以上なら無免ノーヘルで20km/hの電動キックボードを運転することができることになる。条件によっては歩道走行も可能である。ちなみにシンガポールでは2019年、事故の多発から電動キックボードの歩道走行は禁止となった。「今回の事故、可哀想ですけど、言い方が難しいのですが、自爆ではなく誰かを傷つけるような人身事故だったらと思うと怖いですね。あと、自分が自動車を運転している時に電動キックボードを引っ掛けてしまったり、はねてしまったりしたらと思うとね。過失は相手にあっても自動車のほうがより責任が重くなる可能性が高いですし、商業車ならなおさら、いまでも電動キックボードが公道にいると怖いなと思うのに、無免許ノーヘルで歩道を走り回ってもOKになるのでしょう。ちゃんと原付の電動キックボード、欲を言えばバイクの原2(原付2種、普通自動二輪小型限定)に乗ってくれればいいのに」 最後のひと言はバイク屋さんなので仕方のない話だが、筆者も同感である。それはともかく、せめてヘルメットだけでも義務化するべきではないだろうか。「制限速度30km/hの原付に免許取得とヘルメット着用義務があるのに、制限速度20km/hの電動キックボードが無免ノーヘルになるってやっぱりおかしいと思いますよ。うるさいことを言うなという人もいるでしょうが、本当にノーヘルで頭部を打つのは危険なんです。なってから後悔しても遅いんです」 20km/hを甘く見てはいけない、アスファルトやコンクリートに頭が叩きつけられれば命に関わる。それなのに普及を最優先にノーヘルOKで国民を使って公道実験をしている。 これまでも書いている通り、新しいモビリティの可能性は否定しない。しかし見切り発車が過ぎる。要免許・要ヘルメットで制限速度30km/hの原付と、無免許ノーヘルで制限速度20km/hの特定小型原付・電動キックボードの差は何なのか、その整合性はやはり不可解だ。 お亡くなりになった方がヘルメットを着用していたら助かったかどうかはわからない。しかしヘルメットを被っていれば助かった命だったかもしれない、も成り立つ。警視庁や行政、そして多くの一般ドライバーの懸念を無視してまで安全を蔑ろにする必要性はあるのだろうか。 たかがヘルメットと言う方もあるだろう、ならば「たかが」なのだから義務でなくともヘルメットは着用して欲しい。最後に重ねて、死亡した男性に心からお悔やみを申し上げる。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。社会問題や生命倫理の他、日本のロジスティクスおよびモビリティ分野に関するルポルタージュも手掛ける。
* * * やはり、電動キックボードのヘルメット着用はすべてにおいて義務化すべきである。
2022年9月26日、東京都中央区でシェアリングサービス会社の電動キックボードを運転中に会社役員の男性が転倒、死亡した。飲酒運転の可能性があり、同社は「今回の事故を重く受けとめ、安全性向上に向けた不断の検証を進めていくとともに、飲酒運転の防止や交通ルール遵守の取組みをより一層徹底してまいります」とのコメントを出した。
飲酒運転は違反である、それは大前提だ。しかし、だからといって死んでいいとはならない。まずは死亡した男性に対し、心からお悔やみを申し上げる。
筆者はこれまでも、各メディアで電動キックボードの法的な不備とその危険性を訴えてきた。今年に入ってもこのNEWSポストセブンでは『電動キックボード「無免許ノーヘルで公道走行可」は見直すべきではないか』『電動キックボードの公道運転 無免許、無保険で事故なら人生が終わりかねない』のルポルタージュを書いている。
もちろん、これをもって「それみたことか」を言うつもりはない。繰り返すが飲酒運転は道路交通法違反であり、シェアリングサービス会社の規約違反でもある。
しかし、ヘルメットを被っていれば、助かった命かもしれない。
現在、電動キックボードは駆動モーターの定格出力が0.6kw以下、排気量50cc以下相当として原付(原動機付自転車、原付1種)扱いとなっている。当然、原付のため制限速度は30km/h、もちろんヘルメットの着用は義務である。
ところが、シェアリングサービスの電動キックボードは小型特殊自動車、いわゆる「小特」となる。小特とは小型のトラクターやコンバイン、フォークリフトなどを公道で走らせるときの免許で、普通自動車や普通自動二輪の免許があれば勝手についてくる。実業高校で取らされたか10代からそうした仕事に従事、もしくは免許の種類を全部埋めるマニアでもない限り欄内になく、ほとんどのドライバーやライダーが意識せずに持っている免許である。
このシェアリングサービスの電動キックボードは「産業競争力強化法」および経済産業省の「新事業特例制度」による実証実験として東京区部と一部都下でサービスが提供されている。制限速度は15km/h、ヘルメットの着用は任意である。つまるところ、「ノーヘル」で構わないことになる。
将来的には2022年4月に可決成立、公布された改正道路交通法による「特定小型原付」という新たな定義によってさらに自由化が進められる。整理すると、
・従来の電動キックボード(原付扱い)要原付免許以上、要ヘルメット、制限速度30km/h、二段階右折義務あり
・シェアリングサービスの電動キックボード(現時点)要小特免許以上(原付免許のみは不可)、ヘルメット不要(推奨)、制限速度15km/h、二段階右折義務なし(小回り右折)
・特定小型原付の電動キックボード(改正道路交通法施行後、2024年4月ごろか)運転免許不要、ヘルメット不要、制限速度20km/h、二段階右折義務あり、一定の条件下で歩道走行および逆走可。
以上、おおよそ3通りの区分けとなる。特定小型原付はまだ施行されておらず(公布と施行は別である)、将来的な予定なので注意が必要である。現状はいかなる電動キックボードも公道を無免許で運転してはならない。
それにしても、なぜ特定の電動キックボードのみノーヘルが許されるのか、筆者には不思議でならない。そもそも原付免許で乗れるはずの電動キックボードがシェリングサービスでは原付免許のみでは不可、というのもよくわからない。原付はヘルメット必須だから小特に無理やりした感もある。
ちなみに小特とは、毎時15kmを超える速度を出すことができない構造の車両、かつ車両の長さ4.70メートル、幅1.70メートル、高さ2.00メートル以下の規格の車両で総排気量1500cc以下の車両を指す。ゆえにシェアリングサービスの電動キックボードは制限速度15km/hとなっているのだが、特筆すべきはシェアリングサービスの電動キックボードは小特扱いなので二段階右折が不要なのである。便利とみるか、危険とみるか。
大手バイクショップチェーンの幹部に尋ねてみたが、意外な回答があった。彼は実際に業界団体の説明会などにも足を運んでいる。
「ヘルメットを被りたくない人が多いからノーヘルにしたい、というのが本音ですよ。電動キックボードを普及させたい国としては利用者の安全より利便性をとった。ノーヘルであることを優先して小特の区分にねじ込んだ。先行する韓国の二の舞いは嫌だったのでしょう」
パーソナルモビリティ先進国の韓国では2021年5月13日からシェアリングサービスの電動キックボードにヘルメットの着用が義務化され、罰金の対象となった。あまりの事故の多さにやむを得ず改正することになった格好だ。
「しかし韓国ではヘルメット着用が義務化されてから、電動キックボードのシェアリングサービスの利用が大きく落ち込んだのです。ヘルメットを被るなら使わないと半分近くに落ち込みました」
韓国の業界団体の調査によればヘルメット着用義務化によって電動キックボード業者の売上や利用者は一時30%から50%も減ったとされる。
「ヘルメットを持ち歩く人なんていませんからね、髪型を気にして嫌がる人もいるでしょうし、蒸れるとか、単に面倒とかって人もいます。これを日本政府も、日本の業界団体や企業も気にしたのでしょうね。あとはインバウド、外国人観光客に気を使った部分もあるのでしょう」
国情やレギュレーションの違いもあるため比較はできないが、ヘルメットの着用義務がない、もしくはゆるい国は多い。
「対して警察はヘルメットを義務化したかった。行政も事故の増加は避けたかった。しかし国と業界は普及の妨げになると特別扱いで小特にねじ込んで推進した。後者が押し切った形ですね」
警視庁は当初からノーヘルに懸念を示していた。繰り返される電動キックボードによる違反行為に対して集中的な取り締まりも続けた。また業界団体にも対策を要請している。行政もまた、今回事故のあった中央区も2022年5月16日に以下の要望書を提出している。
〈本区は、銀座や京橋、日本橋などの商業・業務が集積し、路上パーキングが多いことや、一部地域では歩行者天国が実施されるなどの地域特性があり、限られた道路空間に新たな交通主体が加わることにより、交通事故の増加などを懸念しております。 本区といたしましては、特定小型原動機付自転車に関して、交通事故の危険性が高い道路空間には通行禁止区域を設ける等の必要があると考えております。つきましては、改正道路交通法の施行に当たり、各警察署が地域町会の意見を取り入れ、地域特性に配慮するなど、より柔軟に交通規制の対応ができる制度となるよう要望いたします〉
この中央区の懸念通り、同区が電動キックボードのシェアリングサービス死亡者第1号となってしまった。やはり見切り発車による公道実験とサービスが混乱を招いている。
「決まったことなので仕方がない話ですが、私もバイク乗りですから、個人的にはヘルメット着用は義務化すべきだと思います。15km/hだって打ちどころが悪かったら死にますよ。何でも死ぬと言われればそうですけど、ヘルメットをちゃんと被って助かる人は本当に多いのです。自転車だってそうですよ」
警視庁によれば、自転車の交通事故で死亡した人の約6割が頭部の致命傷によるものだとしている。また致死率もヘルメットの着用者に比べて2.2倍となっている(2017年~2021年統計)。自転車は13歳未満を除けばヘルメットの着用は努力義務となっているが、電動アシスト自転車などは24km/hまではアシスト機能が効くように設計されているわけで、自転車のヘルメット着用に対して国や全国の自治体が力を入れている意味がよくわかる。それなのに電動キックボードとなるとノーヘルにこだわる、本当に不思議な話である。
「そうは言っても、自転車までヘルメット義務化となると難しいでしょうね。つまるところ、最終的には電動キックボードは原付というより自転車の扱いにしたいのでしょう。実際、免許もいらなくなりますしね」
補足すると、2024年4月ごろには免許不要で電動キックボードに乗れるようになるとされている。先の改正道路交通法による特定小型原付の電動キックボードに適用される予定だが、16歳以上なら免許不要で制限速度も20km/hに緩和される。その他、細かい条件はあるが、16歳以上なら無免ノーヘルで20km/hの電動キックボードを運転することができることになる。条件によっては歩道走行も可能である。ちなみにシンガポールでは2019年、事故の多発から電動キックボードの歩道走行は禁止となった。
「今回の事故、可哀想ですけど、言い方が難しいのですが、自爆ではなく誰かを傷つけるような人身事故だったらと思うと怖いですね。あと、自分が自動車を運転している時に電動キックボードを引っ掛けてしまったり、はねてしまったりしたらと思うとね。過失は相手にあっても自動車のほうがより責任が重くなる可能性が高いですし、商業車ならなおさら、いまでも電動キックボードが公道にいると怖いなと思うのに、無免許ノーヘルで歩道を走り回ってもOKになるのでしょう。ちゃんと原付の電動キックボード、欲を言えばバイクの原2(原付2種、普通自動二輪小型限定)に乗ってくれればいいのに」
最後のひと言はバイク屋さんなので仕方のない話だが、筆者も同感である。それはともかく、せめてヘルメットだけでも義務化するべきではないだろうか。
「制限速度30km/hの原付に免許取得とヘルメット着用義務があるのに、制限速度20km/hの電動キックボードが無免ノーヘルになるってやっぱりおかしいと思いますよ。うるさいことを言うなという人もいるでしょうが、本当にノーヘルで頭部を打つのは危険なんです。なってから後悔しても遅いんです」
20km/hを甘く見てはいけない、アスファルトやコンクリートに頭が叩きつけられれば命に関わる。それなのに普及を最優先にノーヘルOKで国民を使って公道実験をしている。
これまでも書いている通り、新しいモビリティの可能性は否定しない。しかし見切り発車が過ぎる。要免許・要ヘルメットで制限速度30km/hの原付と、無免許ノーヘルで制限速度20km/hの特定小型原付・電動キックボードの差は何なのか、その整合性はやはり不可解だ。
お亡くなりになった方がヘルメットを着用していたら助かったかどうかはわからない。しかしヘルメットを被っていれば助かった命だったかもしれない、も成り立つ。警視庁や行政、そして多くの一般ドライバーの懸念を無視してまで安全を蔑ろにする必要性はあるのだろうか。
たかがヘルメットと言う方もあるだろう、ならば「たかが」なのだから義務でなくともヘルメットは着用して欲しい。最後に重ねて、死亡した男性に心からお悔やみを申し上げる。
【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。社会問題や生命倫理の他、日本のロジスティクスおよびモビリティ分野に関するルポルタージュも手掛ける。

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