「私は夫の部下ではない」 定年退職した夫との会話を拒否する妻の“本当”の心情とは

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家族問題評論家の池内ひろ美氏は1996年に「東京家族ラボ」を開設して以来、4万件近い家族問題の相談に乗ってきた。離婚、結婚、恋愛、不仲等々。今回池内さんのもとを訪れたのは、長年連れ添った妻に突如「今後は何も話をしない」と言われた夫である。一体、妻の本音とはどのようなものなのか――。【SNS時代の家族問題/第5回】
(個人が特定されないように年齢など一部を変えています)
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【写真を見る】結婚47年で離婚したカップルも! 「熟年離婚」した芸能人たち「さて、どうしたものですかね」 背筋を伸ばして椅子に腰掛け、すぐに大きく腕を組み、大きなため息をつきながら、その男性は落ち着いた声で話しはじめます。定年退職した夫との会話を拒否する妻の“本当”の心情とは(※写真はイメージ) サマースーツの襟に少しかかる程度の白髪交じりの長めの髪の毛をオールバック気味にきれいにとかしつけている。「うちの家内がね、先月定年退職した私と、もう今後は何も話をしないと伝えてきたんです」 夫と話をしたくない妻というのは、じつは想像以上に多いものだが、わざわざ宣言するとは、いったい何があったというのでしょう。「何かがあったわけでは、ないんですけどね」熟年離婚の兆し? 今までにも、奥様が話をしないと言ってきたことはありますか?「いや、ありません。家内はもともと明るい性格で、子供たちにはたくさん話していたし、とても良い母でしたし、コミュニケーションスキルも高いからご近所づきあいもトラブルなく行っています。料理のスキルはあまり高くはありませんが、まあ、私は食事にこだわりはないので構いません。料理教室に通え、お金は出してやると言ったのに通わなかったから、今でも料理スキルは低いままですが、それ以上は責めていません」 奥様は、長男が結婚して新居を持ち、長女が就職して一人暮らしを始めた頃から、口数が減ってきたという。つまり、子供たちに対してはたくさん話してきたが、夫と話すことがないのだろうか。これは熟年離婚の兆しでもあるため、念のため尋ねてみる。 奥様は離婚を考えているふしがあるのでしょうか。「いや、ありません。専業主婦の妻は離婚しても収入がありませんし、実家には戻れませんし、私は経済的にある程度は豊かなので離婚はありません」袖口から見えるロレックス 少し照れくさそうに手で髪をかき上げ、また大きく腕を組み直して話します。 サマースーツの袖口から見えるのは、クロノグラフの腕時計。丸い文字盤の中にさらに三つの丸い時計がある。つまり、ストップウオッチ機能がついた高級腕時計。 ロレックスですか?「ええ、私が執行役員になった記念に購入しました。いつかはロレックス、と憧れた世代でもありますので、着けた時は身が引き締まる思いでしたよ」 アップルウオッチを着けている男性が多い今の時代に、長針や短針だけでなく横に操作リューズが三つも付いている腕時計をしているのは、そこに彼の美学があるということでしょう。 彼が身に着けているロレックスについて、ひとしきり説明してくれます。 オーソドックスなタイプで、文字盤の中央軸に付いている針が秒積算計、30の目盛りがある針が分積算計で、12の目盛りを持つ針が時積算計。積算計を見て、経過時間を読み取ることができる優れた時計です。 クロノグラフは、飛行機のパイロットが必要な計算をすべて行うことができるからと開発された腕時計ですが、彼はパイロットではなく、60歳で定年退職を迎えた会社員ですので、やはり腕時計に彼の美学を感じます。 彼の持つ美学を、奥様は理解していらっしゃるでしょうか。「いえ、理解しません。家内は私には関心を持っていませんし、私の側としても、妻に対しては、家事と子育て以上に求めるものはありません。妻は、育児のスキルはとても高い女性ですよ。それは私も認めます」夫婦の「ホウレンソウ」はLINEで その奥様が、なぜ突然「夫とは話をしない」と伝えてきたのでしょう。 そもそも、どんなふうに伝えてきましたか?「LINEです。いわゆる『ホウレンソウ』は、今までもLINEで全部行ってきたのですが、私と話したくないなどと一方的にLINEで伝えてきたことにも、少し納得がいきません」 ホウレンソウとは、主に社内の「報告」「連絡」「相談」を略して言う言葉です。家庭の中でもホウレンソウという表現を使ってきたのでしょうか。「当然ですよ。私は管理職ですが、仕事をするうえで最も大切なのはホウレンソウと若い頃から叩き込まれてきました。正しくホウレンソウを行い、自分の手にある作業仕事を手元から早く放すことが大切です。部下の指導もそのように行ってきましたが、弊社の社員は元来優秀でスキルの高い者ばかりですので、さして苦労はしませんでしたよ」 彼にとって「スキルが高い」のは大切なことのようですね。 会社の部下に対して、そのスキルの高さを認めていらっしゃるのは素晴らしいことですが、さて、夫婦間で、夫が妻に対して「スキルが高い」「スキルが低い」という表現を使うとどのような印象を受けるか少し考えてみましょう。浮気の後始末に妻が行かされるケースも「いや、私は、家内が持つコミュニケーションスキルの高さも、育児のスキルの高さも尊敬していますよ。料理のスキルはもうひとつですが、妻に対しては全体的に『君はスキルが高い』と認めていますし、尊敬しています」「尊敬している」を多用すると、まるでバカにされていると感じたりはしないか少し心配になりますが、それよりも、奥様が持つ「スキル」を、まるで部下に接するときのように評価しているのは残念なことですね。 熟年離婚を望む妻たちの話を、私は30年近く前から繰り返し聞いてきました。 夫からのひどい暴力を受けながら、子どもたちを育てるために我慢を重ねてきた妻もいました。その中には夫の両親に相談しても、まるで自分が暴力を誘発しているかのように言われ、外に向かって相談するのが怖くなったとおびえている妻もいました。 浮気を繰り返す夫の後始末として、浮気がバレるたびに愛人への手切れ金を渡しに行かされた妻もいました。愛人女性から「取られるほうも悪いんじゃないの、女としての魅力がないから」と言われ泣きながら帰ったという話も聞きました。 夫は仕事で休日も出かけるものだと思っていたら、競馬に通っていて、それで作った借金を返済するために、早朝と深夜にかけもちパートタイム勤務をして、睡眠時間もなく体がぼろぼろになってしまったという妻もいます。私は部下ではない 目の前の相談者に話を戻しましょう。ロレックスを着け腕組みをした男性が憮然としながら話を続けます。「私は、そんな夫たちとは違います。浮気も暴力も借金もしたことがない。それなのに、なぜ家内は私と話をしないと言うんですか」 奥様の言い分を聞いてみなければ正確なところはわからないため、私の想像で伝えるしかありませんが、彼女が話をしないのは、彼が、自分が勤務していた仕事を軸に話すからではないでしょうか。「まるで部下のように夫から評価されるのが苦痛だった。私は夫の部下ではありません」と憤る妻たちはいます。 男性が定年退職を迎えるのは難しいものです。長年勤めた職場を離れて家庭に入り地域社会に入ったからといって、自動的に家庭人になることができるわけではないからですね。 それは、出産と似ているかもしれません。女性が十月十日(とつきとおか)かけて徐々に母親となっていくのに比べて、男性は、生まれた赤ちゃんの顔を見た時、突然父親になります。十月十日かけて自分の食事や行動に気を付けながら、妊婦として重い体を操ってきた女性は、命を懸けて赤ちゃんを産んだ時にはすでに母親となっています。対して男性は、子供が生まれ「あなたの赤ちゃんよ」と言われたその時から時間をかけ、努力して父親になっていくしかありません。生まれたばかりの赤ちゃんに対しては、圧倒的に妻の側が「先輩」です。妻を上から「評価」しないで 定年退職を迎えた夫も同じです。 家庭の中あるいは地域社会においては、圧倒的に妻の側が「先輩」です。それを、家事やコミュニケーションのスキルが高いとか低いとか上から目線で評価するのは、せいぜい主婦の先輩として姑が行うことであって、長年家庭に不在だった、ある種の外様だった夫が行うことではありませんよね。 もちろん、賢い姑ならば嫁の評価はしません。評価などしようものなら嫁姑戦争が起こってしまうと女性同士は分かっているため、互いに評価することを賢く避けています。 ところが、企業人としての生活が長い夫たちは、評価することに慣れています。 彼がまだ新入社員だった頃、あるいは勤務年数が浅かった頃に上司から評価を受けることは大きなプレッシャーであり、ストレスだったはずです。 企業人として成長し出世していくにつれて、評価されるのではなく評価する側にまわると、若い頃の「評価を受ける側」の気持ちを忘れてしまいがちですよね。 相談者の彼が、妻とこれから会話したい、穏やかに老後を過ごしたいと望むのであれば、気持ちを少し入れ替えてみることが大切です。肩書は退職した企業の中に置いて 夫君は、企業人としては、執行役員という立派な肩書がありましたが、退職して家庭人としては、妻が先輩であり、夫は新入社員のような立場です。 たとえば台所では、食器や食材など、どこに何が置かれているのか分からない、洗い物をするときに使うスポンジは、鍋や食器によって使うスポンジも洗剤も異なります。 洗濯機を回すといっても、どこをどう回すのか分からない。 それは、入社したばかりの時は、社内の連絡ツールや社員食堂の使い方を知らなかったことと同じです。一つひとつ覚えましたよね。 新入社員の時は、取引先様のことがまだ分からなかったため一人で行くことはなく、先輩に連れて行かれました。長い年月をかけて先輩が培った取引先様との関係を壊すことのないよう、いずれ業務を引き継ぎできるよう、まだ内容が子細に分からなくてもあいさつだけはきちんとせよと教えられました。 それは、退職した後のご近所づきあいと同じです。妻は長い年月をかけてご近所様とのつきあい方や距離感を保ってきました。そこに新たに参加する定年退職夫は、妻とご近所様の関係を壊すことなく、まずあいさつをきちんとしましょう。 執行役員という肩書は退職した企業の中へ置いておかれて、家庭人としては素直な新人となられるといいですね。 離婚するわけではなく、一時期中断している妻との会話は、夫が妻を「評価する」のではなく、妻を「先輩」として認めることによって復活できます。池内ひろ美(いけうちひろみ)家族問題評論家。一般社団法人ガールパワー(Girl Power)代表理事。家族メンター協会代表理事。内閣府後援女性活躍推進委員会理事。1996年より「東京家族ラボ」を主宰。『とりあえず結婚するという生き方』『妻の浮気』など著書多数。デイリー新潮編集部
「さて、どうしたものですかね」
背筋を伸ばして椅子に腰掛け、すぐに大きく腕を組み、大きなため息をつきながら、その男性は落ち着いた声で話しはじめます。
サマースーツの襟に少しかかる程度の白髪交じりの長めの髪の毛をオールバック気味にきれいにとかしつけている。
「うちの家内がね、先月定年退職した私と、もう今後は何も話をしないと伝えてきたんです」
夫と話をしたくない妻というのは、じつは想像以上に多いものだが、わざわざ宣言するとは、いったい何があったというのでしょう。
「何かがあったわけでは、ないんですけどね」
今までにも、奥様が話をしないと言ってきたことはありますか?
「いや、ありません。家内はもともと明るい性格で、子供たちにはたくさん話していたし、とても良い母でしたし、コミュニケーションスキルも高いからご近所づきあいもトラブルなく行っています。料理のスキルはあまり高くはありませんが、まあ、私は食事にこだわりはないので構いません。料理教室に通え、お金は出してやると言ったのに通わなかったから、今でも料理スキルは低いままですが、それ以上は責めていません」
奥様は、長男が結婚して新居を持ち、長女が就職して一人暮らしを始めた頃から、口数が減ってきたという。つまり、子供たちに対してはたくさん話してきたが、夫と話すことがないのだろうか。これは熟年離婚の兆しでもあるため、念のため尋ねてみる。
奥様は離婚を考えているふしがあるのでしょうか。
「いや、ありません。専業主婦の妻は離婚しても収入がありませんし、実家には戻れませんし、私は経済的にある程度は豊かなので離婚はありません」
少し照れくさそうに手で髪をかき上げ、また大きく腕を組み直して話します。
サマースーツの袖口から見えるのは、クロノグラフの腕時計。丸い文字盤の中にさらに三つの丸い時計がある。つまり、ストップウオッチ機能がついた高級腕時計。
ロレックスですか?
「ええ、私が執行役員になった記念に購入しました。いつかはロレックス、と憧れた世代でもありますので、着けた時は身が引き締まる思いでしたよ」
アップルウオッチを着けている男性が多い今の時代に、長針や短針だけでなく横に操作リューズが三つも付いている腕時計をしているのは、そこに彼の美学があるということでしょう。
彼が身に着けているロレックスについて、ひとしきり説明してくれます。
オーソドックスなタイプで、文字盤の中央軸に付いている針が秒積算計、30の目盛りがある針が分積算計で、12の目盛りを持つ針が時積算計。積算計を見て、経過時間を読み取ることができる優れた時計です。
クロノグラフは、飛行機のパイロットが必要な計算をすべて行うことができるからと開発された腕時計ですが、彼はパイロットではなく、60歳で定年退職を迎えた会社員ですので、やはり腕時計に彼の美学を感じます。
彼の持つ美学を、奥様は理解していらっしゃるでしょうか。
「いえ、理解しません。家内は私には関心を持っていませんし、私の側としても、妻に対しては、家事と子育て以上に求めるものはありません。妻は、育児のスキルはとても高い女性ですよ。それは私も認めます」
その奥様が、なぜ突然「夫とは話をしない」と伝えてきたのでしょう。
そもそも、どんなふうに伝えてきましたか?
「LINEです。いわゆる『ホウレンソウ』は、今までもLINEで全部行ってきたのですが、私と話したくないなどと一方的にLINEで伝えてきたことにも、少し納得がいきません」
ホウレンソウとは、主に社内の「報告」「連絡」「相談」を略して言う言葉です。家庭の中でもホウレンソウという表現を使ってきたのでしょうか。
「当然ですよ。私は管理職ですが、仕事をするうえで最も大切なのはホウレンソウと若い頃から叩き込まれてきました。正しくホウレンソウを行い、自分の手にある作業仕事を手元から早く放すことが大切です。部下の指導もそのように行ってきましたが、弊社の社員は元来優秀でスキルの高い者ばかりですので、さして苦労はしませんでしたよ」
彼にとって「スキルが高い」のは大切なことのようですね。
会社の部下に対して、そのスキルの高さを認めていらっしゃるのは素晴らしいことですが、さて、夫婦間で、夫が妻に対して「スキルが高い」「スキルが低い」という表現を使うとどのような印象を受けるか少し考えてみましょう。
「いや、私は、家内が持つコミュニケーションスキルの高さも、育児のスキルの高さも尊敬していますよ。料理のスキルはもうひとつですが、妻に対しては全体的に『君はスキルが高い』と認めていますし、尊敬しています」
「尊敬している」を多用すると、まるでバカにされていると感じたりはしないか少し心配になりますが、それよりも、奥様が持つ「スキル」を、まるで部下に接するときのように評価しているのは残念なことですね。
熟年離婚を望む妻たちの話を、私は30年近く前から繰り返し聞いてきました。
夫からのひどい暴力を受けながら、子どもたちを育てるために我慢を重ねてきた妻もいました。その中には夫の両親に相談しても、まるで自分が暴力を誘発しているかのように言われ、外に向かって相談するのが怖くなったとおびえている妻もいました。
浮気を繰り返す夫の後始末として、浮気がバレるたびに愛人への手切れ金を渡しに行かされた妻もいました。愛人女性から「取られるほうも悪いんじゃないの、女としての魅力がないから」と言われ泣きながら帰ったという話も聞きました。
夫は仕事で休日も出かけるものだと思っていたら、競馬に通っていて、それで作った借金を返済するために、早朝と深夜にかけもちパートタイム勤務をして、睡眠時間もなく体がぼろぼろになってしまったという妻もいます。
目の前の相談者に話を戻しましょう。ロレックスを着け腕組みをした男性が憮然としながら話を続けます。
「私は、そんな夫たちとは違います。浮気も暴力も借金もしたことがない。それなのに、なぜ家内は私と話をしないと言うんですか」
奥様の言い分を聞いてみなければ正確なところはわからないため、私の想像で伝えるしかありませんが、彼女が話をしないのは、彼が、自分が勤務していた仕事を軸に話すからではないでしょうか。
「まるで部下のように夫から評価されるのが苦痛だった。私は夫の部下ではありません」と憤る妻たちはいます。
男性が定年退職を迎えるのは難しいものです。長年勤めた職場を離れて家庭に入り地域社会に入ったからといって、自動的に家庭人になることができるわけではないからですね。
それは、出産と似ているかもしれません。女性が十月十日(とつきとおか)かけて徐々に母親となっていくのに比べて、男性は、生まれた赤ちゃんの顔を見た時、突然父親になります。十月十日かけて自分の食事や行動に気を付けながら、妊婦として重い体を操ってきた女性は、命を懸けて赤ちゃんを産んだ時にはすでに母親となっています。対して男性は、子供が生まれ「あなたの赤ちゃんよ」と言われたその時から時間をかけ、努力して父親になっていくしかありません。生まれたばかりの赤ちゃんに対しては、圧倒的に妻の側が「先輩」です。
定年退職を迎えた夫も同じです。
家庭の中あるいは地域社会においては、圧倒的に妻の側が「先輩」です。それを、家事やコミュニケーションのスキルが高いとか低いとか上から目線で評価するのは、せいぜい主婦の先輩として姑が行うことであって、長年家庭に不在だった、ある種の外様だった夫が行うことではありませんよね。
もちろん、賢い姑ならば嫁の評価はしません。評価などしようものなら嫁姑戦争が起こってしまうと女性同士は分かっているため、互いに評価することを賢く避けています。
ところが、企業人としての生活が長い夫たちは、評価することに慣れています。
彼がまだ新入社員だった頃、あるいは勤務年数が浅かった頃に上司から評価を受けることは大きなプレッシャーであり、ストレスだったはずです。
企業人として成長し出世していくにつれて、評価されるのではなく評価する側にまわると、若い頃の「評価を受ける側」の気持ちを忘れてしまいがちですよね。
相談者の彼が、妻とこれから会話したい、穏やかに老後を過ごしたいと望むのであれば、気持ちを少し入れ替えてみることが大切です。
夫君は、企業人としては、執行役員という立派な肩書がありましたが、退職して家庭人としては、妻が先輩であり、夫は新入社員のような立場です。
たとえば台所では、食器や食材など、どこに何が置かれているのか分からない、洗い物をするときに使うスポンジは、鍋や食器によって使うスポンジも洗剤も異なります。
洗濯機を回すといっても、どこをどう回すのか分からない。
それは、入社したばかりの時は、社内の連絡ツールや社員食堂の使い方を知らなかったことと同じです。一つひとつ覚えましたよね。
新入社員の時は、取引先様のことがまだ分からなかったため一人で行くことはなく、先輩に連れて行かれました。長い年月をかけて先輩が培った取引先様との関係を壊すことのないよう、いずれ業務を引き継ぎできるよう、まだ内容が子細に分からなくてもあいさつだけはきちんとせよと教えられました。
それは、退職した後のご近所づきあいと同じです。妻は長い年月をかけてご近所様とのつきあい方や距離感を保ってきました。そこに新たに参加する定年退職夫は、妻とご近所様の関係を壊すことなく、まずあいさつをきちんとしましょう。
執行役員という肩書は退職した企業の中へ置いておかれて、家庭人としては素直な新人となられるといいですね。
離婚するわけではなく、一時期中断している妻との会話は、夫が妻を「評価する」のではなく、妻を「先輩」として認めることによって復活できます。
池内ひろ美(いけうちひろみ)家族問題評論家。一般社団法人ガールパワー(Girl Power)代表理事。家族メンター協会代表理事。内閣府後援女性活躍推進委員会理事。1996年より「東京家族ラボ」を主宰。『とりあえず結婚するという生き方』『妻の浮気』など著書多数。
デイリー新潮編集部

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