家庭や職場などで知らぬ間にたまってしまうストレス。放置すると体の不調にもつながるため、趣味に没頭したり、旅行に行ったりと、自分に合った方法で解消しているようです。ただ、今回紹介する新入社員の解消法は、前代未聞でかなり衝撃的な方法かもしれません。 セキュリティ関連の会社に勤務する渡辺さん(仮名・42歳)。彼は、大学時代の先輩に誘われて、大手生命保険会社から転職してきたそうです。
◆難関大卒のエリート新入社員
渡辺さんはもともと経理畑出身なのですが、この会社はベンチャー企業のため、時々、新人教育係にも駆り出されるそうです。そんななか、その年の新入社員で、宮本くん(仮名・23歳)という男性に、渡辺さんは注目していたそうです。
「彼の経歴を見た時は驚きました。誰が見てもエリートだと一目でわかる難関大学の出身で、間違いなく偏差値レベルではダントツの人材でした。しかも宮本くんは理系出身で、ほとんどが文系のこの会社ではかなり珍しい存在でした」
同期の間でもひときわ目立つ存在で、誰とでも物おじすることなくコミュニケーションがとれるそのキャラクターで一躍、社内でも有名な存在となったようです。
◆一部の社員が抱いた違和感
ただ、社員からは、宮本くんの振る舞いに違和感をいだく声が出ていたことも事実だったようです。
「私は直接見たことがないのですが、普段は目一杯、快活な宮本くんが、周囲に誰もいない時にはとても暗い表情なんです。普段の太陽のような笑顔がまるで見受けられず、この世の果てのような暗い雰囲気なんだそうです。一部のスタッフは『二重人格じゃない?』とまで言う始末です」
どうやら、宮本くんと自宅の方向が同じ先輩社員が、通勤途中の彼の様子を目の当たりにしたのだそうです。その先輩いわく、電車を降りてから会社に着くまでブツブツと独り言までつぶやいていたといいます。
「そう言われてみると、私も一度トイレで彼の沈んだ様子を目撃したことを思い出したんです。あまりにも暗い表情だったので、声がけせずにスルーしたくらいでした」
◆目に飛び込んだ驚がくの光景
そんなある日、渡辺さんがいつもより早めに出勤した際、信じられない光景を目の当たりにしたといいます。
「あの日、僕はいつもより少し早めに出社したんです。社内の通信機器回線の工事に立ち会う必要がありまして……。念のため工事開始より30分早くオフィスに入りました。そうしたら、奥のほうで人影を感じ慌てて照明を点けたところ、なぜか宮本くんが出社していたんです」
宮本くんはイヤホンをしていたので、渡辺さんはそのまま自分のデスクへ向かいカバンを置こうと何気なく机の上を見た際、数枚の黄色い付せんが貼られていることに気づきます。
「俺はお前が思っている以上に有能なんだよ!」「なんで俺がおまえなんかに指図されなきゃいけないんだよ!」「俺はこんな会社にはもったいないんだよ!」などの、背筋が凍るような暴言が記されていたそうです。暴言の筆跡は、入社時に宮本くんが記入していた自己PR文の文字とよく似ていたとのことです。
◆暴言の付せんに託した真意とは
渡辺さんは、少し早めに宮本くんをランチに誘い、今朝起こったことについてヒアリングをしたそうです。
「話を聞いていくと、どうやら宮本くんは就活に失敗し、納得のいかないまま入社したらしいんです。周りの社員と、大学時代の優秀な同期とつい比較してしまい、見下してしまう自分に嫌悪を感じ、それをふっしょくするためにわざと明るく振る舞まうことで余計にストレスが蓄積してしまい、今回のような奇行に及んだそうなのです。いつもは暴言を書いた付せんを社員が出社するころまでには撤収し、そのスリルを味わっていたようです」
宮本くんには、いつものような明るい表情は全くなく、まるで魂がぬけたような脱力感でいっぱいの様相だったといいます。
◆本人の決断と残った課題
「とにかく、彼にはしばらく休暇を取得してリフレッシュするように伝えたんです」
ただ、宮本くんは、渡辺さん指示通りにしばらく休暇を取得したあと、辞表を持参して再び渡辺さんの前に現れたといいます。
「なんとなく彼が辞める予感はしていました。人当たりもよく頭もキレますが、その分プライドも人一倍高く、そんな彼がのうのうと復帰するとは思えませんでした。ただ、最後は彼を元気づける言葉で見送り、彼も笑顔で挨拶をしていました」
今回の一件で、スタッフのメンタルケアの重要性を身に染みて感じた渡辺さん。早速上司から社員の健康管理に関する部署の立ち上げを打診され快諾したそうです。
<TEXT/ベルクちゃん>
―[モンスター新入社員]―