ふだんあまり意識しない「舌の位置」。でもじつは、体の調子を整えるうえで、とてつもなく重要な意味をもっていた。専門家が教える「舌の位置」で健康になるためのコツ、どうぞ試してみてください。
上あごにくっつけた舌を下あごにぶつけ、カコンと音を鳴らす遊びがある。幼いころこの「舌を鳴らす」遊びを楽しんだ人もいるかもしれない。
いま、試しに舌を鳴らしてみてほしい。
舌を上あごにくっつけ、下あごに向けて離す直前、そこでストップ!
「舌先がその状態で、なおかつ舌が根元のほうまで上あごについているのが『理想的な舌の位置』です。このテストをやってみて『舌をかなり後ろに下げなくちゃいけないな』と思った方は、『低舌位』、すなわち、望ましくない舌の位置である可能性が高いのです」(みらいクリニック院長で内科医の今井一彰さん)
ふだん「舌の位置」を意識するという人は多くないかもしれない。しかし、じつは今井さんが指摘するように、舌の位置には「正しい位置」と「間違った位置」がある。
そして恐ろしいことに、舌を「間違った位置」で放置しつづけることにはさまざまな危険がともなう。風邪や腰痛、肩こりといった不調のリスクを高めるのはもちろん、誤嚥性肺炎などの「死に至る病気」につながる危険性もあるのだ。
いまは舌の位置に問題がない人も、やがて筋肉が衰え、気づけば「間違った位置」になっている恐れがあるから要注意だ。
裏を返せば、舌の位置を正し、正しい位置を維持することで、病気のリスクを低減できるということでもある。実際、舌を正しい位置にすることの効果は凄まじい。
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「一般的に、災害のあと被災者が避難所などにおいて体調不良で亡くなる『関連死』の原因は、肺炎がその多くを占めることが知られています。
’11年に起きた東日本大震災でも、多くの避難所で、肺炎によって被災者が亡くなりました。ところが、’16年の熊本地震で、被災者が舌の位置を正すための『あいうべ体操』をしていた南阿蘇の避難所では、肺炎による関連死がゼロだったのです」(今井さん)
驚きの効果だが、「あいうべ体操」については後述するとして、まずは「正しい舌の位置」について知ろう。今井さんがあらためて解説する。
「舌先を前歯の付け根につけ、上にすべらせていってください。そうすると、傾斜が急になって舌がスッと上にあがるところがあると思います。そのあたりに舌先がつき、舌全体は根元のほうまで上あごにくっつくのが、理想的な舌の位置です。それで息が苦しいという方は、舌の半分くらいでもいいので上あごにくっつけてください」
そのうえで、上唇と下唇がくっついて口が閉じ、歯は軽く噛み合っているのが望ましい。
日本歯科大学の名誉教授である小出馨さんは、正しい舌の位置についてこう解説する。
「私の舌先のポジショニングは、今井先生に比べると少し前方です。やや難易度が低い、楽な位置……というところでしょうか。
上の前歯の裏と歯ぐきが接するところのすぐ後ろに、5mmほどのぽっこりとした部分があると思います。そこに舌の先がふれるイメージで舌を置き、舌の全体が上あごに均等にくっついている状態が正常だと私は考えています」
いずれにせよ、
(1)舌先は上あごにくっついた状態で、前歯よりやや奥のほうにある
(2)舌の全体は、なるべく広い範囲で上あごにくっついている
という点が重要だ。
逆に、舌先がダラッと下がっていたり、舌が上あごにあまりついていなかったりするのは、ダメな舌の位置(=「低舌位」)といえる。こうなる人は、舌を支えるための筋肉が弱っているという。
では、なぜ舌の位置は重要なのか。
まずなにより「正しい舌の位置」は、風邪やインフルエンザといったウイルスや細菌による病気を強力に防ぐ効果がある。今井さんが解説する。
「舌の位置が下がることの大きな問題点は、『口呼吸』になってしまうことです。舌が下がると無意識のうちに口が開き、そうするとどうしても口呼吸になってしまう。たとえ起きているときは鼻呼吸を意識できても、寝ているときに口呼吸になる可能性が高い。
口呼吸は恐ろしいものです。私たちは一日に1万L以上、約15kgもの空気を吸っています。当然、一緒に細菌、ウイルス、ほこり、カビなどの異物も吸い込んでいる。
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そうした異物を除去する機能をもつのが、鼻です。鼻毛や粘液で異物を濾過し、その奥にある『扁桃リンパ組織』という組織でも異物に対応する。だから鼻で呼吸すると、風邪を引きにくくなる。鼻は本来的に呼吸のための器官『呼吸器』なんです。
一方、口は『消化器』です。人間は進化の過程で口と気管がつながり、たまたま口で呼吸できるようになりましたが、本来的に口は呼吸器ではありません。口には異物を除去する機能がなく、口呼吸すると、異物をそのまま吸い込んでしまう。さまざまな不調が出るのは当然です。
また、口呼吸によって口の中が乾燥すると、口内で雑菌が繁殖しやすい。雑菌などが気道に入って炎症を起こす『誤嚥性肺炎』にもなりやすくなってしまいます。
舌の位置を正し、口呼吸をやめることは、風邪やインフルエンザ、肺炎などを防ぐのに大きな働きをするのです」
この前編記事では舌の位置が体に及ぼす影響について紹介してきた。続く後編記事『舌には「正しい位置」があった…病気になりにくくなる「舌の位置」にするストレッチ方法』でも舌の位置が及ぼす影響、また、舌の位置の治し方などを引き続き解説していく。