代官山駅前が“衰退”しているように見えるのはなぜか?

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先日あるメディアから、最近渋谷区の代官山や駅前周辺が“衰退”しているのはなぜか、との問い合わせがあった。代官山といえば高感度なアパレルショップが集う「おしゃれな街」というイメージが強い。そんな街が変わってしまっているという。そこで久しく訪れていなかった代官山の街に足を運んでみることにした。
【写真】この記事の写真を見る(3枚) 渋谷から東急東横線に乗ってひと駅。渋谷はここ数年で大きく変貌を遂げた。2013年に東横線は地下化され、東京メトロ副都心線と相互乗り入れになる。地下深くに設置された渋谷駅は東横線の終着駅でも始発駅でもなくなり、線路は東武東上線や西武池袋線につながり埼玉方面へと伸びた。特急、通勤特急、急行、準急などの様々な看板や行先を掲げた電車が走るが、渋谷の一つ横浜寄りにある「代官山」駅は各駅停車のみが停車する。

代官山駅 AFLO10年前とは変わり果てた代官山 半地下の駅から改札を出て、代官山通りに出てみて驚いた。以前はお洒落なブティックや雑貨店が軒を連ねていたのだが、がらんどうである。特に商業店舗が入りやすい1階、2階のスペースは「For Rent」の看板が目立つ。いったいどうしたんだろうか、と歩みを進めるが道行く人も疎らである。「代官山アドレス」に向かう。2000年夏にオープンした「代官山アドレス」は地上36階建ての超高層マンションと商業施設からなる施設で、出来上がった当時は一世を風靡したものだ。代官山に高層建物は似合わないなど竣工当初は喧々囂々の議論まであったが、低層部の商業棟を覗くと、やはり空室が目立つ。開業当時のテナントもだいぶ入れ替わっているようで、100円ショップの看板もある。 八幡通り沿いもなんだか賑わいがない。以前は多くのアパレルショップのあった裏通りも閑散とした雰囲気だ。旧山手通りに出て、代官山テラスから蔦屋書店のあるT-サイトまでやってくるとやっと賑わいが出た。それにしても10年前くらいの代官山の姿とは様変わりの様相に驚かされた。 さて昭和・平成と隆盛を誇ってきた代官山に何が起きたのか考えてみよう。5つほどの原因がありそうだ。代官山に何が起きたのか? 様変わりした5つの原因 まず代官山の様相を変えるきっかけになったのはやはり東横線の地下化および東京メトロ副都心線への乗り入れだろう。神奈川方面から渋谷を目指してきていた多くの乗客は、渋谷から先、新宿、池袋方面に流れていく。渋谷が単なる通過駅になってしまった。そうなると渋谷の一歩手前の小洒落た街だった代官山が忘れられがちになったのではないか。ただでさえ各駅停車しか止まらない駅である。そして駅自体が渋谷に向かって下るトンネルの入り口付近にあって目立たない半地下駅になった。人の流れというものは恐ろしいものだ。代官山駅は通過駅となった渋谷駅のさらなる通過駅という、誰も気が付かない駅に変質してしまったようだ。 2つ目の理由が路線乗り入れによる客層の変化だ。それはTSUTAYAに入るとよくわかる。客層を観察すると代官山通りや八幡通りのセレクトショップにやってきてちょっと背伸びをしたいようなお姉さんたちではない。観光客や物見遊山的な客も目立つ。「ららぽーと」があればよいのに 3つ目の理由が、ライフスタイルの変化だ。最近の若い人たちからは、代官山でお洒落して少し高い服を買うという消費行動そのものが消滅しつつあるのではないか。ほとんどの日はユニクロで構わないし、家具はコンランショップの家具ではなく、ニトリで十分。フランフランでこだわりのキッチン雑貨をそろえなくてもよい。むしろ「ららぽーと」があればよいのに、と思う。豊洲のタワマンに住んで週末はららぽーとでお買い物、こちらのほうが合理的で現代の生活にフィットしているのだ。 4つ目の理由が渋谷の変貌だ。渋谷は商業の街として栄えてきたが、今や駅前には超高層オフィスが林立するオフィス街になった。百貨店が立ち並ぶお買い物の街だった渋谷の一つ手前の代官山。ちょっとよい買い物をしたいのならばそのまま副都心線に乗って新宿三丁目の伊勢丹本店へ。渋谷にはないようなお店を探しに来るはずの街だった代官山のキャラクターを変えてしまったのかもしれない。 そして最後に指摘しなければならないのが、地価や建築費の値上がりだ。代官山駅前の公示地価を東横線が地下化された2013年と現在を比べてみると、坪当たりおよそ505万円から889万円となんと75.8%も値上がりしているのだ。建設費は3割から4割は上がっている。土地を取得して建物を建設してテナントに貸そうにも高い賃料にしなければ満足のいく投資利回りは得られない。アパレル系のセレクトショップでは高くなった賃料負担に耐えられない世の中になったのだ。地価上昇はテナントの顔を変えてしまう。代官山に新しい施設がオープン さてこんな中、今月に代官山に新しい施設がオープンする。代官山通りと八幡通りが交差する場所に「フォレストゲート代官山」という名称で渋谷の大家さん、東急不動産が満を持して新しい代官山の姿を世に問うものだ。 2棟から構成される複合施設でMAIN棟には57戸の賃貸住戸と地下1階から2階に商業施設、3階にシェアオフィスが入る。またTENOHA棟と名付けられた施設は、カフェとイベントスペースで構成され、サステナブルな生活環境を提供する。サーキュラーエコノミー活動を行う事業者と連携するところが特徴で、事業者である東急不動産ホールディングスの掲げる長期ビジョンスローガン「WE ARE GREEN」を体現するものだと謳う。 建築設計は隈研吾氏。建物は小さな木箱を組み合わせた森のような空間を体現する。 どうやら代官山の姿は、新しい令和の時代環境を存分に吸収して生まれ変わろうとしているようだ。おそらくこの新施設をエンジョイする人たちの横顔は、昭和・平成を過ごしてきた人たちのそれとはかなり異なるものになるだろう。時代は動く。代官山の未来に日本の社会の方向性が見えるのかもしれない。(牧野 知弘)
渋谷から東急東横線に乗ってひと駅。渋谷はここ数年で大きく変貌を遂げた。2013年に東横線は地下化され、東京メトロ副都心線と相互乗り入れになる。地下深くに設置された渋谷駅は東横線の終着駅でも始発駅でもなくなり、線路は東武東上線や西武池袋線につながり埼玉方面へと伸びた。特急、通勤特急、急行、準急などの様々な看板や行先を掲げた電車が走るが、渋谷の一つ横浜寄りにある「代官山」駅は各駅停車のみが停車する。
代官山駅 AFLO
半地下の駅から改札を出て、代官山通りに出てみて驚いた。以前はお洒落なブティックや雑貨店が軒を連ねていたのだが、がらんどうである。特に商業店舗が入りやすい1階、2階のスペースは「For Rent」の看板が目立つ。いったいどうしたんだろうか、と歩みを進めるが道行く人も疎らである。
「代官山アドレス」に向かう。2000年夏にオープンした「代官山アドレス」は地上36階建ての超高層マンションと商業施設からなる施設で、出来上がった当時は一世を風靡したものだ。代官山に高層建物は似合わないなど竣工当初は喧々囂々の議論まであったが、低層部の商業棟を覗くと、やはり空室が目立つ。開業当時のテナントもだいぶ入れ替わっているようで、100円ショップの看板もある。
八幡通り沿いもなんだか賑わいがない。以前は多くのアパレルショップのあった裏通りも閑散とした雰囲気だ。旧山手通りに出て、代官山テラスから蔦屋書店のあるT-サイトまでやってくるとやっと賑わいが出た。それにしても10年前くらいの代官山の姿とは様変わりの様相に驚かされた。
さて昭和・平成と隆盛を誇ってきた代官山に何が起きたのか考えてみよう。5つほどの原因がありそうだ。
まず代官山の様相を変えるきっかけになったのはやはり東横線の地下化および東京メトロ副都心線への乗り入れだろう。神奈川方面から渋谷を目指してきていた多くの乗客は、渋谷から先、新宿、池袋方面に流れていく。渋谷が単なる通過駅になってしまった。そうなると渋谷の一歩手前の小洒落た街だった代官山が忘れられがちになったのではないか。ただでさえ各駅停車しか止まらない駅である。そして駅自体が渋谷に向かって下るトンネルの入り口付近にあって目立たない半地下駅になった。人の流れというものは恐ろしいものだ。代官山駅は通過駅となった渋谷駅のさらなる通過駅という、誰も気が付かない駅に変質してしまったようだ。
2つ目の理由が路線乗り入れによる客層の変化だ。それはTSUTAYAに入るとよくわかる。客層を観察すると代官山通りや八幡通りのセレクトショップにやってきてちょっと背伸びをしたいようなお姉さんたちではない。観光客や物見遊山的な客も目立つ。
「ららぽーと」があればよいのに 3つ目の理由が、ライフスタイルの変化だ。最近の若い人たちからは、代官山でお洒落して少し高い服を買うという消費行動そのものが消滅しつつあるのではないか。ほとんどの日はユニクロで構わないし、家具はコンランショップの家具ではなく、ニトリで十分。フランフランでこだわりのキッチン雑貨をそろえなくてもよい。むしろ「ららぽーと」があればよいのに、と思う。豊洲のタワマンに住んで週末はららぽーとでお買い物、こちらのほうが合理的で現代の生活にフィットしているのだ。 4つ目の理由が渋谷の変貌だ。渋谷は商業の街として栄えてきたが、今や駅前には超高層オフィスが林立するオフィス街になった。百貨店が立ち並ぶお買い物の街だった渋谷の一つ手前の代官山。ちょっとよい買い物をしたいのならばそのまま副都心線に乗って新宿三丁目の伊勢丹本店へ。渋谷にはないようなお店を探しに来るはずの街だった代官山のキャラクターを変えてしまったのかもしれない。 そして最後に指摘しなければならないのが、地価や建築費の値上がりだ。代官山駅前の公示地価を東横線が地下化された2013年と現在を比べてみると、坪当たりおよそ505万円から889万円となんと75.8%も値上がりしているのだ。建設費は3割から4割は上がっている。土地を取得して建物を建設してテナントに貸そうにも高い賃料にしなければ満足のいく投資利回りは得られない。アパレル系のセレクトショップでは高くなった賃料負担に耐えられない世の中になったのだ。地価上昇はテナントの顔を変えてしまう。代官山に新しい施設がオープン さてこんな中、今月に代官山に新しい施設がオープンする。代官山通りと八幡通りが交差する場所に「フォレストゲート代官山」という名称で渋谷の大家さん、東急不動産が満を持して新しい代官山の姿を世に問うものだ。 2棟から構成される複合施設でMAIN棟には57戸の賃貸住戸と地下1階から2階に商業施設、3階にシェアオフィスが入る。またTENOHA棟と名付けられた施設は、カフェとイベントスペースで構成され、サステナブルな生活環境を提供する。サーキュラーエコノミー活動を行う事業者と連携するところが特徴で、事業者である東急不動産ホールディングスの掲げる長期ビジョンスローガン「WE ARE GREEN」を体現するものだと謳う。 建築設計は隈研吾氏。建物は小さな木箱を組み合わせた森のような空間を体現する。 どうやら代官山の姿は、新しい令和の時代環境を存分に吸収して生まれ変わろうとしているようだ。おそらくこの新施設をエンジョイする人たちの横顔は、昭和・平成を過ごしてきた人たちのそれとはかなり異なるものになるだろう。時代は動く。代官山の未来に日本の社会の方向性が見えるのかもしれない。(牧野 知弘)
3つ目の理由が、ライフスタイルの変化だ。最近の若い人たちからは、代官山でお洒落して少し高い服を買うという消費行動そのものが消滅しつつあるのではないか。ほとんどの日はユニクロで構わないし、家具はコンランショップの家具ではなく、ニトリで十分。フランフランでこだわりのキッチン雑貨をそろえなくてもよい。むしろ「ららぽーと」があればよいのに、と思う。豊洲のタワマンに住んで週末はららぽーとでお買い物、こちらのほうが合理的で現代の生活にフィットしているのだ。
4つ目の理由が渋谷の変貌だ。渋谷は商業の街として栄えてきたが、今や駅前には超高層オフィスが林立するオフィス街になった。百貨店が立ち並ぶお買い物の街だった渋谷の一つ手前の代官山。ちょっとよい買い物をしたいのならばそのまま副都心線に乗って新宿三丁目の伊勢丹本店へ。渋谷にはないようなお店を探しに来るはずの街だった代官山のキャラクターを変えてしまったのかもしれない。
そして最後に指摘しなければならないのが、地価や建築費の値上がりだ。代官山駅前の公示地価を東横線が地下化された2013年と現在を比べてみると、坪当たりおよそ505万円から889万円となんと75.8%も値上がりしているのだ。建設費は3割から4割は上がっている。土地を取得して建物を建設してテナントに貸そうにも高い賃料にしなければ満足のいく投資利回りは得られない。アパレル系のセレクトショップでは高くなった賃料負担に耐えられない世の中になったのだ。地価上昇はテナントの顔を変えてしまう。
さてこんな中、今月に代官山に新しい施設がオープンする。代官山通りと八幡通りが交差する場所に「フォレストゲート代官山」という名称で渋谷の大家さん、東急不動産が満を持して新しい代官山の姿を世に問うものだ。
2棟から構成される複合施設でMAIN棟には57戸の賃貸住戸と地下1階から2階に商業施設、3階にシェアオフィスが入る。またTENOHA棟と名付けられた施設は、カフェとイベントスペースで構成され、サステナブルな生活環境を提供する。サーキュラーエコノミー活動を行う事業者と連携するところが特徴で、事業者である東急不動産ホールディングスの掲げる長期ビジョンスローガン「WE ARE GREEN」を体現するものだと謳う。
建築設計は隈研吾氏。建物は小さな木箱を組み合わせた森のような空間を体現する。
どうやら代官山の姿は、新しい令和の時代環境を存分に吸収して生まれ変わろうとしているようだ。おそらくこの新施設をエンジョイする人たちの横顔は、昭和・平成を過ごしてきた人たちのそれとはかなり異なるものになるだろう。時代は動く。代官山の未来に日本の社会の方向性が見えるのかもしれない。(牧野 知弘)
どうやら代官山の姿は、新しい令和の時代環境を存分に吸収して生まれ変わろうとしているようだ。おそらくこの新施設をエンジョイする人たちの横顔は、昭和・平成を過ごしてきた人たちのそれとはかなり異なるものになるだろう。時代は動く。代官山の未来に日本の社会の方向性が見えるのかもしれない。
(牧野 知弘)

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