うそでしょ? ホテル「朝食バイキング」で料理空っぽ…利用時間中に補充されない場合、ホテル側に返金請求できる? 弁護士が解説

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ホテルによっては、宿泊者向けにバイキング形式で朝食を提供しています。朝食バイキングは、あらかじめ宿泊プランに含まれている場合もあれば、追加料金を支払うことで利用できる場合もあります。
ところで、朝食バイキングの利用時に料理がなくなったにもかかわらず、なかなか補充されないことがあります。このことが原因でバイキングの実施時間内に朝食を満足に食べられなかった場合、客はホテル側に朝食代の返金を求めることは可能なのでしょうか。弁護士法人永総合法律事務所(東京都千代田区)の弁護士・菅野正太さんに聞きました。
Q.ホテルの朝食バイキングの利用時に料理がなくなっており、なかなか補充されないことがあります。このことが原因でバイキングの実施時間内に朝食を満足に食べられなかった場合、客はホテル側に朝食代の返金を求めることは可能なのでしょうか。
菅野さん「朝食バイキングが宿泊プランの中に含まれている場合であっても、追加料金を払って朝食バイキングを利用する場合であっても、法的にはホテルと利用客との間で朝食バイキングの利用契約が成立していると解釈できます。そのため、ホテル側にはバイキング形式による飲食物の提供義務が発生する一方、利用客側には料金の支払い義務が発生します。
料金体系によりますが、ホテル側がバイキング形式での食事の提供をうたっている場合、利用客は、会場内で料理や飲み物などが多く用意されており、実施時間中は定期的に料理が補充され、自由におかわりができると考えるでしょう。
そのため、今回のケースのように、料理を切らしているだけでなく、補充がされないことで、満足に食事ができなかった場合、ホテル側はバイキング形式による飲食物の提供義務を怠ったことになるため、利用客は朝食代の返金を求めることができる可能性があると思われます。
ただし、料理を補充するための調理時間が必要なため、多少提供に時間がかかることはやむを得ないところです。また、バイキングが終了する直前は、終了作業などを理由に一部の料理が提供されないことがあったとしてもやむを得ません。
そのため、バイキング形式による飲食物の提供に不備があったとしても、常に返金を求めることができるわけではありません」
Q.朝食バイキングを実施するホテルの中には、「豊富なメニュー」などと大々的に宣伝している場合があります。それにもかかわらず、料理がなくなったときになかなか補充しなかった場合、ホテル側が法的責任を問われる可能性はありますか。
菅野さん「宣伝方法の適切さという観点で考えると、景品表示法違反に該当する可能性があります。景品表示法では、事業者が供給する商品や役務の取引に関する不当な表示を禁止しており、今回のようなケースの場合、主に同法5条1号で規制している優良誤認表示の問題が考えられます。優良誤認表示とは、宣伝しようとしているサービスや商品などについて、実際のものよりも著しく優良であると示すことなどを指します。
例えば、バイキングで提供する料理が2~3種類のみであるにもかかわらず、全国各地の郷土料理を楽しめるかのように宣伝する場合は、優良誤認に該当する可能性があるでしょう。
もっとも、広告については、一般的に宣伝文句のようなものが付けられることはよくあるため、景品表示法の規制対象は、実際のものと比較して『著しく優良』であると誤認させるものなどが対象となります。
今回のような『豊富なメニュー』という宣伝が景品表示法違反に該当するかについては、宣伝の文言や料理の写真といった広告全体のデザインのほか、実際にバイキングで提供されている料理の内容などを総合的に判断しないと分かりませんが、あまりにも宣伝とかけ離れているようであれば、問題があるといえるでしょう。
景品表示法以外では、先述の通り、ホテルと利用客との間にはバイキング形式で料理を提供することに関する契約が成立していることから、宣伝にもかかわらずサービスが不十分な場合、民法上の債務不履行などに該当する可能性が考えられます」
Q.朝食バイキングの実施時に従業員の急病による人手不足が原因で料理を満足に提供できなかった場合、ホテル側は客から朝食代の返金を求められても拒否することは可能なのでしょうか。
菅野さん「従業員の急病などのケースについては、事業者にとっては不幸な事態ではありますが、利用客側にとっては無関係な事情にすぎず、本来であれば、不足の事態に備えて対応を準備しておくべきだと評価されることが多いでしょう。
そのため、料理の提供が不十分であることを理由に利用客から朝食代の返金を求められた場合、ホテル側は全額とまではいかなくとも、提供の不備の割合に応じた返金が必要な場合があると考えられます。
ただし、近年は新型コロナウイルスなどの感染症が流行しています。感染症により従業員が出勤できず、その結果、人手不足に陥り、料理を満足に提供できなかった場合、その流行の程度や症状の度合い、感染症に関する法的な規制などによっては、ホテル側が返金を拒むことができる場合もあり得るでしょう」
ホテルの朝食バイキングの終了直前は、ほとんどの料理がなくなっており、食品ロスの削減などを理由に補充されないことが考えられます。朝食バイキングを利用する際は、終了時間よりも1時間以上前に会場に行くのが望ましいかもしれません。

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