コロナワクチン接種後100分で妻が急死 夫に刑事告訴を決断させた愛西市の「不誠実すぎる対応」

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昨年11月5日、愛知県愛西市で新型コロナワクチン接種直後に体調が急変し、42歳の元看護師の女性・飯岡綾乃さんが死亡した事例について、遺族である夫・飯岡英治さん(45)は、接種後にアナフィラキシーに伴う体調異変に陥った後、綾乃さんの救護に当たった医師や看護師が必要な処置をしなかったことによって亡くなったのではないか、とする「業務上過失致死」を理由に、愛西市や接種に関わった医師や看護師を刑事告訴する意思を固めた。
綾乃さんが亡くなった後、急死にいたるプロセスの検証や評価、再発防止のために昨年12月末から外部の有識者らによる「医療事故調査委員会」(以下、調査委員会)が定期的に開催され、今年9月26日に行われた同委員会でこれまでの検証結果が発表された。綾乃さんは接種後、重いアレルギー反応を起こしていた可能性が高く、早期に治療薬を投与していれば救命できた可能性は否定できない、などとする検証結果を公表した。
昨年、綾乃さんが亡くなった2日後、愛西市の担当者や医師らから直接説明を聞いた英治さんは「(綾乃さんの体調が急変したときに)アナフィラキシーを疑い、対処すべきだったのに、救護にあたった医師は必要な処置をしなかったのではないか」と一貫して主張していた。
ただ、綾乃さんが亡くなった12日後の11月17日に行われた愛知県医師会の会見では、最重症のアナフィラキシーショックの可能性が強く疑われたことから「アナフィラキシーが疑われる場合は、診断に躊躇することなく、(会場に配備されていた)アドレナリンの筋肉注射をすべきだった」との見解を示しながらも、最重症のアナフィラキシーショックであった場合はアドレナリンが投与されたとしても救命できなかった可能性が高く、「死因としては急性左心不全であったことも否定できない」と説明。死因などがはっきりしなかったため、9月26日に公表された調査委員会の検証結果に注目が集まっていた。
公表された検証結果によると、綾乃さんは接種後の経過観察中にせきが出始め、その後、息苦しさを強く訴え、症状が出始めてから10分後に心停止となっていることから、重いアレルギー反応の「アナフィラキシーを起こしていた可能性が高い」とした。
さらに接種後、待機していた綾乃さんが呼吸苦などを訴えてきたとき、看護師らがアナフィラキシーを想起できなかったこと、問診者に接種前の綾乃さんの状態を確認することなく、綾乃さんが接種前から調子が悪かったと解釈したこと、その情報に影響を受けたことによって、綾乃さんに対応した医師がアナフィラキシーの初期治療で使用されるアドレナリンを投与しなかったことは「標準的ではない」と指摘。さらに、「早期にアドレナリンが投与された場合、救命できた可能性を否定できず、投与されなかったことの影響は大きい」とした。つまり、英治さんが主張してきた内容とほぼ同じ結論が出された。
調査委員会は26日で終了し、一区切りつくはずだったが、その日、英治さんら遺族の怒りを新たに誘う別の出来事が起きていた。調査委員会の会見が行われる前に遺族への説明が行われた。その説明会の後、突然、愛西市の日永貴章市長が事前のことわりもなく、説明会の会場に来た。
遺族への謝罪を目的としたものだったが、日永市長は遺族に対して不快な思いをさせてしまったことについてはお詫びしたものの、接種に関わった担当者たちは「懸命に活動していた」と擁護する発言に終始。医師や看護師の「標準的でない」行動、つまり対応方法の落ち度があったことで綾乃さんが急死に至ったにもかかわらず、綾乃さんが亡くなってしまったことへの謝罪の言葉はなかったという。
さらに、遺族への説明が終わった後に開かれた日永市長の会見を、英治さんらは会見場とは別に用意された控え室でリモートで視聴していたが、会見中に画面の乱れが生じ、聞き取れなくなった。そのため、英治さんら遺族は記者会見場へ向かい、職員の制止を振り切って入り、市長に対して発言もした。
そのことについて愛西市側は「会見の進行担当者の指示に従わず、許可なく会見場で発言した」とし、英治さんらの行動を「乱入」という言葉を使って英治さんの代理人に抗議文まで送った。その抗議文の中には、英治さんらが今後、抗議文の件で異議を唱える目的で市庁舎等の施設に来た場合、警察に通報する、という趣旨の一文まで添えられていたという。
英治さんは昨年12月末に調査委員会がはじまった後は「委員会に調査をしてもらっているので、その推移を静かに見守りたい」と多くを語ってこなかったが、一方で心の中では「結果的に人(妻)が一人亡くなっている。きちんと罪を償ってほしい」という怒りを静かに抱えていた。
調査委員会が出した結論は、英治さんら遺族が主張してきたこととほぼ同じ内容になり、「救命できた可能性を否定できない」という検証結果だったが、その直後の日永市長や市側の言動からは「人が一人亡くなった」ことへの反省はあまり感じられず、むしろ強弁とも受け取れる行動をとった。それは英治さんら遺族が「刑事告訴」という新たな戦いに挑む号砲を鳴らすことになってしまった。
予防接種健康被害救済制度では、予防接種が原因で死亡した場合、死亡一時金が支払われることになっており、綾乃さんも予防接種が原因で亡くなったことが認められれば、死亡一時金が支給される可能性はある。しかし、英治さんら遺族が望んでいるのは、おカネではない。
「僕はワクチンがだめだと思っているわけではありません。安全に接種できる環境をきちんと整備した上で接種を行っていかないといけないと思っています。妻のことがきっかけで安全な環境が守られるのであれば、役立ててほしいんです」
何が原因で綾乃さんの不慮の死が訪れたのか。法廷に場をうつして時間をかけてでも原因や責任の所在をはっきりさせて、集団接種で二度と同じ悲劇が起きないような医療体制づくりをすることが、元看護師だった綾乃さんへのせめてもの供養になると信じている。
◆綾乃さんが亡くなった病院のカルテ

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