路線バス運転手が足りない…続々と減便・廃止、運転手確保に苦しみ広告で「このままではヤバいです」

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各地の路線バスが運転手の不足により、減便や路線廃止に追い込まれている。
運転手の残業規制が強化される「2024年問題」で人手不足は今後、一層深刻化する見通しで、市民の貴重な足を守ろうと、官民挙げて運転手確保の取り組みが進んでいる。(越村格、辰巳隆博)
■半数近くが転職
「長年のご愛顧に心から感謝申し上げます」。9月11日、大阪府富田林(とんだばやし)市の近鉄富田林駅前の金剛バス停留所に、12月20日をもってバス事業の廃止を知らせる紙が貼られた。
金剛バスは同市を含む4市町村の駅や住宅街を結ぶ路線バス。運行会社の金剛自動車は利用者減で10年以上前から赤字経営が続いていた。
経営難に追い打ちをかけたのが、コロナ禍後の観光需要の回復だった。昨秋以降、30人いた運転手のうち13人が、待遇の良い他の観光バス会社などに転職。新規採用に応募もなく、白江暢孝社長は「運転手を確保できる見込みがない」として、運行継続は困難と判断した。
地元の4市町村は別のバス会社に運行の引き継ぎを打診している。通勤で利用するという大阪府河南町の公務員(54)は「自宅から最寄り駅まで歩くとなると、1時間半もかかる。地域の足を何とか残してほしい」と訴える。
■2万人不足試算
国の統計によると、21年度のバス運転手は約11万6000人で、12年度から1万3000人余り減った。
背景には、乗客の減少に伴う慢性的な経営難がある。国土交通省の調べでは、21年度、30車両以上を保有するバス会社の94%が赤字だった。運転手の年間所得(22年)は全産業平均より98万円少ない399万円で、月労働時間は16時間多い193時間。賃金の低さと労働時間の長さが、運転手が敬遠される要因となっている。
さらに、2024年問題が重くのしかかる。改正労働基準法施行で24年4月から、1人当たりの労働時間が短縮されるため、路線維持に必要な運転手の確保はさらに困難となる見通しだ。日本バス協会(東京)が約800社を対象に先月まとめた試算によると、24年度に2万1000人、30年度に3万6000人の運転手が不足するという。
各社とも国や自治体の補助金に支えられて路線を維持しているのが実態だ。それでも10~21年度に全国で1万5332キロ・メートルの路線が廃止され、今年3月には、青森県むつ市の「下北交通」が東通(ひがしどおり)村内の6路線を廃止した。2024年問題を見据え、今月から1日(平日)当たり約70便減らした「とさでん交通」(高知市)の担当者は、「退職者の再雇用など進めているが、今後の状況次第では、さらなる減便を考えざるを得ない」と焦りを募らせる。
■広告で「ヤバい」
貴重な人材を確保するため、各社は採用に様々な工夫を凝らす。
「人財不足で、このままではヤバいです」。京急グループの京浜急行バス(横浜市)は今夏、京急電鉄の1編成の広告スペースを全て使い、ユニークな求人広告を掲示した。会社説明会の参加者が倍増したといい、担当者は「地域の足を守るため、バス運転手に興味を持つ人が増えてほしい」と期待する。埼玉県バス協会は8月、加盟17社による合同の就職説明会を初めて開催した。
公共交通網を維持しようと行政も支援に乗り出す。大分県別府市は7月、県外在住の就職氷河期世代を対象に、市内に移住してバス運転手になると最大400万円を支給する制度を設けたところ、問い合わせが約90件寄せられた。国交省は、即戦力を確保するため、バスやタクシー、トラックなどの運転手について、外国人労働者の在留資格「特定技能」に加えることを検討している。
東洋大の岡村敏之教授(交通計画)は「運転手の確保には低賃金、長時間労働の是正が必須。事業者は待遇改善を続けるべきだし、社会も運賃の値上げや早朝・夜間の運行本数の削減などを一定程度受け入れる必要がある」と指摘する。
◆2024年問題=働き方改革の一環で、バスなど自動車運転業務の時間外労働の上限が、24年4月から原則「月45時間、年360時間」に規制される影響で、深刻な人手不足が懸念される問題。国の検討会は、トラックの物流能力が19年度比で14・2%減少すると試算している。

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