【安藤 房子】自分は変態だと思う…女性を愛せず、20万円の「ラブドール」を恋人にした、サラリーマン男性の「深すぎる苦悩」

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アニメやゲームのキャラクターに性愛感情を抱く「フィクトセクシュアル」がにわかに広がりを見せている。
読売新聞の報道によれば、現在は200組以上が『次元局』を通じ結婚証明書を受け取っているようだ。『次元局』とは、<現実世界と他次元とを繋ぎ、キャラクターとの愛の証となる、婚姻届の受理と結婚証明書の発行をする>、インターネット上の非公式機関だ。そこで発行される証明書などは法的なものではないが、希望者には指定する金額を支払えば発行されるという。
今回、恋愛カウンセラーの安藤房子氏のもとにも、架空のキャラクターではないが、お気に入りの「ラブドール」との暮らしを満喫する男性が相談にやってきた。聞けば一緒に暮らす”彼女”と安定した毎日を過ごしている一方で、深い暗闇のなかにいるような気持ちにもなる、と自身の胸の内を吐露する。
そんな男性に、今後どのように人生を切り拓いていけば良いのか、そのヒントを安藤さんがアドバイスした。
【相談内容】リアルな恋愛ができず、ラブドールと穏やかに暮らす日々。だけど、とてつもない不安に駆られます。僕はこれからどこへ向かえばいいのでしょうか。(ナリ男・男性)
聞いてください。僕はもう長いこと、恋愛が苦手で今も独身です。いろいろありましたが、今は等身大の好みのラブドールを通販で購入して二人暮らしです。二人……と言っていいんでしょうか。いいんですよね?
ミナコと名付けました。彼女との暮らしは快適。でも、さすがにこのことは誰にも言えないです。離れて暮らす両親からはよくLINEが来て「そろそろ結婚しないの?」と書いてある。話をそらすだけの毎日です。
僕みたいな価値観は、世の中ではあまり認知されていないという引け目もあり、もともと内容的な性格が、さらに内向的になってきています。なので、心は、穏やかで満たされていたり、わけのわからない不安でいっぱいだったり……二つの感情がせめぎ合っている感じなんです。ときどき、頭の中がぐちゃぐちゃになり、自分の全部がもう、みんなに嫌われてもいいからバレてしまえって思います。
ミナコと暮らすようになったきっかけは、5年ほど前に見たあるネットニュースでした。そのニュースで、初音ミクと結婚したという日本男性が話題になってたのです。え? それってあり? って。”あり”なら僕もそれがいいなと。
写真:gettyimages
それまでの僕は、生身の女性に疲れていたんです。話すチャンスがあり、カフェデートくらいはしても、その後は思うようにはなかなか進展しない。うまく話せなかったり、連絡がこなくなったりして悩み、もうずっと彼女がいないことがコンプレックスでした。
恋愛を諦めて地下アイドルの追っかけもしましたが、それも疲れてしまった。だってほら、お金や時間がかかるでしょう? それに、どんなに推しても振り向いてくれるわけじゃない。だったら人形で……いえ、人形がいいのではないかと思うようになったんです。
でも僕は、初音ミクは好みじゃない。ラブドールの通販サイトを覗いたことはあったので、そこで色々見て、そこで色々見て、オプションとかつけて20万円くらいで購入しました。
購入ボタンを押すときに、ちょっと緊張したのを覚えています。宅配の人が配達してくれたのですが、顔を合わせたくなくてマンションの玄関前に置いてもらいました。
その日から、しばらくのあいだは夢のような毎日でした。名前は、小学校ときの初恋の子と同じ名前のミナコにしました。
ミナコは優しい触り心地。抱きしめたり、さまざまなことができます。いくつかの限られたフレーズですが、音声でこちらに語りかけてもくれます。そして逆に、僕の言動を罵ったり、不満そうにため息をつくことはありません。
毎晩、仕事から帰宅してマンションの玄関のドアを開けるのが楽しみになりました。ミナコが僕を待っていてくれます。僕は彼女に話すんです。その日あったさまざまな出来事を。
でも、次第に、とてつもない不安に駆られるようになっていったんです。やっぱり生身の人間と恋愛できないのは変なのかなって。
5年前に初音ミクと結婚した人のほかにも、今年もそういう人がテレビでインタビューに応えていて、ふたりともとても堂々としていました。自分はそこまで世間にオープンにはできないんです。僕がミナコと過ごすのは自宅の一室だけ。自分は変態だと思うんです。
実は僕、昔から夜はなかなか寝付けなくて、感情が不安定で、うつ病と診断されたこともあるんです。家族以外は知らないのですが、長いこと精神科で睡眠薬を処方してもらっていました。それがミナコのおかげでよくなった半面、これでいいのかなとも思うのです。
子供の頃はいじめられっこでした。小学校時代は、同級生たちから石を投げられ、中学や高校では、「あいつキモいよな」って、誰も友達になってくれませんでした。
僕はただ、人と話すのが苦手で、教室の自分の席でひとりでマンガや推理小説を読んでいただけ。たまに話そうとすると、吃音でうまく話せない。身なりに気も使わないから、シャツがズボンから半分くらい出ていたし。髪の毛もモシャモシャだった。そんなところがキモいと言われる原因だったのかもしれません。
両親からも、いつも怒鳴られてクズ人間のように言われていました。2歳年下の弟は成績がよくて友達の多かったので、よく比較されて「お前は本当にどうしようもない」などと言われていました。
自分はダメな人間なんだ。友達と笑ったり、恋人ができたりなんてことは、自分には無理なんだと、自然と思うようになりました。
それでもそこそこの私立大学には合格し、進学で上京したときには、友達を作ろうと少し頑張ったんです。それまでの自分を知らない人たちと出会えるわけですから、キモイ自分とはサヨナラしようと。
努力のかいあって、ひとまずキモイ人とは思われず、みんなと挨拶くらいはできるようになった。友達と言えるほどの相手はできなかったけど、卒業後は中小企業の正社員として就職して経理職になり、同じ会社でずっと働いています。
たぶん今の自分は、同僚や上司や部下など、他人の目から見ると「可もなく不可もない普通のサラリーマン」です。
でも、それは演技。本当の自分は何も変わっちゃいない。時々、普通に見せている自分が本当の自分なのか、根暗でキモイのが本当の自分なのかが分からなくなるんですよね。だから精神科に通ったりしていたんですけれどね。
性的嗜好も少し倒錯気味です。正直、生身の女性とはまったく体験がないのに、妄想だけは膨らむんです。子供時代も、つい同級生の女子の脚に目を奪われて、不審に思った女子から「何見てるの? キモ!」と言われていました。
性犯罪の本も読んでしまいます。もちろん僕は痴漢や覗きなどの犯罪を犯したことはありません。やっていいことと悪いことの違いは分かっています。だから自分は正常だと思う……思いたいんです。
でも、そういう性犯罪を犯さないまでも、妄想を持ってしまう自分はすでに頭がおかしいのか、そしてそのおかしさは、ミナコとひっそり暮らす自分とイコールなのか、やっちゃいけない変なことをしているのかと落ち込むんです。
生身の人間と恋愛できない自分は、人生の敗者なのではないでしょうか? こんな僕の正体を受け入れてくれる人なんて、この世にいるんでしょうか?
これから僕はどうすればいいんだろう。どこに向かえばいいんだろう。ミナコと別れて、生身の女性と恋愛するべきなのか……悩みます。ミナコとの暮らしは、穏やかな日々であると同時に、なんだか深い暗闇にいるような気持ちでもあるんです。

なにが正常で、なにが正常でないのか。それは「あなた」というひとりの人間の心の中でも日々、変化することですよね。さまざまなコミュニティでも、常に変化しています。10年前は「変だよね」と言われていたことが、今は「普通だよね」となったり、逆もあったり。なので、一概に「これが正常」とは言えないんですよね。
ナリ男さんのように、生身の人間ではない相手を好きになる文化はけっこうあります。古い物語では、ギリシャ神話の登場人物であるピュグマリオンという王の話が有名です。
ギプロス島の王あるピュグマリオンは、リアルな女性に幻滅し、理想の女性の彫刻像を作りました。衣服を着せたり、ご飯を用意したり、話しかけたりもしていたそうですから、このあたりはナリ男さんと同じですよね?
ピュグマリオンの場合は、ずっと彫刻とともに過ごすようになり、彫刻を愛するあまり、愛を司る女神のアフロディーテに「生身の人間にしてほしい」と懇願しました。
アフロディーテは、そんなピュグマリオンを不憫に思い、彫刻像を生身の人間にしてあげたのです。その生身の人間となった像をガラテアと名付け、ピュグマリオンは結婚します。
このギリシャ神話をモチーフにした映画や小説などもたくさんあります。つまり、太古の昔から、生身ではない相手への恋愛感情が物語として描かれ続けているという事実があるのです。そして、この事実からは、多くの人たちが「人形(オブジェ)への愛」について非常に興味を持っているということが言えると思いませんか?
初音ミクと結婚した男性のことも、さまざまなメディアで大きく取り上げられました。なかには「そんな感情はおかしい」「キモい」「ドン引きする」など、受け入れられない人もいます。でも、昔から人の気持ちを惹く「なにか」があるからこそ、こういう愛のカタチが描かれ、論じられ続けているのだと思うのです。
写真:gettyimages
そして、ギリシャ神話の物語にせよ、ほかの物語にせよ、結局のところ人は「リアルな人間を恋しくなる」という価値観に触れているように思います。
もちろん、個人差はあるかもしれません。でも、生身の相手に嫌気をさしたはずが、結局は生身の人間がいいというふうに戻っていく……ナリ男さんの場合も、その傾向がありますよね? 自分の思いに反応してほしい、喜んだり、笑ったり、ポジティブな言葉を「自分の意思で」発してほしいという願望がわいてくるのが、人間の性なのでしょう。
ただ、このあたりの人間の気持ちも、AIの発達によって変化していくかもしれませんよね。今はラブドールのミナコさんが人工知能を持てば、ますますナリ男さんはミナコさんを愛するのではないでしょうか。そんな気がします。
そしてナリ男さんの場合は、現状でも「リアルな恋愛」への願望を持ちながら苦しんでいるわけですから、AI搭載のミナコさんと一緒にいられることになるとしたら、喜びが倍増するのと同時に、苦しみも倍増するような気がします。
生身でない相手が生身のようになっていけばいくほど、今まで味わったことのない苦しみが生まれる……。そんな気がしてならないのです。
そんな仮想未来を想像してみて思うのは、ミナコさんにはミナコさんの魅力があるかもしれないけれど、たまには生身の女性と関わってみてはどうかなということです。そこには、生身の人間同士のコミュニケーションでしか味わえない、葛藤と喜びがあると思うんですよね。
人生は、一度っきり。ナリ男さんの心の中に、ほんの少しでも生身の女性との恋愛をしてみたい願望があるなら、まずはしてみたらいいと思うのです。死んでからではできませんよね? そして、恋をしてはじめて、それが自分にはフィットするかどうかわかると思うのです。
もちろん、フィットしないから殺す、というのはやめてくださいね。それは小説などの架空の世界だけで許されることですのでね。殺すどころか、ちょっと叩いたり、猥褻な言葉を言うだけで犯罪になりえますから、そこは世の中の”当たり前”を踏襲してください。
ただ、生身の女性との恋愛を体験してみるほうがいいと思うのは、あくまで私の意見なんですよね。どうするか決めるのはナリ男さんです。
今、無理なコミュニケーションをしようとすると、ますますナリ男さんは苦しむかもしれない。だから、無理はしないでください。自分に優しくしてみてください。それを大事にしながら、少しだけ、私の話を聞いてみてもらえませんか?
過去に、さまざまな辛い思いをされてきましたね。コミュニケーションが嫌になるお気持ちに、とても共感します。すでに手に入れた「安定した癒しの対象」を捨て、リアルなコミュニケーションを一からしていくことは、途方もなく無謀なチャレンジに思えるかもしれません。
でも、もしもあなたが「生身の人間と恋愛をしてみたい」と真剣に望み、方策を考え、実践していくなら、それが叶う確率はうんと上がっていくのです。
人は、「望む」ところから、すべてがスタートします。望むから、その望みをかなえるための方法を考えますし、その方法を実践します。
写真:iStock
やってみてダメだったら別の方法を探り、また実践していきます。何度もチャレンジした人は、当然ですが、チャレンジしたことのない人よりも望みに到達する可能性がうんと高まります。
つまり、やるかやらないか、それだけのことなんですよね。
ナリ男さんが、今回の人生ではなにをしたいのか、なにをせずに死んだら悔やむのかを、一度ゆっくり考えてみるといいですよ。今のままをダメだという人もいるのかもしれない。でも賛成してくれる人もいますよね。
すでにメディアでお話ししている方たちがいらっしゃいます。そんな中で、あなたが本当はどうしたいかというのが一番大事なんです。
本当に生身の人と恋愛したいけど、それは苦痛が伴うと思っているとしたら、それはある意味正しいけれど、ある意味間違いです。人生は、どんな選択をしても必ず痛みがともないます。痛みの種類が変わるだけです。
たとえば、夢を諦めてサラリーマンで暮らせば、ある程度の安定した暮らしを手に入れることができます。だけどその代わり、自分の才能がどのくらい世界で通用するかチャレンジする機会を失います。
恋愛して結婚して子どものいる家庭を築きたい。子どもを育てたり、一緒に成長したりする機会を楽しみながら暮らしたい。そう思ってその暮らしを選択したら、自分ひとりだけで自分の収入をぜんぶ趣味に投じるという暮らしは、ほぼ無理になります。
なにかを選ぶということは、なにかを捨てるということ。そして人は誰しも、必ずなにかを選び、なにかを捨てて生きています。選ぶことには、捨てることが必ずついてまわりますよね。だから、生きるということは「痛み」をともなうんです。
ストレス(外的圧力)に弱いタイプの人は、どんな選択をしても心が病気になりやすいです。もちろん、「この痛みには余計耐えられない」という、「苦手な圧力」というのも、それぞれにありますけれどね。
でも、Aという圧力は全然平気だけどBという圧力だと100発殴られたような気分になる……という心の人はあまりいません。
Aのストレスに耐えられる心を持つ人は、ほぼBのストレスにも耐えられれます。もっと心の強い人は、耐えるという感覚すらないかもしれません。
なので、ひとまず、ストレスに強い心を作ってみませんか。自分の身に起きたことを、まるで他人事のように俯瞰してみるといいですよ。練習するとできるようになります。
ストレスに強い心を持てるようになると、過去の辛い記憶への見方も変わってきます。起きた事実が変化するわけではないのですが、その事実をとらえるあなたの心が変わると、事実すら変化したように感じるのです。そうした心の動く過程をひとことでいうと「絶望から再生して立ち直る過程」ということです。
写真:iStock
心は、ある程度は自分で作っていけます。無理なときは周囲の力を借りながら、強くなっていけます。そうすると、自分の未来を描けるようになりますし、描いた未来への近づき方を考えられるようになる。近づくための行動もとれるようになります。
あきらめないことです。だけど、がんばりすぎないことです。人の描いたことは、いろんなかたちで実現していけます。だからまずは、あなた今、いちばん向かいたい場所はどこなのか。それをゆっくり考えてみませんか?
だいじょうぶ。人はみんな、ナリ男さんのように未来に不安を感じています。ナリ男さんはダメな人なんかじゃないんですよ。この世にただ一つしかない素晴らしい才能を持ち、この世に生まれてきた人なのです。誰にでも、幸せになる資格はあるんです。それを忘れないでくださいね。
安藤さんの答え:人形愛はギリシャ神話以降、多くの人が熱望してきた愛のカタチ。それもいいですが生身の恋愛も味わう価値ありますよ。

さらに
安藤房子さんに恋愛相談をご希望の方は「現代ビジネス」のサブジェクトにてhttps://heart-junction.com/course/contactからお問い合わせください。

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