5歳息子を猫用ケージに監禁・暴行…死なせた母親 赤の他人に虐待褒められエスカレート「母親として弱かった」

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「私は弱い。母親として弱かった」【写真を見る】5歳息子を猫用ケージに監禁・暴行…死なせた母親 赤の他人に虐待褒められエスカレート「母親として弱かった」母としての責任を赤の他人に預け、幼い息子を虐待し、死に追いやった被告は、法廷で消え入りそうな声で話すと、涙を流した。5歳の男の子が母親と事実婚の夫婦3人に壮絶な虐待を受け、死亡した事件。法廷では、虐待の映像が公開され、聞くに堪えない虐待の全容が明らかになった。懲役12年を求刑された母親が語る「弱さ」はどこにあったのか。見えてきたのは、壮絶な虐待、奇妙な同居関係。そして、母親としての意思の弱さだった。

「 叩かれないとしゃべれないの?」ペットカメラに記録された戦慄の虐待映像裁判では、虐待の現場となった部屋に設置された、ペットカメラが証拠として公開された。飼っていた猫の動きに反応するカメラには、本来の目的からは大きく外れ、3人の大人が寄ってたかって行った、5歳児への虐待の記録のほとんどが残されていた。傍聴席には音声のみが響く。【録画されていた虐待の様子】「叩かれないと喋れない?」(「パン」という殴打されたような音)「舐めてんだ。毎日泣けばいいと思ってんだろ。いい加減にしろ!」「お母さん喋ってるじゃん」公開されたのは、初めて母親の柿本知香被告(31)が、当時4歳だった歩夢くんに手を上げ、虐待を始めたとされる日の映像だ。【録画されていた虐待の様子】(男の子の泣き声)「お母さんの言うこと何で聞かないの?」「 叩かれないとしゃべれないの?」「 何で黙るの?いい加減にしろ!」(鳴き叫ぶ声が響く)「泣きたいのは私の方だよ!」耳を塞ぎたくなる悲痛な泣き声と、時折「パン」という乾いた音が聞こえた。法廷には、はっと息をのむ音と、被告人席からすすり泣く声が響いた。2022年3月5日。埼玉県本庄市の木造2階建ての家の床下、冷たい土の中から小さな男の子の遺体が発見された。柿本歩夢くん。当時わずか5歳だった。逮捕・起訴されたのは母親の柿本知香被告(31)、同居をしていた事実婚の夫婦、夫の丹羽洋樹被告(36)と妻の石井陽子被告(55)の3人。柿本被告と丹羽被告の裁判員裁判が、さいたま地裁で行われている。「手を上げたことはない」母親は数日後に躊躇なく息子に手を上げた【被告人質問】「居候する前に手を上げたことはありません。手を出したほうが良いと考えたことはありません」柿本被告は丹羽被告らと同居を始めた、たった数日後に、躊躇することなく手を上げ、歩夢くんに最初の虐待を加えた。歩夢くんが返事をしなかった、そんなささいなことが理由で手を上げた柿本被告。歩夢くんの襟首を掴み、引き倒したうえ、顔を複数回ビンタした。虐待へと駆り立てたのは、赤の他人との奇妙な同居生活だった。「旦那は逮捕」DVを受け行き場所を失った親子 頼ったのは赤の他人大阪府で生まれた柿本被告。22歳の時に出会った、元夫(歩夢くんの父親)と家族の反対を押し切り駆け落ち。元夫が住んでいた埼玉県本庄市で結婚生活を始める。【被告人質問】「最初は旦那も優しかったけどDVが始まりました。口げんかから始まって、手や足が出たり、物を投げたりしてきました。生活費もくれず、パチンコに使っていました」「保育園に行く途中、歩夢を旦那に奪われました。旦那は逮捕されました」柿本親子は、家を出て2人だけで生活を始めようとした。しかし、借金を抱え、ブラックリストにも載ったことで家も借りれず、柿本親子は行き場を失った。そこで出会ったのが石井陽子被告(55)だった。【被告人質問】「石井さんは歩夢を保育園に迎えに行ったときにママ友と一緒にいました。上品な感じがしました」石井被告は、柿本親子に助け船を出した。「うちに来ればいい」。柿本被告が助けを求めたのは、家族でも行政でもない。赤の他人だった。石井被告の家に転がりこみ、奇妙な同居生活が始まった。そして、虐待も始まった。【被告人質問】「 一緒に暮らし始めて、暴力がエスカレートしていきました」「『 厳しすぎるんじゃないか』と言ったら『そういうこと言うならもう面倒見ない』と言われました。『出て行け』と言われたら困るので、逆らわないようになりました」手を差し伸べてくれた女は、「しつけ」と称し、歩夢くんに虐待をした。そして、母親として子どもにすべきだった「しつけ」や「教育」といった責任を、赤の他人である、石井被告に預けた。雨水タンクに閉じ込め 「よく入れられたじゃん」母親は同居人から虐待を褒められた最初に虐待を始めてから約10時間後。柿本被告らは、歩夢くんを雨水タンクに閉じ込める。ワイン樽の形状をしたプラスチック製。高さ70儔I54僂凌燭湛な雨水タンク。中に閉じ込められた歩夢くん。真っ暗で光はなかった。【被告人質問】「 怖くて返事をするだろうなと思いました」歩夢くんが入った状態で雨水タンクを叩いた。さらに横倒しにし、転がすように回転も加えた。約8分半、歩夢くんは真っ暗な雨水タンクの中。石井被告の「夫」である丹羽洋樹被告(36)は「よく入れられたじゃん」と、虐待をした柿本被告を褒めた。飼い猫のケージに息子を2時間半監禁 「抵抗あった」と話すが自身の手で出入口を塞ぐ恐怖で萎縮した歩夢くんに「返事をしない。声が小さい」という理由で柿本被告ら3人は、虐待を続けた。【被告人質問】「丹羽さんが檻の中に入れました。動物の檻に入れるのに、抵抗はありましたし、びっくりしました」(検察官:それでもあなた、机で歩夢くんが入っているケージの入り口を塞ぎましたよね?)「・・・・・・。その時どう思ったのかは定かではないです」飼っていた猫たちが使う檻、猫用のケージに歩夢くんを押し込み監禁した。出入り口には、自身の手でテーブルを置き、出られないように塞いだ。柿本被告ら3人は、歩夢くんを監禁した状態で買い物のため外出し、約2時間半、歩夢くんを監禁・放置した。檻に押し込んだことに「抵抗があった」と主張した柿本被告。しかし、入り口を塞いだことを検察官から指摘されると10秒ほど黙ったあと、「その時、どう思っていたか分からない」とはぐらかした。外の気温は30℃。5月にしては日差しが強く、汗ばむ陽気となった日だった。「息子が亡くなるとは」 かすかに呼吸する息子を前に119番せず 息子は母の胸で息絶えた【被告人質問】「歩夢の腕を持って足をかけて倒しました。4~5回投げました」「丹羽さんは、歩夢の脇をもって持ち上げて畳にたたき落としました」2022年1月18日。柿本被告らは、泣きながら立ち上がる歩夢くんを何度も畳に叩きつけた。平手打ちから始まった「虐待」は一年後、畳に何度も叩きつける「死に至らしめる」行為に豹変していた。【被告人質問】「聞いたことないうめき声と目の焦点が合っていない白目でした」「痰が絡んだような、ゼーゼーとしていました」歩夢くんは暴行を受けたあと、かすかに息をしていた。救急車を呼んでいれば、助かった可能性があったと検察側は指摘した。【被告人質問】「自分の息子が亡くなるとは思わなくて、意識が戻ると期待をしていました」「最後は私が抱っこしていて、息が止まってしまいました。心臓が動いているか触って確認したんですが、ダメで」冷たくなった歩夢くんは翌日、虐待を受け続けてきた1階の畳のある和室の床下に埋められた。「弱かった。子どもを守れなかった」法廷で吐露した自身の「弱さ」と「後悔」【被告人質問】(検察官:暴行を指示されたときに「手は出さないようにしています」と言えなかった?)「言えなかったです」「私の意思や心が弱かったです。母親として子どもを守ることができなかったです」「母親として弱かったです」消え入りそうな涙声で歩夢くんへの謝罪と、虐待を加えた自身の「弱さ」を吐露した柿本被告。環境を変える時間。助けを求める時間。歩夢くんのためにできることは、たくさんあった。にもかかわらず、「弱い」柿本被告は、赤の他人に母親としての責任を預けた。逆らえなくなった母親は、言われるがままに虐待に走り、息子に手を上げ続け、死に追いやった。裁判長から「最後に何かありますか」と問われた柿本被告は、まっすぐ前を見据えた。【最終意見陳述】「しっかりと罪を償って、出所したら歩夢のお墓に行って、『本当にごめんね』と謝りたいです」検察側は柿本被告に懲役12年、丹羽被告に懲役15年を求刑している。判決は9月8日、言い渡される。TBSテレビ 社会部さいたま支局長 岡部瑶平
「私は弱い。母親として弱かった」
【写真を見る】5歳息子を猫用ケージに監禁・暴行…死なせた母親 赤の他人に虐待褒められエスカレート「母親として弱かった」母としての責任を赤の他人に預け、幼い息子を虐待し、死に追いやった被告は、法廷で消え入りそうな声で話すと、涙を流した。5歳の男の子が母親と事実婚の夫婦3人に壮絶な虐待を受け、死亡した事件。法廷では、虐待の映像が公開され、聞くに堪えない虐待の全容が明らかになった。懲役12年を求刑された母親が語る「弱さ」はどこにあったのか。見えてきたのは、壮絶な虐待、奇妙な同居関係。そして、母親としての意思の弱さだった。

「 叩かれないとしゃべれないの?」ペットカメラに記録された戦慄の虐待映像裁判では、虐待の現場となった部屋に設置された、ペットカメラが証拠として公開された。飼っていた猫の動きに反応するカメラには、本来の目的からは大きく外れ、3人の大人が寄ってたかって行った、5歳児への虐待の記録のほとんどが残されていた。傍聴席には音声のみが響く。【録画されていた虐待の様子】「叩かれないと喋れない?」(「パン」という殴打されたような音)「舐めてんだ。毎日泣けばいいと思ってんだろ。いい加減にしろ!」「お母さん喋ってるじゃん」公開されたのは、初めて母親の柿本知香被告(31)が、当時4歳だった歩夢くんに手を上げ、虐待を始めたとされる日の映像だ。【録画されていた虐待の様子】(男の子の泣き声)「お母さんの言うこと何で聞かないの?」「 叩かれないとしゃべれないの?」「 何で黙るの?いい加減にしろ!」(鳴き叫ぶ声が響く)「泣きたいのは私の方だよ!」耳を塞ぎたくなる悲痛な泣き声と、時折「パン」という乾いた音が聞こえた。法廷には、はっと息をのむ音と、被告人席からすすり泣く声が響いた。2022年3月5日。埼玉県本庄市の木造2階建ての家の床下、冷たい土の中から小さな男の子の遺体が発見された。柿本歩夢くん。当時わずか5歳だった。逮捕・起訴されたのは母親の柿本知香被告(31)、同居をしていた事実婚の夫婦、夫の丹羽洋樹被告(36)と妻の石井陽子被告(55)の3人。柿本被告と丹羽被告の裁判員裁判が、さいたま地裁で行われている。「手を上げたことはない」母親は数日後に躊躇なく息子に手を上げた【被告人質問】「居候する前に手を上げたことはありません。手を出したほうが良いと考えたことはありません」柿本被告は丹羽被告らと同居を始めた、たった数日後に、躊躇することなく手を上げ、歩夢くんに最初の虐待を加えた。歩夢くんが返事をしなかった、そんなささいなことが理由で手を上げた柿本被告。歩夢くんの襟首を掴み、引き倒したうえ、顔を複数回ビンタした。虐待へと駆り立てたのは、赤の他人との奇妙な同居生活だった。「旦那は逮捕」DVを受け行き場所を失った親子 頼ったのは赤の他人大阪府で生まれた柿本被告。22歳の時に出会った、元夫(歩夢くんの父親)と家族の反対を押し切り駆け落ち。元夫が住んでいた埼玉県本庄市で結婚生活を始める。【被告人質問】「最初は旦那も優しかったけどDVが始まりました。口げんかから始まって、手や足が出たり、物を投げたりしてきました。生活費もくれず、パチンコに使っていました」「保育園に行く途中、歩夢を旦那に奪われました。旦那は逮捕されました」柿本親子は、家を出て2人だけで生活を始めようとした。しかし、借金を抱え、ブラックリストにも載ったことで家も借りれず、柿本親子は行き場を失った。そこで出会ったのが石井陽子被告(55)だった。【被告人質問】「石井さんは歩夢を保育園に迎えに行ったときにママ友と一緒にいました。上品な感じがしました」石井被告は、柿本親子に助け船を出した。「うちに来ればいい」。柿本被告が助けを求めたのは、家族でも行政でもない。赤の他人だった。石井被告の家に転がりこみ、奇妙な同居生活が始まった。そして、虐待も始まった。【被告人質問】「 一緒に暮らし始めて、暴力がエスカレートしていきました」「『 厳しすぎるんじゃないか』と言ったら『そういうこと言うならもう面倒見ない』と言われました。『出て行け』と言われたら困るので、逆らわないようになりました」手を差し伸べてくれた女は、「しつけ」と称し、歩夢くんに虐待をした。そして、母親として子どもにすべきだった「しつけ」や「教育」といった責任を、赤の他人である、石井被告に預けた。雨水タンクに閉じ込め 「よく入れられたじゃん」母親は同居人から虐待を褒められた最初に虐待を始めてから約10時間後。柿本被告らは、歩夢くんを雨水タンクに閉じ込める。ワイン樽の形状をしたプラスチック製。高さ70儔I54僂凌燭湛な雨水タンク。中に閉じ込められた歩夢くん。真っ暗で光はなかった。【被告人質問】「 怖くて返事をするだろうなと思いました」歩夢くんが入った状態で雨水タンクを叩いた。さらに横倒しにし、転がすように回転も加えた。約8分半、歩夢くんは真っ暗な雨水タンクの中。石井被告の「夫」である丹羽洋樹被告(36)は「よく入れられたじゃん」と、虐待をした柿本被告を褒めた。飼い猫のケージに息子を2時間半監禁 「抵抗あった」と話すが自身の手で出入口を塞ぐ恐怖で萎縮した歩夢くんに「返事をしない。声が小さい」という理由で柿本被告ら3人は、虐待を続けた。【被告人質問】「丹羽さんが檻の中に入れました。動物の檻に入れるのに、抵抗はありましたし、びっくりしました」(検察官:それでもあなた、机で歩夢くんが入っているケージの入り口を塞ぎましたよね?)「・・・・・・。その時どう思ったのかは定かではないです」飼っていた猫たちが使う檻、猫用のケージに歩夢くんを押し込み監禁した。出入り口には、自身の手でテーブルを置き、出られないように塞いだ。柿本被告ら3人は、歩夢くんを監禁した状態で買い物のため外出し、約2時間半、歩夢くんを監禁・放置した。檻に押し込んだことに「抵抗があった」と主張した柿本被告。しかし、入り口を塞いだことを検察官から指摘されると10秒ほど黙ったあと、「その時、どう思っていたか分からない」とはぐらかした。外の気温は30℃。5月にしては日差しが強く、汗ばむ陽気となった日だった。「息子が亡くなるとは」 かすかに呼吸する息子を前に119番せず 息子は母の胸で息絶えた【被告人質問】「歩夢の腕を持って足をかけて倒しました。4~5回投げました」「丹羽さんは、歩夢の脇をもって持ち上げて畳にたたき落としました」2022年1月18日。柿本被告らは、泣きながら立ち上がる歩夢くんを何度も畳に叩きつけた。平手打ちから始まった「虐待」は一年後、畳に何度も叩きつける「死に至らしめる」行為に豹変していた。【被告人質問】「聞いたことないうめき声と目の焦点が合っていない白目でした」「痰が絡んだような、ゼーゼーとしていました」歩夢くんは暴行を受けたあと、かすかに息をしていた。救急車を呼んでいれば、助かった可能性があったと検察側は指摘した。【被告人質問】「自分の息子が亡くなるとは思わなくて、意識が戻ると期待をしていました」「最後は私が抱っこしていて、息が止まってしまいました。心臓が動いているか触って確認したんですが、ダメで」冷たくなった歩夢くんは翌日、虐待を受け続けてきた1階の畳のある和室の床下に埋められた。「弱かった。子どもを守れなかった」法廷で吐露した自身の「弱さ」と「後悔」【被告人質問】(検察官:暴行を指示されたときに「手は出さないようにしています」と言えなかった?)「言えなかったです」「私の意思や心が弱かったです。母親として子どもを守ることができなかったです」「母親として弱かったです」消え入りそうな涙声で歩夢くんへの謝罪と、虐待を加えた自身の「弱さ」を吐露した柿本被告。環境を変える時間。助けを求める時間。歩夢くんのためにできることは、たくさんあった。にもかかわらず、「弱い」柿本被告は、赤の他人に母親としての責任を預けた。逆らえなくなった母親は、言われるがままに虐待に走り、息子に手を上げ続け、死に追いやった。裁判長から「最後に何かありますか」と問われた柿本被告は、まっすぐ前を見据えた。【最終意見陳述】「しっかりと罪を償って、出所したら歩夢のお墓に行って、『本当にごめんね』と謝りたいです」検察側は柿本被告に懲役12年、丹羽被告に懲役15年を求刑している。判決は9月8日、言い渡される。TBSテレビ 社会部さいたま支局長 岡部瑶平
母としての責任を赤の他人に預け、幼い息子を虐待し、死に追いやった被告は、法廷で消え入りそうな声で話すと、涙を流した。
5歳の男の子が母親と事実婚の夫婦3人に壮絶な虐待を受け、死亡した事件。法廷では、虐待の映像が公開され、聞くに堪えない虐待の全容が明らかになった。
懲役12年を求刑された母親が語る「弱さ」はどこにあったのか。見えてきたのは、壮絶な虐待、奇妙な同居関係。そして、母親としての意思の弱さだった。
裁判では、虐待の現場となった部屋に設置された、ペットカメラが証拠として公開された。
飼っていた猫の動きに反応するカメラには、本来の目的からは大きく外れ、3人の大人が寄ってたかって行った、5歳児への虐待の記録のほとんどが残されていた。
傍聴席には音声のみが響く。
【録画されていた虐待の様子】「叩かれないと喋れない?」
(「パン」という殴打されたような音)
「舐めてんだ。毎日泣けばいいと思ってんだろ。いい加減にしろ!」「お母さん喋ってるじゃん」
公開されたのは、初めて母親の柿本知香被告(31)が、当時4歳だった歩夢くんに手を上げ、虐待を始めたとされる日の映像だ。
【録画されていた虐待の様子】(男の子の泣き声)「お母さんの言うこと何で聞かないの?」「 叩かれないとしゃべれないの?」「 何で黙るの?いい加減にしろ!」
(鳴き叫ぶ声が響く)
耳を塞ぎたくなる悲痛な泣き声と、時折「パン」という乾いた音が聞こえた。法廷には、はっと息をのむ音と、被告人席からすすり泣く声が響いた。
2022年3月5日。埼玉県本庄市の木造2階建ての家の床下、冷たい土の中から小さな男の子の遺体が発見された。柿本歩夢くん。当時わずか5歳だった。
逮捕・起訴されたのは母親の柿本知香被告(31)、同居をしていた事実婚の夫婦、夫の丹羽洋樹被告(36)と妻の石井陽子被告(55)の3人。柿本被告と丹羽被告の裁判員裁判が、さいたま地裁で行われている。
【被告人質問】「居候する前に手を上げたことはありません。手を出したほうが良いと考えたことはありません」
柿本被告は丹羽被告らと同居を始めた、たった数日後に、躊躇することなく手を上げ、歩夢くんに最初の虐待を加えた。
歩夢くんが返事をしなかった、そんなささいなことが理由で手を上げた柿本被告。歩夢くんの襟首を掴み、引き倒したうえ、顔を複数回ビンタした。
虐待へと駆り立てたのは、赤の他人との奇妙な同居生活だった。
大阪府で生まれた柿本被告。22歳の時に出会った、元夫(歩夢くんの父親)と家族の反対を押し切り駆け落ち。元夫が住んでいた埼玉県本庄市で結婚生活を始める。
【被告人質問】「最初は旦那も優しかったけどDVが始まりました。口げんかから始まって、手や足が出たり、物を投げたりしてきました。生活費もくれず、パチンコに使っていました」「保育園に行く途中、歩夢を旦那に奪われました。旦那は逮捕されました」
柿本親子は、家を出て2人だけで生活を始めようとした。しかし、借金を抱え、ブラックリストにも載ったことで家も借りれず、柿本親子は行き場を失った。そこで出会ったのが石井陽子被告(55)だった。
【被告人質問】「石井さんは歩夢を保育園に迎えに行ったときにママ友と一緒にいました。上品な感じがしました」
石井被告は、柿本親子に助け船を出した。「うちに来ればいい」。柿本被告が助けを求めたのは、家族でも行政でもない。赤の他人だった。
石井被告の家に転がりこみ、奇妙な同居生活が始まった。そして、虐待も始まった。
【被告人質問】「 一緒に暮らし始めて、暴力がエスカレートしていきました」「『 厳しすぎるんじゃないか』と言ったら『そういうこと言うならもう面倒見ない』と言われました。『出て行け』と言われたら困るので、逆らわないようになりました」
手を差し伸べてくれた女は、「しつけ」と称し、歩夢くんに虐待をした。
そして、母親として子どもにすべきだった「しつけ」や「教育」といった責任を、赤の他人である、石井被告に預けた。
最初に虐待を始めてから約10時間後。柿本被告らは、歩夢くんを雨水タンクに閉じ込める。
ワイン樽の形状をしたプラスチック製。高さ70儔I54僂凌燭湛な雨水タンク。中に閉じ込められた歩夢くん。真っ暗で光はなかった。
【被告人質問】「 怖くて返事をするだろうなと思いました」
歩夢くんが入った状態で雨水タンクを叩いた。さらに横倒しにし、転がすように回転も加えた。
約8分半、歩夢くんは真っ暗な雨水タンクの中。石井被告の「夫」である丹羽洋樹被告(36)は「よく入れられたじゃん」と、虐待をした柿本被告を褒めた。
恐怖で萎縮した歩夢くんに「返事をしない。声が小さい」という理由で柿本被告ら3人は、虐待を続けた。
【被告人質問】「丹羽さんが檻の中に入れました。動物の檻に入れるのに、抵抗はありましたし、びっくりしました」(検察官:それでもあなた、机で歩夢くんが入っているケージの入り口を塞ぎましたよね?)「・・・・・・。その時どう思ったのかは定かではないです」
飼っていた猫たちが使う檻、猫用のケージに歩夢くんを押し込み監禁した。出入り口には、自身の手でテーブルを置き、出られないように塞いだ。
柿本被告ら3人は、歩夢くんを監禁した状態で買い物のため外出し、約2時間半、歩夢くんを監禁・放置した。
檻に押し込んだことに「抵抗があった」と主張した柿本被告。しかし、入り口を塞いだことを検察官から指摘されると10秒ほど黙ったあと、「その時、どう思っていたか分からない」とはぐらかした。
外の気温は30℃。5月にしては日差しが強く、汗ばむ陽気となった日だった。
【被告人質問】「歩夢の腕を持って足をかけて倒しました。4~5回投げました」「丹羽さんは、歩夢の脇をもって持ち上げて畳にたたき落としました」
2022年1月18日。
柿本被告らは、泣きながら立ち上がる歩夢くんを何度も畳に叩きつけた。平手打ちから始まった「虐待」は一年後、畳に何度も叩きつける「死に至らしめる」行為に豹変していた。
【被告人質問】「聞いたことないうめき声と目の焦点が合っていない白目でした」「痰が絡んだような、ゼーゼーとしていました」
歩夢くんは暴行を受けたあと、かすかに息をしていた。救急車を呼んでいれば、助かった可能性があったと検察側は指摘した。
【被告人質問】「自分の息子が亡くなるとは思わなくて、意識が戻ると期待をしていました」「最後は私が抱っこしていて、息が止まってしまいました。心臓が動いているか触って確認したんですが、ダメで」
冷たくなった歩夢くんは翌日、虐待を受け続けてきた1階の畳のある和室の床下に埋められた。
【被告人質問】(検察官:暴行を指示されたときに「手は出さないようにしています」と言えなかった?)「言えなかったです」「私の意思や心が弱かったです。母親として子どもを守ることができなかったです」「母親として弱かったです」
消え入りそうな涙声で歩夢くんへの謝罪と、虐待を加えた自身の「弱さ」を吐露した柿本被告。
環境を変える時間。助けを求める時間。歩夢くんのためにできることは、たくさんあった。
にもかかわらず、「弱い」柿本被告は、赤の他人に母親としての責任を預けた。逆らえなくなった母親は、言われるがままに虐待に走り、息子に手を上げ続け、死に追いやった。
裁判長から「最後に何かありますか」と問われた柿本被告は、まっすぐ前を見据えた。
【最終意見陳述】「しっかりと罪を償って、出所したら歩夢のお墓に行って、『本当にごめんね』と謝りたいです」
検察側は柿本被告に懲役12年、丹羽被告に懲役15年を求刑している。判決は9月8日、言い渡される。
TBSテレビ 社会部さいたま支局長 岡部瑶平

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