首絞められ、土壇場で生きる選択 自殺幇助事件の被告に誘拐された別の少女

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交流サイト(SNS)で知り合った女子中学生の自殺を手助けしたなどとして、29日に自殺幇助(ほうじょ)などの罪で懲役5年6月の判決を受けた野崎祐也被告(29)は、SNSで死を望むメッセージを書いた別の女子高校生も「殺してあげる」と誘い出していた。
高校生は首を絞められる中で中止を求め、土壇場で生きる選択をした。専門家は苦悩する若者が実際に生か死を選ぶかは「紙一重」と指摘。相談、支援の窓口につなげる環境整備が重要になる。(橋本愛)
「殺してくれる人募集」。検察側の冒頭陳述などによると、野崎被告は令和4年5~6月、高校生の書き込みをみつけ「首を絞めて殺してあげるから私の家においでよ」と誘い、さいたま市内の自宅に連れ込んだ。
高校生の首を3度にわたって絞めたが、高校生に体をたたかれて中止を求められたため、手を離したとされる。その後、高校生は近くの駅で解放され、命をつないだ。
新潟青陵大大学院の碓井真史(うすいまふみ)教授(社会心理学)は「『死にたい』という若者は気持ちが生と死のどちらにも転びうる不安定な状態で、選択は紙一重」と指摘する。
自殺した中学生は橋から飛び降りる前に約1時間~1時間半、雨が降る暗闇の中で橋の上で躊躇(ちゅうちょ)し、被告から「早く決めて」などとまくし立てられたとされる。7月の公判で読み上げられた中学生の母親の意見陳述によると、出掛けた際は毎日服用していた薬を持っていたとされ、「死ぬつもりはなかったのではないかと思う」(母親)。
苦悩する人たちがSNSで誘い出され、事件に巻き込まれるケースは平成29年に座間市で起きた9人殺害事件で問題化。再発防止策としてSNS上で自殺関係の語句を検索した利用者に支援機関などの連絡先を伝えたり、「自殺を手伝う」など自殺誘引の投稿を管理者に削除依頼したりする取り組みが進められてきた。
厚生労働省が導入したSNSの相談事業では相談件数が増加傾向にあり、令和3年度は25万9814件に上る。内容別では「自殺念慮」が最多で男女ともに3割を超えた。碓井教授は「若者は特に衝動性が高く、適切な相談窓口などにつながり一つの局面を乗り越えれば助かる可能性も高い」と話す。
NPO法人「自殺対策支援センターライフリンク」にはSNS、電話で平均月2万人以上から相談が寄せられている。約300人が交代で対応するが対応率は3~5割にとどまるとし、清水康之代表は「相談の受け皿を強化して、いつでも相談を受けられる状況をつくることや、安心して弱音を吐ける社会環境をつくることが必要」と語る。

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